ブルーアーカイブ Day After Day 作:燃え殻の灰
「くっそ、なんだこいつら!! アビドスの生徒だけじゃないぞ!!」
「あの狐面のやつ、どっかで見たこと──へぶ!?」
「狙撃だと、どこから──ぎゃん!?」
「ふざけんな!! 話が違うぞ!! ……瓦礫を蹴り飛ばすんじゃねぇよ!!」
「「「うわぁぁぁ!!!???」」」
(ふむ……この程度ならば楽勝ですね。先生がこちらにいる時点で、勝利は決まったようなもの。そしてなにより……)
襲撃してきたヘルメット団を迎撃しながら、ワカモはチラリと視線を別な方向に移す。
前線ではホシノが盾を構えつつ、アビドスの仲間を守りながら戦っているし、先生の指示にも従っているようだ。なにより、彼の援護射撃が届くように射線も確保しながら戦っている。
それにはワカモも感心しているし、それに答える先生も流石だと思っている。だが、それ以上に目を引くのが、ジナイーダと名乗った少女の姿だ。
(ガトリングとショットガンで面の制圧を重視したスタイル。恐らく一対多数の戦闘が多かったのだと推測できます。武器的にも中近距離の撃ち合いが得意だと見ました。けれど、あの蹴り……瓦礫を蹴り飛ばすとは……あの細足で凄まじいものですねぇ)
先程、手榴弾で崩れた建物の瓦礫を
冷静に彼女の戦力を分析し、敵対するようならどのように対処するか、と考えているようだ。
(的確に標的を撃ち抜いていく……一撃必殺で余分な弾も使わないか。弾薬を節約して、継戦能力を高めているのか)
そして同じようなことをジナイーダも考えており、ワカモの姿を注意深く観察しているようだ。
(冷静に脅威度の高い敵を見分けて、瞬時に無効化している。私の様に単独での戦闘経験も多いみたいだけど、集団戦の心得もある……。遠距離から撃たれれば近づけずに負ける)
当初、ワカモは単独での戦闘が多かったのだが、先生と出会いシャーレに所属してから、彼とのペアを組んで戦闘することもあれば、ゲヘナの風紀委員たちを率いたこともある。そこで集団戦のノウハウも蓄積し、フォローの仕方や集団戦のメリット、デメリットを学び、戦闘に生かしているのだ。
お互いの戦闘能力や自分の戦闘スタイルを鑑みて、二人が出した結論はまったく同じものであった。
((やるとしたら一撃で決める。それが出来なければ負ける))
『あー……二人とも、随分と物騒なことを考えているようだが、今は味方同士だからね』
「はい、勿論です。あなた様の指示に従う内は、私から手を出そうとは思いません。私からは……です」
「……こちらも余計な戦闘はしたくない。敵対すると面倒なことになりそうだし……私は面倒が嫌い」
水面下で牽制しあっている二人に対して、先生はやれやれといった様子で苦笑いを浮かべていた。
『ヘルメット団残党、校外エリアに撤退したようです!! みなさん、お疲れさまでした!!』
「わぁ☆ 私たち、勝ちました!」
「あははっ! どうよ、思い知ったかヘルメット団め!!」
「何度来ようとも撃退する。ん、ホシノ先輩もおつかれさま」
「はーふー。おじさん疲れちゃったよぉ。シロコちゃん、おんぶしてぇ」
アヤネの宣言通り、襲撃してきたヘルメット団は完全に追い払うことができたようだ。
喜んでいるアビドスの生徒達をスコープ越しに眺めながら、先生は良かったと、何時もの様ににこやかな表情を浮かべていた。
そしてみんなと校舎に戻る途中で、ジナイーダは徐に先ほどヘルメット団から奪った銃をワカモに差し出した。
「……大して強くないのに装備が新しい。さっき蹴り飛ばしたヘルメット団が持っていた銃、最新式。テスター……にしては扱いが雑すぎる。テスターならもっと丁寧に大事に扱うはず」
「なにやら、経験したことがある様な言い方ですが、確かに妙ですね。……ふむ、ロット番号も削り取られているとなると、なるほどなるほど……よく使われる手法ですわね」
「……よく使われる手法?」
狐面の下でワカモが納得したようにしているが、ジナイーダはよく分からず、首をかしげてしまう。
そしてその疑問に答えたのは、先生の声であった。
『ヘルメット団の裏に誰かが居ると言うことさ。恐らく資金や武器を提供しているのだろう。自分の手を汚したくない奴らが使う手法だよ』
「この銃のようにロット番号を削り取り、自分達との繋がりを消そうとしているのでしょう。随分まあ、裏にいるのは汚い人物と言うことです」
「……よく分からない。自分でやった方が確実だし、速いのに? 私やワカモ、先生みたいに出来ないの?」
『皆が皆、君みたいに強いわけじゃないんだよ。策士気取りの存在が居るのだろう。なんでもかんでも計算通りに事が運ぶと考えている三流がね』
こんなにも早い段階でヘルメット団を操っている自身の存在に気が付かれるとは、【黒幕】も思わなかっただろう。
資金の流れも武器の流通も様々な所を通して自分の存在を隠し、ヘルメット団をうまく誘導し、アビドス高校を占拠する。たとえヘルメット団が全滅したとしても、自分の所まで被害が来ることはない。また同じような不良生徒を誘導して、使い潰せばいい。
と策士気取りの【黒幕】は考えていたのだろう。
しかし、そう上手く事は運ばないものだ。
本来はここに訪れるはずのない
『いずれ三流策士気取りと対面する時が来るだろう。その時は遠慮なく、焼き尽くさせてもらうとするさ』
「はい。随分と舐めた真似をしてくれておりますし、完膚なきまでに叩き潰して差し上げましょう♪」
「……まあ、潰していいなら潰そうかな。邪魔になるだけだろうし」
既に計画が破綻していることに【黒幕】は気が付かないだろう。
ここにいるのはただの先生ではない。裏の裏を知り尽くし、深い悪意と強い殺意を潜り抜けてきた一羽の【
どんな存在だろうと、どんな策略だろうと、その悉くを焼き尽くせる存在なのだから。
先生side
対策委員会 教室
「いやぁ~、まさか勝っちゃうなんてね。ヘルメット団もかなりの覚悟で仕掛けてきたみたいだったけど」
「まさか勝っちゃうなんて、じゃありませんよ、ホシノ先輩……勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか……」
「先生の指揮も良かったね。私たちだけの時とは全然違った。すごい量の物資と装備。戦闘の指揮も出来て、射撃の実力もある。大人ってすごい」
「ふふん、当然です。援護射撃だってしてくださったのですから、負けるわけがありません。それに大人が凄いのではありません。先生が凄いのです!!」
「……うん、援護があるとかなり楽になる。何時も援護してくれる623や624に感謝しないと」
「な、なんでこの二人が偉そうに言うのよ……と言うか、その番号何……?」
「みなさん、お疲れ様です。怪我をしてないようで安心しました」
何故か自信満々のワカモに突っ込みが入るが、穏やかな雰囲気で戻ってきた面々にアヤネも安心したように出迎えた。
やはりモニター越しで無事なのは確認できているが、実際に見た方が安心するのだろう。私自身、スコープ越しで見るより間近で無事な姿を見れて安心しているのだ。
「うーん、けど先生のお陰で安心して私はぐっすり眠れそうだよ。おやすみぃ」
「いやいや、早速昼寝しようとしないで!! 何時もそこらへんで寝てるじゃないの!!」
「ホシノだけじゃなく、みなもお疲れ様。やっと落ち着いて話を出来る様だ」
「そうですね。それではみなさんも席に座ってください。先生に挨拶と現在の状況を説明しましょう」
ここを訪れてすぐにヘルメット団の襲撃があり、落ち着いて会話もできなかったのも事実である。
各々が椅子に座ると、代表としてアヤネが前に立ち、それぞれの紹介と現在の状況を説明していく。
「私たちは、アビドス対策委員会です。私は委員会で書記とオペレーターを担当している1年のアヤネ。こちらは同じく1年のセリカ、こちらが2年のノノミ先輩とシロコ先輩。ホシノ先輩とは一緒に校舎に来たようですので、知ってるかもしれませんが、対策委員会の委員長で3年です」
「改めてよろしく頼むよ。さて、君も簡単に自己紹介したほうがいいな」
「……ジナイーダ。ちょっと理由があって先生に会いに来た」
「狐坂ワカモです。シャーレ所属ですので、皆さんに危害は加えませんのでご安心を。敵対された場合は……別ですが」
「二人とも……まあ、悪い子じゃないから仲良くしてあげてくれ。それで対策委員会とは何か、説明してくれるかな」
各々が自己紹介を行うが、若干、ジナイーダとワカモの挨拶に私は苦笑いを零した。ワカモは基本的に私以外に興味はないだろうし、ジナイーダは恐らく情緒が成長していないのだろう。
しかし、一戦だけだが共に戦った仲だ。ある程度の情は芽生えているのか、特に疑問に思うわけでもなく話が進んでいく。
「ワカモさんやジナイーダちゃんが悪い方だとは思いませんよ。お二人や先生のお陰でヘルメット団を撃退できたのですから。あ、説明でしたね。対策委員会とは、このアビドスを蘇らせる為に有志が集まった部活です」
「はい、そうなんですよー。全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです! 全校生徒と言っても、私達5人だけなんですけどね」
5人だけとは……生徒の減少が進んでいるとヒナから聞いていたが、これほどとは思わなかった。
「他は転校したり退学したりして、町を出て行った。学校がこのありさまだから、学園都市の住民もほとんどいなくなって、カタカタヘルメット団みたいな三流チンピラに学校を襲われる始末なの」
「実力は大したことありませんでしたが、まあ数だけはいるようです。確かに厄介でしょうね」
「うん。とにかく数が多くてね。私達だけじゃ、学校を守り切るのが難しい。在校生としては恥ずかしい限りだけど……」
「……ならどうして残っているの? 出ていかないの?」
ジナイーダの無垢で残酷な質問に、一瞬アビドスの生徒達の動きが止まってしまう。確かに、ここで抗い続けるよりは、新たな場所を目指した方が楽な道だろう。
しかし、それは違うのだ。
「ジナイーダ、良いかい。生きると言うことは、戦うことだ。彼女達にも色々な考えや葛藤があったに違いない。しかし、それを乗り越えて、飲み込んでここにいる。ならば、彼女達はここで
「……よく分からない」
それでも良いだろう。ジナイーダ、かつての
学び成長していく人の可能性。ああ、それはなんとも素晴らしく美しいものなのだろうか。
「か、顔が熱くなりますね。けど先生にそう思ってもらえると嬉しいです☆」
「そ、そんな大それたこと考えてるわけじゃなかったけど……ありがと」
「二人とも照れちゃって~。かわいいんだからー」
顔を赤くしたノノミやセリカをからかうホシノだが、私としては先ほどの言葉は彼女に送りたいものだ。
その心は罅割れ、錆びついてしまっているかもしれない。しかし折れていないのならば、まだ間に合う。だからホシノ、君も諦めないでくれ。
「ご説明した通り、我が校は現在危機にさらされており、【シャーレ】に支援を要請したのです。そのお陰で物資が届き、危機を脱することが出来ました」
「とは言っても、当面の間だけでしょう? ヘルメット団も撤退しただけの様ですし」
「はい、ワカモさんの言う通り、この消耗戦を何時までも続ける訳にはいきません。ヘルメット団以外にもたくさんの問題を抱えているのに……」
確かに、撃退するだけの消耗戦を続けていては、人数の少ないアビドス側が不利だろう。加えて向こうには資金や武器を提供している【黒幕】の存在もある。長期戦ではますます不利になるだろう。
しかしここには【
ワカモも同じように考えたのだろう。視線をアヤネに向けている。
「アヤネさん、ヘルメット団の拠点の位置は調べてありますか?」
「あ、はい。ここから30キロほどの廃墟を前哨基地の一つとして利用しているみたいです」
「ふむ……そうなると襲撃してくるサイクルは、ある程度決まってるようなものか」
「そうだね~。数日もすれば襲撃してくるかな。ここんとこずっと、似たようなサイクルで続いてるからねー」
「なるほど。みんな、疲れてるかもしれないけど、一つ計画がある」
ホシノも私達の意図に気が付いたのか、必要な情報を教えてくれる。それならば実行出来そうな計画を提案する。
「先ほどの攻勢でヘルメット団は戦力を削っている。そのタイミングでこちらから仕掛けて、ヘルメット団の前哨基地を潰すんだ」
「今ならば、士気も下がっているでしょうし、補給される前に潰してしまえば後々楽になりますよ」
「そうだね~。逆にこっちは先生が居るから補給も容易だしね」
「なるほど。ヘルメット団の前哨基地の場所も把握してるし、戦力も増えてるからチャンスかもしれない」
「良い考えですね! あちらも、まさか反撃されるなんて夢にも思ってないでしょうし」
「た、確かに。今まで手を出せませんでしたが、いまの戦力なら出来るかもしれません」
「ウロチョロされる前に追い払った方がいいしね。やっちゃおうか!」
時には重厚な
「よっしゃ~。それじゃ勢いのまま、いっちょやりますか~」
「方針は決まりだね。これよりヘルメット団の前哨基地を襲撃する。各自、出撃準備を整えて校門前に集合するように」
「「「「「はい!!」」」」」
先生side out
慌ただしく準備をするアビドスの生徒達を眺めながら、ジナイーダは先ほど先生に言われたことを考えていた。あれはどういう意味なのだろうか。
彼女にとって【戦う事が生きる事】であり、【戦う為に生きている】それが自分と言う存在だった。しかし、あの
似ている様でまったく違う言葉に、まったく理解が出来なかったのだ。
「何を悩んでいるのです? 貴女も参加メンバーにカウントされてるのですから、準備しなさい」
「……ワカモ、生きるってどういうこと? 戦う事だけじゃないの? 私は戦う事で生きてきた。それを言うと、あの【人】もとても悲しそうにする」
「はい……? いきなり何を言うかと思えば……」
あの【人】は先生とは別人らしいが、いまはそれを置いておこう。
何処か迷子の様に見えるジナイーダに、ワカモは呆れつつ、しかし優しく微笑んで見せた。この位ならば、やってあげてもいいか、と。
「そんなの私にも分かりませんよ。まだまだ私達みたいな小娘には、理解できない事です」
「……そうなの……? けど、それならどうしたらいいのかな」
「だから、今日を生きるんです。明日を超えるんです。精一杯生きて、生きて、そしてその先にきっと、生きるとはどういう事なのか。それが見つかるはずです」
「……私にも見つかるかな」
「さて、そんなの知りません。貴女次第でしょう。けど、そうですねぇ……もし見つからなかったら……」
生きる理由なんて、そんな簡単には見つからない。それにこの少女はまだまだ幼いのだろう。世間知らずな所が言動の節々に感じられる。
だからだろうか。自分のキャラではないが、ワカモは先生の真似をするように優しく微笑んで、ジナイーダの頭を優しく撫でてあげた。
「先生や私の所に来てみなさい。探す手伝い位はしてあげてもいいですよ」
「……うん、わかった」
「さぁ、出撃の準備をしませんと。貴女も急ぎなさい」
「……うん……ねぇ、ワカモ」
「今度は何ですか?」
「ありがとう」
「はいはい、どういたしまして。ほら、抱き着かれていては準備ができません。満足したら離れてくださいよ」
そう言ってワカモの背中に抱き着いて、ジナイーダの表情は透き通った笑顔が浮かんでおり、抱き着かれているワカモも優し気な微笑みを浮かべるのであった。
???
広々とした拠点の一室で杖を突いた男性が、システムからのメッセージを受け取っている。
『621よりメッセージが届きました』
「む……ふむ、無事に人と会うことができたか。ふむ、【シャーレ】の先生だったのか……ん。会ってみてほしいと。……スケジュールを調整するか」
「は、ハンドラー、配達終わってきましたぁ。うう、今日はちょっとハードでした……」
「ご苦労、624。冷蔵庫にアイスが入っているから、食べるといい」
「あ、ありがとうございます! 至福の一時ですぅ」
ウキウキといった様子で冷蔵庫を開ける緑髪の少女に口元に笑みを浮かべながら、男性はメッセージの続きを読み始める。
「……そうか。生きるとは何かを教えられたか。まだ分からない様だが……良い傾向だ。お前には苦労をかけたからな……この世界では、健やかに成長してほしいものだ」
「ハンドラー、アイスって業務用ですかー!! 全部食べていいんですかー!」
「……そこにコーンを用意してあるから、掬って食べろ。他のメンバーの分も残しておけ」
この時点で、裏を知っている狐と、人の悪意やらなんやらを経験している鴉がいる時点でも黒幕は積んでいる。と言うか鴉が出てきた時点で終わってる模様。
ジナイーダ
ACラストレイヴンに登場する女性であり、凄まじい実力を誇る人物でもある。ルートによってはラスボスを務めており、レイヴンと言う言葉に並々ならぬ拘りがある模様。
今作のジナイーダと名乗った少女や先生との関係は不明。「とおいとおいおかあさん」との事らしいが……?