弱虫ラディッツは甥を育てたり育てられたりするようです。   作:狗堂犬一

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002 孫悟飯とラディッツ

 冷えた空気が身体に触れたのを感じて意識が覚醒する。薄暗い、洞窟の中だろうか。淡く発光する苔のようなものが壁や天井にまばらに繁っているお陰で完全な暗闇というわけではない。

 

「ぐ、うう……」

 

 上体を起こそうとして思わず苦悶の声を漏らす。戦闘中の昂っていた熱はとうに引いて、身体には容赦なく傷の痛みが襲いかかる。まだ自在にコントロール出来ないとはいえ、カカロットの息子――たしか悟飯といったか――の力は本物だ。それを自在に引き出せるように訓練を積めば間違いなく強大な戦力となるだろう。もしかするとベジータさえ上回るかもしれない。

 周囲を見渡すと洞窟の床には大きな葉っぱのようなものが敷き詰められていた。さらにオレの身体には拙いながらも治療を施した形跡がある。枕元には水が満々と注がれたヤシの実の殻と、他にも木の実や果実など食料になりそうな物が山積みで置かれている。あのガキの仕業か? そんなバカな。父親の仇であるオレを看病していたとでも言うのか?

 そんなふうに一頻り思案したものの答えを出すには至らず、ひとまず用意された水と食料を貪るように口にする。……美味い。どうやらこの地球とかいう惑星の環境レベルはかなりの高水準らしい。子供が採ってきた、調理もされていない食料でこれだけの味と栄養価となると惑星全体の食糧事情もかなりの水準であることが予想できる。思わず夢中になって食事に精を出していたところ、不意に洞窟の出口の方から何者かの気配を感じる。

 

「あ! おじさん、目が覚めたんですね!」

 

 あどけない声とともに駆け寄ってきたのは予想通りカカロットの息子だった。どこか安堵したように無垢な笑みを浮かべるその表情に警戒の色はない。

 

「お前は……悟飯とか言ったか。なぜこんなことをしてやがる?」

 

 あまりにも平和ボケした様子に苛ついてそのまま疑問をぶつけると、まるで予想だにしなかったとでも言いたげな困惑の表情でまごつきながら上目遣いでガキが答える。

 

「だっておじさんケガしていたから……困っている人には親切にしなさいって、おかあさんが」

 

 あんまりな回答に天を仰ぎそうになる。こいつは本当にサイヤ人の血族なのか? カカロットの野郎が甘ちゃんだったのか、それとも地球人の気質なのか。すさまじいパワーを秘めているくせにまるで戦闘向きとは思えない甘ったれだ。とても自分と同じ血縁のものとは思えない。

 

「バカめ、オレは貴様の父親の仇だぞ。そんな相手を助けるなど、サイヤ人の血を引いている者としてあり得ん!」

 

「……でもボク見てたんだ。もうひとりのみどりのおじさんがおとうさんに酷いことするところ」

 

 なるほど。あまりの出来事に記憶が混乱しているのか、どうやらこのガキは父親の死に関しては断片的な場面でしか覚えていないらしい。好都合だ。

 

「ねえおじさん、おとうさんはどうなったの?」

 

 仇であるオレに対して縋るような目で悟飯が問う。お前が今、どんな答えを欲しているのかオレには手に取るように分かる。だがしかし、敢えて望まない方の答えをくれてやろう。

 

「貴様の父は死んだ。覚えている通り、あの緑の男の手によって殺された」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 悟飯の目に涙が浮かんだのを見て思わず嘆息しそうになるのを堪える。なんたる惰弱。だがそんなお前にも目的を与えてやろう。力を手にして自らの意思で敵を滅ぼすのだ。その弱さ、せいぜい利用させてもらうぞ。

 

「運がなかったな。あの卑劣なナメック星人が、まさかあのような場所に現れるとは」

 

「な、ナメック星人……?」

 

「ああ、そうだ。お前の父親は知らなかったようだが、奴はこの地球の原住民ではない。遠い宇宙に存在するナメック星からこの星にやってきた異星人だ」

 

 驚愕に目を見開いた悟飯に言葉を畳み掛け、脳に刷り込む。

 

「そしてこのオレさまラディッツとお前の父親は、惑星に住み着いた害虫を駆除することを生業とする宇宙最強の戦闘民族・サイヤ人の戦士だ」

 

 もっともカカロットの野郎は幼い頃に記憶を失って、この星の連中と仲良くやっていたようだがな。

 

「悟飯、お前にもその偉大な戦士の一族の血が流れている」

 

「ぼ、ボクが戦士……? むりだよ、ボクこわいのとか痛いの苦手だもん……」

 

 確かにその甘ったれた性根は戦士には向いてそうにもない。このオレが直々に叩き直してやろう。そうしていずれはオレの指示に従い殺戮を振りまく最強の戦士となるのだ。

 

「くくく……喜べ小僧。幸いにも時間はたっぷりとある。鍛えてやるとするさ、徹底的にな」

 

 

 

 

 

 

 この世でもあの世でもない、遠い世界のどこか果て。男はそこにひとりで居た。

 

「……神め。私が手を下すまでもなく死ぬとは」

 

 どこか遠くを見据えた鋭い眼光が捉える先に佇むは異星より降り立った邪悪な侵略者。それは新たな神となり世界を己がものにせんと企む男にとっては排除せねばならない大敵に違いなく。

 

「より大きな力が必要か……」

 

 翻すその背中に付き従う三体の魔族。これだけでは不十分だ。ドラゴンボールを生み出した神が死に、もはや不老不死を手にすることは叶わない。ならば男に残された手段はただひとつ、深淵を潜るのみ。魔界という名の深淵に。

 

「待っていろ、異星人よ。地球の神となり全てを支配するのはこの私だ」

 




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