弱虫ラディッツは甥を育てたり育てられたりするようです。 作:狗堂犬一
「まさかあの二人でも敵わないなんて……」
西の都のブルマの自宅にて。重苦しい空気の中、クリリンは深く後悔していた。大した力にはなれずとも、一緒に立ち向かっていればせめて盾くらいにはなれたかもしれないと。
悟飯が連れ去られ、悟空とピッコロは殺された。時を同じくしてピッコロと同一の存在である神もその生命を失い、地球からドラゴンボールが失われた。希望はもはや何処にもなく、突如襲来した悟空の兄を名乗る男に抗う術は無いように思われた。
「まるで悪い夢みたいだな。そんな悪魔みたいな強さの奴に、オレたちだけで立ち向かわなくちゃならないなんて」
「だが……やるしかあるまい」
沈痛な面持ちで、どこか諦めに近い形の決意を固めるヤムチャと天津飯。そんな二人の悲壮な覚悟を横に、ブルマだけは希望を口にする。
「明るい材料だってあるわ。孫くん達が戦っていた付近に落ちていたこの機械。あのラディッツとかいう奴が付けていた物よ」
侵略者たちの間でスカウターと呼ばれるそれをブルマはすでに地球人類が使用可能な状態にまでローカライズを完了させていた。
「あの男、この機械を使って孫くんを見つけたんだわ。それが今ここにあるってことはアイツがあたしたちを見つけるまでの時間を大きく稼げる。猶予があるってことよ」
「そ、そうか! ならその間に修行したり作戦を考えたり……なんとかアイツに立ち向かう方法を……!」
興奮した様子でクリリンは立ち上がる。ほとんど空元気に近い勢い任せな展望だが無いよりはましだった。孫悟空とドラゴンボール。大きく眩かったふたつの灯火を同時に失ったこの場の面々にとって、今はどんなに小さな光でもそれが希望の灯なのだから。
それに自分たちはまだ救われている方だとも分かっていた。夫と息子、その二人を同時に亡くしたチチの憔悴ぶりは見ていられないほどに酷かったのだ。仲間たちにとっても悟空は欠けがえのない大切な友であったし、その息子の悟飯はまだ四歳の子どもだった。決して奪われていい命ではない。
「……おい、全員集まってるか」
そうして奮起した一同の前に都合よく姿を表したのはヤジロベーだった。憮然とした様子の彼は要件だけを簡潔に述べていく。
「事情は全部わかってる。ここの全員で神殿に行くぞ。ミスター・ポポが稽古をつけてくれるってよ」
神殿に集った一同はミスター・ポポの言葉に耳を傾けていた。地球の神が実は宇宙人だったのではないか、という荒唐無稽な仮説も宇宙より去来した恐るべき襲撃者たるラディッツの存在を認知した現在では信憑性の足るものとして受け入れられた。
かつて神が使用したとされる宇宙船の在り処に心当たりがあるというポポに連れられて捜索が行われた結果、発見されたそれは未知の技術によって建造された宇宙船であることが発覚しブルマとブリーフ博士による解析の結果として船内のメモリーに母星・ナメック星と記録された惑星とそこに至るまでの航路も確認できた。
かくして一同は神とピッコロ大魔王の故郷であるナメック星に地球と同じくドラゴンボールが存在するという一縷の望みを賭けることに決めた。
少なくとも数百年は放置されていたであろう宇宙船の改修が完了するまでの二ヶ月間は全員で修行に励み、ナメック星に向かう戦士と地球でラディッツの襲撃に備える戦士とで役割を分担する。地球はラディッツの脅威により追い込まれてはいるものの希望の灯は潰えてはいなかった。困難な道でありながらも計画は順調だった。しかし――。
「きょ、強大なパワーの持ち主が一箇所に集っている……」
スカウターを用いずとも全員が知覚した。自分たちを遥かに凌ぐ大きな力の気配が地球の果てで激しくぶつかり合い、せめぎ合っている。まるで地球そのものが揺れているかのような闘いの余波と衝撃。
いくつか存在した大きな気配が一つ、また一つと消えていく。最終的に残った三つの気配は再度重なるようにぶつかり合って、その中の一つが終焉を迎えたことで闘いに終止符が打たれたようだった。
「……ラディッツの戦闘力は健在よ。残念だけどね」
あらかじめスカウターに登録していたラディッツの反応を追跡していたブルマが複雑な表情を浮かべてそう告げた。いったいラディッツは誰と戦っていたのか。生き残ったもう片方の強者は何者なのか。一同が事態を飲み込むことの出来ないまま時間だけが過ぎていき、地球を揺るがした大きな闘いは終結を迎えたのであった。
幕間もがんばった