弱虫ラディッツは甥を育てたり育てられたりするようです。 作:狗堂犬一
「やあああああ!!!」
力を纏わせた腕を振り回した悟飯がまだ幼さを感じさせる甲高い声と共に飛びかかる。その威力は打撃というよりも斬撃に近い鋭さで、無防備に受けてしまえばこのオレとて無傷では済まないであろう。わずかひとつの判断の誤りで生命に手がかかる。危機感と緊張感を同時に孕む重圧の中、オレは悟飯の放つ致命の連撃を右腕だけでいなし、受け止めていく。
「そうだ! ようやくまともな攻撃になってきたぞ!」
カカロットとの戦闘後にスカウターを失くしてしまったせいで正確な戦闘力を測ることは出来ないが、現在の悟飯はあの時の数値と比べるとやや物足りないと言える程度の戦闘力ならば自分の意思で発揮することが可能となった。二ヶ月足らずの訓練でここまでの成長を見込めるとは嬉しい誤算だ。
「しかしまだまだ!」
不用意に放った無理のある一撃で勝手にバランスを崩した悟飯に対して蹴りをお見舞いする。そのまま吹っ飛んで岩に激突した悟飯は目尻に涙を浮かべながらよろよろと立ち上がる。
「いちちち……ひどいよ、おじさん」
「ふん……甘ったれるなよ小僧」
仕置の意味も込めて濃縮したエネルギー弾を飛ばしてやると、それを合図に再び悟飯が命からがらといった様子で飛びかかってくる。まだ動きに粗はあるが悪くない傾向だ。いくらかの実力差があった場合、逃げ続けるだけでは一方的に攻撃を受けることになってしまうことになる。ゆえに己の身を案じて守りに入るのであれば、反撃して相手の足を止めることこそがもっとも効果的な防御法なのだ。
戦闘の訓練に移ってから一月ほど、悟飯に対して延々と言って聞かせていた心構えがようやく実践されている様子を目の当たりにして柄にもなく気分が高揚する。以前ならば調子に乗せないために更に一発ほど厳しく灸を据えていたところだが相手は子どもだ。たまには飴を与えることも必要だろう。しばし打ち合いに付き合ってやるとしよう。
体力が尽きて立ち上がれなくなるまで悟飯を追い込んだところで訓練を取り止める。悟飯は文字通り自分の力で立ち上げる気力さえないので尾を掴んでこのオレ自らが拠点の洞窟まで運んでやることにする。そのため悟飯の尾に触れようと歩み寄る瞬間、そのタイミングを狙ったであろう高速のエネルギー弾がオレたちの元へと複数飛来する。
「ちいっ」
包囲するように弾幕を張られては悟飯を抱えての回避は間に合わん。いっそのこと盾にすることも考えたが、現在の体力でこれらを受けきれるほど悟飯はタフではない。と来れば必然的にオレの取れる手は限られる。まさか自分を盾扱いする日が来ようとはな。
「おじさーん!!!」
幾多の爆発と共に周囲に砂煙が立ち昇る。この程度の威力ならば極端な防御姿勢を取る必要もなく、当然ダメージは皆無に等しい。それなのに悟飯の野郎は何を心配しているのか。まさかこのオレが地球の連中ごときの攻撃で倒されるとでも思っているのか?
「……喚くな小僧、耳障りだ。このオレがこの程度の技で傷を負うとでも思ったか」
煙の晴れた先で姿を見せれば悟飯は此方を見上げて表情を輝かせた。まったく調子の狂うガキだが、まあ良い。いまは襲撃者の連中を片付けるのが先だ。
「それで貴様らはこのオレに何の用だ。よほど命を粗末に扱っているようだな」
周囲を取り囲む襲撃者の一団に視線を飛ばせば、その心のざわめきが手に取るように分かる。大方いまの攻撃で多少なりともダメージが与えられると踏んでいたのだろう。
「それともまさか、全員でかかれば勝てるなどというバカげた計算ではないだろうな」
襲撃者は五人と、すこし離れた辺りから更に二人の気配を感じる。スカウター無しでは細かい強さまでは分からんが、佇まいを見てもこのオレを超える強さも持っている奴がいるとは思えん。適当に相手をして捻り潰してやろう。
「か、かかれっ!」
首領と思わしき男の指示に合わせて四人の戦士が同時に接近を試みる。これをエネルギー波で迎撃することは容易だが、手慰みに近接戦に付き合ってやろう。
「くくく……少しは楽しませてくれるのだろうな」
悟飯が巻き込まれても面倒なので空中で四人を迎え撃つ。上下前後左右を囲まれた逃げ場のない状況から繰り出された連続攻撃だがコンビネーションと呼ぶにはお粗末すぎる。多少は期待していたものだが、やはりこの程度か。避ける価値も感じられないそれらの攻撃を、悟飯に稽古を付ける普段の感覚で受け止め、捌いていく。
「後ろの貴様、追撃のタイミングが遅れているぞ。まさかその程度の動きで連携しているつもりなのか?」
「く、糞が! 舐めやがって――!?」
怒りに任せて動きが大振りになった男の一人にノールックの後ろ回し蹴りを放てば、その顔面は握り潰された果実のように紅い飛沫を撒き散らして弾けた。
「こいつはペナルティーだ。さあて、ひとり死んだぞ」
人数と位置取りの優位によって攻撃の試行回数では圧倒している筈の襲撃者たち。しかしそれを全て受け切ることで徐々に追い込んでやれば技や動きには失策や誤りが目立つようになる。その瞬間を逃さずに命を刈り取るやり方を実戦で悟飯に教え伝えてやる。
「す、すごい。やっぱりおじさんは強いんだ……!」
魅入られたように闘いに夢中になる悟飯の下へ、サービスのつもりで更に一人の襲撃者をスレッジハンマーで頭をかち割って地上に向けて叩き落としてやる。まったく脆いやつらだぜ。
「さあ、次に殺されたいのはどいつだ」
残った二人にそう脅しをかけると、そいつらは怖気づいて顔を見合わせた後に尻尾を巻いて逃げ出した。まるで詰まらん。バカどもめ。
「悟飯よ、見ておけ!」
オレは両手に溜めた力を開放すると、それらは柱のような強固な二本のエネルギー波となって逃亡した襲撃者をそれぞれ飲み込み、跡形もなく滅した。逃げに徹してしまっては一方的に攻撃を受けることになるという格好の例だ。
「虫けらどもめ」
あまりにも他愛のない、勝利と呼ぶのもおこがましい蹂躙劇だった。この感覚は嫌いではないが、物足りなくも感じる。さてもう一匹の虫けらはオレを満足させてくれるだろうか。今の光景に顔を蒼くさせている様子を見ると、あまり期待はできそうにないが。
「ぐぐ……シュラよ! 貴様の望んだ通りに一対一だぞ。力を貸せ!」
「……ほう。この期に及んでまた援軍か。賢明な判断だ」
離れた辺りに感じていた二人の気配が次第に近く、大きくなっていく。そこに姿を現したのは異様な存在感を持った長髪の男と血のように紅い髪の女だ。
「愚かだな、ガーリックの倅よ。初めからオレに任せておけば配下を失わずに済んだものを」
「黙れ! わざわざ貴様の流儀に付き合ってやったのだ、実力を示してもらうぞ!」
孤立無援な襲撃者の虚しい言葉に女が鼻で笑った。オレの知ったことではないが、どうやらこの三人に関しては利害関係が一致しているだけの別勢力という見方が正しいらしい。
「試されていたのは自分の側だと、まだ分かっていないようだねガーリック。神になりたいなんて宣うアンタの力量を測ってやろうと場を整えてやったのに、結局はシュラさま頼りとはね」
「それくらいにしておいてやれ、メラ。奴の腹の中がどうであれ、最終的にはオレの望む形になったのだからな」
長髪の男がさらに前に出る。なるほど、先程の襲撃者たちよりは歯ごたえのありそうな相手だと、サイヤ人の本能がそう告げている。だが果たしてオレと楽しませるに足る相手かどうか。
「……人生最期のお喋りは済んだようだな。喜べ、心残りなく死なせてやろう」
「待たせてしまった手前で申し訳ないが、敗れるのは貴様の方だぞ異星人」
アニメでシュラを演じた古川登志夫さんは後にピッコロ(マジュニア)役として、メラを演じられた勝生真沙子さんはおよそ30年の時を経た後にトワ役としてそれぞれ新たな魔族の身体を得てドラゴンボールの世界に転生なさいました。悪の根を絶やしてはならんということですね。がんばります。