弱虫ラディッツは甥を育てたり育てられたりするようです。   作:狗堂犬一

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007 望まれぬ決着

 魔界でも随一の武闘家として人間界ですらその名を知られるシュラであったが、かつて魔界にやってきた人間の少年に手痛い敗北を喫してからというもの決して驕ることなく修練を積み重ねていた。

 そもそも魔界とは人間界とは位相の異なる空間・時間軸に存在する異世界の総称であり、シュラが住処にしていたのは人間界に最も近い場所に位置するとされた魔界のひとつに過ぎない。つまりシュラの名が人間界で囁かれるようになったのは単純に物理的な距離が近かったからでしかない。魔界の真の強者はもっと深く暗い底に潜んでいるのである。故にシュラはさらなる強者を求めて深淵に身を投じていった。

 とはいえ通常は異なる魔界と魔界の間を行き来することなど何人にも不可能なこと。力の大小に関わらずそれらを繋ぐ門を通ることが許されるのは神か閻魔か門の鍵を持つ死神のみであるとされている。しかしシュラには武闘家の力とは別にもうひとつ、扉を開放させる特別な力を備えていた。シュラが作り出した剣を門の扉に突き立てることで自身が倒されるまで扉を開放させ続ける力。それを以てシュラは異なる魔界へと赴き、そこで出会った強者たちと研鑽を重ねて着実に実力を伸ばしていった。

 

「ふふふ……孫悟空よ。貴様と再び拳を交わす日が楽しみだ」

 

 そうして闘いに明け暮れる日々が10年ほど続いた頃、シュラの下に一人の魔族が訪ねてきて告げたのだ。孫悟空は殺された――と。

 

 

「異星の戦士よ、貴様の勝ちだ。殺すがいい」

 

 傷ついた身体を引き摺って更に幾度かラディッツと拳を交わしたシュラだったが、ことごとく打ち倒されて最後は地に伏せたまま動くことも出来ずにいる。全てを出し尽くしてもなお手の届かない境地にある隔絶したラディッツの強さをその身で体感して、シュラは満足しかけていた。孫悟空とピッコロ大魔王が二人がかりでも敵わなかった相手だ。同じように自身が勝てなかったとしても道理は通る。孫悟空との再戦こそ果たせなかったが、それに近い形でシュラの願いは間もなく成就されるだろう。武闘家としての誇りある最期だ。

 

「化け物め! それ以上動くな!」

 

 そんな敗北の余韻さえかき消すかのように切羽づまった声が響く。声の主はシュラをこの場へと連れ出した魔族の男――ガーリックJrだ。そんな様子を見てラディッツは何かおもしろい余興でも見つけたかの如く動きを止めた。

 

「ほう、動いたらどうなるというのだ」

 

 嗜虐的な笑みをいっそう深めてラディッツは問い掛ける。何が起きるかなど分かりきっているのに、やってみろとばかりに挑発的な態度で楽しげですらある。

 

「貴様が動けばガキを殺す!」

 

 ガーリックは倒れ伏していた悟飯の背後から首を掴み、その表情がラディッツに見えるよう宙吊りの状態で腕に力を込めていく。

 

「ぎ、ぎゃあああああああ……」

 

 少年の細い首に強烈な負荷がかかる。メキメキと骨が軋む音と共に甲高い悲鳴が徐々に弱々しくか細いものにトーンダウンしていく。

 

「ガーリック、きさま余計なことを……」

 

「だまれ役立たず! でかい口を叩いておきながら牙を立てることさえ叶わんとは魔族の面汚しめ。さっさと立ち上がってそいつを殺れ!」

 

 満身創痍の身体でなんとか立ち上がろうともがくシュラを尻目にすでにラディッツはガーリックJrへの興味をほぼ失いかけていた。

 

「……悟飯よ、オレは手を出さん。自力でそいつを倒して脱出してみせろ。但しあまりにも時間をかけるようならお前ごとそいつを消し炭にしてやるがな」

 

 冗談ではないとでも告げるように瞬間的に纏うエネルギーの出力を上昇させるラディッツを前にして震え上がるのはガーリックJrの方だった。どう転んでも己が生き残る展開を見出だせない状況を前に縋るように悟飯へを視線を移す。せめて命乞いでもしてくれれば、ラディッツに動揺を与えることが出来るかもしれないという期待を込めて。しかし――。

 

「ぐぎぎぎぎぎ……」

 

 悟飯にその様子はなかった。彼はこの場の誰よりもラディッツの言葉が真意であることを悟っていた。自分の力でガーリックJrを跳ね除けることでしか己の命を拾うことは出来ないと理解していた。それ故に。

 

「こ、このガキッ」

 

 背後から首根っこを掴んだ、ガーリックにとって圧倒的に有利な体勢。にも関わらずその腕が悟飯の内部から生じる何か大きな力によって弾き飛ばされそうな圧力に曝されている事実。それがガーリックをより一層混乱させていた。

 

「ならば死ねええええ!」

 

 もはや悟飯に人質としての価値はない。混乱の最中に到達した絶望的な答えを前にガーリックに出来ることなど一人でも多く道連れを増やすことだけだった。次第に激しくなる悟飯の抵抗に対してはすでに一刻の猶予もなく、全身全霊を以てその首を砕くことに注力する他ない。力を込めていくことで、少しずつ悟飯の抵抗が弱まっていく。

 

「が……は……」

 

 徐々に明滅する視界。小さくなっていく呼吸音。どさり、と音を立ててその場に倒れ込んだのは悟飯ではなくガーリックだった。

 




もっとがんばります。
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