『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』 作:銀杏鹿
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「僕の聞き間違いか?」
彼の困惑と同期するように、杖が咲かせた花は青く燃えて散り、樹木は急速に枯れ、砕けて消えた。
『サンザシの木の葉と花は癒しの力を持ち、枝は死臭を放っている』
──とある杖作りはそう語っている。
癒す力と呪い、その矛盾するその性質こそがサンザシの杖。
「……聞き間違いじゃ、ないのか?」
つまり彼の気質は"どっち付かず"で、ニレに選ばれるだけの気品もなければ、闇の魔術の才能もない──そう捉えることもできる。
彼の父親はホグワーツに通う利点を理解した上で、それでも"ダームストラング専門学校"に入学させ闇の魔術を勉強させようとしていた。(マルフォイ夫妻が"相談"した結果、ルシウス氏のコレクションは燃え、学校はホグワーツになった)
父親と全く同じ杖を望んだ彼にとって、この結果は堪えるだろう。
「素晴らしい、合う杖があって良かった。さて、次はグリーングラスさんの杖を──」
「ま、待ってくれ、他に、他に杖はまだあるんだろう?他の杖が僕を選ぶかも知れない」
「はっは、これ以上に貴方に見合う杖はないじゃろう」
ドラコはまだ不確定だと思い込みたかったのだろうけれど、とっくに運命が定まっていたことに気がついたらしい。
しかし、老人は彼が何を憂慮しているのかまるで理解していなかった。
子供の心情まで察しろ、というのは過剰な要求かも知れない。
……ただ、私にはほんの少し、ほんの少しだけ気に食わなかった。
「あり得ない……僕が──」
「オリバンダーさん。ルシウス氏の杖は何本目ですか?」
「確か3本目じゃ」
彼は最初に"今の"杖と言っていた。だから、他にもある筈だ。
「最初の杖はニレの杖ではなかった、そうですよね?」
「確か──」
「"そうでした"よね?」
ここまで言えば意図は伝わるだろう。仮に客に売ったものはすべて覚えていたとしても、今だけは"そう"だ。
「……おお、そうじゃった。初めはニレの杖ではなかったな」
理解してくれたらしい。いくら杖にしか興味がないと言っても、子供がよく訪れるのだから、そのくらいの気は遣ってもらいたい。これだから半純血は困る。
「……杖が変わることなんてあるのか?」
「杖が折れれば新しいものを買うことになるじゃろう。そして同じものは二つとない」
ドラコの表情は暗いままだったけれど、ほんの少しだけ持ち直したようにも見える。
「その杖、私が折る?」
「は!?何言ってるんだ!?」
「折ったら次のが貰えるってことでしょう?」
「確かに花は散ったし、木は枯れた。だけど、そこまで……極端なことは望んだりは……」
「良かった。咲いた花はいずれ実をつけて散らなければいけないでしょう?散るからこそ儚くて美しいの。そう言う〈呪い〉なら尚更……私は貴方に合っていると思うけど」
「……ああ」
彼は杖を持ったまま、曖昧に頷く。目線だけが私と杖を見比べる。
彼も血の呪いのことは知っている。私がこう言えば、杖と私の運命を重ねてくれるだろう。
まあ、私が実を付ける日は残念ながら来ない。
私は母のようにみだりに呪いを遺伝させたりしないのだから。
「それでも嫌なら私が折ってあげる。貴方がその呪いに相応しくないと思うのなら。そして、杖を折るような人を……他の杖が選ぶと思うのなら」
「僕は……これで良い。……お前が選ばれなくなっても困る」
「選んでくれてありがとう、ドラコ」
「……はぁ。何でお前が……」
様々な感情が、彼の表情を絶妙に屈折したモノに変えた……ように見える。
素晴らしい。これこそが呪いだ。"杖を使わない魔法"を勉強した甲斐もあった。
大体──ぽっと出の大人が勝手に私の大事な"玩具"で遊ぶなんて気に食わない。
彼は私の為に苦しんで、私の為に泣くのだ。断じて何処の馬の骨とも知れない半純血ではない。断じて理由はそれだけで、嘘じゃない。
……本当はとてもいけないことだとは知ってる。友人が辛そうな顔をしているのに、慰めもせず傷つけてしまうなんて。
でも、彼にはいなくなった私のことを暫く引き摺って欲しい。それこそ、私が死んだ後も杖を見るたびに思い出すくらいに。少なくとも10年くらいは。
一応、私にも言い訳はある。気になる相手に意地悪をしたくなるのは普通……だと母も言っていた。
だからこれは恋愛感情というもので、ごく普通で自然なことなのだ。きっとそうに違いない。私はなにも悪くない。
「だそうですよ、オリバンダーさん」
「それは良かった。では、グリーングラスさんには、"杖を折ろうとするお客向け"の杖を用意しよう」
微笑みながら皮肉を口にする老人。半純血になっても英国紳士らしさは残してあったらしい。
「そんなものが?」
「誰にでも合う杖はあるはずじゃ。例え杖にとって悪魔のような魔法使いにも」
「それなら良かった」
老人が当然のように言う言葉に、私は微笑みで返した。切れ味のない皮肉への最高の返礼は無邪気な肯定である。
「では杖腕を」
「ええ」
私はローブを肩口から降ろ──
「だ、ダフネ、何をしてるんだ!」
ドラコが慌てて私の手を止める。
「何って採寸でしょう?袖を捲ったら生地が痛む──」
「一つ聞くが、ローブの下に何を着ている?」
「何も。普通のことでしょう?」
流石に前から開くようなローブならブラウスくらいは着てくるけれど、そうじゃないなら一般的なはず。
「痛んでもいいから脱ぐな!服なら僕がいくらでも用意させる!」
と、言いつつ微妙に私の肩口に目が向いている。
「なんの問題が?」
「と、とにかくダメだ!」
「私の肌が自分以外の人に見えると困る、ということ?」
「もうそれで良い、とにかく脱ぐのはやめろ」
……こんな簡単なことで狼狽するなんて、気品のカケラもない……本当気取っていたいはずなのに、こんなに慌てて……なんて愉快なんだろう。
彼の気品を更に損なわせることができて私は嬉しくて仕方ない。
「分かりました。後で服買ってくれるのなら」
「……採寸してよろしいかな?」
大型の爬虫類のように、なんとも言えない表情で黙って私達を見ていたオリバンダー老人が口を開いた。
「いいえ。その代わりこれを」
羊皮紙のメモを差し出す。
「こちらは……ああ、では少々お待ちを」
オリバンダー老人は部屋の奥へ向かう。
「……何を渡したんだ?」
「私の採寸表?」
「……お前……また揶揄ったんだな……!」
愉快過ぎて、私は暫く口元が緩んだままだった。
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