『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』 作:銀杏鹿
ルーキーランキング四位になってました!(2024/08/23)
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試し終えた杖の箱が古びた椅子の上で山のように積み重ねられている。その数だけ私は時間と手間を浪費させられた。
正直に言って疲れた。座りたい。この際、あのボロ椅子に私に座られる栄誉を与えても良い。
もう腕は振りたくない。
なんで人間の私が立たされて、杖如きが椅子に座ってるのだろうか。
魔法で物を動かすのなら、杖も魔法で動かせばいい。いらない。杖なんてどうでも良い。疲れた。私はペンよりも重い物は持てない。私は純血なのに何故こんな目に?私が何をしたというの?なにか悪いことした?ああ、生まれて来てしまったからか。
「不思議な客じゃ……不思議じゃ……」
オリバンダー老人は大層愉快そうな顔をしている。彼は子供の悲鳴や苦しむ顔が主食の魔法生物に違いない。私の同類かな?
「……はぁ。もう良いでしょう……私に合う杖はなかったってことで」
「もしかして……僕のせいか?」
ドラコの表情が翳っている。自意識過剰で可愛らしい。
「そのとおり!ドラコのせいなので責任を──」
「分かった。僕のせいじゃないな」
しまった。つい煽ってしまった……罪悪感に訴えるべきだった?いや、全ては杖が悪い。
「蓋が見つからないほど酷い鍋はないさ……多分な」
笑った……?ドラコのくせにこの私を……?
「……さて、次はどうするか……いや……これは出すつもりはなかったのじゃが……」
「杖が人を選ぶんじゃなかったのか?」
「おっしゃる通りじゃ、マルフォイさん」
オリバンダー老はその杖に何か確信でもあったのだろうか。
「"柊と不死鳥の羽根"、二十八センチ良質でしなやか。手にする者は……いずれ偉大になるじゃろう」
面倒なので〈浮遊呪文〉で受け取──
「え?」
杖の切先が煌めいたのとほぼ同時だった。
杖は宙に浮いたまま、自ら赤と金色の火花を私に向けて撃ち放った──それがまるで当然で正しい行いのように。
いくら杖なしで多少の呪文が使えるからと言っても、私に出来ることなんて大したことじゃない。
まあ、見えていても私は防がな──
「〈プロテゴ! 護れ〉」
青白い半透明の防壁が閃光を遮り、砕け散った。
「大丈夫か!?」
衝撃に倒れ込む私を支えたのは、ドラコだった。サンザシの杖が切先を青く光らせている。
「……ぐえー、死にました」
「よし、生きてるな」
死ねるかと思ったのに、残念だ。
「やはりこの杖は難しいようじゃ」
杖を箱へ戻しながら、オリバンダーは呟く。
「……オリバンダー、父上がこのことを知って、無事に商売が出来ると思うのか?僕に闇に組みさない杖を押し付け、あまつさえ僕の……いや、グリーングラス家の長女に怪我を負わせたかも知れないんだぞ?」
久々に彼の最強の呪文である"父上に言いつけるぞ"を聞いてしまった。
しかし、"僕の"の後に続く言葉は何だろうか。続きも聞きたいし、煽りたいけれどここは我慢しよう。私のことが彼の怒りの沸点になっていて、素晴らしい執着心だと思う。
そうだ、もっと怒れ。怒るんだドラコ。私のために!
「ああ。驚かせてしまって申し訳ない。杖には良くあることでしてな」
オリバンダーはドラコの言葉にハッして謝罪した。言われて漸く気がついたらしい。悪気はないのだろう。恐らく。
「僕の立場を忘れるなよ半純──」
「ドラコ。あの杖を出すように言ったのは貴方でしょう?」
そろそろ脱線しそうだ。そっちじゃない。
「……何でお前が止めるんだ」
「私は貴方の杖のお陰で助かった。そのサンザシの杖を出したのもオリバンダーさんでしょう?」
「いや、そうじゃなくてだな……!」
「貴方が私のことが大事で仕方ないのはもう十分に伝わったからもう良いの」
「っ〜〜!!違う!そんなんじゃない!!」
一生懸命に否定しているけど、もう遅い。君の路線はこっちだ。あくまで私のために怒っていると意識して貰わないと困る。
「お詫びにマルフォイさんの杖は無料で差し上げましょう」
そう言うオリバンダー老人はなにやら満足気だった。
「良いんですか、オリバンダーさん?大事な売り上げではありませんか?」
半純血にとってはそれなりの金額でも、私達からすると小遣い程度の金額だし、それを無料にされても別に嬉しくはない──が、酷なので追及したりはしない。私は心も裕福なのだから。
「サンザシの杖が素晴らしい主人を見つけ、それに主人が相応しい技量を見せた。それは中々にお目にかかれることではない。特にこの不死鳥の尾羽の杖に対しては」
「……何が違うんだ?」
「同じ不死鳥から提供された尾羽根の杖を〈例のあの人〉が使っておった。イチイの強力な杖じゃった。悪しきことに使われると知っておれば……売らなかったじゃろうな。あのような意味で"偉大"になるとは……まあ、今となっては、あの人共々墓の中じゃが」
その言葉を聞いて、私は杖の暴発を死因のリストに追加した。
殺戮を行った杖ですら"作らなければ良かった"ではなく、"売らなければ良かった"と言ったからだ。
──遥か昔、"シラクサのアルキメデス"というマグルは太陽と鏡の力で〈死の光線〉を作る方法を教え、また〈鉤爪〉という兵器を考案して"ローマ"の軍船を転覆させた。(あまりに不自然なので彼が魔法使いだった疑いがある)
しかし、彼は戦争には全く興味がなかった。
彼の住むシラクサの町が侵攻されている時ですら空き地で砂の上に円を描き、思索をしていたという。
それをローマの兵士に邪魔立てされて尚、「私の描いた円を荒らすな」と宣い、兵士に刺し殺された。
彼に兵士の邪魔を咎める権利はない。
兵器を考案し伝えた時点で間接的に兵を殺しているのだから。
オリバンダーもアルキメデスのように、杖作りや杖の性能に執心していてもそれ以外には興味がないのだろう。
口ぶりからすると、"偉大な例のあの人"の杖を誇りに思っていてもおかしくはない。
だからこそ、"ご自慢の杖"が暴発で子供を殺したのなら、彼の心も折れるのではないだろうか。
──と、私は新たなる死因を考えていたが、結局、後回しにすることにした。
買い物はまだ他にも残っていて、私の時間は特に貴重で、なにより私の目的は買い物ではなく死ぬ前の思い出を作ること。
今日という重要な一日を杖だけに使ってしまうには勿体無い。
それに、オリバンダー老人を折るのに最適な杖を手に入れる術は、他に存在している。
それは少なくとも彼から直接買うことでは、ない。
・杖
杖自体に意思と忠誠心があり、持ち主を選ぶ。
木材や芯に使われている素材で性質が変化するため、杖によっては勝手に使う魔法を選んだり、忠誠を得られないと簡単に裏切ったりする。
奪い取るだけで忠誠心が移ることもあるので注意が必要。
オリバンダーが製作する杖は主に、ユニコーンの毛、ドラゴンの心臓の琴線、不死鳥の尾羽を芯材に使っている。
ユニコーンは安定性が高く、ドラゴンの心臓の琴線は派手で強力、不死鳥の尾羽は様々な魔法への適正を持つ。
長さは持ち主の性質を表しており、長いものはおおらかさ、逆に極端に短い杖は難しい性格の現れと言われている。杖自体のしなりに関してはどういった意味があるのかは不明。
・柊と不死鳥の羽根の杖
原作主人公の杖。不死鳥の尾羽はダンブルドアのペットであるフォークスから提供されたもの。ダフネを前にしたこの杖は、潜在的な脅威を感じ取ったのか自ら魔法を使った。一体何故だろうか。
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