『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』   作:銀杏鹿

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日間29位(2024/08/25)……!?お気に入り280人超え……??
み、皆様ありがとうございます……!!
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本当にありがとうございます!!






11『ベルと竜』起

 

 もふもふとした毛玉のような生物が古びた店内で何匹も跳ね回っている。

 

「ふくろうじゃないのか?パフスケインなんて──」

 

 後から店に入った来たドラコは呆れたような声だった。

 

 パフスケインについて語る本は、概ねこう書いてある。"球体状の毛玉のような生き物。主食はゴミや魔法使いの鼻糞。用途は主に子供が投げたり抱きしめたり、軽はずみに殺してしまって命の儚さを知ること"。

 

 精々、体毛が何かの材料になる程度で、退屈な魔法生物のランキングでは一位か二位を争う無意味な生命体だ。

 

 因みに一位はレタスやキャベツを食べるだけの巨大な芋虫──フローバーワームである。揚げ物にすると美味しいので、まだ利用価値がある。

 

「まあ酷い!可愛いだけの無意味な生物なんて!」

 

 まるで私だ!

 

「言ってないだろ!」

 

「じゃ、ドラゴン買ってくれる?」

 

「売っても買っても犯罪だ!こんなとこに売ってるわけ──」

 

『──あるよ』

 

 店員の姿など見当たらないが、声は確かに聞こえていた。

 

『いらっしゃい。上等な服から、魔法生物、危険な植物に、魔法薬と材料、あとは闇の──まあ大体あるよ』

 

 声の方向を探すと、そこには仮面をつけた若い青年の肖像画があった。

 絵の青年と目が合う。すると優雅にお辞儀をしてきたので、私は純血らしく完璧な所作で応えた。きっと彼も純血の魔法使いだったのだろう。

 

「絵に店員をさせるなんて、間抜けな商売だな。お前も売り物か?」

 

 ドラコが嘲笑する。確かに、絵では会話は出来ても金勘定はできなさそうだ。

 

『残念ながら僕には価値がつけられない』

 

「おしゃべりな道具は間に合ってますわ」

 

『ではドラゴンの卵なら?』

 

「あるのですか?なら是非──」

 

「まてまてまて!!」

 

『──少年、君はドラゴンに乗りたいと思ったことはないか?僕は乗りたいね』

 

「本物の魔法生物を見たことがないからそんなことが言えるんだ!」

 

『何回か殺されかけたし、密猟者が盗んだ卵を巣に返しに行ったこともある。炎はとても熱かったけど、接し方に気をつければ大丈夫だよ』

 

「まあ!素敵です!」

 

『気が合うね!君には特別にノルウェーリッジバックの卵を──ん?……ああ、売ってしまったらしいな、最近忘れっぽくてね』

 

「本当に買う間抜けがいるのか……?父上に報告するべきじゃないか……?」

 

『良いね!君の父親が闇の魔法道具を一つも持っていないなら、そうすべきだろう!』

 

「そんなの……いや……そうか……」

 

 ドラコは丸め込まれてしまったらしい。まあ、無理もない。その証拠が私の懐にあるのだから。

 

「なぜノクターン横丁ではなく、こちらで商売を?」

 

 ダイアゴン横丁には闇の品々を扱う店が並ぶ一角があり、その辺りはノクターン横丁と呼ばれる。堂々と売れないようなものをコソコソと売り買いしている場所だ。

 自分のことを危険な闇の魔法使いだと思い込んでいる人々が闇のショッピングや闇の犯罪行為を密かに楽しんでいる。(本当に危険な魔法使いは買い物なんてせずに奪うし、犯罪なんて気にしない)

 

『僕は悪いことなんてしてないし、絵を裁判にかけるなんて、無理だろう?』

 

「なるほど」

 

 ああ、本当の闇の魔法使いだ。

 きっとこの店の本当の店主も。

 

 ただ、いくら魔法界の絵が話せたり動いたりしてもおかしくないからと言って、ここまで正確に人と会話しているのは少し変だ。

 決められた言葉や対応程度なら出来たとしても、魔法使いの手を借りずにここまでやり取りできるような存在は……噂に聞くホグワーツの肖像画くらいのもの。あとは例の日記帳。

 ……あれ?案外ある?

 

『売り切れの代わりに、ヘブリディーズ・ブラック種の卵を買う権利を上げよう!いまなら特別に──7ガリオンだ!』

 

「買いま──」

「7ガリオン!?明らかに罠だ!処分ついでに罪をなすりつけようとしてるんだ!」

 

「それのどこに問題が?」

 

 ドラゴンの卵なら罠だったとしても欲しいですが?

 

 ……まあ、彼は知らないだろうけれど、ドラゴンの購入程度──"親切な叔父様のご友人達"に言っておけば私は罪に問われない。いや、もはや殆どの犯罪で罪に問われることはないだろう。

 人前で死の呪文を唱えたりしない限りは……いや、服従の呪文を使われていたと証言すれば無罪かも知れない。ルシウス氏が証拠だ。

 

「……父上に揉み消させると?」

 

 ああ、そういう方法もあるのか。それなら──

 

「ええ。私を破滅させるための手札を持っていたほうが良いでしょう?」

 

「……そんなことする必要はないだろ」

 

 一言で理解したドラコは困惑を隠さない。

 

 流石は純血の御曹司。もし同じことをハリーポッターのような純朴な少年に言ったら──恩を着せた上で、いつでもその罪を追求できるようにしておくことで束縛する──ということまで説明する必要があったに違いない。

 

「首輪くらい用意してもらわないと──どこかに行ってしまいますよ?」

 

 喉を揺らさない囁きを耳元に吹き込む。

 

 "貴方は私のために、どこまで踏み外せる?"

 

 という意味を込めて。

 

「僕は……」

 

「即決できないということは、どこかに行ってしまっても構わない、ということ?」

 

「いや……だが……」

 

 デメリットだけだと良くないかも知れない。

 

「──もし、買ってくれるなら……なんでも一つだけ言うことを聞いてあげる」

 

「……本当に、なんでも良いんだな?」

 

 少年の目が私を見つめる。果たして一体どんなことを私に頼むつもりなのだろう。

 

「どんなことでも」

 

「……分かった。それなら買おう」

 

「やった!」

 

『お買い上げありがとう!ではこれを』

 

 絵の中の青年が指を鳴らす。店の奥から青白い光を纏った奇妙な装飾の筒が私の手元へ飛んできた。

 

「これがドラゴンの卵?」

 

『まさか!店の中には置いて置けないからね、"グリンゴッツ"の金庫に預けてあるのさ』

 

 グリンゴッツ。杖すら持てない可哀想なゴブリン達が唯一尊厳を保てる職場で、英国魔法界の唯一の銀行。

 

「つまり、この中に鍵が──」

 

「ダフネ」

 

 ドラコが耳元で囁いた。

 

「ふぇっ、な、なに?」

 

 あっ、後ろから、肩、彼の手が。

 

「え、うそ、こんなところで……?」

 

 早速命令権を行使するなんて……いけません……こんなところでそんな……

 

「……ああ、そうだ。僕の命令に従ってもらう」

 

 彼の喉を揺らさない声に、耳がゾクゾクしてしまう。なんて、生意気な、私の真似なんて──

 

「ぁっ」

 

 彼の手が後ろから私の手に触れ──

 

「卵を店に返すんだ」

 

「……ぇ?」

 

 "なんでも"と言った私が愚かだった。

 

「いいか?鍵を返すんじゃない。それだと、卵を回収した後に鍵だけ返せば良いとか言い出すだろう?」

 

「……くっ!!」

 

 私の言動を先読みするなんて生意気な!許さない……!絶対に許さないぞドラコ・マルフォイッッ……!!!

 

「純血が約束を守れないわけはないよな?」

 

 ……でもその通りだ。私は純血で、高貴たる者は約束を遵守する……せざるを得ない……!

 

「……わかり、まし」

 

『悪いけど商品の返品は出来ないよ、買った時点で魔法契約が締結されるようになっているのさ。分かるように書いてなかったかい?』

 

 入り口の方を見ると、扉の裏側に"返品お断り"と異様に大きな文字が書かれていた。

 

 私の名誉のために明言しておくと、確かに最初から書いてあったような気がする。いや、書いてあった。そこには最初から返品お断りと書いてあったのだ。決して今さっき現れた訳ではない。

 

「……あぁ、困りました。約束を守れないなんて、純血としてここまで屈辱的なことはありません」

 

「今、浮かび上がっただろその文字」

 

「なんて悔しいことでしょう……!」

 

「悔しいと思ってるなら、その顔やめろ」

 

 どんな顔だろうか?私には見当もつかない。

 いつだって私は気品に溢れた顔をしている。

 

『ところで一応確認だけれど、君。その筒は光って見えるかな?』

 

「ええ。目が狂ってなければ」 

 

「何を言ってるんだ?」

 

 どうやらドラコには見えないらしい。彼の目は狂ってしまったのだろうか。

 

『素晴らしい!なら筒を開くと良い!』

 

 カシャリと音を立て、開いた筒から落ちる鍵を握──

 

「ん?」

 

 握ると、視界が歪み、体が内側から前に引かれ、両足が地面から離れた。

 私の肩を掴んでいるドラコの感覚は辛うじて感じられる。

 

 何が起きているのか、私にはすぐにわかった。

 

〈移動キー〉だ。触れるだけで魔法使いを特定の場所へ運ぶことができる道具。

〈姿現わし〉が使えない魔法使いも、これで長距離を一瞬で移動できる。

 ──もちろん、何も知らない相手に握らせれば、突然別の場所へ送り込むことだって。

 

 ドラコの懸念は正解だった。

 

 7ガリオンでドラゴンの卵なんて買えるはずがなく──相手はやっぱり闇の魔法使いだった。

 

 

 


 

 

 

 

 

tips

 

 

 

・ヴェスターズ・アンド・ヴェナム

『ホグワーツ・レガシー』にて、ホグズミードという村に存在する店。原作のダイアゴン横丁やホグズミードには存在しない。

また、発売当時『ホグワーツ・レガシー』のsteam版やXbox版にはその店に関するクエストが存在していなかったが,2024年夏に時限独占が解除された為,現在はswitch版を含む全ての環境で訪れる事ができる。

 

 

・ノルウェーリッジバック種

鱗は茶色で毒の牙を持つドラゴン。成長が早く生後1〜3ヶ月で火を吹くようになるため、素人には手の負える代物ではなく、ドラゴン使いでもなければ卵の購入は立派な自殺的な行為と言っても過言ではない。

 

 

・魔法界の肖像画

肖像画には三種類ほど存在していることが、作品やインタビューから読み取れる。

先ずは短い動画のように動くだけの写真、次にある程度簡単なやり取りできるだけの絵、そして描かれた人物の記憶と言動を再現し、明確に会話できるもの。

 

また、肖像画や絵の中の人物は同じような魔法界の絵の中を移動できるため、しばしば姿を消す。

 

高度なやり取りが出来る肖像画は、ホグワーツの校長室に並ぶ肖像画や、『ホグワーツ・レガシー』に登場した守護者の壁画など、ごく一部のものに限られる。

 

 

・姿現わし

好きな場所に移動できる魔法。失敗すると体の一部が"ばらけて"しまったり、一部を移動前の地点に置き忘れてしまう危険な呪文のため、17歳以上で取得できる免許が必要。長距離の移動も危険。

 

『ファンタスティック・ビースト』シリーズの映画で、しばしば大人の魔法使いが短い距離を転移しながら戦闘している際に使われているのがこの魔法であり、高度な戦闘には欠かせない技術である。

 

ホグワーツの内部では通常、使えないようになっている。外敵の侵入を防ぐのと同時に、生徒の事故を防止していると推測される。








読んで頂きましてありがとうございます!
評価やご感想をお待ちしています!
この調子なら、もっと多くの人に読んでもらえそうです!
引き続き頑張りますので、何卒よろしくお願いします!!


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