『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』   作:銀杏鹿

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なんと、日間総合4位になりました!!(2024/8/26/6:30)
何と言うことでしょう……!皆様本当にありがとうございます!!
評価、お気に入り、感想での応援ありがとうございます!!
誤字や誤った内容の指摘も感謝致します!!
もうここまで来たら行けるところまで行ってみたいですね!!
それでは、お待たせしていた本編の続きです!










17『ベルと竜』結

 

「ごめんね」

 

 そして、火球は直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──私が正面に浮かべた、黒い日記帳に。

 

「──っくく」

 

 思わず笑ってしまった。

 

 日記帳は全く焼け焦げていない。私は多少火傷してるけど、そんなのは変身術で幾らでも誤魔化せる。

 

 "やっぱり"、ドラゴンの炎でも燃えないのだ。

 

 日記自身が出会った時に言っていたことは真実だった。大体、ナルシッサ夫人がルシウス氏の闇のコレクションを燃やした時点で焼けていないのだから、この日記は燃えやしない。

 

 というよりは──破壊できない。"既に幾つも試した"からこそ分かる。

 私が知っていて試していないものは後は〈悪霊の火〉ぐらいだけれど、まあ私に制御できるものではないし。

 

 さて、日記の中の人がうっかり口を滑らせた"一人称"を是非利用させてもらおうか。

 

「ドラゴン程度で、守られる必要があると思うのか?この"僕"に」

 

 なるべく──普段私がドラコへ見せないであろう──心底軽蔑しているような、それこそ、彼の父親が失望した時のような声で。

 

 横目で、呆れたように言い放つ。

 

「ダフネ……?」

 

 表情に浮かぶのは困惑と、疑念、無力感。

 

 開心術が使えなくたって読み取れる。

 

 そうだ、先程の様子を思い出すんだ少年。

 自らを"僕"と呼び、あからさまに死から蘇ったような口調で話せば理解できるだろう!聡明な君ならきっと!

 

 今の私はそう──"友人を助けるため、闇の魔法道具に頼った結果、精神を支配されてしまった哀れな少女"だ!

 

「なにを……どうやって……」

 

 彼は立ち尽くし、呆然と質問することしか出来ない。

 

 自分が好きな女の子一人守れない不甲斐なさ。そして得体の知れない道具にその子が支配されつつあると言う不安。

 さらには私にしかない古代魔術とやらの才能による疎外感。

 彼には身近だったはずの存在がとても遠く感じられていることだろう。

 

 そうだね、心配だろうね。

 

 愛しのダフネちゃんはどうなったのかなぁ?

 

 安心してね。最高に楽しんでるよ。

 だからもっと、苦しんで、心配して。私のことを思って。私を決して忘れないで。

 

 あ、ダメだ、笑うな。顔が緩んでしまう。私はなんて賢いのだろうか。日記の迂闊さを演出に転じてしまうなんて。

 

 これが純血の力だ!純血万歳!

 

「さて。講義をしよう」

 

 ドラコに背を向けたまま、私はドラゴンへ歩み寄る。

 

 当然、火球が放たれる。

 

「ドラゴンは人々に蛇から創造された存在だ」

 

 宙に浮かべた日記が盾となる。

 

「──!!!」

 

 響き渡る竜の咆哮──

 

「〈クワイエタス 静かに〉、まだ"僕"が話しているじゃあないか?質疑応答は最後だ」

 

 ──は、私の呪文で僅かな音量へと変わる。

 ドラゴンに大概の魔法が効かないとしても、発せられた"音"そのものには関係がない。

 それでも多少聞こえるあたり流石と言ったところだけれど、ドラコにも、そして目の前のドラゴンにも見抜けないだろう。

 さも、呪文一つで黙らせたように見えるに違いない。

 

「それは進化における蛇からの抑圧の具現化である」

 

 火球が効かず、自慢の美声も響かない。さぞや混乱しているのだろう。

 ドラゴンは何度も効かない火球を放ち続け、"不遜で矮小な"私を焼き尽くそうとするが、全ては日記に阻まれる。

 

 なんて便利な道具だろうか。お話しできるだけじゃなく盾にもなるなんて。なるほど、これが"使える友人"というものか。闇の帝王も相当な皮肉家だ。

 

「蛇を恐れる人類は、四足を与え、翼を与え、胴体を短く太いモノへ変えた。そうすることで──」

 

 私は余裕を持ってドラゴンの目を見つめる。

 さも、捕食者と獲物、その関係性が真逆であるかのように──偽って。

 

 だが、それが偽りだとは誰も気付けない。

 私が震えていないから。火球が効かないから。叫び声を掻き消したから。

 

「──"打倒しうる蛇"へと変えた」

 

 また、一歩ドラゴンへ近づく。

 

 ドラゴンは人間と友好的な関係にはなれない。これは、魔法使いの歴史を少しでも知っているのなら周知の事実であり──誰もがそう信じている。

 

 だが、かつて魔法使い達は戦争のため、ドラゴンを飼い慣らそうとした。

 そのために呼び出されたのは"英雄"ニュートン・スキャマンダー。

 彼は魔法生物学の権威。そして稀代の大犯罪者、ゲラート・グリンデルバルドを捕まえた男だ。

 彼はあらゆる魔法生物を手懐け、使役するという。

 そして、呼び出された彼は誰一人として成し得なかったドラゴンの使役にすら成功した。

 無論、ドラゴンが従ったのはスキャマンダー氏の言葉のみで、他の魔法使いは捕食されかけた、というオチがついているが。

 

 しかし──

 

「つまりドラゴンもまた"蛇"である」

 

 ドラゴンが僅かに後退る。

 

 さて、私が一体何を言いたいのかはもう想像がつくだろう。

 

「《そうだろう?縛られし者よ》」

 

 私は《蛇語》で話しかけた。

 蛇ならば、蛇語が通じない道理はない。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 上空から見下ろすグリンゴッツは、夕暮れに──燃えていた。喩えたんじゃ無い。本当に燃えていた。

 

「見ろドラコ!何が魔法界一安全な金庫だ!!ははは!!ざまぁみろ!!」

 

 "彼女"がドラゴンの背に乗ってはしゃいでいるのを──その後ろで必死にしがみつきながら──"僕"はただ、見ていることしか出来なかった。

 

 燃え盛る洞窟と金庫、逃げ惑う小鬼、解放されるドラゴン"達"。鳴り止まない警報の鐘。あっという間だった。

 僕らは何匹かのドラゴンと共に、天井を突き破って脱出した。

 

「《──》!」

 

 彼女は僕には聞き取れない蛇のような言葉、恐らく蛇語でドラゴン達に命じ、彼らはそれに従う。

 分からないことばかりだった。

 古代魔術も、ダフネの蛇語も、それがドラゴンに通じている理由も、あの黒い日記帳も。

 

 そして。

 

「ダフネ……流石にやり過ぎだ……」

 

「おいおいドラコ?"ルシウスの息子"がこの"僕"に命令するのか?」

 

 見たことの無い冷たい目。いつも僕を揶揄っていた彼女の仕草や声に目線、その全てが……嘘で演技であったかのように思えてしまう。

 それ程までに、"違う"。

 

「……お前は……」

 

「ははっ、この体が死んでもいいなら好きに喋れよ」

 

 "それ"は笑った。形容し難い笑顔で。その悍ましさを表現する言葉が僕には何も思い浮かばなかった。

 考えても"あらゆる悪意を煮詰めた"とか、そんな言葉しか出てこなかった。

 僕の理解できる存在じゃないってことだけがはっきりしていた。

 

 もし、あの日記帳が闇の魔法道具だったとして。

 それを使うことで僕を助けたというのなら。

 確かに彼女は言っていた。

 "日記"なんかに魂を奪われたりしない、と。

 あれは冗談なんかじゃなかったとしたら。

 

 僕は。

 

「そうだ、お前に選択肢をやろうか?お前が死ぬか、この娘を殺すか、どちらか選べ」

 

「選択肢……?それが……?」

 

「死に方を選べるほど贅沢なことはないだろう?」

 

 当然のように言う"それ"。

 

「……嫌だ……僕は……死にたくない」

 

「おお、ではこの娘は殺──」

 

「だ、ダフネを殺されたくもない……」

 

「はぁ。それはどちらも選ばないという意味だと分からないのか?物語の主人公にでもなったつもりか?なら迷わず自己犠牲を選択するべきだったな」

 

 "それ"はダフネの顔で露骨に嫌悪感を表情に浮かべた。

 

「お前は自分の身が惜しいんだな?無力なだけでなく臆病で──」

 

「……交渉がしたい」

 

「同等の暴力を持たないものが、対等な席につけると?」

 

「僕が誰の息子か知ってるなら、乗り移るのは"こっち"の方が都合が良いはずだ。それに……僕の方が長く保つ」

 

「大して長生きもしない女のために、お前の"価値のある人生"を棒に振るのか?」

 

「……僕には闇の魔術の才能がない、だから僕はお前を利用する。お前は僕の身体を利用する。話は簡単だろ」

 

「だとしてもこの小娘は死ぬ」

 

「お前に殺されるよりずっといい」

 

「……なるほど。その手が震えていなければもっと格好がついただろうに。ああ、勿論──提案は却下だ」

 

「な、そいつの中にいるより僕といた方が絶対に──」

 

「死を克服できる存在が、血の呪いを解決出来ないとでも?」

 

 "それ"は理解出来ないものを見るように、当然の如く語る。

 

「できるのか!?」

 

「お前次第だろうな」

 

 "それ"は何が愉快なのかは分からないが、急に機嫌を良くして微笑み、僕の頬を撫でた。

 

「疲れたので"僕"は眠るとするよ。"本人"は気にならないらしいが、正気を保つには痛みや吐き気が酷すぎる。ああ、勿論──大人に今日のことをバラせばこいつを殺すからな」

 

 それの言う通りなら──少し前に急に苦しみ出したのは、つまり……ダフネは常に。

 

「それじゃあ、ダフネは──」

 

 "それ"は僕に返事を返す前に意識を失ったのか、カクリと体勢を崩──

 

「──〈アクシオ 来い!〉」

 

 ──彼女のローブを呪文で引っ張って僕はなんとか落下を防いだ。

 

 ダフネは、ゆっくりと息をしていた。小さな吐息には僅かな体温が篭っている。

 安らかに見える寝顔からは、まさか痛みに耐え続けているような気配は微塵も感じ取れない。

 

 大した役者だと思った。

 これまで、僕を騙し続けていたのだから。

 

 巨大なドラゴンの背、耳の側を通り抜ける風。何もない空。

 

 足元の横丁はとても小さく感じた。

 

 それを見ている僕と同じように。

 

 

 

 

 

 

 ……ところで、僕らは一体どうやって降りればいいのだろうか。








読んで頂いてありがとうございます!
これにてダイアゴン横丁編は終わりです!
評価やご感想をお待ちしています!
この作品がもっと多くの人に届くように応援して頂けるととってもありがたいです!何卒今後ともよろしくお願いします!!


次の章には、幕間を挟んでから進むと思います!
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