『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』   作:銀杏鹿

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間話です!本編はもう少ししたら続きます!
お気に入りが600を超え、評価もさらに頂けました!
皆様、本当にありがとうございます!
引き続き頑張ります!


間話 『悪い本』続

 

 深夜のマルフォイ邸は静寂に包まれていた。

 

「──」

 

 変身術で扉の錠を変形させて開く。

 こうすれば杖もいらないし、解けばまた鍵が掛かる。解錠と施錠で二回唱えるより安全だ。

 

 深夜の寝室には時計の針が刻む音と、静かな寝息しか聞こえなかった。

 

「……ぅ……」

 

 ベッドの様子を見ると、ドラコがほんの少し苦しげな寝顔をしていた。

 鼻でも摘んで息を塞いでみたくなる。

 

「っ──」

 

 摘んでもあまり様子は変わらなかった。起きても不味い。続きは明日、起きてからにしよう。

 

 目当てのものは机の引き出しに隠されていた。なんと無防備なのだろうか。もう少し警戒していれば"私を助けられた"かもしれないのに。

 

『迎えに来たよ』

 

──放っておいてくれ!

 

 黒い日記帳に書き込むと、物凄く嫌そうな一文が素早く浮かび上がってきた。

 

 私はヘマをしていた。グリンゴッツの一件で気絶したフリをした隙に、日記帳をドラコに没収されてしまったのだ。

 まあ、あれだけ匂わせればそうなるのは当然だ。

 

『何か話した?』

 

──ああ!洗いざらい全てね!お前が何をし

 

『話せてないんだ。まあ、あの後すぐに寝てるみたいだし。予想通り』

 

──お前は……!

 

 分かりきったことを聞くと、案の定嘘を吐いた。もう少し捻った回答が欲しかった。

 

 それにしても今のドラコは少し"素直過ぎる"気がする。

 日記帳だって、私が操られていると思うのなら、偽物をテーブルに置いておくとか、取ったら発動する罠だとか、いくらでもやりようはあると言うのに。

 

 そんなことを出来ないくらいに、疲れていたんだろうか?

 まあ、それはそれでとても嬉しい。

 私のことで冷静さをすっかり失うほど疲れ切ってくれるなんて。

 

 後で対策を怠った自分の愚かさを自覚してくれると更に良い。

 

『で、何でドラコを乗っ取れてないの?』

 

──は?

 

『どうせ出来るんでしょう?』

 

──お前にはそう見えるかも知

 

『乗っ取れてたら、私が回収できないように出来るよね?』

 

──お前は何を望んでいるんだ?こいつがどうなってもいいのか?

 

『真面目にやれってこと』

 

──僕は巫山戯てない。

 

『馬鹿にするのも大概にして。貴方は何?せっかく乗っ取ってくれるのかと思ったら痛がって抜け出すし、せっかくのチャンスを何度も逃す。ドラコだって可愛げがあるから許せるけど、盗難の対策もしないなんて舐めてるとしか思えない。皆ちゃんと全力でやって。面白くないから』

 

──お前には分からないかも知れないが僕は手を抜いたことなどない。

 

『これで?子供一人乗っ取れないのに?』

 

──ルシウスの息子が原因だ。

 

『それが言い訳?』

 

──生まれながらの開心術師がいるように、生まれながらの閉心術師もいる。

 

『たまたまドラコが貴方の開心術でも心が読めないような閉心術師だったって?そんなことある?』

 

──僕の開心術が効かない以上、間違いない。僕に分かったのは絶対に抵抗すると言う強烈な拒絶と何かを守ろうとする意志だけだ。

 

『自分に乗り換えろとか言ってたのに?』

 

──お前から引き剥がすための方便だろう。

 

『守るって何を?』

 

──その解答に開心術が必要ならお前には致命的に才能がないだろうな。

 

『……へえ。まあ、その話が実は嘘で、私を騙してるって方が面白いけど、そういうことにしない?』

 

──残念ながら、僕は生まれてから一度も嘘はついたことがない。

 

『嘘のない人生なんて、つまんない一生だったんだ』

 

──強者は嘘をつかない。言うことが真実になるからだ。

 

 負け惜しみのような台詞を浮かび上がらせると、日記帳は静かになった。

 

 目的も達成したし、もう部屋に用は……いや、まだ。

 

「ぅ……ぁ……」

 

 ドラコを見ると、額に汗が浮かんでいる。

 

 今日の一件が余程効いているのだろう。夢の中ではまだ洞窟の底かも知れない。

 

「……よくがんばりました。えらいえらい」

 

 頭を撫でると苦しげに顰められた眉は、ほんの少しだけ安らいだように見えた。

 

 いい夢を見るといい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうせ夢は夢でしかないと、いつか知るためにね。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 入学準備も整うと、特にやらなければならないこともなくなった。

 

 まとまった時間が次にいつ取れるのかは分からないし、私は趣味に使うことにして母の書斎に籠っていた。

 

 書斎は私の買い足した本が本棚に入り切らずに平積みになり、実験用の魔法道具や薬品も全て手の届く範囲に転がっている。

 

 一見すると乱雑に見えるかも知れない。

 

 しかし、これには調和と秩序があるのだ。私にしか理解出来ない完全な配置と整列なのである。

 

 だから断じて勝手に片付けたり、触ったりしてはいけない。

 アストリアは闇の魔法に関しての本を時々持って行くけど、返却されたことは一度としてない。私は寛容なので全く気にしない……ただ、本が抜けるたびに書斎の秩序が乱れるので、その度に新品を買っている。

 

『変身術における変化の過程をより詳細に捉えることで、本来危険とされる肉体への直接的な変身術の行使を安定的に──』

 

──僕を原稿用紙にするのはやめろ。

 

 草稿を書いていると、日記帳が文句を言ってきた。

 

『普通の使い方してるのに?』

 

──未熟な文章を読ませられるのは苦痛だ。なんだこれは?ドラゴンが蛇だというのなら根拠はどこにある?引用元の出典は明確にしろ。

 

 また偉そうなことを言い始めた。自分を闇の帝王だとでも思っているのだろうか。哀れな。闇の帝王は死んだ、もう居ない。闇の魔法使いも人生と向き合う時が来ているのだ。

 

──大体、誤った内容が多すぎる。ライ麦と麦の関係を人間の変化と同列に語るのは不自然ではないか?似たような言説はSF小説でしか見たことがない。

 

『入学前の子供が一つも間違ってなかったら、その方が嫌でしょう?』

 

──口ばかりは達者だな。

 

『じゃあ、何が間違っているのか教えてくれる?』

 

──ああ、簡単なことだ。愚かな小娘に深淵なる知恵を見せてやろう。

 

 そして、日記帳は私の文章を添削し始めた。

 赤い訂正と脚注が噴き出すように書き出され、それどころか言い回しや修辞、構成の不備から出典の不足まで追記されていく。

 

 ……確かに物凄い性能に思える。

 

 問題はこの日記帳が行っている訂正が本当に正しいのかどうか裏付けを取るために結局資料を自分で読み込まなければならない点にある。

 

『それで、貴方の正しさは誰が保証するの?』

 

──僕だ。

 

『これが闇の帝王の限界……』

 

 全く。反証可能性という言葉を知らないのだろうか。変身術には理論が存在している。

 そして理論は実験を通して誤りか確かめられる必要がある。蛇とドラゴンについての思想的な側面からの論考でさえ、私の蛇語がドラゴンに通じるかという実験の上で確かめられた以上、反証可能性はあったし、まだ、他の蛇語使いや、野生のドラゴンでも検証しなければならない点は残ってる。

 

 自らの誤りを認めないような学問は学問ではない。

 しかしまあ、日記帳にそんな思考を要求するのも無理な話だろうか。期待しすぎたかも知れない。

 

──何を考えているかは知らないが、僕の指摘した通りに、変身術の行使を行え。そうすれば理解できる。

 

 なんと人でもないのに実験するという発想があったらしい。

 

『安心して、間違ってても燃やしたりしないから』

 

──黙ってやれ。

 

 添削の結果を試すのに、最も適しているのは私の体だろう。

 

 常に掛けている変身術に意識を向ける。

 

 これまで、マグルの解剖学や人体模型から臓器の"あるべき状態"を想像し、故障している箇所を変身させて生活していた。

 しかし、日記帳によるとまだ完全では……。否、完全などないというのだ。

 

 変身術の制御技術では負けない自信があったけど、どうやらそもそもの発想が間違っているらしい。

 変身というのは"あるべき状態"へ変化させるものではなく、もっと自由な魔法だと言う。

 

 正しい状態でなくても良いのだ。

 

 試しに調整してみると、変身術を使い続ける際に感じていた魔法力への負担や、体の違和感がかなり減ったように感じた。

 

──どうだろうか?君の最初の理論よりも遥かに優れているだろう?

 

『心臓を増やしたら血の巡りが良くなった』

 

──は?

 

『流石は闇の帝王の日記帳』

 

──ああ……いや、そう言うことでいい。

 

『安全に乗り移れるようになった?』

 

──何のことか分からないな

 

『私が上達すれば貴方が入っても痛くないでしょう?』

 

──僕がまだお前をわざわざ乗っ取ろうとしているとでも?

 

『え?だから協力するような振りをして、貴方都合の良い魔法や呪文を教えようとしてるんじゃないの?』

 

 返事を待ったけど、日記帳は沈黙してしまった。図星だったのだろうか。

 

 気にせず原稿の続きを書き始めると、私の書き込みを勝手に消して、観念したように文字が浮かび上がった。

 

──何故、僕を持っているんだ?自分の体を乗っ取ろうとしているのに。

 

『闇の道具ならそのくらいのデメリットがあるものでしょう。その方が格好良い』

 

──理解出来ない。

 

『闇の帝王が自分の名前を死の飛翔にしたのと同じことって言えば分かる?』

 

──全く理解できない。

 

『それと、ドラゴンの炎も防げる』

 

──ああいう使い方はやめてくれ。

 

『どんな魔法か分からないけど、闇の帝王の高度な技術が詰まった道具を捨てる理由はないし』

 

──そうだ、僕には叡智が詰まっている。だから盾にしたり、下らない日記や落書きをするのはやめるんだ。

 

 

 

──おい、そこにいるんだろう?返事をしろ。

 

 

 

 

──最悪だ、ルシウスの部屋に戻りたい……

 

 

 

 

──僕を何だと思ってるんだ。

 

『可哀想なお友達?』

 

──クソッ!!クソクソクソッ!!









間話でした!次の更新で本編を進める予定です!
皆様の評価、ご感想をお待ちしております!!
どうやって上空からマルフォイ邸まで向かったのかは本筋にあまり関係がないので、そのうち、また別の間話でやりますね!!
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