『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』 作:銀杏鹿
お待たせしました本編です!間章……?必要な話なので本編です!
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〔少年の日の思い出〕1
僕は何も知らなかった。
記憶に残っているのは、青い空。
僕を馬鹿にしていた憎らしい顔。
青い、ただ青い空。
ずっと変わらない夏の風。
知っているはずの森。
同じ森なのに、まるで同じ顔の他人のようだった。
心臓は痛いくらいに早く拍動していた。
僕は何も出来なかった。
何も知らないことを知った。
ただ、空だけが青く澄んでいた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
ある週末の朝、用事があるわけでもないのに早起きをさせられた僕は、屋敷の玄関に立たされていた。
「ドラコ、彼女達はグリーングラス家のダフネとアストリアだ。夏の間は我が家で過ごすことになった」
父上が連れてきたのは、何度か見たことのある女の子達だ。
「長女のダフネと申します、よろしくお願いします」
「妹のアストリアです、本日よりお世話になります」
僕よりも背が高い姉の方は、長い黒髪に怜悧な翡翠の瞳。人形みたいに整った目鼻立ち、ほんのりと頬が染まった真っ白な肌。
もう一人はふわふわとした白い髪に、色素の薄い赤い瞳。姉にはあまり似ていないが、負けず劣らず可愛らしい顔のアストリア。
グリーングラス。呪われた純血の家。いつ死ぬか分からない血の呪いに蝕まれた者達。僕らのような聖28一族の純血なら、知らないはずもない。
聖28一族で一番偉いブラック家との血縁は大体の家系図を辿れば見つけられるが、グリーングラス家はそうじゃない。つまりは、別の系統でありながら聖なる純血ということで、その意味がわからないほど、僕は愚かじゃない。僕は優秀だから。
「彼女達はもう二年生程度の呪文は覚えているらしい。ドラコも教わるといい」
父上は皮肉なんて込めていないのはわかる。でも僕にはもっと勉強しろと言われているようで、彼女達が気に食わなかった。
「父上。僕もそれなりに呪文は覚えています。子供に教えられるほど──」
「ドラコ、お前の覚えている呪文で論文は書けるか?」
静かに、そして少し残念そうに聞き返された。
「……書けません」
「ダフネが投稿した変身術の論文にも目は通させてもらっている。覚えた呪文の数こそ多くはないが、教わることは多い」
なんだよそれ……
「……わかりました、父上」
余計に気に食わなくなった。
「よろしくお願いします、ドラコ君」
でも、姉の方が微笑んだ瞬間、時間が止まったような気がした。
気に食わない相手なのに、僕はその緑色の瞳に目を──
「……よろしく」
奪われてなんかいない。絶対に。
◆◆◆◆◆◆◆◆
グリーングラスは僕の生活を粉々にしていった。
「素晴らしいわ、ドラコもダフネとアストリアを見習いなさい」
「とんでもありませんわ、ナルシッサ様。私などとても」
「ど、ドラコ様もお上手ですよ!」
母上にテーブルマナーをいちいち比較され。
「ネズミをゴブレットに変えるだけの簡単な変身術も出来ないのか?私がお前の歳には……」
「変身術なら私が教えて差し上げます」
「わ、私も……」
「そうしてくれダフネ、アストリア」
父上に魔法の不出来を叱られては、姉妹に教えられ。
「もうあの本を読み終わったのか?分かった、今後は私の書斎に自由に入っていい、本も返してくれるのなら持っていって構わない」
「感謝致します、ですがよろしいのですか?」
「君達なら何の問題もない」
僕ですら呼ばれなければ入れない父上の書斎への出入りを許される、その瞬間を見た。
「当家に居る間は"ドビー"を使って良い」
父上のお気に入りの"ハウスエルフ"は彼女達に貸し出された。
家を侵略されているような気分だった。
両親は口を開けばダフネ、ダフネ、ダフネ、たまにアストリア、そしてまたダフネ。
非の打ち所がなく、純血らしい所作を備えていて、父上も母上も……それにたまに目を覚ます寝たきりのお祖父様も彼女達がお気に入りだった。
もしかしたら、女の子が欲しかったのかも知れない──そんな風に思えるくらいには、彼女達は丁重に扱われていた。
まるで僕が世界の脇役になったみたいで、いらない子供のように思えた。
だが、そんなグリーングラス姉妹にも、弱点はあった。
運動がまるでダメだと言うことだ。特に姉は走るだけで転ぶような鈍い奴だった。
何か運動に関わることなら、"分からせる"ことが出来る。
だから、僕は箒の腕前で勝負しようと考えた。箒で空を飛ぶ操縦の腕前で。
"クディッチ"には絶対必要な能力だし、父上はホグワーツのチームに個人的な支援を送ったりするくらいには熱中している。
いや、魔法族でクディッチが嫌いな魔法使いなんていない。
箒でなら、父上も母上もきっと僕を認めてくれる……そう思った。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「箒で競争?私、乗れませんよ」
姉の方は首を傾げてそう言った。
中庭には生ぬるい風が吹いていた。揺れている木の枝が僕を馬鹿にして笑っているみたいだった。
「……何でだよ。そんなに魔法使えるのに」
「そもそも、なぜ飛ばないといけないのか、合理的な説明をしてくれませんか?」
緑色の瞳はおかしなモノでも見るように僕を見つめていた。おかしいのは僕じゃない。
「そ、それは便利だし……」
「馬車も飛びますし、乗れる人数は多いです」
「箒の方が速い!」
「〈姿現わし〉で移動すればいいです。その方が速い」
「うっ……クディッチは飛べないと出来ないだろ!」
「では、クディッチをすることにしか役に立たない能力ということですか?」
「違う……絶対に違う!」
「はぁ。だとしても私の貴重な時間をかけて習得する意味が分かりませんね」
心底どうでもいい会話だと思ってるようだった。
「ド、ドラコ様?私は箒で飛べるのは凄いと思います……よ?クディッチも出来ますし……」
アストリアが僕を擁護するようなことを言った。でも皮肉にしか聞こえない。
「……グリーングラス 、お前、飛べないからそんなこと言ってるんだろ」
「関係ありますか?」
「飛べもしないから、飛べるやつが羨ましくてやっかんでるんだろ」
「……私は──」
「魔法使いはみんな飛べる!飛べない奴なんて出来損ないのスクイブだ!」
馬鹿にするな、僕がどれだけ練習して飛べるようになったと思ってるんだ。
呪文だって、他の子供よりずっと勉強してる。……お前達さえ来なければ。
「……」
姉の方は何か驚いたような目で黙っていた。怒っているようには見えなかった。
「な、なんだよ、何とか言ってみろよ!」
「……そこまで言うなら、飛び方を教えてもらえませんか?私も飛べるようになれば貴方の望むように競争して差し上げましょう」
「なんで僕が!」
「私達には箒を教えてくれる親は居ません」
「……だからなんだよ、家庭教師でも呼べば良いじゃないか」
「家では危ないことは出来ません。気安く外に出ることも」
「なんでだよ」
「病気ですから」
「僕は父上や母上のように騙されないぞ!」
「だ、騙してなんかいません……私達は」
アストリアが口を挟む。
「お前には聞いてないアストリア!」
「ひっ」
「……では、賭けをしましょう」
姉の方の目つきが鋭くなった。睨まれたってちっとも怖くなんかない!
「何をだ?」
「箒での勝負に負けたら、私達はもう二度とこの屋敷には来ません」
「勝ったら?」
「マルフォイ家に入ることを許してもらいます」
「お姉様!?」
「それはつまり──」
「財産を得る立場を頂戴するということです」
そいつは、こともなげに言ってのけた。
「……そうか、つまりお前らはそういうやつだったんだな。よく分かった。その条件でいい」
やっぱりこいつらは敵だった。僕の居場所を奪おうとしているんだ。
「では……教えて頂けますか?」
「何でそうなる」
「マルフォイ家の継嗣たる者が箒に乗れない相手と競争して勝ち誇るおつもりですか?まさか、そんな"スクイブ"にも劣る下劣な精神性なわけ──」
「ああそうだ!勝負は公平じゃないと僕が勝つ意味がないな!」
「ええ。もちろんそうおっしゃって頂けると思いましたわ」
姉の方は満足そうに微笑んだ。その整った鼻をへし折ってやりたくなった。
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