『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』   作:銀杏鹿

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お待たせしました!やっと登校の時間です!長かったですね!
他の作品ならもう賢者の石が終わってそうなくらい長くて申し訳ないです!!



3章【車輪の上】
18『資本主義の精神』


 

 

 

 キングス・クロス駅、9と3/4番ホーム。

 魔法界に似つかわしくない技術──蒸気機関を備える紅の汽車が煙を吐く。

 車両に乗り込むホグワーツの生徒や、それを見送る家族達。誰のペットか知らないパフスケインがそこかしこで跳ね回り、フクロウが籠の中で羽ばたく音がすぐ側を通り過ぎて行く。

 頭上の掲示には〈ホグワーツ行特急11時発〉の文字。

 出発の時間が迫っているからか、辺りは実に騒がしい。

 

 子供達は本日から始まる目眩くバラ色の青春に想いを馳せているに違いないだろう。

 

 だが、そんなものはない。

 

 人生とやらはバラ色ではない。雑多で煩雑な色をしている。

 春は実りの季節ではない。未だ青く熟していない血は、物事を考えるには若すぎる。

 それ故に誤り、時として傷になる。

 いつか思い返すその傷が、私であって欲しい。

 悼んで欲しい。私という青春の残影を。

 

 願望はともかく、私のような純血が乗り遅れることなどあり得ない。

 その気になれば"魔法省のお友達"に頼んで、私の乗車時刻を出発時刻に出来るだろう。

 

 なのに私が未だ雑踏の中で周囲を観察しながら歩いているのには理由がある。

 

「……あと二人ですか」

 

 手元の手帳に挟まっているのは、今年入学する半純血やマグル生まれの名前に写真、更に家族構成から家系図。

 "お友達"が暇そうだったので作らせた物だ。

 精度は流石は魔法省の高官と言ったところだ、これで知らない顔はないだろう。

 まさか純血に知らぬ顔がいる訳もない。入学に合わせて魔法で顔を変えてくる人がいない限りは。

 

「あ、あの、ありがとう……」

 

「これも魔法族の、そして純血の務めです」

 

 ジャスティン・フィンチ=フレッチリーとかいう、なんの印象にも残らないマグル生まれの少年が礼を言う。

 彼はマグルの中ではそれなりに聡明だったらしく、あちらの世界での"進学校"とやらに通う予定だったがホグワーツの招待状が届いたらしい。

 つまり、そのままなら将来的にあちらの世界で何かしらの活躍をするかも知れなかった存在である。

 こちらに来ればただのマグル生まれになり、コネクションやこれまでの勉学も役に立たなくなるというのに。

 魔法界の方が魅力的なのは言うまでもないけど、マグルの世界での将来はそこまで絶望的なのだろうか。まあ、子供を荒野に追い出すような世界だからそうかもしれない。

 

「学校でまた会いましょう」

 

「う、うん」

 

 私が引いていた手を離すと、彼は耳を赤くしたまま俯いて、大急ぎで列車に乗り込んで行った。

 ぜひ勘違いしてくれ給え。バラ色の学園生活など幻想だと知ったときの顔が楽しみだ。

 

 私は9番線付近で彷徨える子羊を見つけては手を引いて、魔法界へエスコートしていた。

 アストリアは発作で家から動けず、叔父は当然仕事でいないので、私は時間が有り余っていたし、マグル生まれが何の案内もなく〈9と3/4番線〉のプラットホームを見つけるのは難しいからだ。

 

 無思考な純血主義者は文句を言うかも知れない。しかし私たちの血を汚さずに魔法界の人口、つまりは"労働力"が増えるのだから、可能な限り"こちら側"の常識を刷り込んで従えるべきだ。人間関係は最初の接触でほとんど決まる。

 真の純血である私にとって、彼らは憐れみ、施しを与えるべき存在であって、それ以上でも以下でもない。

 

 こちらから特急の窓の向こうに見える程度の情報でも、他の純血が(愚かにも)さっさと特急の座席を確保して呑気しているのに比べ、遅れてきたマグル生まれの子供達は席の確保に難儀しているのが分かる。

 無理もない。魔法使いの家系なら何も考えずとも親が連れて来る。また、調べようと思えばそう難しくはないけれど、彼らはそうではない。

 まあ、そう言った環境になくとも、学校に興味があるのなら普通は行き方くらいは聞いているだろう。ダイアゴン横丁の案内はあるのだから。

 

 しかし、マグル生まれの場合そうならない可能性が高い。

 それは彼らの世界に蔓延する〈資本主義〉という信仰に起因する。

 曰く、この世は市場であり、どのような物事でも金銭交換による"サービス"によって与えられるのだとか。

 実に分かりやすい。魔法使いの杖はマグルの札束だ。

 さらに大人は"魔法のカード"を持つという。そのカードを振り翳せば、今持っていない金銭を前借りして使えるらしい。つまりなんでも買える。彼らはマグルの世界では無限の力を行使出来てしまうのだ。なんと恐ろしい世界だろうか。

 

 しかし、不思議なことに世界の財貨の大多数は一部の資本家が偏って所有しているという。

 その占有を許している以上、きっとマグル達は服従や理不尽な支配が好きなのだろう。解脱した高次元の精神性だ。"尊敬"に値する。

 

 さて、与えられることに慣れきったマグルの子供にとって教育とはなにか。

 これも簡単に想像がつく。

 

 "無料で受けられるサービス"だ。

 

 あらゆるものが金銭に交換される以上、無償のものには価値はなく、あって当然のものになる。魔法界と違ってそもそも教育が義務化されているのも一因だろう。

 一方で、支配されている地域の子供達は満足に教育も受けられず、3秒に一度くらい──だいたい魔法界で言うパフスケインくらいの頻度で死んでいくらしい。

 マグルの手にかかれば魔法族などあっという間に滅びてしまうだろう。やはり邪悪である。

 また、この魔法界のある"イギリス"は概ね、その犠牲を甘受する側の地域だ。

 

 つまり、そう言った支配者側の子供がホグワーツへの行き方を自発的に調べるとは考え難い。

 親のマグルも魔法使いではない以上魔法界の情報にはアクセスできない。

 そして彼らは実際に遅れて辿り着いている。

 

 ……中でも、"例のあの人"を赤子の頃に倒した化け物──ハリー・ポッターは未だに姿を現していない。

 もしかすると英雄である彼が到着するまで、この列車は発車しないのかも知れない。

 全く。"人間を一人殺した"程度で随分と偉くなったものだ。どこかに居ないだろうか、私にも殺せる闇の帝王は。

 

 人生がバラ色ではないと言ったけれど、考えてみると彼は例外かも知れない。最初から英雄の身分を与えられて、遺産があって、魔法界では誰一人知らない者はいない。

 まさに特別そのもの。彼が持っていないのは"マトモな家庭"くらいか。

 

 "お友達"の調査によれば、彼の保護者である叔父と叔母は魔法族への嫌悪感に満ちており、物置に彼を住ませ、ハウスエルフのように扱っていたという。

 彼以外に同年代の子供を養育しているというのだから、きっと彼を養うだけの金銭はないのだろう。

 にも関わらず、3秒で殺したりしないで家に住まわせているあたり、邪悪なマグルの中では良心的な扱いかも知れない。

 私は彼が荒野でも一人で生きていけるように、ガールスカウトの本を買ってあげるつもりだ。

 

 ……いやこの際、引き取っても良いかも知れない。

 今の私なら権利のある血縁関係くらい、いくらでも偽造させることが出来る。

 行方の知れない私の父親が、実は彼の父親だったことにしてしまえば文句は出ないだろう。

 良い考えだ。是非そうしよう。

 

 さて、リストの生徒にはまだ2人ほど私が見ていない生徒が残っている。きっと私の助けが必要だ。

 私のように親の送り迎えがなくとも、上手く出来る子供達ばかりではないし……それに親がいる子供ばかりではないのだから。

 

 もう一度、9番線のホームに戻って──

 

「ぁっ!!」

 

 視界には勢いよく突進してきたカート。

 慌てた少年の声。

 それは9番線に繋がっている壁をすり抜けて現れた。

 何が現れたのはわかっていても、私は素早く動いたりは出来ないし、そもそも避けたりしない。

 

 当然、私は撥ねられた。

 

 

 


 

 

 

 

 

・ホグワーツ特急

ロンドンのキングズ・クロス駅、9と3/4番線とホグズミード駅の間を走る蒸気機関車。

生徒のホグワーツとの行き来のために利用されている。

特急が利用され始める以前は生徒の1/3が学校にたどり着けなかったり、移動キーの副作用による様々な症状に悩まされていため、1820年代に魔法大臣の号令によって行われた作戦によって連れてこられたマグルの技術者によって製造された。

尚、完成後に技術者達は記憶改変術を施されて元の場所に返されているが、関連の隠蔽呪文の使用が秘密記録にされているので、おそらく国際魔法使い機密保持法に反する犯罪である。取り締まる側の魔法省が主導していた以上、誰が糾弾出来るわけでもない。魔法界の法律は力あるもののためにあるのだろう。










全然話が進んでなくてすいません……!!
次の話くらいには流石に列車には乗ってくれると思います!
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