『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』   作:銀杏鹿

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お待たせしてます!ネタバレですが、やっと列車に乗ります!


19『蒸気の家』1

 

「だ、大丈夫!?」

 

 転がった私に声を掛けたのは、突撃してきた犯人──ハリー・ポッターだった。

 

 英雄にもなると聖28族の純血を撥ねるくらい朝飯前らしい。せっかく弟にして差し上げようかと思っていたのに、なんという仕打ち。なるほど、これが反抗期と言うものか。いつか私もアストリアに撥ねられるかも知れない。

 

「……起こしてくれますか?」

 

「ごめん!痛かった?」

 

「いえ。別に」

 

 私の手を取った少年な顔は心配そうな目をしているが、深刻そうには思っていなさそうだ。もっと痛がった方が良かったのだろうか。

 

「……ですが、腰が抜けてしまったようです。肩を貸して頂けますか?」

 

「う、うん」

 

 彼の肩を借りながら列車へ向かう。

 これでよし。是非、程よい罪悪感を味わって欲しいものだ。

 

 雑踏の何人かが少しの間、こちらに視線を向けていた──のに気がついて私は微笑みを返す。気まずそうに目を逸らされた。

 

 連中はきっと、魔法界の英雄は運命的な出会いを果たしてしまったのかも知れない、などと考えていることだろう……いや、彼がハリーだとは誰も分からないか。単に私に見惚れたのだろう。この私に。

 

「お姉……グリーングラスさん……だよね?」

 

「ダフネで良いですよ。同級生になるんですし」

 

「え……!?本当に!?」

 

 信じられないような顔で聞き返してくる。なんだろうか。老けて見えるとでも言いたいのだろうか。実に心外である。私はまだ11のあどけなき少女だと言うのに。

 

「さあ、どうでしょうね」

 

 だが私は渾身の微笑みで返す。彼は少し顔を赤くして顔を逸らしたので私の勝ちだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 出発直前だからか、ほとんどのコンパートメントは埋まっていた。

 暫くして端の方で空きを見つけたものの、ハリーはどうやら物を浮かべる呪文すら知らないらしく、トランクを列車へ運ぶのに四苦八苦していた。

 

 さて、私の力を見せつける良い機会──

 

「手伝おうか?お嬢様方」

 

 背の高い赤毛の男の子──ウィーズリー家のフレッドか……ジョージのどちらかが揶揄うような笑顔でそこに立っていた。

 私には相変わらず見分けが付かない。

 

「その必要はありませんよ、ウィーズリーのお兄様」

 

「遠慮はご無用さ、"お姫様"。おいフレッド!こっち来て手伝えよ!」

 

 もう一人、瓜二つの男の子がやってきて、ハリー・ポッターの荷物は空いたコンパートメントに仕舞われてしまった。

 

 私が呪文で片付ける筈だったのに。

 

「ありがとう、手伝ってくれて」

 

 列車の廊下で丁寧に礼を言う少年。育ちの割に随分と素直に育ったものだ。

 

「……良かったですね、ハリー」

 

「うん、みんな良い人だね」

 

 みんな、じゃあ困るんですよ。ウィーズリーの双子も余計なマネを。

 

「ハリー?もしかして、あの?」

 

「ちょっと失礼」

 

 双子のどちらかがハリーの前髪を上げる。

 

「「ハリー・ポッターだ!」」

 

 双子の同じ声が重なる。

 まるで偶然ハリー・ポッターにでも出会ったような声だった。

 

「え?なんで」

 

「貴方の傷の事は誰もが知っています」

 

「……?そうなんだ」

 

 微妙に納得していないような顔で額の傷を撫でる。

 

「なるほど、狙いはハリー」

「どうりでお姫様がウロウロと」

 

 私達の様子を見ていた双子は何か思いついたようにニヤニヤと笑った。

 

「下々を助けるのが高貴たる務めでしょう?お兄様方も同じように純血らしく手伝って頂いたではありませんか?」

 

「純血が上なんてママには教わらなかったぜ?」

 

 どちらかが肩をすくめて答えた。

 

「……ダフネはお姫様なの?」

 

 ハリーは何も知らない少年のような顔で尋ねてくる。

 

「ええ。その通りです」

 

「……そうなんだ……!」

 

 あっさりと信じてしまった。こんなものか。魔法界のルールと言えば理不尽な命令も出来そうだ。

 

「そいつがお姫様なら僕らは王子様だね」

 

「え?」

 

「「"冗談じゃない"ってことさ!」」

 

「お兄様方。他にもお困りの方がいるのでは?例えば──あなた方のご兄弟だとか」

 

 "早くここからいなくなれ"と遠回しに微笑む。

 

「フレッド!ジョージ!どこにいるの!」

 

 人混みの中から彼らの母親らしき大声が響く。良いタイミングだ。

 しかし、かつてのプルフェット家の令嬢も、何人もの子を持つ母になれば、もはや慎みなどカケラも残らないということだろう。

 ……私は"ああ"はなれない。なる時間もない。

 

「ママ!今行くよ!……それじゃ!」

 

 赤毛の嵐は列車から飛び降りて去った。

 

 母がまだ生きていて呪いなど存在しなかったら、あんな風に私を呼んだのだろうか。

 今の私に思い出せるのは、病床での弱々しい声だけだった。

 

「……さ、座りましょうか」

 

「う、うん」

 

 コンパートメントの席へ促すと、彼は窓際の席に座った。

 私はその隣に座る。向かい側ではなく、隣に。

 

「彼らが気になりますか?」

 

 ハリーは私ではなく窓からウィーズリー一家の様子を見ていた。

 

「え?うん、入り口も教えてくれたんだ」

 

「へぇ」

 

 前言撤回。タイミングは良くなどはなかった。彼らは既に私の印象付けを阻害していた。許し難い。勝手に親鳥になろうとするなんて。

 

「彼らは聖28族一族のウィーズリー家。マグルに対して友好的な方々です」

 

「じゃあ、悪い人達じゃないんだね」

 

「さあ。真にマグルと友好的であるのなら、純血同士で結婚するでしょうか?」

 

「え?」

 

「純血主義を否定するのに、聖28一族であり続ける。貴族階級を手にしたまま、それを批判するなんてムシが良すぎるのではないかと、私はそう考えるのです」

 

「……よく分からないよ」

 

「ハリー、良いことを教えてあげましょう。よく聞いてくださいね」

 

「う、うん」

 

「親切だからといって、その人が良い人だとは限らないのです」

 

 耳元で囁く。

 

「……ダフネがもしかしたら悪い人かも知れないってこと?」

 

 耳は赤いけれど、ほんの少し表情は強張っていた。

 

「勿論。貴方を騙して財産を掠め取ろうとしているかも知れません」

 

「っ、ははっ、悪い人はそんなことわざわざ教えないと思うよ」

 

 などと言って彼は笑った。

 

 全く。嘘つきはいくつかの本当のことを混ぜて話すものなのですよ。教えてあげませんがね。

 

「そろそろ出発するようですね」

 

 動き始めた景色の向こうで、騒がしくしていたウィーズリー家の末の妹と母親が手を振っているのが見えた。

 

「手を振ってみては?」

 

「え、別に僕に振ってるわけじゃ……」

 

「道を教えてもらったのですから、それくらいのファンサービスはしてもいいでしょう?」

 

「うーん……?」

 

 ハリーは戸惑いながらも彼女達に手を振り返してみた。

 

「!」

 

 ウィーズリーの末の妹はハリーに気が付いたのか、跳ね回ったりして大騒ぎしていた。

 

「良かったですね。これで彼女も貴方の見送りです」

 

「……え、あ、そっか」

 

 言われてようやく他の──普通の子供は親に送り出されていることに気が付いたらしい。

 

「私の妹も、来れていれば貴方に会いたがったかも知れません」

 

「来れなかったの?」

 

「体調が悪いので。私も家族の見送りはなしです」

 

 ……まあ、その代わりマルフォイ家のご夫妻が盛大に送り出してくれているけれど、そんなことを言えば好感度が下がりかねない。

 

「……そうなんだ」

 

 自分と重ねたのだろう。そう、貴方は此方側の人間。ウィーズリーには渡さない。

 

「まあ、今の魔法界は孤児もそれなりにいますし、気にするほどのことではありません」

 

「そうなの?」

 

「貴方が"例のあの人"を消し飛ばすまで、魔法界は二つに分かれて戦争してましたから」

 

「……ああ。そうか……」

 

「ですから英雄なのでしょう?"生き残った男の子"さん?」

 

「僕は別にすごい訳じゃないんだけどなぁ」

 

 少年ははにかんで、去り行く景色を眺めながらそう言った。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

・ウィーズリー家

ロン(ロナルド)・ウィーズリーの実家。

聖28一族でもあるが、純血主義とは真逆の行動をしている親マグル派の家である。その割にはロンの母親はプルウェット家で純血同士の結婚であり、しかも駆け落ち結婚であったり、マグル製品を愛するアーサー・ウィーズリーは自動改札すら知らなかったりする。

ロンが本編で劣等生のように扱われているためにウィーズリー家の優秀さが目立っていないが、それぞれの兄弟の成績や後に就職した職業などを鑑みるに、名門と言っても過言ではない。

むしろ、後の親戚関係から察するに魔法省の要職を押さえているので、マルフォイ家に匹敵する権力を持ち得る可能性がある。

 








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