『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』   作:銀杏鹿

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進捗とか必要な報告は活動報告に載せるようにしますが、
基本あまり書くことはないと思います。


20『蒸気の家』2

 

 

 

 コンパートメントの戸が開いた。

 

「ここ空いて──げぇ!グリーングラス!」

 

 ウィーズリー家の一番下の弟。赤毛で少し背の高い少年のロナルドは、突然マンティコアにでも遭遇したような顔で私を見た。無礼にも程がある。

 

「ご機嫌よう、ロナルド・ウィーズリー。ノックくらいはした方が良いですよ」

 

「……ああ、もう。他の場所空いてないのに」

 

「それは大変ですね。では、ここに座るしかありません」

 

「ダフネ、知り合いなの?」

 

 純朴そのものな声でハリーが尋ねる。

 ああ、少し考えれば聖28一族がお互いに顔を知らないわけがないことくらい察しがつくだろうに。

 この間私と話したのに、聖28一族のこと全く調べてもいないのなら後で教育が必要だろう。

 

「勿論、純血で知らない顔はおりません。むしろ──」

 

 まあ、魔法界のことを知り得なかった彼には酷な話か。全てはマグルの叔父や叔母が悪……ん?

 ポッター家の親類が他にいなかったとは言え、何故魔法使いが引き取らなかった……?まあ、いいか。

 

「ウィーズリー、貴方達こそ道案内の時に自己紹介くらいはすべきでは?」

 

「え?だって、別に入るだけですぐだったし……」

 

 彼らの様子からすれば然程時間もなかったことは分かる。なんにせよ出発時刻は目前だったし、自分達のことで手一杯だったのだろう。あれだけ兄弟がいれば尚更。

 でもそんな事情は私が知ったことではないのだけれど。

 

「今回は仕方ありませんね、今後は純血の自覚を持ちましょうね?」

 

 ロナルドの手を取って微笑む。

 

「わ、ちょっ、ちょっと、やめ」

 

「うわぁロン、もうガールフレンドを作ったのかよ?」

 

 ロナルドの後ろから、野暮な赤毛の双子が割り込んできた。はぁ。全く。純血の同士の交流に何の文句があるのだろう。

 手を握っただけでは子供はできないと言うことを知らないのかも。

 

「じゃ!お姫様とお幸せに!僕らはリー・ジョーダンのタランチュラ見てくるから!」

 

「ち、違っ!」

 

 力いっぱい振り払われた。扱いがなってない。後でわからせてやろう。

 

「ああそうだ、ハリー。僕らはフレッドとジョージ。で、そいつがロン。お姫様、ちゃんと"純血らしく"自己紹介したぜ?これで満足かな?」

 

 家の名も名乗らず、弟はニックネーム。これで純血らしくとは、中々に皮肉が効いている。

 素晴らしい煽りだ。お礼をしなくては。

 

「ええ。"ウィーズリー"らしくて結構です」

 

「じゃ、また後でな!」

 

 双子はそれだけ言うと去って行った。弟の様子をわざわざ見に来たのだろう。麗しい兄弟愛だ。……いや揶揄うためかも知れない。私もアストリアが男の子といたら間違いなくそうするだろう。

 

「……本当にハリー・ポッターなの?」

 

「お兄様方が言っていたのに、信じないのですか?」

 

「だからだよ!」

 

「あ、僕がハリーなのは本当だよ?」

 

「……じゃあ額の傷って」

 

「これ?」

 

 ハリーが前髪をかきあげる。

 

「わぁお、すげー」

 

「さらに背中にはグリフィンの刺青があるらしいですよ」

 

「えっ!?そうなの!?」

 

 純粋に驚いてくれるハリー少年。

 

「すげー」

 

 阿呆のように口を開け、ロナルドは信じ込んでいた。そんな風だからいつも揶揄われるのだろうに。

 

「……えっと、もしかして魔法使いはみんな、知り合いなの?」

 

 ハリーは若干の不安を滲ませた声で私達に尋ねる。

 

「魔法使いの人口はマグルと比べれば少ないですし、聖28一族で互いを知らないと言うことはほぼないでしょう」

 

 主にルシウス氏の開く社交界の真似事で何度も顔を合わせている。

 

「嘘だよ、全員の顔を覚えてるのなんて、グリーングラスくらいだよ……」

 

「貴方は覚える気がないのでしょう」

 

「嫌な奴の顔と名前は覚えてるよ」

 

「私の顔を覚えていただいて、とても嬉しく思います」

 

「……あんまり仲良くないの?」

 

「私は誰とでも仲良くなれますよ?ほら」

 

「え、うわっ」

 

 ハリーの気まずそうな質問に対して、私はロナルドの腕の隙間に滑り込んで見せた。

 そのまま腕の関節を押さえて取り押さえる。

 

「ほら仲良し」

 

「どこがだよ!?」

 

 私に組み敷かれたロナルドが何か言っている。おかしいな。男の子は肉体の言語でコミュニケーションをとると聞いたのだけれど。(フレッドかジョージに)

 

「ハリー、魔法使いはこうして少し動かすと関節が外れます」

 

「誰でもそうだろ!?」

 

 私の下でロナルドが指摘した。流石だ。私はマグルの関節を外したことはないので知らない。

 ウィーズリー家では一般的な知識だとすると、外したのだろう。マグルの関節を。

 

「……仲は悪くないってことで良いんだね?」

 

 ハリーの顔には困惑しかなかった。

 

「ええ。その解釈で正解です」

 

「うぅ……だから嫌なんだ……!」

 

 何故か彼にはつい理不尽に振る舞ってしまう。きっと、口では色々言うけれどあまり抵抗しないからだ。私は悪くない。

 

「なんか……二人は姉弟?みたいだね?その、どんなのかはあまりよく知らないけど」

 

「兄弟は五人で十分だよ……こいつが姉なんて最悪だ……ただでさえみんな優秀だってのに」

 

 自然と私を姉として発想する精神性が素晴らしく愉快である。でも負け犬が弟なんて想像するだけで悲惨な光景しか浮かばない。

 

「みんなって言うとさっきの……」

 

「ええ。親はさておき、ウィーズリー兄弟の評判は良好ですよ。ビルは首席、チャーリーはクィディッチのキャプテン。パーシーが監督生で、フレッドとジョージは愉快で優秀。妹はとっても可愛らしい。……で、ロナルドは……まあ」

 

「まあって言うなよ!」

 

「安心して下さい、貴方にも良いところはありますよ」

 

「……え?」

 

「"モチのロンさ!"っていう持ちネタが……」

 

「一度も言ったことないよ!?」

 

 フレッドかジョージが教えてくれたのだけれど……私の記憶違いだろうか。いいや、私が何かを忘れることなどあり得ない。

 

「じゃあ、何もありませんね」

 

「喧嘩売ってるよね!?」

 

「何かを売るほどお金に困っていませんが」

 

「言い値で買うよ!その図太さを!」

 

「貧者は哀れですね、何でも欲しがって」

 

「……そうだよ、どうせ僕には何にもないさ!ローブはビルのお古だし、杖はチャーリーのだし、ペットだってパーシーのお下がりのねずみだしさ……」

 

「良いじゃないですか、お下がり。私のペットは母親のお下がりですよ?」

 

「君んちのお母さんの?僕だったらママのペットなんて絶対嫌だよ、古臭そう」

 

「……。そんなに嫌なら買えば良いのでは?」

 

 何を言っているんだろう、この子は。

 

「……聞いたろハリー、こう言う奴なんだ」

 

「ロンも割と無神経なこと言わなかった?」

 

「お金がないのなら買ってあげましょうか?杖くらいは新しいものを持たないと危険です。勿論、代金は利子をつけて返して頂きますが」

 

 純血なら対等なので施しはしない。当たり前である。

 

「……お金を返しても、お前に買ってもらうってだけで、ママとパパの立場がないじゃないか」

 

「純血の見栄を全部売り払ったわけではなかったのですね。安心しました」

 

「もしかして、メガネを直してくれたり、制服を買ってもらった分、僕も返さないといけない?」

 

 恐る恐る、ハリーが私の顔を窺う。

 

「あぁ……君は手遅れだったんだ……」

 

「まさか。私は対価なんて要求しませんよ?全て無償の愛です。貴方に余裕ができた時、誰かに与えて下さい」

 

「なんか扱い全然違くない!?」

 

「だって貴方は純血(ウィーズリー)でしょう?」

 

 他の純血にどう言われていようと、自分が純血だともう少し自覚した方が良い。さもなければ家の名前など捨ててしまえば良いのだ。

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