『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』 作:銀杏鹿
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02 『相対性理論』前
「子供達の入学を祝して──」
豪奢な装飾や煌びやかな照明に彩られた大広間は、魔法使い達やその子供達で溢れ、壇上で乾杯の音頭を取っているプラチナブロンドの男は、ルシウス・マルフォイ氏。
私達を招いたマルフォイ家の当主だ。
私達の後見人である叔父のギャレス(魔法省の業務が忙しいらしく、あまり屋敷には来ない)以外にまともな保護者がいないからか、普段から夕食に招待されたりお世話になっているけれど、ここまで社交界に近い席へ招かれるのは今回が初めてだった。
会場はさながらデビュタントボール──社交界のデビューを祝う式典──の様相を呈していた。
ルシウス氏は今日のため、家の敷地内に会場を建物ごと新設させた。流石は純血きっての資産家。"慎み"と"節制"の精神に溢れている。まあ、世話を受けている立場では何も言えないし、それに他人の金で贅沢をするのは悪い気分ではない。
私達が生まれる前、魔法界は二つの陣営に分かれて戦争していた。
"名前を言ってはいけない例のあの人"(大人は彼を恐れてそう呼ぶ)率いる"死喰い人"。
"英雄ダンブルドア"率いる"不死鳥の騎士団"だ。
戦争は暫く続いていたらしいけれど、"例のあの人"がこの世を去ったのを期に、勝者はダンブルドアとなった。
"例のあの人"はマグルを皆殺しにするという尖った純血主義を掲げ、聖28一族もそれなりの数の家が傘下に入っていた。
彼ら死喰い人は敵対する魔法使いや、マグルをゲリラ的に容赦なく殺して回り、破壊の限りを尽くしたという。まあ、"戦勝者達"の言うことを疑わなければ。
大戦後は様々な罪で投獄されるか、免れても世間からの大層冷ややかな目に晒されるかのどちらかだった。中には裁判もなく投獄された者もいると言う。私も気軽に敵を投獄したり処刑してみたい。さぞや爽快な気分だろう。
ルシウス氏は死喰い人として参戦していた。
しかし持ち前の保身力で上手く立ち回り、"例のあの人"亡き後の純血達の実質的な盟主の座に納まった。(名目上の盟主は"ブラック家"だけれど、ブラック家には死にかけの老人か囚人しかいない)
ただ純血も全員が死喰い人だったわけではない。だからこうして、マルフォイ家の印象操作のために金をばら撒いたり舞踏会を開いたりしているのである。私たちの世話を焼いているのだってその一環だろう。
勿論、子供達にそんな夢のないことを説明する大人はいない。けれど私は名目上はグリーングラス本家の当主なのでこのくらいは知っていないと生きていけないのだ。(どうせ死ぬのに)
「ダフネ、アストリア、私が紹介する。失礼のないように」
ドレスローブ姿のギャレスに連れられて、有力者達へ挨拶回りをしていく。
魔法省の上級職員だけあって、顔は広いらしい。彼の実の娘──従姉妹のセレウスは病床に臥しているのに、家の代表として私達を紹介しなければならない彼の心中は如何なものだろうか。
セレウスと変わってあげられないのが残念だ。(どっちにしても死ぬけど)
聖28一族は勿論、その他の純血の家系、そして魔法省の関係者へと次々に紹介された。
魔法界の人口がマグルに比べれば少ないとは言え、今後二度と会うかも分からない相手の顔を覚えるのは中々に骨が折れる。けれど私は一年以内にスコットランドの辺境で死体となって発見されるのだ。
葬式の参列者を増やすには、ここで顔を売っておくに越した事はない。
私という純血を失ったことを惜しむ人間は多ければ多いほど良いのだから。
「……すまない、少し外す。好きに過ごしていてくれ」
ギャレスはマティアス・ピッカーリングとかいう人の良さそうな老人に呼び止められて、会場の外へ向かって行った。
なんでも仕事上の話があるらしい。こんな時にまで老骨に鞭打って仕事をしなければならない彼らには同情すら覚える。長生きはするものじゃない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「君がダフネ、そしてアストリアだね?私はホラス・スラグホーンだ」
残された私達を見兼ねたのか、丸々と太った禿頭の老人が如何にも権力者然とした魔法使い達の集団から歩み寄ってきた。
「お初にお目にかかりまして光栄です、スラグホーン教授」
私達はカーテシーで返す。
ホラス・スラグホーン、確かホグワーツの元教授で……有名になりそうな生徒を支援し、自分が育てた気になるのが趣味の老人だ。
「これは、これは。君らの母親も美しい魔法使いだったが、負けず劣らず容姿に恵まれたようだね」
……まあ、見る目はあるようだ。
「ありがとうございます」
私達はシルクのオペラグローブと、純白のデビュタントドレス、そして髪をフレンチツイストで纏め、私はゴブリン銀と月桂樹を変身術で織り交ぜた花冠を、そしてアストリアには星をモチーフに宝石をあしらったティアラを身につけさせていた。
同級生になるだろう子供達は伝統的なドレスローブ(どれも先祖代々受け継がれた由緒正しい──"刺繍入りの高級絨毯"に見える)ばかりだったからこの服装は余計に周囲の目を引く。
勿論、彼らの親が用意した"民族衣装"も正装の仲間だし、子供達に非はない。
私達に比べれば他の有象無象が雑草に見えてしまっても致し方ないだけだ。
「ダフネ、君が『変身現代』の懸賞に投稿した論文、読ませてもらったよ」
「浅学非才の駄文でお目汚しでなければ良かったのですが」
杖なし変身術の自作教科書を専門家に考査させるため、懸賞論文に投稿しただけだった。まさか受賞するとは思わなかった。もしかすると、これも純血の力なのだろうか。(まあ、寿命が短い子供への忖度だろう)
「まさか!賞金全額をワガドゥーへ寄付したのは君だろうに!その冠も変身術の成果だろう?」
「おっしゃる通りです。どちらともお姉さまがゴブリン銀を変身させました」
アストリアが誇らしげに答える。
「素晴らしい。私がまだホグワーツに務めていれば、我が寮に是非とも獲得したい才能だ」
「お褒めに預かり光栄です」
自分を殺すために身に付けた技術と知っても同じく褒めてくれるだろうか?
「私からも優れた生徒が訪れることを知らせておこう。入学したら変身術のマクゴナガル教授に話を聞いてみるといい」
「特別なご配慮を頂き感謝致します」
私の会釈に満足そうに頷くと、スラグホーン氏は元の談笑の輪へ戻って行った。
私達は他にも何人もの魔法使いに話しかけられながら、ようやく会場に並べられたテーブルに着く。
料理の乗っていない皿が光を反射していた。
「お姉さま、これって──」
アストリアの呟きに私は指を鳴らす。
「"ドビー"、来なさい」
「い、如何なさいましたか?ダフネさま」
私が呼びかけると、何かが割れるような音と共に、マルフォイ家のハウスエルフ──ドビーが〈姿現わし〉で何も無いところから出て来た。いつ見ても便利な魔法だ。"知ってる場所へ何処にでも"転移できるのだから。
彼は私の手のひらよりも大きな目玉や、コウモリの翼じみた長い耳で、あからさまに怯えを表現していた。
「この皿は"料理の名前を言えば"それを出す、ということでいい?品書きも何も無いけれど」
「おっしゃる通りでございます……ダフネさまにご質問させてお時間を無駄にさせてしまった……ああ!なんということを!どのような方でも注文の仕方が分かるようにしておくべきでございました……!」
怯えたハウスエルフの言葉じゃなければ、皮肉しか聞こえない発言だ。私を笑わせるつもりなら大した道化と言える。
「ええ。貴方の素晴らしいお仕事を手伝えて光栄に思います。ああ、でも、もし壁に頭をぶつけたいなら外がいいでしょうね。それと、〈姿現わし〉の音は変えなさい。煩いからと罰を受ける貴方を見たくはありませんから」
今ここで、"いつもの"自罰をされては他の参加者が不快だろうし、姿現わしの音が大き過ぎる。
「承知致しました、また御用がございましたら、このドビーめに、なんなりとお申し付けください。ドビーめは外で自分にお仕置きをしておきますので……」
今度は栓抜きのような音が鳴り、見窄らしいハウスエルフは姿を消した。
「アストリア、好きな物を頼みなさい。私は同じ物でいいから」
「あ、ありがとうございます、お姉さま」
"注文の仕方すら知らない"などと、妹が嘲笑の的にされるのは許せない。
先に死ぬ私と少し生きるアストリアの価値など比べようもない以上、姉として妹は守らなくてはならない。姉とはきっと、そうであるべきなのだ。
「──さて、お集まりの諸君」
ルシウス氏が声を魔法で拡大して告げる。
漸くメインイベントが始まるらしい。
さて、舞踏会に来てやることなんて決まっているだろう──私も誰と踊るか考えておかなければ。
まあ、さっきから視界の端で私の方を見ているのが、一体どこの誰なのかを思えば、"考える必要"はないかも知れないけれど。
tips
・名前を言ってはいけない例のあの人
闇の帝王。名前を呼ぶことすら憚られた結果、「例のあの人」や「名前を呼んではいけないあの人」と呼ばれる。
・ダンブルドア
現在ホグワーツ校校長。近代の魔法使いの中で最も偉大な魔法使いと言われている。特に、一九四五年、闇の魔法使い、グリンデルバルドを破ったこと、ドラゴンの血液の十二種類の利用法の発見、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究などで有名。趣味は、室内楽とボウリング。
・ドビー
マルフォイ家のハウスエルフ。
ルシウス・マルフォイのお気に入りでしばしば虐待されている。
・ホラス・スラグホーン
今回の出番はここで終わりかも。
・視界の端にいる金髪の少年
一体誰なんでしょうね。
焦って二重投稿してしまいました!こちらが本来の続きです!
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