『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』   作:銀杏鹿

38 / 59


やっとホグワーツに着きました







4章【組み分け帽子】
28『狂ったお茶会』


 

 

「よし!全員いるな!」

 

 半巨人がホグワーツ城の扉の前で大声で確認する。

 

 悪戯によって散ってしまった生徒達は、なんと行方不明者や怪我人もなく集合していた!奇跡だ!

 私達の周囲に並んでる何人かの大人は恐らくホグワーツ教授だろう。

 

「"愚かなトロール"と違って我輩が子供を数え間違えるわけがなかろう。さっさと入れ」

 

「す、すまねぇ。トロールは悪くねぇんだ。ちっとばかし気難しい性格をしちょるだけで」

 

「トロールに皮肉が通じるはずもなかったな」

 

「ははっ、あいつらにそんな難しいこと分かるわけねぇさ」

 

「我輩はお前に話しているのだが……」

 

 呆れ返る教授をまるで気にせず、森番が大きな扉を開いた。

 

「それ、わっしょい、こらしょい、どっこらしょいっと」

 

 半巨人が何か唱えながら扉を開いた。

 

 そうしないと開かないのだろうか?

 もしそうなら、私は自力で出入りできないかも知れない。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ハグリッド、生徒が無事だったのは不幸中の幸いでした。後は私が受け持ちます」

 

「お、おう……それじゃ、マクゴナガル教授」

 

 城の中に入ると、厳格そうな顔つきの魔女が先頭に立ち、半巨人に暇を出した。

 さようなら、一流の道化師よ。二度と会うことはあるまい。

 

 他の教授達も奥にある大きな扉の先へ消えて行った。

 

「ホグワーツ入学おめでとうございます。本来は一旦別の部屋で説明するのですが、もう夜も更けて来ていますので、簡潔に済ませます」

 

 振り返ったマクゴナガル教授はそう告げると、大扉の前に私達を並ばせた。

 

 城の中は天井が高く、昼間のように明るい。

 松明で照らされた石壁は絵画や飾られた美術品で埋め尽くされている。

 豪奢というよりは雑然としているけれど、嫌いではない。私の書斎に似ているからだ。いや私の部屋は雑然としてないが?

 

 ……見える範囲でも、階段があまりに多い気がするのだけれど、まさか私に階段を昇ったり降りたりしろというのだろうか?

 

 ……え?本気で?嘘でしょう?

 

「皆さんは四つの寮に別れて生活します。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンです。あなた方それぞれの行いが評価され、寮の点数となります。年度末に最高得点の寮は栄誉ある寮杯が──」

 

 教授の話はそう長くはなかったけれど、既に知った内容はどうでも良かった。

 

「なんだ?」

 

 ただでさえ青白いドラコの顔から血の気が引いているように見える。

 

「何でも」

 

 よし、もっと緊張させ──

 

「ねぇノット、早く戦いたいよ?」

「……デマだって言っていただろう?」

「だから、"デマゴーグ"っていうトロールを倒すんじゃないの!?」

「政治家にでもなるのかい……?」

「何でも倒すよ!魔法で!」

「闇の帝王かな?」

 

 ノット、パンジー、今じゃないの。ハッフルパフになるのは今じゃない。

 

「……なんか馬鹿らしくなってきたな」

 

 ああ、私がこれまで煽ってきた不安が……何てことをしてくれたんだ。

 

「ああ!確かにまったく馬鹿らしい!組分けには混沌が足りない!」

 

 極彩色の服に身を包んだ宙に浮かぶ小男が、私の真上で頷いていた。

 男はオレンジ色の奇妙な帽子の上に、更に古ぼけたとんがり帽子を乗せている。実に魔法使い的な服装だ。

 

「ピーブズ!何をしているのですか!その帽子を返しなさい!」

 

 マクゴナガル教授はピーブズを睨みつけている。ゴースト如きに何をそこまで……ゴーストってこんなに鮮やかな色合いだっただろうか。

 

「混沌をしている!それが契約だ!肖像画と引き換えの混沌!さぁ!ピーブズの組分けの時間だ!」

 

 ピーブズは喚き散らしながら、とんがり帽子を顔が隠れるまで深く被り、歌い始めた。

 

「どんな寮でもみんな同じ!間抜けと泣き虫、半端に未熟!仲良く一緒にアズカバーン」

 

 呆気に取られる子供達の上で、ゴーストは好き放題飛び回る。教授の様子からするとあの帽子は何か大事な品らしい。

 

「えっ!?組み分けで捕まるの!?」

「ふっ……きっと快適な個室と素敵な先輩が待ってるさ」

 

 尚、アズカバンは魔法界唯一の牢獄のことを指し、入った囚人はとある理由でほぼ死ぬ。

 

「──〈アクシオ 来い〉」

 

 呼び寄せ呪文で帽子を奪い──

 

「おや?君もアズカバン?人のものを取ったら泥棒!お母さんに教わらなかったんだね?」

 

 ピーブズごと私の手元に飛んで来てしまった。

 

「貴方は人じゃないでしょう?」

 

 ノットが咳き込む声が聞こえた。私は何か変なことを言ったのだろうか。

 

「大丈夫?お背中すりすりするよ?」

「やめてくれ、まだ死にたくない」

「撫でたら死んじゃうの!?」

「社会的に」

「社会って怖いね!」

 

「分かった!ピーブズのクイズに答えられたら返してあげよう!カラスと──」

 

「〈ペトリフィカス・トタルス 石化せよ〉」

 

 私が口を開く前にマクゴナガル教授の呪文がピーブズを打ち落とした。

 

「ポルターガイストと話すのはお勧めしません。不利な契約を交わすことになるかも知れませんので」

 

 教授が帽子を回収すると、白く透けた身体のゴースト達が硬直したピーブズを叱りながら運んで行った。

 

「杖をいつ抜いたのか分からなかった……流石は教授か」

 

 ドラコは教授の腕前に感心している。

 

「私は見た。見逃したのはドラコ」

 

「……そうか」

 

「見逃したのはドラコ」

 

「……え?ああ……?」

 

 はぁ。私は四年生で学ぶ呪文を杖なしで使っているのだけれど。それには何の感想もないのだろうか。

 ハッフルパフ共の所為で気が抜けてるな。

 

「ねぇ、契約って何?」

 

 パンジーが私の制服の袖をそっと引いた。

 

「さあ。〈破れぬ誓い〉でも結ばされるのかも」

 

「〈破れぬ誓い〉って何?」

 

「お互いに約束をして、破ったら死ぬのさ」

 

 ノットがボソッと答えた。

 

「破らないから約束じゃないの?」 

 

 パンジーの返事は私達には純粋過ぎた。

 

「……大人は約束を破るのさ」

 

「そうなんだ?大変だね?」

 

 分かってなさそうだ。一生そのままの貴女でいて欲しいと思う。……まあ私が生きてる間はきっとそのままだろう。

 

「……というか、あれを野放しにしていいのか?」

 

 ドラコは怪訝な表情を浮かべていた。

 

「ピーブズと契約を交わした昔の校長は病んで退職してしまったからな。気をつけたまえ、少年」

 

 どこからか現れた銀色の液体を腹部から垂れ流しているゴーストが、ドラコに会釈して去って行った。

 

「……なんなんだこの学校」

 

「皆、準備はよろしいですね。では行きましょう」

 

 マクゴナガル教授が扉を開き、私達は大広間へ歩き出す。

 

 子供達はあまり緊張していないようだった。

 私の隣に立つドラコでさえ。

 

 頼むから皆、真面目にやって欲しい。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 大広間は数え切れない程の蝋燭の照明が宙に浮かび、広間を燦然と照らしていた。

 

 何百人もの上級生達が四つの長いテーブルで待ち構え、様々な面持ちでこちらを見ている。

 赤、緑、青、黄。制服の黒いローブの下に身に付けているネクタイやセーターの色合いから、彼らが寮毎に分かれて座っているのが見て取れた。

 

 どうやらまだ食事は始まっていないらしく、テーブルの上に並んでいる金の食器には何も料理が載っていない。……ドラコの家で見たことのあるものに似ている。

 ここでも、皿の上にハウスエルフが作ったものが現れるのだろう。

 

 広間の奥ではホグワーツの教授陣もまた席について、こちらを眺めていた。

 

 この空間の殆どの視線が、私たち新入生に集中しているように思えるのは気のせいではないだろう。

 

「わ、天井がないよ!作るお金ないのかな?」

 

 なら、外から見えていた城の屋根は何だろうか。

 

「星座の位置的に、城の真上の空模様を魔法で投影してるんでしょう」

 

「そっか!可哀想な城じゃないんだね!」

 

「……ロンドンなら一年中曇ってそうだね」

 

 ノットが知ったようなことを言った。これだから田舎者は困る。

 

「曇ってばかりなのは冬だけでしょう?」

 

「天気なんて魔法で変えればいいだろ、マグルじゃあるまいし」

 

 せせら笑うドラコ。でも彼にその魔法が使えるのだろうか。

 

 

 整列した私達新入生の前に、マクゴナガル教授が杖を振ってスツールを呼び出し、その上に先ほどの帽子を置いた。

 

 椅子を呼び出したのは〈出現呪文〉だ。何もない空間から物体を呼び出すのは高度な変身術であり、同時に危険でもある。

 変身術である以上、魔法の繋がりが解けてしまえば呼び出したものは存在できないからだ。

 

「──私は考える帽子である」

 

 椅子に置かれたとんがり帽子のつばが口のように開き、そんな言葉から歌を歌い始めた。

 

 歌の内容はそれぞれの寮の特徴を説明しつつ、帽子を被ることで組分けが成されるというものだった。

 

「──何故ならば私は考える帽子だから!」

 

 歌が終わると拍手が鳴り響いた。

 新入生達も釣られて拍手している。

 

 その中で、私は少し疑問を抱いた。帽子を被るだけで生徒の適性が分かる、と言うことの意味を。一体どう言う原理なのかと。

 

 そして──それが開心術であると気が付いた。

 

 ……組分けが試験じゃない?そんな訳があるか。ここで入学する生徒全員をあらかじめ開心し、"ホグワーツに対する潜在な敵"を炙り出しているではないか!

 帽子が自分から話せる以上、何かしらの害意を持っているとすれば、それを教員達に伝えない筈がない!

 

 私の目的が筒抜けになってしまう。最悪だ。やはりここにくる前に死んでおくべきだったのだ。

 物理的な脅威に対処する方法は多少なりとも持ち合わせているけど、これは想定外だ。

 

 これが創立者達の考えた罠だったとするなら、大変よく考えられたものだ。

 

 ならば、偉大なる先人の知恵を凌駕し、死ぬための策を練ろうではないか。

 

 呪われた純血の誇りにかけて。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。