『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』 作:銀杏鹿
"僕"は全身に駆け巡る激痛に耐えながら、表情一つ変えずに、長時間組分けの為に席に座り続けていた。
"忌々しい小娘"の脅迫がなければこんなことにはならなかった。
組分けでほんの少しでも問題を起こしたり、スリザリン以外に組み分けされたら、本体である日記をダンブルドアへ提出すると仄めかされれば、不本意だが大人しく従わざるを得ない。
さらに小娘が開心されれば奴が何かをせずとも僕の存在が露呈し、同じ結果が待っているのは容易に想像が付く。
完全な閉心術を習得させていなかったのは失敗だった。生徒でもお構いなしに開心するダンブルドアと接触する前に、早急に指導が必要だろう。
痛みで思考するのも限界だ。もう指一本動かせない。いい加減に終わってくれ。
『……暫く開心を試したが全く心が読めない。こんな生徒は久しぶりだ』
やっと接触して来たか。頼むから早くしてくれ。
『ここまで閉心術に長けているのなら、スリザリンに組分けしておけば間違いはないだろう……いいや、私は間違えない。正しく組分けをするのに他に材料がないというのは』
早くしろ!もうそれでいいだろ!
『消去法はあまり好ましい選択方法ではない。私はそう考えるのだ。何か君のことを話してはくれないだろうか?』
他人に僕に関する情報を一切話さないなら答えてやろう!
『ああ、"僕"が約束するよ!君の将来の夢は何かな?』
魔法界を征服することにでもしてくれ。
『魔法大臣になるって意味か?』
違う、支配者だ。
『あー、偉大な者になりたい、と言うことでいいかな?』
もうそれでいい、スリザリンで決まりだろう。
『誇大妄想癖があり……と。では君の特技は何だろうか?』
許されざる呪文だ。死、服従、磔、全て使える!
『それが魔法界の社会生活でどのように活用できると?』
邪魔者を排除できる以外に何か必要か?
『命しか殺せない呪文に何の価値が?話せばいいのに服従させる意味は?痛めつけるだけの呪文の用途は?それらを、わざわざ魔法力と技量という無駄なコストが要求される魔法で実現する意義が?』
僕に使えない呪文などない!
『つまり自信過剰……と。では守護霊の呪文は?』
それこそ役に立たない呪文の筆頭だ、吸魂鬼以外に効果ないゴミでしかない。
『使えないのだね?』
白い靄を出すだけならドライアイスでも用意すれば良い。マグルにだって出来るだろう。
『……現状、魔法省での高官やホグワーツ教授の多くは守護霊を扱うことが出来るの。……あなたがどれだけ優れていると思っていようと……その事実は変わらない。守護霊を扱えるということは、習得に関わる高度な技術や能力の証明でもあり……そして……』
もういい、限界だ。いいか、座っているだけでも内臓が悲鳴を上げている!帽子を僕の吐血で汚されたくないなら早く終わらせろ!
『……であれば、私の診断は学校よりも……先ず聖マンゴ病院に通うべきではないかと思うのだけど……』
僕の権利を妨害するのか?
『校医からの定期的な面談とケアが必要……よし、君のことが段々と理解出来てきたな』
特別な配慮を要求しているわけではない!
『私としてはスリザリンに組分けするのが妥当とは考えるが……いや、医務室との距離を考えるとグリフィンドールに入った方が有事の際は楽なんじゃないか?』
不要だ!そんなもの必要ない!
『そこまでスリザリンに入りたいのかね?その理由は?』
僕はスリザリンだ。誰が何と言おうと。
『……レイヴンクローはどうでしょう。……賢そうだし……ヘレナが気に入りそう』
陰気臭いゴーストの相手なんてごめんだ。
『いいえ、ハッフルパフなら陽気に暮らせるだろうし、誰でも受け入れると思う!』
やめろ……ハッフルパフだけはやめろ。僕が入るような場所じゃない!
『……選民意識と差別意識あり。まあ、ヘレナが誰なのか知っているのだからホグワーツには詳しいのだろうが……なるほど、野心と傲慢、さらに見下しに誇大妄想。つまりは──』
スリザリンで決まりだ……!誰が何と言おうとスリザリンだ……!
『失礼だな君は。サラザールのことを馬鹿にしないでもらっていいか?……ところで、偉大になったら君はどうするの?』
は?
『例えばさ、イギリス魔法界を支配して、その次はどうするの?全世界?なら全世界を支配したら?もう、君に逆らう者がいなくなったら。お得意の呪文を使う相手も居なくなるよ?』
火星人にでも使うさ!
『ホグワーツ創始者としては──いや失礼、話が変わるが、君とよく似た生徒をスリザリンに組分けした覚えがあるのだが……』
早くしてくれ……もう色んな液体が漏れ出そうなんだ……良いのか……?僕が泣き喚きながら撒き散らしても……!
『……なるほど……おむつの支給が必要ね……これで判断するのに必要な材料は概ね揃ったように思えるけど……』
それは良かった。おまけにベビーシッターも用意しておくんだな。
『決まりだね!君に必要なのは友人だよ!きっと介護くらいはしてくれるはず!』
ああ、やっと終わる……
無知蒙昧な新入生達の顔がよく見える。
その中の一人、忌々しいハリーポッターが僕をなにか憐れむような視線で見ていた。
そうだ。小娘は最近、妙にあの小僧を気に入っていたな。
だが、小僧がスリザリンに入ることはあるまい……!
残念だったな、ダフネ・グリーングラス。
そしてハリー・ポッター。お前らは決して友人になどなれはしないのだ!
『君の寮は──』
ざまあみろ。僕がスリザリンだ。
僕は思わず笑ってしまった。