『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』 作:銀杏鹿
評価、お気に入り、感想ありがとうございます。
誤字修正も大変助かってます。
大変申し訳ありませんが試験勉強があるので更新頻度下がります。
「ダフネ・グリーングラス、そこにいるのは分かっている」
廊下の先から聞こえるのは男の低い声。教師の誰かしらだろうか。
先ほど私が推測したダンブルドアの策略、それを成立させるのに必要なものは、誰が何処にいるのか、あるいは居たのかを明らかにする方法だ。
それがどのような手段なのかは考えるだけ無駄だ、魔法界最強なら大抵のことはやってのける。
まさか生徒の位置まで観測しているとは思わなかったけれど。
しかし組み分けの開心術といい、この警戒網といい、ホグワーツは闇の魔法使い、或いは潜在的な敵対者を恐れているのだろう。
魔法大戦やホグワーツ内での殺害事件が起きていて警戒していない方が間抜けだ。
さて、どうすべきだろうか。透明薬を飲んでいるとは言え、私は一糸纏わぬ姿な訳で。使えるのも変身術くらいで。
頼みの魔法生物のカードも持って来ていない。(ずっとカードにしていると魔法生物達もストレスになるので縮小してトランクの中で放している)
もし、セブルス・スネイプとかいう教員以外にも開心術の使い手がいるのなら、目を見ただけで終わりだ。
「もう逃げ場はない、大人しくするんだな」
ランタンの逆光で近付いてくる人影が誰なのか分からない。
もう少し健康的な体があれば、走って逃げられただろうけれど、多少"作り変えた"ところで私は走り方を知らないし、転ぶだろう。
ああ、姿現しでも覚えておくべきだった。
戦うのはあまり好きじゃないのだけれど。
「うぉっ」
変身術で床のタイルを樹木へと変え──
「……?」
あまりにも手応えがなく、あっさり木の幹で捕縛されていたのは。
「お姫様、なにすん……え?」
「悪かったって……え?」
ウィーズリー家のフレッドとジョージだった。……とすると、先程の声は何かしらの道具か。
その二人は何か変なものでも見たような顔をしている。当然だ、何もいない場所から声が聞こえるのだから。
「はぁ。脅かさないでくれますか?お兄様方」
「……え、あー、夜に出歩く悪い子はお仕置きされるもんだぜ?」
「ですから、今縛られているんでしょう?」
「……まいったな。お姫様の方が上手だぞジョージ」
……全く。今日は取り越し苦労というか、杞憂というか、肩透かしばかりだ。
もっとスリリングな出来事が欲しい。死の危険が伴うような激しい事件が。
別に今の状態で死ぬつもりはないけれど、それでも退屈はしたくない。
「それで、なぜ私がいると分かったのですか?」
「「……。──企業秘密さ!」」
お互いに顔を見合わせて沈黙した双子は、誤魔化しにもならない事を言った。
……大方推測は出来ている。彼らが透明化もしていないのが手掛かりだ。
「なるほど、"誰が何処にいるのか分かる方法"があるのですね。だから貴方方は透明化もせずに夜歩きが出来ると」
というか、そうでもしなければ私の居場所は分からない。
「その手には乗らないぜ?俺たちはロニー坊やじゃないんだ」
フレッドかジョージが答える。まあ、カマかけに引っ掛かるとも思ってはいないけれど。
「ええ、別に答え合わせなんて必要ありません。ああそうです、もし、私のことを言いふらそうとするなら透明化を解いて叫びますので」
「……それはダメだ、今そうしたら流石に不味い」
「そうだ、お互い秘密で行こうぜ」
「ええ、それが良いでしょう。それではご機嫌──」
「──で、終われば良いんだけどさ。僕らクソ爆弾を仕掛けて来たんだよね」
「──は?」
「フィルチのやつを撒くのにちょっと──」
と、言っている間に近くで爆発音が鳴った。
「おっと、もう時間みたいだ」
「何故近くに爆弾を……?」
「もう少し離れてから爆発する予定だったけど、お姫様に捕まったからさ!」
「……困りました。透明化を解いて叫びますか?」
「それは本当にやめた方がいい。いや本当に。君のためでもあるんだぜ?」
お兄様方でも焦るくらいのことか。愉快だ。
「囮になって下さい。さもなければここで用務員を待つと良いでしょう」
「……この借りは必ずお返しするよ!」
「楽しみにしててくれよ、お姫様」
「ええ、笑える悪戯をお待ちしてますね」
双子を解放する。
「ああ、そうだ。そこの扉の先に、ちょっと大きな飼い犬を見つけました。危険はないので今度撫でてみては如何でしょう」
「「ロンに話しておくよ!」」
振り返らずに双子は去っていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
なるべく急いで──といっても私の足だと急いでも急がなくても大差ない。
用務員を回避して3階に降りたところ、何やら啜り泣くような声が聞こえた。
こんな時間に泣いているなんて、まず間違いなくゴーストだろうけれど、ホグワーツに来てから見たゴーストやポルターガイストの雰囲気からすると違和感があった。
取れかけた頭を自慢げに見せびらかしたり、腹から銀の血を垂れ流しているのに平気そうだったり、果ては教員すら小馬鹿にしたような態度だったりする連中だ。まさか夜中に嘆いているわけがない。
レベリオで周囲を確認しながら廊下を進むと、声は女子トイレから聞こえているものだと分かった。
中へ入ってみると、妙に装飾の多い蛇口や鏡がすぐ目に入った。あまり使われていないのか嫌な匂いはしないのに、何故か足元は湿っている。
「……」
声のする個室を開けると"半透明の女子生徒"が啜り泣いていた。
「泣いているのですか?」
「そんなの見れば分か──え?」
振り返った女子生徒のゴーストは私の方を見て固まった。
「こんばんは。驚かせてしまってごめんなさい。透明薬を使っているもので」
「透明薬……?……え?」
困惑する黒髪の彼女は、そう悪くはない容姿だが野暮ったい眼鏡とニキビが台無しにしている。
「貴女のお名前は?」
「マートル。……嘆きのマートルって知らない?ブスのマートル、惨めなマートルって」
「新入生ですから、マートル先輩」
「せ、先輩……?そんなの初めて言われた……」
「それともお姉様の方がよろしいですか?」
「お、おね、おね、お姉様……ふひ、ふひひ」
マートル先輩は猫背のまま、少し気持ち悪い笑みを浮かべた。
「お姉様はどうしてここに?ホグワーツの生徒だったのでしょう?」
「え、それ急に聞く?」
「人生は短いのです。のんびりしていたら墓の中にいるかも知れません」
「ふ、ひひ、それを私に言うの?貴女、良い性格してるのね」
「よく言われます」
「でも、今日も酷い連中が私を的にして遊んでたのに、どうしてもっと嫌な事を思い出さないといけないのよ」
「そんなに酷かったのですか?」
「ブスとか、メガネとか、根暗とか、何もかも馬鹿にしてくるのよ。ゴーストは死んだ時の格好だからどうにもならないじゃない。生きてる連中は眼鏡なんて外せばいいし、顔は余程酷くなければお化粧だって出来るじゃない。でも私はもう……私は……」
「死んでるから?」
「……そう。鏡を見て死にたくなっても自殺すら出来ないの。……まあ、貴女には多分、わからないかも知れないけどね!」
確かに私は自分の顔を見て死にたくなったりはしない。むしろ母親が美人で良かったと感謝するくらいだ。
世の中にはその反対の人間もいる可能性くらいは考えられるけれども……その気持ちを理解する時は……きっとこないだろう。
年老いて醜くなる前に、私はこの世を去るのだから。
「では先輩。もし見た目が多少良くなるのなら、話して貰えますか?」
「……出来るわけないじゃない。貴女、一年生なんでしょ?」
「私の髪は元々白髪ばかりですし、本来の肌も血色が殆どありません。目元のクマも酷いので、病人にしか見えないのです」
まあ、それ以外の造形は自前だけれど。
「そんなの、今言われても分かんないわよ」
呆れたように首を振る先輩。
「でしょうね。ですが私はその程度の変身術なら簡単に出来るという事です。そして──ゴーストにも魔法は効く。そうでしょう?」
「……ゴーストに変身術なんて聞いた事ない」
「私の専門は変身術です。どうかお任せ頂けませんか?お姉様」
「……そうやって私に酷い事──」
「怖がらないで」
「え、あっ」
ゴーストは掴めはしないが、"触れる"ことは出来る。そして、入学式前にマクゴナガル教授がピープズにしたように、ゴーストにも魔法は効く。
ならば──私の変身術が効かない理由はない。
幽体に触れた指先はひんやりとして冷たい。つまり気体のような物だとしても、そこに"存在"する。
「終わりました」
「え?もう?」
大型の魔法生物でもなければ然程時間は掛からない。
「鏡をご覧になっては如何でしょう」
「……」
訝しむような顔のまま、ふわりと浮かび上がって鏡の方へ向かって行った。
「……うそ」
「ニキビを消して、輪郭を少しだけ変えました。眼鏡は新しいデザインのものに。まあ、顔は生きていれば多少痩せるだけで同じ効果だったと思いますが」
鏡を眺めて呆然としている先輩。映っているのはごく普通の可愛らしい生徒の顔だ。まあ、私が隣に並んでしまうと月と亀くらい違うし、同じなのは人間の形状をしているくらいだ。
「──貴女すごいじゃない!」
「お褒めに預かり光栄です。ではお話し頂けますか?」
「え、ああ……そうね。まあ話すくらいならいいけど……でも、なんで?」
ゴーストになった原因を聞く理由、そんなのものは決まっている。
「貴女のことが知りたいからです」
「えっ」
──自分が死んだ時に、看取った相手の悲しむ顔を見るために決まってるでしょう。