『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』   作:銀杏鹿

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04 『悪い本』前

 

 遠くから会場の演奏が聞こえていた。そして、何かを打ち付けるような音も。まるでハウスエルフが自分に罰でも与えているような音だ。可哀想に、非道な命令をする主人がいたのだろう。

 

 庭園に差す月光は雲に遮られて辺りは暗く、過剰な照明に灼かれていた私には却って心地良い。

 "過酷な運動"に疲れ切った私を、夜風が静かに撫ぜた。少し踊るだけで息が切れてしまう自分の貧弱さが笑えてくる。

 

 今頃、ドラコは夢見がちなアストリアに振り回されていることだろう。

 同じ相手と三回以上踊ってはならない──というマナーに従い、私達をキラキラした目で見つめていた彼女にドラコを押し付け、私は会場を脱出した。(彼に懐いているアストリアがマナーを守るかは分からない)

 

 マルフォイ邸の庭園は敷地が広いだけではなく、鬱蒼とした森とも繋がっている。

 管理されている領域を一歩でも踏み出れば、貴重な魔法生物に会うことが出来るだろう。

 例えば半分鷲で半分馬のヒッポグリフだとか、やたら大きな蜘蛛だとか。

 ホグワーツの森の評判に及ばないものの、一人きりで死ぬ場所を探そうと思えば全く不便しない。

 流石は聖28一族、死にたい魔法使いへの配慮も行き届いて──

 

 

「──分かっているだろう?」

 

 年老いた男の苛立ったような低い声が、森の方から聞こえてきた。少し歩き過ぎたかも知れない。

 

「〈レベリオ 現れよ〉」

 

 私が小声で唱えた暴露呪文によって、私の視界だけに、木の陰で会話している男二人のシルエットが浮かび上がる。

 私にとっては物を探すのに便利な呪文だけれど、一般的には隠されたモノが多少分かるようにしかならないらしい。やはり純血は凄い。

 

「ギャレス、お前に選択肢はない」

 

 恐らくは、仕事で抜け出した叔父とマティアス氏だろう。

 もし、それなりの歳の叔父が上司に叱られているのなら──それは面白過ぎる。是非、隠れて盗み聞きしよう。

 

「娘を助けるために、どのような働きもすると言ったのはお前だ」

 

「……しかし……」

 

「ルシウスの書斎から闇の品物が一つ消えるだけだ、奴とて廃棄できるのであればしている」

 

「"例のあの人"が預けた物なら、どれだけ危険な物か──」

 

「ならば、娘の死に様を見るのだな」

 

 おお。何やら従姉妹の命を盾に、マティアス氏は物を盗ませようとしているみたいだ。なるほど、これが大人の仕事か。魔法省の商売は思ったより手広い。

 

「……分かった」

 

「そう難しい任務でもあるまい、奴は息子の晴れ舞台に夢中──」

 

 "視線"を感じて、背筋が凍る。

 

「ギャレス、そちらに我々の仲間になりたい者がいるらしい」

 

 どうやら好奇心は本気で私という猫を殺そうとしているらしい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「マティアス、私が確認する」

 

「いいや、お前は後ろから援護しろ」

 

 

 気が付かれた。

 不味い。多分見つかっても殺してくれない。ギャレスなら、可愛い姪の私を無意味に庇ってくれて、確実に大人の政治ごっこに巻き込まれる。

 そんなのは御免被る。

 面倒なことに関わらず、働くこともなく、純血の恩恵を受けるだけ受け、好き勝手に早死に出来るのが私の特権だ。

 何者にもそれを奪わせたりしない。

 

「逃げられると思うな。親切心から教えておくが、警備を仕切っているのは我々で助けは来ない。〈姿現わし〉も屋敷では使えないようにしてある。さあ、無駄なことは考えず、大人しくこちらへ来い」

 

 こちらも親切心から教えておくと、私は姿現わしなんて使えないし、足がとても遅い。捕まえるのは赤子から杖を取り上げるよりも簡単だ。

 まっすぐ歩いて来て、抱き抱えれば良い。

 フリーハグである。

 

「来なければ、こちらから向おう。この世には知ってはならないこともある。例えば、我々、"許されざる者達"の正体だとか──」

 

 静かな足音が森から近付いてくる。

 

 ……聞かれたくないのなら、こんなところで話をしなければいいのでは?私は訝しんだ。

 

「──そこか」

 

 場所すらバレてしまったらしい。ああ、何て絶望的な状況だろうか。もう笑うことしかできない。走っても転ぶ。

 このままでは従姉妹の延命や陰謀のために、私の貴重な時間が浪費されるだろう。私の貴重な時間が。

 そうなった時のギャレスの表情は愉快だろうけど、そこまでの価値があるとは思えない。

 

「出てこないか。残念だが──」

 

 私には抵抗するための手段も何も残されていない。

 

 

 

 

 ──そう。私自身には。

 

 指を鳴らす。

 

「(黙りなさいドビー)」

「──っ」

 

 "栓抜きのような音"を立てて、目の前に"姿現わし"してきたドビーの口を塞ぐ。

 

「(今すぐルシウス氏の書斎に)」

「──」

 

 無言のまま頷くドビーに掴まると、視界が歪み、次の瞬間には見慣れた書斎に立っていた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 マティアスは何者かの気配を感じたはずだった。

 しかし、そこには誰も立っていなかった。

 

「ギャレス!すぐに書斎へ!」

 

 ギャレスは魔法使いに似合わず、ローブを持ち上げ、全力で走り始めた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇






短かったので後半は近いうちに投稿します!
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