『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』 作:銀杏鹿
少し短いですが続きです!
遠くから会場の演奏が聞こえていた。そして、何かを打ち付けるような音も。まるでハウスエルフが自分に罰でも与えているような音だ。可哀想に、非道な命令をする主人がいたのだろう。
庭園に差す月光は雲に遮られて辺りは暗く、過剰な照明に灼かれていた私には却って心地良い。
"過酷な運動"に疲れ切った私を、夜風が静かに撫ぜた。少し踊るだけで息が切れてしまう自分の貧弱さが笑えてくる。
今頃、ドラコは夢見がちなアストリアに振り回されていることだろう。
同じ相手と三回以上踊ってはならない──というマナーに従い、私達をキラキラした目で見つめていた彼女にドラコを押し付け、私は会場を脱出した。(彼に懐いているアストリアがマナーを守るかは分からない)
マルフォイ邸の庭園は敷地が広いだけではなく、鬱蒼とした森とも繋がっている。
管理されている領域を一歩でも踏み出れば、貴重な魔法生物に会うことが出来るだろう。
例えば半分鷲で半分馬のヒッポグリフだとか、やたら大きな蜘蛛だとか。
ホグワーツの森の評判に及ばないものの、一人きりで死ぬ場所を探そうと思えば全く不便しない。
流石は聖28一族、死にたい魔法使いへの配慮も行き届いて──
「──分かっているだろう?」
年老いた男の苛立ったような低い声が、森の方から聞こえてきた。少し歩き過ぎたかも知れない。
「〈レベリオ 現れよ〉」
私が小声で唱えた暴露呪文によって、私の視界だけに、木の陰で会話している男二人のシルエットが浮かび上がる。
私にとっては物を探すのに便利な呪文だけれど、一般的には隠されたモノが多少分かるようにしかならないらしい。やはり純血は凄い。
「ギャレス、お前に選択肢はない」
恐らくは、仕事で抜け出した叔父とマティアス氏だろう。
もし、それなりの歳の叔父が上司に叱られているのなら──それは面白過ぎる。是非、隠れて盗み聞きしよう。
「娘を助けるために、どのような働きもすると言ったのはお前だ」
「……しかし……」
「ルシウスの書斎から闇の品物が一つ消えるだけだ、奴とて廃棄できるのであればしている」
「"例のあの人"が預けた物なら、どれだけ危険な物か──」
「ならば、娘の死に様を見るのだな」
おお。何やら従姉妹の命を盾に、マティアス氏は物を盗ませようとしているみたいだ。なるほど、これが大人の仕事か。魔法省の商売は思ったより手広い。
「……分かった」
「そう難しい任務でもあるまい、奴は息子の晴れ舞台に夢中──」
"視線"を感じて、背筋が凍る。
「ギャレス、そちらに我々の仲間になりたい者がいるらしい」
どうやら好奇心は本気で私という猫を殺そうとしているらしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「マティアス、私が確認する」
「いいや、お前は後ろから援護しろ」
気が付かれた。
不味い。多分見つかっても殺してくれない。ギャレスなら、可愛い姪の私を無意味に庇ってくれて、確実に大人の政治ごっこに巻き込まれる。
そんなのは御免被る。
面倒なことに関わらず、働くこともなく、純血の恩恵を受けるだけ受け、好き勝手に早死に出来るのが私の特権だ。
何者にもそれを奪わせたりしない。
「逃げられると思うな。親切心から教えておくが、警備を仕切っているのは我々で助けは来ない。〈姿現わし〉も屋敷では使えないようにしてある。さあ、無駄なことは考えず、大人しくこちらへ来い」
こちらも親切心から教えておくと、私は姿現わしなんて使えないし、足がとても遅い。捕まえるのは赤子から杖を取り上げるよりも簡単だ。
まっすぐ歩いて来て、抱き抱えれば良い。
フリーハグである。
「来なければ、こちらから向おう。この世には知ってはならないこともある。例えば、我々、"許されざる者達"の正体だとか──」
静かな足音が森から近付いてくる。
……聞かれたくないのなら、こんなところで話をしなければいいのでは?私は訝しんだ。
「──そこか」
場所すらバレてしまったらしい。ああ、何て絶望的な状況だろうか。もう笑うことしかできない。走っても転ぶ。
このままでは従姉妹の延命や陰謀のために、私の貴重な時間が浪費されるだろう。私の貴重な時間が。
そうなった時のギャレスの表情は愉快だろうけど、そこまでの価値があるとは思えない。
「出てこないか。残念だが──」
私には抵抗するための手段も何も残されていない。
──そう。私自身には。
指を鳴らす。
「(黙りなさいドビー)」
「──っ」
"栓抜きのような音"を立てて、目の前に"姿現わし"してきたドビーの口を塞ぐ。
「(今すぐルシウス氏の書斎に)」
「──」
無言のまま頷くドビーに掴まると、視界が歪み、次の瞬間には見慣れた書斎に立っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
マティアスは何者かの気配を感じたはずだった。
しかし、そこには誰も立っていなかった。
「ギャレス!すぐに書斎へ!」
ギャレスは魔法使いに似合わず、ローブを持ち上げ、全力で走り始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
短かったので後半は近いうちに投稿します!
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