『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』   作:銀杏鹿

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今回はちゃんとタイトルに意味があります(重要)
読み終えるまでに考えて頂けると幸いです。
答えはあとがきに書いておきます。
ここまで読んでいただいてる方々なら釈迦に説法かも知れませんが……


40『附子』

 

 

 

 

 

 

 

 私は不愉快そうな教授の顔やら、あまり見上げることのない校舎の天井を眺めていた。

 

 誰かの靴やら、得体の知れない彫像やらが梁の上に乗っている……

 

 しかしどうして、教授は私をわざわざ手で運んでいるのだろう。

 

「入学式の時のように、浮かべれば……効率──」

 

「……実に鋭い指摘だ。効率的に状況を悪化させたければそうしたであろう。我輩としてもお前には触れたくもないが、あの程度で吐血するなら、魔法薬や魔法に対する反応が通常とは異なる可能性が高い」

 

 私の口走った言葉に対して、教授は生徒を運んでいるとは思えない冷たさで返してきた。

 冷血を通り越して、呪われるような血は最初から身体に流れていなさそうだ。

 

「自作の透明薬は……飲んでも問題……なく」

 

 ……老化薬は失敗したけど。

 

「その有様では疑わしいものだ」

 

 ………〈血の呪い〉と魔法薬の影響か……考えたこともなかったな。

 

「痛いよぉ……うぅぅぅ」

 

「黙って歩けロングボトム!」

 

「ひぃ!」

 

 ロングボトム少年の呻き声はスリザリンの小トロール達を思わせた。比較的魔法生物寄りの彼らにとって、魔法使いの跋扈するホグワーツはさぞや過酷な環境だろう。

 

「あ、あの、先生」

 

「黙れグレンジャー」

 

 グレンジャーさんの声も聞こえる。着いて来ているらしい。人が抱えられているのがそんなに見たいのだろうか。

 

 痛みはいつもと変わらないけれど、身体が上手く動かない。

 ……あー、なるほど、吐いた血の量が多いからか。血液を変身させてた部分が戻せないんだ……なら──

 

「グリーングラス。勝手な真似をするな」

 

 私が手を動かそうとすると、流石に気が付かれてしまった。

 

「……分かりました」

 

 ──が、もう大体は修復出来た。足りない血が戻るまでは効率悪いけど──あ、ダメそう。変身術で作った組織が上手く維持できないのか血が制御できない。

 

「ごほっ」

 

 ……これは……もしかすると……死ねるかも知れない……!出来ればドラコの近くが良かったけど、死に目に会えない方が辛いかもだし……!

 

「……チッ」

 

 教授は忌々しげに舌打ちすると、しゃがんで私を膝に抱えた。

 

「〈ヴァルネラ サネントゥール 傷よ癒えよ〉」

 

 確か……アストリアも使っていたのと同じ闇の呪文だ。また同じ呪文……きっと闇の魔法使いなら誰でも知っているような有名な呪文なのだろう。

 

 杖が私に向けられて、吹き出た血液が口の中へ戻り、体内の傷がなかったように癒えていくのを感じる。

 

 繰り返し唱える呪文はまるで詩の朗読のようだった。顔に似合わない。痛覚まで戻されると痛みが増えるんだけどなぁ。

 

「感謝すると良い。お前が病に苦しめる時間を延長してやった我輩の腕前に」

 

 それで闇の魔法使いのつもりなのだろうか。女子供の一人や二人は見殺しにしそうな見た目してるくせに……。何で生かしたんだ……。

 やはりこの男は相入れない……

 

「なん──」

 

 一言言ってやら

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「……〈血の呪い〉を治す方法はない。我輩の知る限り……」

 

「魔法薬学は死にさえ蓋をすると言いませんでしたか?」

 

「死を完全に克服する薬は存在しない」

 

「……どうにかならないんですか」

 

「闇の帝王でさえ、血の呪いを治癒させることは出来なかったのだよ、ドラコ」

 

「死を克服できるんじゃなかったんですか!」

 

「……あの方は亡くなった。それが事実だ」

 

「それは……っ……そうですが……」

 

 カーテンの向こうで、ドラコと教授が会話していた。

 

 私は意識を失っていたらしく、ベッドに寝かされていた。……恐らく医務室だろう。夜中に下見した覚えがある。

 失われた血液はある程度戻っているみたいだ。

 

 息を整えて変身術を掛け直して肉体の機能を──……ん?何か異物が……

 

 吐き出すとそれは黒い石だった。

 ……ベゾアール石だろう。寝てる間に飲まされたか、忌々しい。万能薬で私の何かが治るならとっくに治っている。

 

 粘ついた石を無言呪文の〈スコージファイ〉で綺麗にしてローブに仕舞い、カーテンを開いた。

 

「──ダフネ!目が覚めたんだな!」

 

 私を抱きしめるドラコ。

 

「残念ながら」

 

 出来る限り優しく彼の頭を撫でて、儚げな気配を演出して囁く。

 

「良かった……本当に」

 

「心配した?」

 

「しないわけないだろ!」

 

「そっか」

 

 顔が、緩んでしまう。口元が勝手に気持ち悪い笑みを作ってしまう。執着心が心地良い。こんな表情はドラコには見せられ……

 

「……」

 

 苛立ってそうな教授と目が合ってしまった。最悪だ。また開心術を使われたかも知れない。

 

 見せ物じゃない。人の心を勝手に見るなんて本当に見下げ果てた男だ。恥を知れ──と、心の中で念じながら目を見てやった。

 

「……グリーングラス、今後は診察を受けてから出席しろ、教室を血で汚されては迷惑だ」

 

 闇の魔法使いはそれだけ言って医務室から出て行った。

 

 全く何を言うのだろうか。私の血は尊く綺麗な血液だから、教室を汚したりしない。精々呪われてるくらいだ。

 

「あ、あの……大丈夫……?」

 

 医務室の隅でこちらの様子を見ていたグレンジャーさんが声を掛けてきた。

 ドラコはハッとして私から離れ、ローブを整える。

 

「ええ、教授のお陰で死に損ないました」

 

「……あの泡の呪文って貴女なの?」

 

「なんのことですか?」

 

 杖なし無言呪文が使えるのは知られない方が良いだろう。切り札は取っておくに限る。

 

「……それに〈血の呪い〉って……」

 

「内緒ですよ」

 

 純血は大体知ってることだけど。

 

「内緒って……おかしいわ……」

 

「黙れグレンジャー。これ以上口を出すな」

 

「ドラコ、私が倒れたのは彼女が悪いわけじゃないでしょ」

 

 実際、変身術が原因だろうし。

 

「……友人は選んだ方が良いぞ、ダフネ」

「もうドラコを選んでるのに?」

 

「……もういい。皆には無事だったと言っておく。大人しく寝てろよ」

 

 呆れた様子でドラコは退室して行く。

 

「安心して、一番は──」

 

 私の言葉を聞くこともなく、彼は出て行った。

 

「……えっと、その……私、邪魔だった?」

 

 気まずそうなグレンジャーさん。

 

「可愛いでしょう?」

 

「……彼が?」

 

 訳がわからない事でも聞いたような顔で聞き返されてしまった。

 

「そう。私が取られると思って、貴女にやきもち焼いてるの」

 

 そうに違いないのだ。

 

「多分違うと思うわ……本当に怒ってるのよ」

 

 ……違う?私の解釈が??????

 

 ……一体、彼の何が分かると言うのだろうか。

 まさか、マグル生まれは自然と男の子の思考が理解できるとでも言うのか……?

 

「貴女が倒れたのは私に構ったせいだし……スリザリンの誰もこっちに来てる生徒はいなかったのよ?」

 

 俯く彼女は自分のローブの裾を握ってそんなことを言い出すが、それは正しくない。

 残念ながら貴女が思っているよりも自分自身の影響力は小さい。思い上がりも甚だしい……!

 

「……グレンジャーさん。私がグリフィンドールの態度をどうこう言わなかったら、減点で貴女が睨まれることはなかったでしょう?」

 

 私が誘導したのだから……!!

 

「いいえ。……スネイプ先生はきっと、貴女が何も言わなくても他の理由で減点したわ。それに私があまりよく思われてないのも……多分、今に始まった話じゃない……」

 

 ……!言われてみると確かにそうだ。手が少し震えている彼女に免じて、負けを認めよう。私は潔い純血だから。

 

「……。確かに自分の言いたいことばかり話してて、友達とか居なさそう」

 

「っ失礼ね!……いや……その通りだけど。現に専門家に向かって偉そうなことを……」

 

「ええ、お陰で変身させたものを体内に入れていたら危ないって勉強になりました」

 

「もうやめて……恥ずかしいわ」

 

 いや、もっと他にも思い出せる恥ずかしいことがあるだろうに。

 

 ……私が誘導したとはいえ、ここまで弱っていると実に都合が良いな。

 

「じゃあ、はい」

 

 私は手を差し出す。

 

「……えっと、どう言う……」

 

「和解する時は握手するものじゃないの?」

 

「……許してくれるの?」

 

「貴女が気に病むなら、これで帳消し」

 

「……ありがとう」

 

 グレンジャーさんが私の手を──

 

 ──握ったのを引っ張って抱きしめた。

 

「わっ、ちょ、ちょっと」

 

「大丈夫。大丈夫だから」

 

 優しく撫でながら、耳元で喉を鳴らさずに囁く。

 

「お友達に、なりましょう。ね、グレンジャーさん」

 

「え……?」

 

 少し戸惑ってるみたいだけど、逃げはしないらしい。好機だ。

 

「大丈夫。貴女は間違ってない。なにも悪いことなんてしてないんだから」

 

「あ……う……」

 

 泣き始めてしまった。学校が始まって数日も経たないのにここまで追い詰められるなんて、グリフィンドールはなんて過酷な環境なんだろうか。

 純血主義とカーストが機能しているスリザリンより余程恐ろしい場所だ。

 

 さあ、私の言葉を信じて間違え続けろ。私に依存しろ。

 

 好きなだけ肯定してあげよう。

 

 望む言葉を掛けてあげよう。

 

 貴女の価値を認めてあげよう。

 

「大丈夫、貴女はここに居ていい存在なんだから」

 

 そして、私が死んだ時にも泣いてくれ。














tips


・ウルフスベーン=モンクスフード=トリカブト(アコナイト)

"附子"という名でも知られる。
トリカブトのアコニチンはフグ毒のテトロドトキシンと拮抗し、毒性を中和するため、フィクションではトリックにしばしば使われる。
──が、フグ毒の方が血中での半減期が短いため、同時に使えば実際には遅効毒となる、というのは現実に起きたとある事件で有名であろうが、蛇足なのでここでは語らない。




38話から40話までのタイトルをどういう意図でつけているのかは、もうお分かりかと思いますが、お気付きでない方もいらっしゃるかと思いまして、今回は念の為に書いておきました。解説が不要だった正解者には惜しみない賞賛と拍手を。
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