『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』   作:銀杏鹿

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※閲覧注意※
この作品は倫理観に欠ける描写が一部あり、
健全かつ教養的で前向きな作品ではありません!!
お行儀の良い方は優しい二次創作作品を読みましょう!








44 『空気力学入門』2

 

 生徒たちから離れた木陰で、手元の土をミニチュアの火山に変身させようとしていたけれど、抵抗が強くて時間が掛かりそうだった。

 

 地面のように一見、境目のない自然を一つのものと捉えるの難しい。

 

 いや正確にいえば、どんな物体でも組成を辿っていけば元素に辿り着いてしまうのだから、その点で言えば人工物も自然も変わらないから事実ではない。

 結局これは、私がそれを変身術の対象として認識できるか否か、認識の問題でしかない。私にとって名前のついた人工物の方が簡単だと言うだけで。

 

 その解決のため、私が前に考案したのは砂に指で円を書いてからその範囲に──

 

「右手を箒の上に突き出して!」

 

 ──大きな掛け声が私の集中を阻害した。変身しかけの土の山が崩れる。……方向性は間違っていなさそうだ。後は実験を繰り返そう。

 

「そして、『上がれ!』と言う!」  

 

 マダム・フーチの号令に続いた「上がれ!」と言う掛け声で──箒を手に収めたのはごく一部だった。

 最初の号令で箒が上がったのはドラコ、ノット、それとハリー。

 

 二人は当然としても、スリザリンの面々が出来ないのは恥ずべき結果では?

 

 ……浮遊呪文で無理やり手の中に収めてあげ──と思ったら、ドラコが私の方を見たのでやめた。

 

 考えはお見通しらしい。誤魔化して手を振る。

 

 ハリーは……"闇の帝王が倒せて箒を浮かべられない訳がない"か。

 

 教官がまたがる方法だとか箒の握り方だとか、どうでも良い内容を教えているのが見えた。

 乗れればなんだって良いだろうに。

 

 ドラコが何事が言われているのが見えたけれど、遠くて内容は分からない。

 まさか今更、握り方で何かを言われるようなこともないだろうし。

 きっとスネイプ教授のように、

 

『諸君!見たまえ!マルフォイが完璧な箒の握り方をしているぞ!参考にするように!』

 

 とでも言っているのだろう。そうに違いない。

 

 授業が進み、漸く生徒達が初めて飛行する瞬間が──訪れる前にそれは起きた。

 

 ロングボトム家の長男、ネビルが離陸してしまったのである。

 なんと勇ましいのだろうか、教官が怒鳴り散らすのが分かりきっているだろうに、それでも教官を愚弄せずにはいられなかったのだろう!

 

 「戻ってきなさい!」

 

 教官の大声をまるで無視して、ネビル少年は勢いよく飛んで行く。──いまや彼は完全に重力の束縛から解き放たれた!もはや誰にも止められない!!

 

 そしてかなりの高度まで上り詰めた頃に地面を見下ろし、

 

 

 ──彼が箒から滑り落ちる。

 

 彼も自殺志願者か……死ぬなら私より後にして欲しいものだ。

 ……変身術を……いや、ここからだとクッション呪文か──

 

「〈アレスト──〉」

 

「っ──!」

 

 私の呪文より早くドラコが箒で飛び出していて──唱え終わるのと、彼が"勇者"を受け止めたのは殆ど同時だった。

 

「しっかりしろ間抜け!……先生!何を見てるんですか!」

 

 ドラコの大声に、教官は慌てた様子で死に損ないの少年の元へ走って行く。

 

 主人を失った勇者の箒が〈禁じられた森〉の方へゆっくりと消えていくのが見える。きっとあの箒は故郷の森へ帰りたかったのだろう。箒の仲間など、森には存在しないと言うのに。

 

 教官はその後、生徒達に何事か説明した後に何処かへ去っていった。

 

 ……なにをロングボトムなんか助けてるんだろう。

 

「──っ」

 

 ドラコは膝をついて、何かを堪えているように見えた。

 呪文が効いてなかった……まさか?

 

「お一人様で済んでよかったな。やってくれると思っていたよ」

 

 私が出来る限り急いで近寄ると、ドラコは呆れ返った様子でグリフィンドールを皮肉っていた。

 

「ドラコ、無事?」

「……見ての通りだ」

 

 他のスリザリンの面々は彼と共にグリフィンドールへ軽蔑の目線を向けていた。

 素晴らしい。むんさんへの誰かしらの嫌がらせをグリフィンドールになすり付け、団結力を高めた結果だろう。

 その件の首謀者もグリフィンドールを睨んでいるかも知れないと思うと腹が捩れそうだ。

 

「……助けてくれたのはありがとう……でも、ロングボトムは悪くないって」

 

 インド系の純血、パーバティ・パチルが反論した。

 

「違うよ?」

 

 パンジーが首を傾げて訊ねる。

 

「ロングボトムのママンならちゃんと見てなきゃダメだよ?」

 

「ま、ママンじゃないわよ!?」

 

「じゃあなんで?好きなの?」

 

「はぁ〜〜っ!?」

 

 パーバディの土気色の顔が怒りか恥じらいかで歪んだ。

 しかし、パンジーの脳に男女間の好意という概念はあるのだろうか。

 

「パーバディさんは本心がバレて恥ずかしいと仰せです」

 

「言ってない!!」

 

 すかさずトレイシーが追撃する。パンジーの従者としての振る舞いが板についている。

 

「お、これ、おお」  

 

 トロールみたいな少年……のどっちかが草むらの中から何かを拾ってきて、ドラコに差し出した。クラッブかゴイルだと思うけれど私にトロールの個体の区別はつかない。

 

「……拾い食いするなよ」

 

「い、いえ、前にドラコ、これあいつから取った、これ必要ですか?」

 

 ゴイル……?ゴイルかな?多分ゴイルがマルフォイに差し出す〈思い出し玉〉はキラキラと赤く輝いていた。彼らには忘れていることしかなさそう。

 

「いるもんかそんなゴミ」

 

「マルフォイ、それ、返してくれるかな?」  

 

 ハリーの静かな言葉に、子供達の話し声や揶揄するような悪態は止まった。

 流石は英雄だ、権威に溢れている。

 

「……ポッター。友人を助けた恩人にモノを頼む時の態度か?」

 

 ドラコはハリーの真剣な表情にうんざりした顔で返した。

 

「そうだね。でも、それはネビルのだよ」

 

「だからなんだい?」

 

「や、やっぱりこれ、ドラコ、必要、ポッターから守る」

 

「あ、おい!何してるんだクラッブ!」

 

 (クラッブだったらしい)少年が勝手にドラコの希望を曲解し、箒で逃げて行く。

 

 それを見たハリーが箒を掴──む前に、私は 〈アクシオ〉でロングボトム家の赤く光るゴミを回収した。

 

 空飛ぶ小トロールは回収されたことに気が付かないまま、〈禁じられた森〉の方へ向かい、歩いている方が速いくらいの速度で風船のようにのろのろと飛び去って行く。

 

「クラッブ!戻れ!クラッブ!!」

 

 ドラコの声に振り返ったトロールはサムズアップをして去って行った。あの速さだと森に入る前に森番が見つけるだろう。

 

「え……?……え?」

 

 それが誰の声か分からないけれど、周囲はハリーが飛び立って競争でも始めるのかと思っていたらしく、呆然としていた。

 

 当たり前だ。今ここでハリーとえっと……クラッブが勝手に死んだら、死者がロングボトムを含めて四人にもなり、関心が四分の一になってしまう。

 

「よくやったダフネ、そのゴミをこちらに──」

 

「……〈アヴィフォース 鳥になれ〉」

 

 ドラコの言葉を無視して、私は赤く光っているゴミをゴールデン・スニジェットに変えた。

 

 黄金の小鳥は私の肩に止まって囀る。

 

 スニジェットはかつてクィディッチの競技で実際に使われていた──翼が360度回転し、超高速で自由自在に飛ぶ小鳥。

 

 生存するために備わった高度な飛翔能力のために、クィディッチではそれを殺すだけで150点得点して試合終了とかいうルールが出来てしまい、殺され過ぎて絶滅しかけた。今は保護区でしか見れない。もっと飛ぶのが遅ければ繁栄しただろうに!

 

 魔法族は小鳥を殺し尽くしてもまだ足りなかったので、現在はスニッチという金属製の球体を代わりに飛ばしている。

 但し、それを追って良いのはお互いのチームに一人の"シーカー"だけだ。(そうしないと全員でスニッチを追うだけの狩りになってしまう)

 

「ダフネ……?」

 

「私には"よく分からない"けど──お互いの不満を解消するなら、勝ち負けが一番簡単でしょう?」

 

 どうせ魔法薬学での一件が原因だろう。

 

 トロールの世話をしながら講義を受けていたドラコにしてみれば、ロングボトムのような生徒に何もしなかったハリーは減点されて当然かも知れない。

 そして今回も事故を起こしている。

 ただの子供に要求することでもないだろうけど、ドラコからしてみてれば、当然の振る舞いだ。

 

 一方、ロングボトムの一件を自分の責任だと思って気に病むことなどないだろうハリーからすれば、スリザリンは寮監督を含めて(私はともかく)意地の悪いお高く止まった生徒に見えることだろう。

 

 お互いを理解できないなら理解できる領域にすれば良い。

 

 勝った方が正義。かつてサラザール・スリザリンとゴドリック・グリフィンドールが雌雄を決したように、我々もそれに倣えば良いのだ。

 

 ──そう!暴力は全てを解決する!

 

「そうすれば、返してくれるの?」

 

「ハリー、やめなよ、スリザリンがマトモにやる訳ないって」

 

 ロナルドが勝負に乗ろうとしたハリーの肩に手を置き、偏見に満ちた言葉を吐く。

 

「代わりの先生が来るまで、箒には勝手に乗るなって言ってたじゃない!」

 

 グレンジャーさんの声は尤もらしいが、子供達にはまるで響かないし、反応すらされなかった。

 

「……へぇ、魔法界の英雄は箒にも乗れないのかい?」

 

 ノットが心底馬鹿にしたような目で英雄と友人を嘲る。

 

「ポッター、はっきり言ってこんな物のために争うのは無駄だ。だがお互いの寮の感情を解決するには仕方ないとは思わないか?」

 

 ドラコも私の言いたい事を理解しているらしい。

 

「……ネビルの物を取ってるのはマルフォイ達じゃないか」

 

「……ダフネが倒れたのは君達の不注意が原因だろ」

 

 なんと私が倒れたことの方が問題だったらしい。

 だからドラコとか他のスリザリン生が……いや、そんなに怒ること?

 生徒の怪我なんて日常茶飯事だろうし、いちいち恨んでいたら呪う相手が増えすぎて困るのでは?

 

「それは……」

 

「僕はゴミを不当に所持していることを認めよう。そして勝負で負ければ返却する。代わりに──僕が勝てばロングボトムには謝罪してもらおう……あぁ、君がもし友人の名誉のためには決闘しない主義の英雄なら申し訳ないが」

 

 ドラコの顔は今から決闘するような表情ではなく、本当に仕方なく相手をするように、嫌々やっていることだと態度で示していた。

 

「ネビルって謝ってなかったの?謝ったほうがいいと僕も思うけど……」

 

 ハリーは言葉の意味がわかっていないのだろう。

 

「……仮にも聖28一族の長男が、同じ聖28一族の長女を傷付けているからこそ、親を通して正式な謝罪を要求するという意味だ、間違えるな」

 

 一方ドラコはただ純血として真っ当な要求をしているだけのつもりだろう……しかし、かなり愉快な文脈になっている。

 

 死喰い人陣営だったマルフォイ家と懇意にしているグリーングラス家に対し、不死鳥の騎士団側であったロングボトム家が頭を下げる。

 第二次魔法大戦に根ざす対立構造に遡れば、それは単なる謝罪では無くなる。

 

 私は聖マンゴ病院で彼の両親を見たことがある。

 まともに会話もできず、幼児のように振る舞っている彼らを。

 ある死喰い人の使った〈磔の呪文〉により、長時間"想像を絶する苦痛"とやらに晒された末路だとか。

 

 通りがかった病室から、夫妻は涎や鼻水を垂らしながら、無邪気にケラケラと笑い脱走してきた。

 私は彼らから、飴の包み紙という素敵な贈り物を頂いたのである。

 贈り物に重要なのは物品の価値ではなく、贈る意図であるという貴重な教訓を、私は受け取ったゴミから学んだのだ。

 

 さて、あの二人には"体温"以外の親としての機能は期待できない。ネビル少年もまた両親を失っている、ということだ。親無し同士、私と会話も弾むかも知れない。

 

 "生きてるだけで素晴らしい"とかいう言葉が身に染みてくるようだ。それを口にする者は精神はともかく"物理的に存在する"というだけで幸福なのだろうから。

 

 ある意味では真実かも知れない。

 

 彼の両親はもはや、死について思うことなんてないだろうし、過去を悔やんだり、将来を悩むことはない。

 死を自覚せずに、現在の中を永遠に生きていられる。それは幸福と言えなくもない。

 

 いずれ死ぬことにも死んだことにも気がつかなければ、私の呪いも意味は持たないだろうから。

 

 ともあれ、白痴のままに生きる彼らの心境や、そんな状態の彼らへの謝罪の要求は──ドラコがロングボトム夫妻の症状を知らないにせよ──非常に趣深い話でもあるのだけれど、私は対立していようが魔法界総出で私の死を悼んで欲しいのだ。

 

 今、値段の付けようもない頭を下げさせて一家に屈辱を与えるよりも、私が死んだ後から後悔して喪失感に浸ってくれる方が嬉しい。

 

「待ってドラコ」

 

「……なんだ?」

 

「純血同士の話に半純血の他人を関わらせるつもり?」

 

 まあ、決闘の伝統から考えれば、勝負を持ち掛けることそれそのものが対戦相手を対等な紳士と認めた上での行為だし、今更指摘するのも可笑しな話ではあるけれど。

 

「いや、僕は」

 

「"純血ではないポッター家"が私の家への謝罪について責任を負う?その格があるって認めるの?マルフォイ家の貴方が?」

 

「……お前がそう言うなら……違う条件にするさ」

 

「じゃあ、デートね」

 

「……は?」

「え?」

「うげぇ」

 

 ……ロナルドは後で分からせてあげなければ。

 

「ドラコには私とのデートの権利を賭けてもらうから」

 

「そう言う冗談を──」

 

「私の時間の価値って冗談?」

 

「──」

 

 ドラコは何も言わなかった。

 

「私の最も価値のあるものだけど……ああ、初心者に負けるわけないし……もし負けたならついでに"隠してること"でも話してもらいましょうか」

 

「……何のことだか」

 

 あの地図しか載っていない本も気になるし、自分の"名誉"も追加してあげれば戦う理由にはなるだろう。

 

「……えっと、ごめん、どういう状況?」

 

「聞くなポッター。悪いが手加減出来そうにない」

 

「えぇ……?」

 

「まあ、ハリーにも追加で賞品がないと不公平ですよね、」

 

「賞品……?」

 

「そうですね……貴方のご両親について教えて差し上げましょう」

 

「え、知ってるの?」

 

「はい、勿論」

 

 勿論──"ドラコが負けて数日後の未来の私なら"知っている。話す必要があれば有識者に聞けばいい。幸いなことに当時の教授には心当たりがある。

 

 ……特に優秀な生徒に目がない暇な老人が。

 

「その代わり、負けたなら、私が頼んだ時にお願いを一つ絶対に聞いてもらう……とかどうでしょう?」

 

「うーん、まあ、お願いくらいならいいよ」

 

 多少の疑念はありつつも、一定の信用は得ている、か。それか単に純粋な子供というだけか。

 いずれにせよ、純血に対して無条件な命令権を与えてしまう恐ろしさが理解できてないようだ。

 

 何をさせてやろうかと思うと心が躍る。

 

 ちょっとしたお願いが、致命的な場面で親友でも裏切る結果になったりしたら笑いが止まらなくなるだろうけど……葬式に来てもらえなくなりそうだ。

 お遊びは程々にしなくては。

 

「決まり、ですね」

 

 ……元々、ドラコと約束なんてしていない。

 

 だけれど、ここでこの宣言をすればドラコは私とデートせざるを得ない……!

 ハリーがいくら英雄でも初めての飛行でドラコに勝てる筈もない……!

 

 つまり、どう転んでも私の勝利は揺るがないのだ。

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