『ハリー・ポッターとか読んだことのないわたしが曇らせて死ぬ話』   作:銀杏鹿

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起きたら更にお気に入りや評価して頂いていて驚きました!
皆さんありがとうございます!
短かった前編の続きです!


05『悪い本』後

 

「……何とかなった」

 

 少し前にドビーだけは〈姿現わし〉を使っていたし、会場からなるべく離れるように言ったのは私で、そして森に木霊していたのは彼が頭を打ちつける音だ。

 純血と私の素晴らしい頭脳に感謝。

 

「だ、ダフネさま、なぜルシウスさまのお部屋に……?」

 

 ドビーの禿げ上がった頭皮は少し赤くなってしまっている。

 

「この中に闇の品物があるでしょう」

 

「恐れ多くも、こちらの書斎には山のように悍ましい闇の品物ばかりが並んでございます」

 

 見慣れた書斎は分厚い本で埋め尽くされた本棚が聳え立っているが、そこかしこに得体の知れない品々も並んでいる。

 〈瓶詰めの眼球〉(黒にも銀にも見える奇妙な瞳)や、〈歌う人骨〉(何に使えるかは知らない)、他には〈輝きの手〉(死刑になった男の手の酢漬けを乾燥させたもの)、などなど。

 曰く、これらは決して使うつもりで買ったわけではないとか。

 私は本を借りるために何度か訪れているけれど(返すのなら、好きに持っていっていいとのこと)あまり愉快な光景ではない。

 

 ナルシッサ夫人も旦那の趣味に辟易しているらしく、一時期はコレクションのために部屋を一つ使うだの使わないだので揉めていた。夫婦仲がよろしくて何よりだ。私も両親の喧嘩というものを見てみたかった。

 

 私は父親というものをよく知らないけれど、"全ての幸せな家庭は似ている"というから、きっと同じような光景が見れたに違いない。

 不幸な家庭はそれぞれの理由で不幸とも言うが。

 

「聞いて、闇の帝王が預けた品が狙われてる」

 

 もし回収されればマルフォイ家はタダでは済まないだろう。

 ……彼らには私の葬式を盛大に開催してもらうのだ。没落されては困る。

 

「何と言うことでしょう!ドビーめは盗人を今すぐに捕まえなくては……!その前にドビーめは書斎に勝手に入ってしまったので、先ずはお仕置きでございます……!」

 

 私の話も聞かず、床に勢いよく頭を打ち付け始めた。

 衝撃で本が溢れ落ち、仕掛けられた防犯用の魔法で何冊かの本が叫び声を上げる。

 

「〈クワイエタス 静まれ〉後にして。あと捕まえるのもなし」

 

 喧しい音を呪文で止めつつ、本を棚に戻す。

 

「ではドビーめは、それを見逃してみすみすご主人さまの物を盗まれ、また自分にお仕置きをしなければならないのでございますか?」

 

「……それもダメ」

 

「ああ!ではドビーめは何も思いつかなかったお仕置きを始めるのでございます!先ずはこの〈輝きの手〉を使って」

 

「やめなさい」

 

 どう使うのかは気になったけれど、取り上げて元に戻す。

 

「であればこの日記帳に魂を吸わせて──」

 

 ドビーが指を鳴らすと、彼の手の中に黒い手帳が現れた。

 

「……それは何?」

 

「こちらは、最も恐ろしい闇の道具にございます、人を操ったり殺したりしてしまうので──」

 

 ドビーの手から手帳を剥ぎ取る。手に持っているだけで妙にぞわぞわした感覚があった。

 

「いけません!その手帳をダフネさまは持っていてはいけない!」

 

「なんで?ただの手帳じゃ──」

 

 ドビーの態度で私の灰色の頭脳が答えを告げた。

 

「もしかして……これが闇の帝王のもの?」

 

「ドビーめは何も知りません!"例のあの人"がご主人さまにお与えになったことは言ってはならない秘密なのです!」

 

「ありがとう、秘密を守ってくれて」

 

「ああ!ダフネさまにお礼を言われてしまった!ドビーめはお礼を言われることなど殆どございません!」

 

 ドビーが自分の家のハウスエルフではなくて本当に良かった。

 しかしどうしたものだろうか。

 これから来るかも知れない相手は私の叔父だし、ついでに従姉妹の命も掛かっている。

 ルシウス氏に報告しようにも、私が手帳のことを知ってしまっていること自体、あまり良い状態じゃない──

 

 

 

 

 ──『この部屋の全てを燃やせ』

 

 それは突然、頭の中に浮かんだ言葉だった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「"この部屋の全てを燃やせ"……?」

 

「ご主人さまの大切な本やコレクションを燃やしてしまえとおっしゃるのですか?奥様のように?」

 

 幸せな家庭は書斎を燃やす、覚えた。

 ……私もいつかは誰かの蒐集品を燃やすのだろうか?

 

「……これが他の手に渡れば、ルシウス氏は失脚する。小火騒ぎを起こせば誰か気がつくし、連中もそれどころじゃなくなる……?」

 

「その手帳は決して燃えません!ダフネさまはそれを返さなくてはいけない!」

 

 あまり良いアイデアじゃなかった。

 まあ、客人の身分ではドビーに出来る命令も限られる……どんな内容でも従わせる方法でもあれば話は別だけど──

 

 ──『力が欲しいか?』

 

 どうやら私の灰色の頭脳は自分と話すことを覚えたらしい。人はそれを幻聴とか気狂いという。それとも私の隠された闇の人格なのだろうか。

 

「ダフネ様?どうされました?」

 

 ドビーには聞こえていないあたり、やはり幻聴か。

 

 ──『力が欲しいか?』

 

 たしか、他人に聞こえない声が聞こえても、ひとまずは深刻ではないらしい。それと会話し始めた時こそ、本当に正気を失くしているとか。

 

 ──『力が……』

「ダフネ様?」

 

「ちょっと考えるから黙ってて」

 

「ドビーめは黙ります!黙っています!」

 

 どっちも煩い。私はなんとか上手くいく方法で精一杯なんだ。静かにして欲しい。

 

 ──『……忙しそうにしているところ悪いが、話を聞く気はないか?』

 

 話を聞いて欲しいなら先ず名を名乗れと母親に教わらなかった?あ、そうか、母親は死んだんだった。"私"にそんなことを教えてくれるわけないか。……あぁ。会話してしまった。狂人の仲間入りだ。おめでとう、私。ありがとう私。

 

 ──『……僕は君の望みを全て叶える方法を教えてあげよう』

 

 ……はぁ。パターンから言えば、そういう取引は大抵、碌な目に合わないというのが物語の相場と決まってるでしょう。

 

 ──『そんなのは物語の中だけだ』

 

 ……考えてみると私の人生にはデメリットしかないか。つまり報いの先払いだったら済ませてるとも言える。

 

 ──『なら、先ずそこの汚らしい妖精に杖を向けてこう言うんだ──〈インペリオ 服従せよ〉……と。それだけで君に従わせることができる』

 

 ありがとう、分かった。

 

 

 あなたが無能ってことが。

 

 ──『は?』

 

 一つ目。未成年者は保護者もいない場所で勝手に魔法を使っちゃいけないし、未成年者の周りで魔法を使えば、魔法省に検知される。勿論本人が使っても。

 

 二つ目、"それ"は使うだけで逮捕されるような──"許されざる呪文"ってこと。

 

 三つ目、そんな高度な呪文使えないし、ここで使ったら私が疑われ……ああ、そうか。そう言うことか……もう良いよ。黙ってて。

 

 ──『何を勝手に納得しているんだ!』

 

 私の"脳"なのに言わなきゃ分からないの?無能はクビ。早く私の頭から出て行きなさい。

 

 ──『説明をしなければ後悔することになるぞ』

 

 ……私が逃げるために、ドビーは私の側で〈姿現わし〉を使ってる。

 封じられているはずの呪文が検知されれば、ハウスエルフの手を借りたことはすぐに分かる。辿れば書斎に入ったことも。

 相手は魔法省の人間で、罪をなすりつけたり、冤罪で投獄するのはお得意のはず。

 つまり、もう手遅れだということ。……この日記を燃やせばルシウス氏の失脚は防げるかも知れないけど。

 

 ──『残念だが僕はドラゴンに焼かれても燃えない』

 

 通りで闇のコレクションが燃やされたのに残ってるわけだ。じゃあ完全にお手上げ。

 

 ──『邪魔者を殺す魔法を……』

 

 もう少しまともな提案は出来ない?私はそういうのは使えないと……

 

 ──『僕が協力すれば簡単に使える』

 

 ……もしかして、これも純血の力……?

 

 ──『何を言ってるんだ?』

 

 あなたは私の隠された闇の人格でしょう?血統の力が覚醒して目覚めた……みたいな。

 私に眠る闇の力を持ってすれば高度な魔法も容易く扱える……とか。

 

 ──『君は今何を手に持っていると思っている』

 

 馬鹿にしてる?『闇の帝王が作った闇の魔法道具に宿る人格』がそこまで短絡的なわけがないでしょう。

 あれだけの"偉大な"人物の作品なら、私にもっと的確な提案をしてくれる。仮に犯罪を犯すにしても、完全犯罪を考えつく。

 そうじゃなきゃおかしいし、純血の私は認めない。

 

 ──『……完全犯罪になれば良いんだな?』

 

 

 

《その声は妙な自信に溢れていて、どこか危うい気配がした。闇の魔法道具の危険性というよりも、本当に大丈夫なのかという意味で》

 

 ──『聞こえているぞ』

 

《勝手に聞かないでくれる?》

 

 ……他の言語で考えたのに。流石は、闇の帝王の道具といったところか。

 

 

 


 

 

 

tips

 

 

・歌う人骨

首を振って歌う骨。卓上に置いておくと喧しい。闇の使い道があるようには見えない。

 

・瓶詰めの眼球

黒にも銀にも見える瞳の眼球。眺めていると心を読まれているような錯覚を感じる。吸魂鬼の眼球だと瓶に説明が書かれているが、吸魂鬼に眼球は存在しない。

 

・輝きの手

火を灯した燭台を持たせると持っている本人のみの視界を照らす。物を盗むのに最適。

 

・黒い日記帳。

 T.M.Riddle.と表紙と裏表紙に微かに記されている古い日記帳。書き込むと会話が出来る闇の道具。

 持ち主の心に侵入することで、思念を使った会話をしたり、自身の記憶を読ませたりも可能だが日記自身はあまりやらない。

 闇の帝王が製作した可哀想なお友達。







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