個性〝悪役令嬢〟のヒーローアカデミア   作:匿名の悪役令嬢

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雄英高校入学編
1 入試なんてお茶の子さいさいですわ!


かくかくしかじか。

かくして、痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)の意志は流され、〝個性(レイ)〟と両親、学校や陽の者である八百万百の光と期待の眼差しに平民は膝を屈した。

 

すなわち今日は、雄英高等学校ヒーロー科の入学実技試験の試験日である。

 

「うぅ……わぁ、さすが雄英高校……。バリアフリーの次元が違いますね……でも、私みたいな根暗引きこもり陰キャで家柄しか価値のない喪女にももっと配慮して全体的に通路に日よけを設置してくれてもいいと思います……あぁ陽の光が目に染みます」

 

一周回り、行き着くところまで行き着いた平民(へいみ)は二頭身ほどの身体にプルプルと体を振るわせ、涙を目にためていた。

なんか、小さくてかわいい感じである。

 

小さな声で、どんよりと視覚化できるほどの闇を携え、ブツブツと何か呪いでも吐きながら、平民(へいみ)は雄英高校の道を歩いていく。

 

流石、国立の難関高等学校ということもあり様々な〝個性〟に配慮され、広い道幅、高い壁、そして整備と清掃の行き届いた道を平民(へいみ)は歩いていた。

 

かなり小さな声でブツブツと呪詛を吐き出していたが、残念なことに平民(へいみ)の声はよく澄み渡り、否応なく周囲の人々の耳にその言葉は届いてしまっていた。

 

〝はぁ……本当にこの子は……。平民(へいみ)平民(へいみ)! こら、ワタクシの声が聞こえないとなると、その耳の存在価値はいよいよなくなりましてよ!〟

〝うぅ、だってぇ……やっぱり私には無理だよレイちゃん! そりゃ筆記の方はやってるときにアレ? 思ったよりも簡単だ、これってひょっとしたらひょっとするかも? とか分不相応な事を考えちゃったけど、冷静になって考えると無理だよ! ヒーローって何!? それに、ひ、ヒーローになったらあんな恥ずかしいピチピチスーツ私には絶対無理!!〟

 

ウジウジと思考がネガティブになっていく平民(へいみ)に突如太陽のような焼き尽くさんばかりの眩い自信に満ちた声が聞こえてくる。

その声に特に振り返ることもなく、心の中で平民(へいみ)は話しかけ続ける。

 

ここで復習を一つ。

痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)の持つ〝個性〟は複合型の〝個性〟であり、発動型と異形型、つまり生まれた時からずっと発動している〝個性〟だ。

 

そんな痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)の持つ〝個性〟とは「悪役令嬢」であり、悪役令嬢ぽいことならなんでもできる、という能力の他に〝個性〟自体が人格をもっており、そんな〝個性(レイ)〟と共に平民(へいみ)はこれまで生きてきたのである。

 

何が言いたいのかと言うと、二人は別に声に出したりしなくとも、お互いの間であるならテレパシーのように会話や思っている事などを共有することができるのだ。

もっと言うのであれば、平民(へいみ)の目から見ると、レイが空中を半透明の状態で浮きながら自分に憑いて回っているように見えているのである。

 

ウダウダと無理だなんだ言いながらも、さりげなくヒーローになったら、などと考えているところが意外と傲慢で根っからのお嬢様気質、才能ウーマン故の無意識的な自信を隠しきることができていない平民(へいみ)に思わずレイは、令嬢らしからぬ深いため息をついてしまう。

 

〝貴女がどれほど人前で無様をさらしながら、何を言おうとももう来てしまっているのですから諦めなさいな〟

〝……でも、ね? 自分で選んだ道なら、覚悟を決めることもやぶさかなんだけど……勝手に決められた道というのは〟

〝何か、言いまして??〟

〝なんでもございません……うぅ〟

 

整った顔の真顔で至近距離で詰められた平民(へいみ)は、自分の意見を飲み込んだ。

 

ビクビクとしながらも足取りはしっかりとしており、レイと平民(へいみ)は普段通りに会話をしながら、歩いていく。

しばらくすると、眼前では爆発頭の少年と鳥の巣のような頭髪の少年がなにやら物騒なやり取りをしていた。

 

〝殺すだなんて野蛮ですわね。まぁ、自身の前に立つな、という意気込みは実に結構な事ですわね〟

〝え、何? レイちゃん。ごめん、今手のひらに書いた人をたくさん飲むのに忙しくて……〟

〝……いえ、なんでもありませんわ。そろそろ玄関前ですわよ。階段がありますから気を付けなさい〟

 

悪役令嬢イヤーには全て筒抜けだったが、今の平民(コレ)に伝えところで面倒が増えるだけだ、とレイは判断し切り捨てた。

 

(ふむ……。ヘドロ事件、聞き覚えがありますわね。確か、ヘドロの様な流動性を持つ(ヴィラン)に爆破という良い個性の少年が捕まり、タフネスに暴れまわった、というような話が昨年の頭にありましたわね。……その程度でしたら問題ありませんわね。えぇ……最後に微笑むのはワタクシたちであると既に決まっていますわ)

 

ここで一つ、レイという少女の話もしておこう。

彼女は痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)の〝個性〟でありがなら、痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)とは感情や感性、記憶すらも独立した個別の人格である。

そして、レイという少女は痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)よりも身体能力の延長である〝個性〟という特性からか、遥かにその体の身体能力(スペック)を上手く、正しく運用し、知識の面においても平民(へいみ)よりも優れている。

 

こと恵まれた平民(へいみ)のスペックを全て十二分以上に活用し、鍛え、運用することができるのが彼女である。

元来の気質などにより傲慢な面はあるが、それは断じて彼女が他者を見下しているからではない。

 

むしろレイの場合は、「獅子搏兎(ししはくと)」という、耳慣れた言葉に直すなら、獅子は兎を狩る時でも全力を尽くすという言葉が意味するようにどんな些事においても全力を尽くす。それが彼女の在り方だ。

 

なぜなら、彼女は悪役令嬢。

すなわち、悪の華であるがゆえに、優雅に華麗に大胆に。そして、過激に絶対的なのだ。

 

――――――――

 

早めに雄英高校についた平民(へいみ)は案内に従い、実技試験の説明会場に向かい、指定された席に座った。

 

まだ30分近く時間があったため、周囲の他の受験生はどうやら知り合いなどがおり、会話に花を咲かせていた。

だが、残念なことに平民(へいみ)の知り合いはいなかった。

もっとも、いた所で学校で特別仲の良い友人などいないから誰かと会話に花を咲かせる、なんてそんな高等技能を行使することはできないが。

 

しばらくすると、時間通りに会場が暗くなり、説明会、いや受験票通りにいうならプレゼンテーションが始まるようだった。

 

「受験生のリスナー。今日は俺のライブにようこそ! エブリバディ セイ ヘイ!!」

 

とハイテンションで雄英高校の教員であり、現役のプロヒーローである「プレゼントマイク」が会場中に響き渡る大きく聞き取りやすい声で話を始めた。

プレゼントマイクは〝個性〟の影響もあり、ヒーロー活動以外にもよく声に関係する仕事、例えば人気のラジオ番組を持っているが、残念なことに流石に受験というライフイベントでは、皆そのテンションには着いていけないようだった。

 

訂正。

後ろの生徒がすごくプリプリ、ブツブツとプレゼントマイクというプロヒーローの登場に盛り上がっていた。

とはいえ、未だ手のひらに無心に人という字を指でなぞり書き連ねている平民(へいみ)にその少年の声は聞こえることはなかった。

 

(あら? 随分と呑気ですこと。ご自分によほどの自信があるのか、ただのバカ……いえ、あぁ、なるほど? 平民(へいみ)と同じ類の人種ですわね? ある意味ではバカですけど、ギーク、玄人、の類ですわねアレは)

 

「入試要項通り、リスナーはこの後10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!」

 

(持ち込みは自由、とはいえ我が家の力を持ってすれば超圧縮技術を使用した兵装、更にはプロヒーローの持つスーツよりも高性能な叡智の結晶を持参することはできましたけど、今回はワタクシたちの実力を見るためですから、何一つ持ち込みはしてませんわ。それと指定会場、ですか。まぁ特に協力する知り合いもいませんし、こちらは関係ありませんわね。えーと?平民(へいみ)の受験会場は……A会場ですのね)

 

何度かライブの様にプレゼントマイクは、受験生の方へとコールアンドレスポンスを投げかけていたが、一度もレスポンスが返ってくることはなく「ㇱヴィー」と無駄によい声で肩を竦めていた。

 

「演習場には仮想(ヴィラン)を3種配置しており、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある。おのおのなりの〝個性〟で仮想(ヴィラン)を行動不能にし、ポイントを稼ぐのがリスナーの目的だ! もちろん、他人への攻撃など()()()()()()()()()()はご法度だぜ?」

 

分かりやすく試験の形式を配布資料と視覚資料を用いてプレゼンテーションを行っているプレゼントマイクの説明を聞きながら、レイは思案を続けていた。

 

一心不乱に人を書き続ける平民(へいみ)と、平民(へいみ)の為に思考を回し続けるレイ。

レイは平民(へいみ)を正気に戻さず、後程自分から試験の概要を伝えればよいととっくに割り切っていた。

 

(採点方式はさすがに不明ですけど、アンチヒーローな行為、とわざわざ釘をさすあたりしっかりと録画などで後ほど確認をされるのでしょうね。それに天下の雄英高校、名のあるヒーローを多く輩出するこの学校がたかだか仮想(ヴィラン)を倒すだけ、という戦闘力のみに注視した試験を行う、というのは浅慮ですわね。配布していただいた資料をみますと、後一体まだご説明していただいていない0Pの仮想(ヴィラン)がワタクシの想像通りとなると……)

 

そうこう考えていると、低く、ピンと伸びた声からして生真面目そうな男子の受験生が手を挙げて、プレゼントマイクへと試験の質問……いや慨嘆? ともかく、その男子生徒もレイと同じくまだ説明のされていない、0P仮想(ヴィラン)について疑問に思ったようだった。

 

そのついでに、鳥の巣のような唯一ブツブツ、いやボソボソとプレゼントマイクの登場に盛り上がっていた少年に対しても苦言を呈していた。

もっとも、この期に及んでも平民(へいみ)は気づかないし、レイは気にもとめず、両者ともに自分がしたいように行動をしているので、ここに八百万がいればまたプリプリと「仲良しですわね!」とニッコリしていただろう。

 

クスクス、と物味遊山だと指摘された少年に対して、軽視や侮辱とような嘲笑が会場に響くが、すぐにそれを声と話術で沈めてしまったプレゼントマイクは流石と言えるだろう。

そしてそのまま、質問された0P仮想(ヴィラン)の説明をプレゼントマイクは始めた。

 

「4種目の(ヴィラン)は0P。そいつはいわばお邪魔虫。各会場1体、所狭しと大暴れしているギミックよ! 倒せないことはないが、倒しても意味はない。リスナーにはうまく避けることをお勧めするぜぇ?」

 

(なるほど。ほぼ確実にこの試験は明言されている仮想(ヴィラン)を撃破することによって得られる得点と何か、そうですわね言うなればヒーローらしい言動をすることによって得られる得点ないし、性格等による適性検査のような側面を持ち合わせていると考えて間違いないですわね)

 

〝ひゃぁ……なんか凄そうな仮想(ヴィラン)を用意しますね。雄英高校って結構お金持ちなのかな?〟

 

真面目に考えていたレイの思考にいきなり、おどけた気の抜ける声が割り込んでくる。

さっきまではあんなにオドオドと表情も百面相して愉快なことになっていた平民(へいみ)は、いつの間にか自分でSAN値でも回復させたのか、一時的狂気から抜け出せたようだった。

 

〝ふふっ。正気に戻った一言目が他所様の懐事情への指摘でいいんですの? ある意味、次期財閥の当主としては……ふふ……ふ、相応しいかもしれませんけど〟

〝わ、笑わないでよレイちゃん!〟

〝ごめんなさい。でも〟

 

そこまで言うと、レイは肩から腕を回して、平民(へいみ)の顔を前から見えるような体勢になった。

精神体でそういう風に見えている、というだけにも関わらず平民(へいみ)は普段自分は付けない、レイの時にレイが好んで付けている豊満でいながら、芯の通った花々の香水の匂いが鼻孔をくすぐった様な気がした。

 

〝――いい顔になりましたわ。それでこそワタクシの平民(へいみ)ですわ〟

〝……いつもありがとうございます。レイちゃん〟

〝今更ですわね。でも、ワタクシは貴女の〝個性〟ですから、仕方なく助けて差し上げますわ〟

 

「さらに向こうへ。Plus Ultra!!――それでは皆、よい受難を」

 

―――― ^P^) _旦~~――――

 

とても広い雄英高校の移動は学内でもバスを利用する。

ちなみに、学校関係者には専用の地図アプリがあり、生徒たちはそのアプリを使用して学校での教室移動を行っているそうだ。

 

受験という事で、張り詰めた、ある意味ではとても良い緊張感のある空気の中で痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)は瞼を閉じ、レイと作戦会議を行っていた。

 

痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)の〝個性〟である「悪役令嬢」の、その具現ともいえるレイという少女は、平民(へいみ)と感覚を共有することも、逆に制御権を譲られ、レイが行動することも可能である。

しかし、あくまでもレイは〝個性〟であるため、普段は平民(へいみ)の心の中、精神世界から見ていることが多い。

 

そういった〝個性〟の妙ゆえに、平民(へいみ)は心の中で明晰夢の様に実感と実体を持って行動することができるのである。

 

平民(へいみ)が瞼を閉じ、自身の精神世界へと行くと、和洋折衷の洋館で見慣れたアンティークの趣味の合う家具に囲まれたラウンジだった。

 

部屋には紅茶の良い匂いが充満しており、見慣れた人物はいつ何時(なんどき)も自身を曲げることなく、ただそこにあった。

 

ワインレッド、というよりも少し黄色などの明るい色が入った様な臙脂色、と例えられるものに近い色のドレスに金髪をロールさせ、その(かんばせ)には、ルビーの様に紅々とした宝玉の様な瞳が少しだけ釣り気味の目に鎮座しており、肌は降ったばかりの雪の様に冷たさの残る白色で、更には目に見えるほど伸び、綺麗に湾曲するまつ毛。

 

小さな子どもの持つ人形というには、あまりにもその人物が発する雰囲気は妖艶であり、それは少女の持つあどけなさと、大人の女のもつ艶やかさの狭間にあるひと時の幻想のような玉体だった。

そんな稀代の天才彫刻家の彫り上げた美、という概念の表出のような圧倒的な華が、優雅に紅茶をキメめていた。

 

〝来ましたわね。とりあえず座りなさい。百がお勧めしていた紅茶を淹れてさしあげますわ。ワタクシたちの好みとは少し異なりますが、たまにはいいでしょう〟

〝八百万さん、だとハロッズかウェッジウッド? 確か前に家で贔屓にしてるって聞いたような〟

〝えぇ。今回はハロッズのイングリッシュブレックファーストですわ〟

〝意外とレイちゃんハマりましたよね。ファインストロベリーとか、可愛らしい所ありますよね〟

〝ふふ。どうやら今日の試験は平民(へいみ)一人で乗り越えたいそうですわね。成長を感じられてワタクシもとても嬉しく思いますわ〟

〝ごめんなさい〟

 

フカフカの絨毯にアルマジロのような綺麗に折りたたまれた土下座を平民(へいみ)は披露した。

フンッと鼻を鳴らしてから、首をクイッと促すレイの所作からお許しが出たことを把握して、いそいそとカウチソファに平民(へいみ)は座り直す。

 

そして、いつの間にか平民(へいみ)に用意された紅茶を一口含み、ホッと息を吐きだした。

 

〝あ、蜂蜜入りのミルクティーだ……美味しい。ありがとうレイちゃん〟

〝どういたしまして。さて、時間も迫ってますし、そろそろ真面目に話をしますわよ〟

 

そう言い、姿勢を正した平民(へいみ)を見て頷いて、レイはしっかりと試験の説明を聞いていたのか、という確認から始め、自身の気づいた試験の特質はあえて黙って、作戦会議を進めていった。

 

――――――――

 

試験会場に着いたようで、止まったバスから降りるように促されて、受験生たちは移動を開始した。

あえて最後尾の窓際に座っていた平民(へいみ)は最後尾から更に少し離れて、〝個性〟を使用してから降りていく。

 

「はぁ……本当にもう……。別に構わないのですけど、戦闘になればワタクシが外に出るのは決めてましたけど、試験開始前からワタクシが出る意味はありまして?」

〝あるよ! か、顔を見られるの恥ずかしいじゃん……〟

「はぁ……」

 

バスから出てきたのは、体の線を隠すようなジャージらしいジャージを着用し、艶はありながら、わざわざ整えた様子のない綺麗な黒髪に何故か目や表情が見えにくい昔の漫画にあるような瓶底メガネをしていた女子、ではなかった。

 

出てきたのは、惜しげもなくその玉体の線を出し、自らの強みを正しく理解し、利用する太陽のように輝く美しい女性であった。

 

じっと黙って腕を組みながら思案顔の傾国の美女を周囲の同じ会場の受験者は恐る恐る、怖いもの見たさのようにチラチラと覗き見ては、ヒソヒソと話あっていた。

もっとも、突如影も形もなかった絶世の美女、更には金髪の縦ロールに臙脂色のドレスというこれでもか、という理解のしやすいキャラ性にあんぐりともしていた。

 

〝今回の試験が機械相手なのは楽ですわね。力加減をしなくてもいいのですから〟

〝確かに……。レイちゃんの筋力だと当たりどころが悪かったら人相手は赤い霧になっちゃうもんね〟

〝筋力とは聞き捨てなりませんわね……。悪役令嬢力ですわよ〟

〝……はい? なんそれ??〟

〝知りませんわ。でもできるものはできる。〝個性〟なんて現代でも意味も原理も不明なモノばかりですわ。個性に理由を求めてもそれは無意味で不作法ですわよ。考えるのではなく、感じる。そういうの得意でしょ?〟

〝知りません、てふふ……あははッそれはズルいよレイちゃん〟

〝ふふ……。さて、そろそろ時間ですわね。いつも通り。ワタクシたちはただいつも通りあるがままにあればいいのです。貴女は貴女のしたいように。この程度の壁、受難はワタクシが踏み潰してさしあげます。何せ――〟

〝ワタクシこそが悪役令嬢ですから! でしょ?〟

〝えぇ!〟

 

花開くという言葉が似合う、しかし強者の笑みを浮かべて、痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)は我が世の春とばかりに満開の笑顔を浮かべる。

なぜなら、彼女たちは困難も災難もあらゆるものを踏み砕き、足蹴にただ歩み続けた先の頂で微笑む存在――――そう、なぜなら彼女たちは悪役令嬢だからである。

 

「はいスタート!」

 

そうよく届くプレゼントマイクの声が届いた瞬間、痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)は飛んだ。

もちろん、ハイヒールである。

 

「さぁ! 雄英高校! 悪役令嬢(ワタクシたち)が来ましたわよ!!」

 

市街地演習場の高い壁も幸先が良いとばかりに無視して、跳び越え痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)は入場していく。

 

平民(へいみ)! 索敵を常に行いなさい!」

 

痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)の戦闘スタイルの真髄は、2つの人格を最大限に活用、補完し合った分業にある。

〝個性〟の扱い、出力の高いレイを前面に、情報処理や業の巧い平民(へいみ)を補助として運用していくのが主な戦闘スタイルだ。

 

レイが〝個性〟を最大限に使用し、獲得、感知した音や匂いなどの些細な情報を全て平民(へいみ)に共有することで、その情報を精査し二人でその場で最善を検討し、実行してくのだ。

 

「控えなさい。三下の強制された悪役風情が!」

 

レイは獰猛でいて冷たい笑みを浮かべながら、扇子をたたみ、下から上へと振り上げる。

柔らかな動作であったにも関わらず、彼女が扇子を一閃すると、大気が震え突風が巻き起こる。

眼前の仮想(ヴィラン)だった機械は宙に打ち上げられ、まるで木の葉のように無力に翻弄されていた。

そして、地面へと落下し、叩きつけられただの鉄屑と化してしまった。

 

〝移動します。先ほどの集計を忘れないように〟

〝分かってるよ。現在の撃破ポイントは34ポイントだよ〟

 

開始1分、初動で即座に移動し、仮想(ヴィラン)の多い場所を見つけ出したが故の好成績である。

 

「残り6分!」

 

演習場の各地に設置されているスピーカーからは試験官であるプレゼントマイクの声が聞こえてきて、試験の残り時間を逐一と報告していた。

 

〝想定よりも仮想(ヴィラン)との接敵が少ないですわね。それと、近くではありませんが、恐らく同じ会場内で爆発系の派手な個性を使っている方がいますわね〟

〝多分、音とかに反応するセンサーで仮想(ヴィラン)の仲間を集めているんだと思う。ちょっとレイちゃんが華麗に大胆にやりすぎて根こそぎだったから、こっちは集まりが悪いんじゃないかな?〟

〝くッワタクシたちの有能さが裏目に出てしまいましたわね。仕方ありません。一度上昇しますわよ〟

 

そう決めると、また地面を踏みしめ、少し陥没させ、高く跳ぶと、今度はビルの側面へと近づき、ハイヒールのヒール部分、トップリフトをめり込ませる。

ヒールをハーケンの様にビルの側面へと穿ち、さらにそこから力を込めて跳躍する。

それを3度ほど繰り返し、ビルを超えて上空へと跳び出る。

 

そのままレイは、手を広げ体をくるりと回転させ、地表の方を向く。

 

そして、仮想(ヴィラン)や他の受験生の様子を確認して、人があまりおらず、仮想(ヴィラン)が多い場所を把握していく。

 

「フンッ!」

 

扇子を再び広げ、薙ぐことで生じた風圧を利用して、空中での機動力を確保し、仮想(ヴィラン)の群れへと飛んでいく。

流星の様に跳びこんで、そのまま仮想(ヴィラン)の身体を貫き、周囲をまた諸共撃破しようと薙ぐ動作に入った途端、一人の声がレイへと向けられた。

 

「おいッ! そこのパツ金ロール!! テメェなんだ! 割り込んで来やがって」

 

どうやら、先ほどチラッと視界に映り確認した爆発系統の派手な個性でタフネスに暴れまわっていた受験生も、この仮想(ヴィラン)を狙っていたようだった。

しかし、空中からかっ飛んできたレイたちの視界には狙っている姿は映っていなかった。

 

「? ああ、そんな所にいましたの? それは大変申し訳ございませんわ。存在感があまりにも矮小すぎて眼中にありませんでした」

〝な、ななな! こんな凶悪そうなヤンチーになんてこと言うの!? 髪型でしょ! その髪型気に入ってるからちょっとムッとしたでしょ!〟

〝そんなことはないこともないですわ。でも、平民(へいみ)、この程度の三下モブに天下の悪役令嬢が何を恐れておりますの? もっと堂々となさい!〟

 

レイと前衛的な爆発した髪型の少年はレスバをしながらも、両者は淡々と周囲にいた仮想(ヴィラン)を片付けていく。

お互いの動線には入ることなく、共にやりやすく、巧い、と思わされ、はたからみると互いに背中を預け合いながら共闘しているように見えた。

 

もっとも、実際には動線に入らず、どちらかがミスをしたとたんに打ちもらした仮想(ヴィラン)を即座に横取ゲフンゲフン……いや、始末しようといった共闘とは程遠い心意気だった。

 

「一時の共闘感謝いたしますわ。前衛芸術的な頭髪の殿方。それではワタクシはこれで」

 

手に持っていた扇子を一度消し、左の手でドレスをつまみ、右の手を胸の方へと折る美しい所作のカーテシーをぶつけ、足早にその少年の前からレイはまた跳び去っていく。

ボムボム、という音と先ほどの少年が何やら叫んでいる声が聞こえた気がしたが、レイは気にもとめず、平民(へいみ)は聞こえなかった事にした。

 

〝今の得点は?〟

〝48ポイント! やっぱりさっきのヤンチーさんの方に向かってる仮想(ヴィラン)が多いよ。派手な〝個性〟で引き寄せられてあっちの方に移動してる〟

〝まずまず、といった所でしょうが、合格するだけでしたらペースを落としても問題ないでしょう……ですが!! ワタクシたちが目指すのは主席合格! 完膚なきまでの絶対的な勝利だけですわ! あまり長時間〝個性〟を使う経験はなかったので、少し大変ですが着いてこれますね平民(へいみ)

〝うん!〟

〝よろしい!!〟

 

そう意気込み、索敵した仮想(ヴィラン)の方へと移動しようとした瞬間、会場が揺れた。

一瞬地震か、とも思ったが悲鳴と破壊音が聞こえてきて、直ぐにソレの姿も視認できるようになり、違うという事が分かった。

 

「!ッ お邪魔虫の0P仮想(ヴィラン)ッですわね!」

〝!? お邪魔虫の0P仮想(ヴィラン)………ッ!〟

 

幸い、ビルの屋上から索敵をしていた最中であったため、超大型の0P仮想(ヴィラン)の姿がよく見えた。

 

〝大通りに出現しましたね……アレを意識しながら、となると少々面倒ですし、当初の予定通り迂回で異論ありませんわね〟

〝え、……あ……う、うん〟

 

突如、受験生がまとまっていた場所に出現したため、その周囲は混乱に満ちていた。

〝個性〟で避難等を行おうとして、それぞれが行動することでかえってお互いの足を引っ張り合い、二次災害のようなものまで起きそうな程になっていた。

 

「試験終了まで残り1分!」

「!ッ 時間が迫ってますわね…行きますわよ平民(へいみ)

 

大型の仮想(ヴィラン)が少しその身を動かしただけで、周囲の建物にぶつかり、崩落していた。

良く見える悪役令嬢の目には、その瓦礫に服やら足が挟まれてしまい、0P(ヴィラン)から逃げようにも身動きが取れない、そんな人までいることが見て取れて()()()()

 

「!!ッ」

平民(へいみ)!?〟

 

思わず、痾苦嬢(あくじょう)平民(へいみ)の足はまた跳んでいた。

しかし、その姿は戦場を舞う戦姫というような出で立ちではなく、他の受験生と似たり寄ったりの動きやすい服装になっていた。

 

(下手な攻撃で変な方向に倒れたら、周囲の人が本当に潰されちゃう! 皆正面の方に逃げてるから、正面から殴り飛ばして、後ろに倒れさせるのがベストでマストッ!)

 

「ぷ、プルスウルトラッ!」

 

平民(へいみ)は思わず叫びながら、力強くビルの屋上を蹴り上げた。

弾丸のように宙を跳び、圧倒的なスピードで超巨大な仮想(ヴィラン)へと向かって突貫した。

そして、そのまま移動の運動エネルギーを平民(へいみ)は仮想(ヴィラン)の胸元へとぶち込む。

しかし、大型の仮想(ヴィラン)は少し停止しただけで、ビクともせず、そのまま進行を再開しようとしていた。

 

「あぁッ!!!」

 

平民(へいみ)はまた一つ絶叫をあげる。

先ほどの蹴りでめり込ませた足を起点に、もう片方の足もその仮想(ヴィラン)の体をへと穿ち、足場を安定させる。

そしてお腹に力を込めて、背中、肩、肘と意識をしながら仮想(ヴィラン)へと一撃殴り飛ばした。

 

その衝撃でバランスを崩し、仮想(ヴィラン)から落ちてしまうが、残念なことに大型の仮想(ヴィラン)一瞬よろける程度で、後ろへと倒れることはなかった。

 

「!ッ……やっぱり私じゃ出力が足りない」

〝何をしてますの! 後30秒ですわよ! 変わりなさいワタクシであれば付近の仮想(ヴィラン)の集団に間に合います!〟

「でも!!」

 

動けなくなった人たちの前で、0P(ヴィラン)から庇うように平民(へいみ)は立ちふさがった。

その足も顔もお世辞にも優雅とは言えない様相で、プルプルと震え、折角の顔も元々もメガネで見えなくなっているとはいえ、涙を溜めひどいありさまだった。

 

しかし、その心は正に困難を前に本来の姿を曝け出していた。

 

「でも……違うよ。違うよ! 私が子どもの頃に憧れた悪役令嬢(ヒーロー)はこんなところで引かないんだよ! 自分のやりたいを諦めたりしないの!」

〝ッ!? 言ってくれますわね。……変わりなさい平民(へいみ)

「レイちゃん!!」

「変わりなさい。……全くこんな三下に手こずるなんて、ダメなヒーローですこと」

〝レイちゃん!!〟

「えぇ。しかし、ワタクシもまたダメなヒーローでしたわ。えぇ。では、悪役令嬢らしく、ワタクシが一つ平民(へいみ)に、そしてこの仮想(ヴィラン)に悪役の何たるかを! 体に教えて差し上げますわ!!」

 

一つ足を踏みならすと、平民(へいみ)の姿は変わり、足元から花びらが吹くように臙脂色のドレスへと変わっていく。

バッと手を振り払って、〝個性〟によって悪役令嬢ぽい扇子を出現させ、一度口元に持って来て、広げてから、声高らかに同じ声でありながら、印象が真逆な絶対的な自信を持った声が轟く。

 

「このワタクシに感謝することですわね! 力のない民を護るのもまた貴族の務め。逆賊には死を! ワタクシの前に膝を折り、頭を垂れなさい!」

 

レイは艶やかな笑みを浮かべ、まるで舞踏会の一幕のように優雅に回転した。

しかし、その動きには一瞬の隙もなく、彼女の背後からは圧倒的な力を感じるほどだった。

 

レイが扇子を逆袈裟斬りのように扇子を下から上へと振り上げる。

次の瞬間、鋭い黒板を引っ掻くような風切り音が轟音と共に響き渡った。

 

周囲の人があまりの風圧に目を瞑ってしまい、再び瞼を開くと仮想(ヴィラン)の巨体は一刀両断され、砂埃を巻き上げながら大きく二つに割れ、そして切れた紙のように無力に崩れ落ちていた。

 

 

「試験! しゅう~りょお!」

 

後にはただ、ところどころ泥や汗などの汚れがついていながらも、圧倒的な美がそこにはあった。

 

人々を救う。実に英雄じみた行いであった。

しかし、最後まで己を貫き、あるがままに振舞った彼女たちの名は「悪役令嬢」である。

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