個性〝悪役令嬢〟のヒーローアカデミア 作:匿名の悪役令嬢
苛烈で過激で、そして華麗な雄英高校ヒーロー科の実技試験が終わった。
受験生たちはそれぞれ、妙齢ヒロインリカバリーガールから、熱烈な治療を受け取った者も、他の受験生の実力から泣き崩れる者も、〝個性〟と試験の内容が致命的に合わなかった者も。
──今はただ、帰宅し各々の夜を過ごしていた。
しかし! 誠に残念な事に、雄英高校側─すなわち、教員側では夜こそが本番だったのである。
「ソーヘビィ…分かってちゃいたが…どんだけあるわけ?」
「わざわざ口にしないでよ…山田君」
「あはは……毎年恒例の事とは言え難敵ですよね」
ここで、雄英高校ヒーロー科の入学実技試験の試験内容について振り返る。
主な試験内容は、〝個性〟を使用した仮想
それこそ、現役プロヒーローである雄英高校に務める教員達による評価形式の得点、レスキューポイントである。
ヒーローの本質である奉仕、誰かを助けたいというそういった精神性を見極めるため、圧倒的脅威をけしかけ、受験生たちの真価を見定めるのだ。
「ハハハ! こればかりはAIの自動判別だけに頼る訳にはいかないのさ。皆悪いけど、今年も一緒に頼むよ。プルスウルトラ! ってね。今年も夏のボーナスは期待してくれていいのさ!」
大の大人たちがひしめき合っている雄英高校、校内の一室。
モッサリとした髪もヒゲも伸び、身なりが乱れた黒染めの服装に、マフラーのように首に何重にも巻かれた布。
その男の布の中からヌッと右手を上げ、こんにちわ! と目に古傷のある可愛らしいネズミさんが挨拶をしていた。
「遅れてごめんね皆。今年は例年よりも怪我人の数も怪我の度合いも酷い受験生が多くて、そっちの対処に追われてたのさ。あ、相澤くん乗せてくれてありがとう」
「……いえ」
ピョン、と黒ずくめの男からテーブルへと飛び降りたそのネズミは、テクテクと手を後ろで繋ぎながら、教員達の中心へと進んでいく。
そして、教員達の方を向き言葉をかけた。
「それじゃあ、始めようか」
「「「「「はい、根津校長」」」」」
余談だが、立派に伸び、天を衝くようなセットをした男、プレゼントマイクは何やら先ほどの一連の出来事がツボにハマってしまったようで、プルプルと声には出ないように笑いを堪えていた。
しかし、相澤と呼ばれた男から脇に一撃をもらい、今度は苦痛に悶え、肩を震わせる羽目になってしまっていた。
哀れなり山田ひざし。
「山田、って呼ばないで……ㇷ゚リーズ」(ガクッ
───────
「さて、後は一人ですね」
「今年は二人も大型
「そうね。あの男の子は全身ボロボロになっちゃっていたけど、こっちの彼女はすごいわね。何? あの〝個性〟」
「えーと受験票によると、え? 〝悪役令嬢〟て……なんだこりゃ?!」
「え、ほんと? 確かに服装とかもプロヒーロー並みにらしくしてたけど、本当にそういう個性なの?」
「おいおい。悪役、ていっても令嬢だろ? どーすりゃあんなオールマイト並みのパワーとスピードが出せるわけ? どういう悪役令嬢像してんだよ、そのリスナー」
ガヤガヤ、と話し合う十八禁のような服装をした女性、DJのような恰好をした男性。宇宙服を着たような人。重機のようなモノを装備した人。
特徴的なヒーローコスチュームを身にまとっている教員たちが録画されたVTRを見ながら、最後受験生。
「ちなみに、撃破ポイントは何ポイントなんだい?」
「えーと……48ポイントですね。最後、大型
「圧倒的脅威を前に、心の奥底にあった本質が曝け出された、てことだね」
大きなモニターに表示された複数の画面から、様々な場面での
それを一つ一つ見て、行動の評価を互いに教員たちはしあっていた。
それだけでなく、職業病だろうか
「ていうかよう! 出願書とかの証明写真と本人違い過ぎないかコレ!」
「あ、その点はきちんと先方から連絡が来ているのさ! 別途資料があるから一枚めくってみて」
「……こりゃまた珍しい〝個性〟だね根津。確か、今年の受験者には〝個性〟自体が人格を持つ子がもう一人いたはずさね。あぁ、今暫定9位のあの子だ」
「その通りさ! リカバリーガール!」
「あのぉ校長? 私的にはあまりよくないんですけど、この子の名前も気になります。
「あぁ、念のため確認してみたけどね、彼女本物だよ。
ポチッと根津校長が機械を操作すると、モニターの映像が動きだし、
「うーん。すごいね。最後の仮想
「そうですね。それに周囲をよく見て気にかけてますね。他の受験生が致命的なケガはしないように最低限の援護をしていますね。誰でも何でも助けるヒーロー、というよりかは限界まで見据えてる……うーん。教えるというような感じでもなさそうですし……支配者、て感じですかね? 自分の配下が危ないから助ける。そんな印象をうけますね」
「ふむ。ふむ。もう何回か彼女の行動を確認したし、そろそろ皆いいかな?」
そう根津校長が教員たちに聞くと、皆一様に首を縦に振り、そして手元をゴソゴソとしだす。
「それじゃあ!」と校長が声をかけると、一斉に教員たちは点数札を挙げていく。そして、その点数は……。
「おや? レスキューポイント合計29ポイントかい? 同じく仮想
「……そういう校長も1Pて随分と酷評じゃないですか」
「HAHAHA!! まぁね。彼女の動きはとても良かったよ。でも、これは彼女、
「それでも高得点を上げない理由はなんですか?」
「みんな、
楽しそうに、そして悪そうな笑顔で教員たちはほくそ笑んでいた。
この場に
教員たちの表情はそういう顔だった。
しかし、それはどれも生徒への愛情からなる決意の表れだ。
さらに向こうへ──プルス・ウルトラ──。
この校訓通りに、これから雄英高校は
そして、その壁をきっと咲き誇る薔薇のような〝悪役令嬢〟と、振り回されながらも健気に頑張る平民が二人三脚で乗り越え……いや踏み潰して堂々と笑うのだろう。
これは彼女たちが最高の
「ワタクシたちが最高の悪役令嬢になるまでの物語!!!!」「です……」
……そう。これは、最凶の悪を下し、最高の
「へっくしゅんッ」
〝まだ三月になる前で寒いのですから、そんな長くバルコニーいるのはおやめなさいな
「あれ? おかしいな……お風呂入ってちょっと火照っちゃったから、今出てきたばっかなのに……というか帰ってきてから変にくしゃみが止まらないんだけど……」
〝受験も終わって、一安心して疲れでも出たんじゃありませんこと? なさけない〟
「そうかも……。今日はもう寝るよ」
〝カモミールティーでも飲みましょう。すこし擦ったショウガを入れて飲むのもなかなか美味しいですわよ〟
白亜の城、とでも表現すべき立派な一軒家。
一軒家である。だれがなんと言おうとも。
そのバルコニーの扉を閉め、彼女たちは楽しそうに会話しながら、自室へと歩いていく。
これからの怒涛の日々、その嵐の前の静けさのようだった。主に
もっとも、
ただ……。
ただ、今は眠れ未来のヒーロー達よ。