試験の日から1週間後。
今日は休日のためいつものように、早朝から高架下に赴き鍛錬を行っていた。
「ふぅ……結局アレ以降、斬魄刀は出せずか」
既に走り込みから、鬼道の鍛錬も終わり、鍛錬最後の斬魄刀の顕現まで終えた。
しかし、雄英の試験以降、斬魄刀は出せずじまい。
解号を唱えても斬魄刀は応えてくれない。
「何故だ……やはり、戦闘中ではないと出てくる気がないのか?」
斬魄刀を顕現できない以上、
だから『
これまでのアイツの"ひととなり"から察するしかない。
まあ、アイツは人ではなかったが。
「はぁ……分からん」
ため息を一つこぼすと、後頭部を掻いた。
刃禅とは刀を膝において行う座禅のようなものなのだ。
これを行うことで精神世界に入り、斬魄刀と対話が行える。
そうして斬魄刀と対話をして斬魄刀の
それが始解である。
だが、俺にはその精神世界に入るための大前提である斬魄刀が無い。
俺の死神としての力は、個性によるものに過ぎないからだ。
オリジナルとは異なるため、当然斬魄刀は持ちえない。
そもそも、斬魄刀の元となる浅打という刀がないのだから当然だろう。
その浅打を打てる人も居ない。
無い無い尽しだ。
だからといって斬魄刀と対話を行えないという訳では無い。
刃禅以外に精神世界に入る方法があるのだ。、
それが、斬魄刀から精神世界に呼んでもらうこと。
少なくとも俺はそうやって精神世界に入ることが出来た。
そうして『星鎖』と会い、始解を教えて貰った。
だが、この方法は不安定なものだ。
自分からは会いに行けないのだから。
それ故に、ここ数年『星鎖』と会えていない。
前に会った時だって、一方的に言葉を投げかけられたくらい。
まともなコミュニケーションは取れてないと言えるだろう。
だからこそ、この前の雄英の実技で始解が出来たのは正直驚いた。
しかし、あの時はできると確信めいたものがあったから解号を口にしたのだ。
というより自然と口から出た、と言った方が正しいか。
外部影響から切り離された戦場。
自分の意思だけが存在した。
あの場には自己決定と自己責任のみがあった。
思い返せばあの状況は『星鎖』が好みそうな戦いの場だ。
俺も気分が高揚していたのを覚えている。
落ち着くために深呼吸をしたほどだ。
「だから、あの時は始解が出来たのか?」
そう考えれば納得が行く。
だが、結局は俺の想像でしかなかった。
何か言いたいことがあるなら、呼んでくれればいいものを。
「ままならないな……そろそろ切り上げるか」
結局答えは出ることなく、今日のところは鍛錬を切り上げて帰ることにした。
※ ※ ※
「ただいま戻りました、美羽さん」
「おかえり、
「手紙?」
孤児院に帰宅すると、早々に副院長の美羽さんから手紙を渡された。
俺宛てとは珍しいと思いながら、手紙を受け取る。
「雄英からよ」
「ああ、合否通知ですね」
届いたのは雄英からの合否通知だった。
「お部屋で確認しておいで」
「お気遣いありがとうございます」
学業に専念するまでという理由で、卒業まで俺には一人部屋が与えられている。
俺は部屋に戻ると、早速手紙を開いて中を確認した。
「ん? なんだこれは?」
中に入っていたのは手紙ではなく、よく分からない小さな機械のようなもの。
分からないながらも適当にいじっていると、突如としてソレは映像を映し出した。
「私が投影された!!」
出てきたのはオールマイト。
この孤児院の子供たちの間でも度々話題に上がるNo.1ヒーローだ。
あとで子供たちに見せてやろう。
そう思いながらオールマイトの挨拶、雄英に勤めることになった経緯などを適当に聞き流す。
「さて、本題はここからだ!」
適当に聞き流していると、早々にメインがやってきた。
「筆記、問題なく合格点! そして実技は41ポイントで合格だ! 優秀だな、
実技、
計算通り、41ポイントで問題なく合格ラインに届いていたようだ。
「ただ、先の入試!! 見ていたのは敵Pのみにあらず!!」
「へぇ……討伐以外にもあったのか」
「私達は見ていたよ! 身体が強ばっていた生徒に声をかけ緊張を解し、怪我人の手当まで行うその精神性!」
「やっぱり見られてたか」
どこから見られてたのか不明だが、落ち度はなかったはず。
少し顔をしかめる位はあったが、その程度で悪印象は抱かれないはずだ。
快適な環境を得るためには、教師からの印象も重要になる。
大丈夫だったかと少し懸念を感じながら、引き続き 映像に目を通す。
「
映像の中のオールマイトが、こちらに手を差し伸べてくる。
「来いよ慈上少年!
その言葉を最後に立体映像が停止する。
「救助ねぇ……評価稼ぎだったけどやって正解だったな」
欠伸を噛み殺しながら、静かに呟いた。
「まぁ、合格は合格だ。」
部屋から出てリビングに戻ると、美羽さんに合格したことを伝える。
それから、映像を子供たちに見せると次々にお祝いの言葉を受け取った。
あの程度苦戦はしなかったが、適当に話を変えて子供たちに入試の話をしたりなどして、この日は過ごすこととなった。
そうこうして時は経ち、夕飯の時間。
今日は少しだけ夕食が豪勢になった。
美羽さん曰く、合格祝いだそうだ。
こうして孤児院で過ごすのもあと二月ほど。
4月からはいよいよ雄英高校に入学だ。
ああ、雄英ではどんなことが出来るのか今から楽しみだ。
※ ※ ※
「実技総合成績でました」
「救助P0で1位とはなぁ!! 」
「対照的に敵P0で
「アレに立ち向かったのは過去にもいたけど……ぶっ飛ばしたのは久しく見てないね」
「思わずYHAH!って言っちゃったからなー」
「アレに立ち向かったと言えば、もう一人いたな!」
教師たちが話し合い、とある受験生の話題になった。
映像が表示される。
「敵P41・救助P30。合計71Pで総合4位」
「試験序盤は様子見をしながら状況把握を行い、中盤から終盤は積極的に敵の撃破と救助に努める。何とも安定した立ち回りだったな」
「確かに、終始ブレずに動けていたなー」
「疲労した様子もなかったわね」
「そして、終いには0Pの拘束をしてのけたと」
映像が試験の終盤を映し出している。
慈上神斗が0ヴィラン。通称、ロボインフェルノを拘束するところだ。
杖で鎖を生み出し、更には魔法のような力を使い、ロボインフェルノを拘束している。
「なんて個性だ?」
教師の1人が手元の資料を手に取って疑問を口にした。
それに対して、予め資料の内容を把握していた別の教師が答える。
「死神という名前で申請されているな」
死神。その名前に一瞬だけ沈黙が降りた。
慈上神斗の個性について心当たりのあったのだろう。
指定ヴィラン団体、神性教団による特定個性の作成を目的とした個性婚。
その実、個性婚とは名ばかりの人体実験が行われていた。
神性教団の殆どは捉えることができ、教団も既に解体済み。
しかし、教祖と2人の構成員が未だ捕まっていない。
そして、慈上神斗は神性教団の悲願だった、神を宿した個性の完成形。
教団で産まれた子供の中で
雄英高校の教師は、いずれも名高いヒーロー陣で構成されている。
故に危険視されているその事柄について知識があったのだろう。
だが、そこは雄英教師。
ヒーローとして重要なのは現在だと理解している。
現にその慈上神斗は、ヒーローを目指すために雄英へ訪れたのだから。
「んんっ!」
その沈黙を破るように1つ咳き込むと、モニターへと注目を促す。
そして、受験生の個性についての話を続行させた。
「物騒な名前だが、使用した能力と名前に共通点がないな。どういう個性だ?」
「ああ、その事なら少し知っているよ!」
疑問に答えてくれたのは他でもない。
二本足で歩くネズミのような人物。
雄英高校の校長。根津、その人だった。
「死神という個性名だが、実際は魔法使いの様な個性なのさ。杖の方はよく分からないけど、魔法の方は攻撃系と妨害系で2種類の魔法を扱えるそうだよ」
「へぇー、汎用性の高そうな個性ですね」
「しかも、映像を見る限り少なからず治癒も行えるらしい」
「回復系の魔法ってことですかね。だとしたら今後は医療知識も教えた方が良さそうだ」
実際に慈上が他の受験者を治療している場面がモニターで映し出されていた。
また別のモニターでは同じく受験者のフォローを行っている様子が映されている。
「怪我人や困っている人がいないかよく周りを見れている。他者を気遣えるヒーロー精神を持っているね」
「ただ、その分と言っちゃあなんだが、戦闘中は視野が狭くなるようだ」
慈上が破道の七・
続けて破道の四・白雷を撃って仮想ヴィラン2体を貫いた所も流れる。
風走では地面や周囲の建物に傷がつき、白雷では技の貫通力が高すぎたのか、倒した仮想ヴィランの後ろにある建物に穴が空いている。
「これがなければ、実技1位も有り得たんだがな」
教師の1人が気難しそうな表情を浮かべて呟いた。
「人的被害はなかったが、公共物には結構被害があったからな」
前の言葉へ別の教師が同意するように言葉を紡いだ。
「魔法のようなことが出来る個性。どこまで自由度があるか不明だが、汎用性が高そうな個性だ」
試験映像を見ながら雄英の教師たちは引き続き、それぞれ感想を言い合う。
その様子を見ながら無精ひげを生やしくたびれた姿をしている教師は、1人思案していた。
彼はヒーロー名、イレイザーヘッド。本名、相澤消太。
次年度の1年生を担当する教師である。
(慈上神斗。どうも行動にチグハグさを感じるな)
彼は試験中の慈上の行動を見ながら、どこか薄っぺらい印象を受けていた。
眉間にシワを寄せて相澤は映像を睨みつける。
(戦闘中は周辺被害を考えず戦う。かと思えば、救助を行える精神も持っている。その際は周辺視野も広いにもかかわらず、戦闘中だけ被害を気にせず戦う。行動が相反しているな)
腕を組んでしばし目を閉じる。
だが合理的に考えた結果、時間の無駄だと判断して考えを放棄した。
どうせ雄英に来ることは確定しているのだ。
ならば、実際に会ってみて判断した方が早い。
それに、ヒーローとしての心構えを教えたり、行動を矯正するのも教師の仕事である。
今、思考を巡らせても仕方がないことだ。と相澤は判断した。
(なんであれ、適正無しだと判断すれば除籍処分にすればいい)
相澤は静かにため息を吐くと、自らの中で決意を固めた。