BLEACHによって変質した『死神』の個性   作:らいこう

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修正:後半の三人称だったところを一人称に変更しました。


第4話 ヒーロー基礎学

 

 次の日。午前は普通の教科の授業を行い、午後の時間。

 待ちに待ったヒーロー基礎学の時間がやってきた。

 俺が強くなるための授業内容が行われるかどうか。

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」

 

 午前の授業でもヒーローが教師をしていたが、ヒーロー基礎学はどうやらオールマイトが担当するようだ。

 

「オールマイトだ……!! すげえや、本当に先生やってるんだな……!!」

 

銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームだ……!! 画風が違いすぎて鳥肌が……」

 

 教室内がにわかに騒がしくなる。

 ヒーローを目指す者からしたら、オールマイトは生ける伝説だ。

 だからこそ、彼らの熱意は理解出来た。

 俺もあのオールマイトに教えを乞えるということに惹かれるものがある。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為。様々な訓練を行う課目だ!!」

 

 そして、単位数も最も多い授業だとオールマイトが付け加える。

 

「早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」

 

 BATTLEと書かれたプレートが突き出された。

 

「戦闘……訓練……!」

 

 教室内に緊張と高揚の波が広がる。

 

「そしてそいつに伴って……こちら!!!」

 

 その言葉を合図として教室の壁がひとりでに動き始めた。

 出てきたのは1〜20までの数字が記されたケース。

 

「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた……戦闘服(コスチューム)!!!」

 

 その言葉に思わず席を立った生徒まで現れた。

 ヒーローとコスチュームは切っても切り離せないもの。

 それゆえ、ヒーローを目指す人間は戦闘服に憧れる。

 

 かく言う俺も入学前に気合を入れたイラストを提出物したので、僅かばかりソワソワしてしていた。

 BLEACHの服といえばアレだからな。

 

「着替えたら順次、グラウンドβに集まるんだ!!」

 

「はーい!!!」

 

 教室内に統一された声が反響した。

 

「格好から入るってのも大切な事だぜ、少年少女!! 自覚するのだ!!!! 今日から自分は……ヒーローなんだと!!」

 

 ※ ※ ※

 

 場所は移り、現在地はグラウンドβ。

 着替えるのが早く済み、他の生徒よりも早くグラウンドβに到着した。

 

「むっ、先客が居たか」

 

「おっ慈上じゃん、早かったな」

 

 少しだけ遅れて上鳴と常闇がやってきた。

 

「僕は戦闘服(コスチューム)がシンプルですから。だからでしょうね」

 

 そう言いながら見やすいように、裾を掴んで服を軽く広げた。

 

「そういうお2人もお早いですね」

 

 軽く微笑みながら言うと、上鳴はふっと笑いながら肩をすくめる。

 

「俺らもシンプルなコスチュームだしな。こうして見ると俺らって案外、質素つーか簡素つーか……」

 

 彼は自分のコスチュームを見下ろし、少し気恥ずかしそうに手で服を撫でる。

 

「でも、乱雑すぎるより断然いいと思いますよ。分かりやすいですから」

 

「ま、それもそうだな」

 

 上鳴は頷き返し、視線を俺の方に戻した。

 

「てか、慈上のコスチュームって和服?」

 

「ええ、着物と袴を黒に統一しています」

 

 返答しながら、俺は袖を軽く整えた。

 

「さほど着飾っていないのだな」

 

 常闇が静かに呟くように言い、彼は俺のコスチュームに視線を向ける。

 

 白い襦袢の上から黒色の着物と袴、腰には白い帯を前側で蝶結びにしている。

 BLEACHに登場する、席官や黒崎一護と同じ服装だ。

 死神といえばこの服装だろう。

 

「個性に比べて地味目だな? なんか、こだわりとかあんの?」

 

 上鳴が俺の服装をじっくり見ながら問いかけてきた。

 

「ええ、僕の個性に合うコスチュームを考えた時、この衣装が、いの一番に思い浮かびましたから」

 

 俺は胸元の布地を少し整えながら答える。

 

「へぇ〜、自分にしか分からない的な?」

 

 上鳴はニヤリと笑いながら、興味深げに問い返してくる。

 おそらく、ヒーローを目指す奴にありがちなことを想像したのだろう。

 子供の頃に自分のヒーローコスチュームを考えるというものだ。

 人によっては黒歴史に当たるのかもしれないな。

 

「そんなところですね。因みに名前は死覇装です」

 

「しはくしょう?」

 

 上鳴は少し戸惑いながらも口にする。その時、常闇が静かに反応を示した。

 

「ほう……良いな」

 

 常闇は静かに頷いて眼を細くすると、小さく呟いた。

 

「そういう上鳴くんのコスチュームも黒系の服ですから、髪色が良く目立ちますね」

 

「地味になっちまったかと思ったけど、二人を見てっとそうでもなさそうで安心したよ」

 

 上鳴は自分の服に視線を落としながら、少しホッとしたように笑った。

 

「良く似合っていますよ。ジャケットとズボンに、イナズマの模様が統一されていてオシャレですね」

 

「だろ〜? 俺も気に入ってるよ!」

 

 上鳴は自慢げに笑いながら、自分のジャケットを軽く引っ張って見せた。

 

「にしても、こうして見ると見事に3人とも黒色だな」

 

 上鳴の軽口に自然と視線を巡らせると、確かに3人とも黒尽くめだ。

 揃いも揃って暗い色に包まれた姿に、苦笑が漏れる。

 

「そうですね。常闇君はマントで隠れていますが、その中も黒で統一しているのですか?」

 

「ああ、俺は個性の関係上、この方が都合がいいのでな」

 

 常闇は目を閉じ、落ち着いた声で答える。

 クールを装っているが、はたから見るとすごく厨二病感が漂う振る舞いだ。

 まあ、まだ高校一年生だしな。

 

 個性という超常の能力があれば、そういうのに拍車がかかってもおかしくない。

 ただ、そういう彼だからこそ、言葉を交わしやすく分かりやすい。

 

「君によく似合っていますよ。常闇くん風に言えば影の守護者のようだ、と言った所でしょうか」

 

 俺は口元に軽く微笑みを浮かべ、彼に称賛の言葉を送る。

 

「影の守護者か……フッ、(いささ)か仰々しいな。だが、このコスチュームの魅力を理解できるとは、見る目がある」

 

 少し誇らしげな表情を見せた常闇が、静かに笑った。

 彼の言葉には、自分のスタイルに対する自信が込められている。

 

 そうして、俺たち3人はしばし雑談に興じていたが、いつの間にか他の生徒たちも続々と集まり始めた。

 

「さあ!! 始めようか有精卵共!!」

 

 生徒が全員集まったことで、ついにヒーロー基礎学が始まった。

 オールマイトから、ヒーロー基礎学の授業内容について説明が行われる。

 

 要約すると、これから行うのは屋内での対人戦闘訓練。

 ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計によると凶悪なヴィランは屋内に潜むことが多いらしい。

 

 だから、実技入試で使った市街地を模したグラウンドβで訓練を行うことになった。

 

 訓練は『ヴィラン組』と『ヒーロー組』に分かれ、2対2の屋内戦を行う。

 オールマイトの語る状況設定としては、ヴィランが核兵器を隠し、ヒーローはそれを処理するというものだ。

 

 ヒーローの勝利条件は15分の制限時間内にヴィランを捕まえるか、核兵器を回収すること。

 一方で、ヴィランは制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえれば勝ちだ。

 

 これらを理解した後、くじ引きでペアと対戦相手が決められた。

 俺のペアは口田だ。

 くじ引きとはいえ出席番号順になったのは偶然なのかね。

 対戦相手は青山と芦戸のペアで、芦戸たちがヒーロー組、俺達がヴィラン組だ。

 

 ペアも対戦相手も決まり、一同は訓練場の建物内に入り、地下のモニタールームで試合の観戦を行うこととなった。

 ビルの地下にこんな場所を用意しているとは、さすが雄英。規模感が違う。

 

 そうして前に行われた訓練によってビルの移動を挟んだが、ついに俺達の順番がやってきた。

 

「それじゃあ行こうか」

 

 ビルの前で口田と言葉を交わし――口田は終始無口だが――彼は俺の言葉にコクコクと頷きを返してくる。

 

 二人揃って早速建物に入った。五分後にはもうヒーロー組が入って来ることになる。

 それまでに、作戦の立案と準備を行わなればならない。

 

 ただ、口田とはまともな会話ができないのが足を引っ張る。

 無口にも程があるだろ。作戦会議ですら喋らないなら、いつ喋るんだよ。

 ペアの不甲斐なさに、内心でため息を吐いた。

 

 ただ、一応個性把握テストでこいつの個性は知っていたので、何ができるのかはわかっている。

 鳥類を操っていたことから、おそらく動物系を使役できる個性だろう。

 戦闘能力はあまりなさそうだが、妨害くらいはこなせるだろう。

 

 正直足手まといだが、そう邪険にもできない。

 

 いっそのこと1対2で戦えればいいが、他の生徒は地下のモニタールームで見ている。

 加えて音声はオールマイトに聞かれている。

 ならば今後の評価にも関わってくるので、変な行動はできなかった。

 仕方なく作戦を考えるため、少し思考を巡らせる。

 

 時間がないので簡単なものしか考えられないが、一つだけ作戦が思い浮かんだ。

 

 口田には芦戸の足止めでもしてもらうか。

 あいつ相手なら鳥類を傷つけまいと、酸の使用を制限できる。

 その間に俺が青山を捕らえて、後は流れでなんとかなるだろう。

 

 思考をまとめると、今考えた作戦を口田に伝える。

 

「何か質問はあるかな?」

 

 口田は手と顔を横に振って、問題ないことを示した。

 

「では、ヴィランチームっぽく悪辣にいきましょう」

 

 口田は少し戸惑うように頷いた。

 ヒーローを目指しているのだから、卑怯と思われる行動には忌避感があるのだろう。

 

「消えた足音、風に舞い、波打つ影が道を描く。

沈んだ星が記した導べ、刻まれた傷が軌跡をたどる。

縛道の七・千眼(せんがん)

 

 ――屋内対人戦闘訓練が開始された。

 

 ※ ※ ※

 

 ヒーローチーム、芦戸と青山がビルに潜入を開始して、建物内を移動していた。

 現在は三階まで進んでおり、順調に行動ができていた。

 

 順調に進んでいたからか芦戸は少し浮ついており、調子に乗った彼女の酸が青山のマントを僅かに溶かしてしまうというハプニングが起きるほど。

 その状況に青山は目に見えて落ち込んでいた。

 対して、芦戸は浮ついた笑顔を浮かべて平謝りをしている。

 

 そんなやり取り最中、突如、二人の頭上の天井が崩れ落ちた。

 さすがはヒーローの卵。芦戸と青山はとっさに回避行動を取った。

 しかし、それは上からやってきた襲撃者の狙い通りだった。

 

 二人は見事に反対方向へ分かれてしまったのだ。

 

「あ、やばっ!」

 

 芦戸は自分たちの状況を見て、分断されたと気づいたのだろう。

 だが、今更気づいても遅かった。

 

 四階から通路へ降り立った二人組――口田と慈上(しかみ)は作戦通り行動を開始した。

 

疾閃(しっせん)揺空(ようくう)虚塵(きょじん)・波を散らせ。破道の九・吹衝(すいしょう)

 

「うぐっ!」

 

 着地と共に慈上の指先から衝撃を伴うエネルギーが、青山へ向かって放たれた。

 突然の乱入者に驚いた青山だが、咄嗟に腕を交差させて身を守ろうとする。                        

 だが、慈上の放った緑の光球は青山のガードの上から彼を吹き飛ばした。

 彼は背中から吹っ飛び、ゴロゴロと床を転がり倒れ伏した。

 

「青山!」

 

「心配している暇があるのかな、ヒーロー?」

 

 芦戸が青山の名前を叫ぶが、行く手を阻むように慈上と口田が立ちふさがる。

 

(れき)(ばい)崩滅(ほうめつ)

 

「やらせるもんか!」

 

 詠唱の隙を狙って芦戸が慈上に向かって飛び出す。

 しかし、それをわざわざ口田が通すわけがなかった。

 彼は"個性"で使役した鳥類を芦戸の前に向かわせると、彼女の進行を阻んだ。

 

「ちょっと! 邪魔だよ!」

 

「裂け・覆い・滅せよ。破壊は影に、音は闇へ。瞬く間に、瓦礫の道を。縛道の八・崩撃(ほうげき)

 

 詠唱は進行を僅かに邪魔されただけで完成した。

 立てられた二本指の先には青白い霊子が集まり、光球を形成している。

 内側には微細な閃光が踊り、周囲の空気を歪めている。

 

「なんか当たったらヤバそう!」

 

 芦戸は前方を阻む鳥たちの隙間から、慈上の指先に注目した。

 

 ――避けてから、一気に距離を詰める!

 

 瞬時に状況を見極めた芦戸は、どちらが厄介か判断し、、慈上の動きを逃さないよう意識を集中させる。

 慈上が狙いを定めたのを確認すると同時に、彼は短く口田に合図を送った。

 

「今です!」

 

 口田の指示に従い、鳥たちは芦戸の前から退く。

 その瞬間、慈上は指を振り、光球を前方へ投げ放った。

 

「アブなっ!」

 

 芦戸は飛んでくる光球を飛び退いて回避する。光球は力強く放たれ、青い尾を引きながら芦戸の足元へと着弾した。

 

 彼女は光球を回避したが、光球は最初から彼女の足元を狙って放たれたものだった。

 

「ちょ!? うわっ!」

 

 着弾と同時に光球は拡散し、床材は瞬時に崩れ始める。

 足元の崩壊に合わせて、彼女は見事に一階へと落下してしまった。

 

「それでは、そちらは頼みましたよ。後は作戦通りにお願いします」

 

「うん!」

 

 口田は短く返答を返すと、一階へ落ちた芦戸を追うために階下へと降りていった。

 そして、慈上は立ち上がった青山へと顔を向けると鷹揚とした態度で言葉を紡ぐ。

 

「さてさて、体調はいかがですか」

 

「いきなり、やってくれるね☆ でも良かったのかな、わざわざヴィランが目の前にやってくるだなんて☆」

 

 彼は慈上の放った攻撃によって痛む体を起こすと、気丈に振る舞って言葉を返してみせる。

 少しでも気を抜けばヨロケてしまうが、青山は気合で踏ん張っていた。

 

「問題ありませんよ。だって、あなたはここで倒れるのですから」

 

 言い終わるやいなや慈上(しかみ)は地を蹴り、青山との距離を詰め始めた。

 

 ――慈上VS青山 Match Up!!

 

 ※ ※ ※

 

 同ビルの地下にあるモニタールーム。

 ここでは、現在訓練中の4人を除いた面々が、見学を行っていた。

 

「おお、始まったな!」

 

「いきなり分断とは狡猾だな」

 

 切島は前のめりになり、興奮を隠せずに声を上げた。

 彼の拳は固く握られ、戦闘の展開を見逃すまいと目を輝かせている。

 

 それに対し、飯田は背筋を伸ばし、冷静な声で状況を分析する。

 彼の表情には、ヴィラン役としての振る舞いに徹する慈上の戦略を称賛する色が見えた。

 

 薄暗い光に照らされたモニタールーム内では、クラスメイトたちがそれぞれの思いを抱きながら戦況を見守っていた。

 

「ていうか、どうやって位置が分かったんだ?」

 

 上鳴が首をかしげながら疑問を口にする。

 彼の眉間には困惑が浮かび、映像を凝視する視線が鋭くなった。

 

「映像を見るに、おそらく慈上ちゃんが索敵をしたんだと思うわ」

 

 そんな上鳴の疑問に答えたのは、カエルの"個性"を持った少女、蛙吹梅雨だ。

 彼女は冷静に答えながらも、その鋭い観察力で状況を的確に把握していた。

 

 映像の中では慈上が巧みに青山との距離を詰めている。

 青山はといえば、どうにか離れようとビームで牽制しながら下がろうとしていた。

 

 的確な判断で行動している双方の姿が映るたびに、モニタールームの緊張感が高まっていく。

 クラスメイトたちは息を飲みながら、その戦闘技術に圧倒されていた。

 

「イケメンのくせに強個性とか、ズリーぞ! 不平等だ!」

 

 峰田は嫉妬の声を上げ、画面に映る慈上を睨みつける。

 その目は悔しさと羨望が入り混じった感情で揺れていた。

 

「近接もお手の物か……青山が遊ばれているな」

 

 映像の中では距離を詰め切った慈上が、近距離戦で青山を翻弄する姿が映し出されていた。

 常闇は腕を組み、冷静に戦況を見守る。

 彼の瞳には慈上の動きの一つ一つが確実に映し出されており、その技術に対する評価が静かに表れていた。

 

(短い時間で作戦を立案できる頭の回転の速さ、索敵から戦闘までこなせる個性、さらに近接戦もこなす技術力……随分と優秀な子だ!)

 

 オールマイトの心の中に感嘆の声が響く。

 慈上は冷静かつ迅速に行動を起こし、まるで何手も先を見越して動いているかのようだ。

 彼の目には訓練とはいえ、その完成度の高さが明らかに映っていた。

 

(そして、入試で見せたあの杖……今は奥の手として隠しているのか?)

 

 映像に映る慈上は、入試の時に使った特異な武器は一切見せていない。

 それがまだ隠された切り札として存在しているのかもしれないと、オールマイトは思わず推測する。

 

 彼の視線は次第に、対戦相手の青山に移っていく。

 慈上の巧妙な戦術の前で、青山は明らかに苦戦を強いられていた。

 オールマイトは青山がこの不利な状況でどのように戦うかに興味を抱きながらも、少し憐れみを感じていた。

 

(相手が悪かったな、青山少年……だが、この逆境でどう立ち向かえるかが、君にとっての大きな成長の鍵だ)

 

 心の中でそう呟きながら、オールマイトは青山が困難に立ち向かう姿を期待して見守り続けた。 

 

 ※ ※ ※

 

「君の個性、発動するには長い詠唱が必要なようだね☆」

 

 青山は自信満々に微笑み、俺を挑発するようにマントを翻しながらポーズを決める。

 この光景も地下のモニタールームで、生徒らとオールマイトが見ていることだろう。

 そして、何をしているかはオールマイトが伝えているかもしれないな。

 

 だからといって、この状況はピンチでもなんでもない。

 青山の挑発に対して俺は冷静に返す。

 

「それがどうかしましたか?」

 

「明確な隙! ってことさ☆ さあ、撃ってきなよ?」

 

 青山はそう言いながらも、俺の詠唱の時間を指摘して自分の優位性を示そうとしている。

 俺の心の中では青山の挑発を楽しむ一方で、彼の思い込みに軽くがっかりしていた。

 実際には詠唱が長いというのはただの誤解であり、俺は詠唱破棄を使って即座に対応できるからだ。

 

「その隙を僕は見逃さないけどね☆」

 

「では、お言葉通り。縛道の五・鎖星(かせい)

 

 俺はそのまま詠唱を始め、すぐに詠唱破棄で縛道を発動する。

 青山が驚愕の表情を浮かべるのを見ながら、内心では青山の実力が思ったよりも低いと感じていた。

 

「エ゛ッ゛!?」

 

 青山の驚きの声が通路に響く。

 彼は、俺が足元から出現させた複数の鎖にあっさりと捉えられてしまった。

 鎖は青山と地面を結びつけ、抵抗する動きに呼応して金属音が響き渡る。

 

「うぐっ! やばっ、大ピンチ☆」

 

 青山の声には焦りと困惑が滲んでおり、その様子がどうにも愉快だ。

 俺は内心で青山の意外な弱さに少しがっかりしながらも、外面的には冷静で模範的な優等生として振る舞い続ける。

 このままうまく立ち回れば、学校での環境に有利な印象を残すことができるだろう。

 

「さあ、ヒーロー? お望み通り個性を発動しましたが、あなたはどうするのですか?」

 

 余裕のある動作で、ゆっくりと一歩ずつ青山に歩み寄る。

 

「くっ!」

 

 青山は苦し紛れにビームを放つが、簡単に一歩横にずれるだけで攻撃を避ける。

 ビームは空を切りると、青い軌跡を描いて後方の壁を破壊するだけで終わった。

 

「攻撃先が透けていれば、避けるのは容易い」

 

 俺は冷静に呟き、再び縛道を発動する。

 

「縛道の九・撃」

 

「ううっ!」

 

 赤い光が青山を包み、彼の動きをさらに制限する。

 青山が苦しそうに呻きながら縛道の力に抵抗しようとするが、その努力は無駄だった。

 

「さて、ではこれで」

 

 俺はゆっくりと確保テープを取り出し、青山の体に巻きつける。

 テープが巻かれると青山は完全に無力化されたと判断し、動くのをやめた。

 

「フッ、僕の負けだよ☆」

 

 青山は軽く笑みを浮かべると、(いさぎよ)く負けを認めた。

 彼の言葉に対して、俺はほんの少しだけ感心したように頷く。

 青山は正直なところ強くはなかったが、その潔さと戦いの過程を少しは楽しませてもらった。

 

「強かったですよ、青山くん」

 

「そうだろう? ところで、僕のこのコスチューム見てみなよ? かっこいいだろ?」

 

 青山は自分のコスチュームを誇らしげに見せつけるが、俺は無視して口田に連絡を取ることにした。

 この状況での青山の扱いはこれでいいだろう。

 

「それでは訓練終了まで、そこでじっとしていてくださいね」

 

 そう告げると、俺はその場を後にする。

 これで作戦の第1段階は終了だ。

 次の段階に進むため、インカムを通して口田に指示を送った。

 

「口田くん、こちらは無事青山くんを確保しました。後は作戦通りに誘導をお願いします」

 

 俺は口田に連絡を入れた後、作戦通りに進行するために移動を開始する。

 

 今回の訓練で俺が考えた作戦はシンプルだ。

 まずは『縛道の七・千眼(せんがん)』を使って周囲を索敵し、ヒーロー組が三階まで上がってくるのを待つ。

 次にタイミングを測って『縛道の八・崩撃(ほうげき)』で四階の地面――ヒーローチームのいた三階の天井を崩して分断を狙う。

 その後、同じように『縛道の八・崩撃(ほうげき)』で芦戸を二階に落とし、一対一の状況を作り出す。

 

 これが現状までの作戦だ。

 あとは、二階に降りれば二対一の状況になる。

 

 俺は心の中で作戦の進行を確認しながら、二階へ降りる準備を整えていた。

 事前に口田には、芦戸の背中側に二階の階段を向けるように指示しておいた。

 この仕込みがあれば俺が二階に降りると、芦戸は俺に背後を見せた状況で挟み撃ちになる。

 

(だから、俺がこうして2階へ降りると……背中がガラ空きだ)

 

「っ!?」

 

 俺が階段を一歩一歩慎重に降りていくと、突然、芦戸が背後の気配に気づいた。

 彼女は急いで視線を振り向け、俺の姿を視界に捉えた。

 後ろから不意打ちができれば、と一応足音を消して移動したのだが気づかれたようだ。

 

「青山やられたの!?」

 

 芦戸の驚愕の声が通路に響く。

 俺が足音を消して移動したにも関わらず、気づかれてしまったのは少々予想外だった。

 しかし、今の状況を有利に進めるためにはすぐに反応する必要がある。

 

「ご安心を。ただ、捕まっているだけです。それで……投降してもらえますか?」

 

「冗談!」

 

 芦戸は俺の提案を一蹴し、戦いの準備を整える。

 その様子を見て、俺は口元にニヒルな笑みを浮かべた。

 

「でしょうね。さあ、挟み撃ちです。この状況、あなたならどうしますか?」

 

 前方には口田と彼の使役している鳥たちが控え、後方には手傷を負っていない俺がいる。

 

 ヒーローの勝利条件はヴィラン組の確保か核兵器の回収だが、核兵器の回収は既に不可能だ。

 残る選択肢はヴィラン組の確保となる。

 

 しかし、戦況は非常に不利で青山は確保され、芦戸は二対一の挟み撃ちの状況に直面している。

 ヒーロー組が勝つには速攻でヴィランを一人確保し、一対一の状況に持ち込むしかない。

 

 芦戸は勝利を諦めず、必死に思考を巡らせている様子が見受けられる。

 彼女の焦りや緊張が伝わってくるが、その一方で俺は次の一手を考えながら余裕を持って戦況を進めていた。

 

 しばしの膠着状態の中で、俺は周囲の状況を冷静に観察していた。

 地面や壁面には、戦闘の痕跡がいくつか残っている。

 

 鳥はほぼ無傷。口田も同様。こいつ、個性使わなかったな?

 

 二階に残る痕跡を確認した結果、酸が全く飛び散っていないことに気づいた。

 これから芦戸が選ぶ選択肢は一択だろうと、心の中で分析する。

 

 ならば、隙でも見せれやれば良い。

 そう結論を出すと、油断なく前後を警戒する芦戸を見ながら、俺は詠唱を始めた。

 彼女の心の中で選択肢が狭まっていくのがわかる。

 その様子を楽しむように、俺はじっくりと詠唱を進めていく。

 

「星を織りし天の影 束縛の閃光・隠れし刻 銀色の糸――」

 

「今っ!」

 

 芦戸は俺の詠唱中という隙を見逃さず、突撃を決意した。

 口田の方へ酸を飛ばして牽制しながら走り出す。

 だが、狙い通りだ。

 

「残念、フェイントだよ」

 

 俺は詠唱を止め、芦戸の伸びてくる腕を冷静に避けた。

 そして、彼女の動きに合わせて的確にカウンターを放つ。

 

 ――バチンッ!

 

 芦戸の腕を弾いた瞬間、彼女は逆に大きな隙を晒すこととなった。

 

「あ、やば――」

 

「ヒーローはお辛いですね。いくら強い個性でも、他者を気遣うために性能を満足に発揮できない」

 

 俺は冷たく言いながら芦戸の腕を掴んで引き寄せ、体制を崩させると足を引っ掛けて転ばせた。

 そのまま流れるように後ろ手に拘束する。

 

「だから、読みやすい」

 

 芦戸を拘束した俺の元へ、確保テープを手にした口田が駆け寄ってくる。

 

『ヴィランチームWIN!』

 

 オールマイトの決着を告げる声がビル内を響き渡る。

 こうして、俺と口田のペア、芦戸と青山のペアによる"屋内対人戦闘訓練"は終了を迎えた。




上鳴の口調がアレであってるのか分からんけど、結構ノリで書けたからあいつはいい奴。
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