ダンガンロンパ─imitation game─ 作:こぴーきゃっと
Prologue─1
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──退屈な授業中、先生の目を盗んで居眠りする時間が好きだった。
咎められるべき悪いことではあるが、犯罪として裁かれる程ではない悪事。人間の三大欲求である睡眠欲に敗北し、未来の自分の成績という財産を食い潰して得る一時の快楽。自らの寿命を縮めてまで煙草を吸う大人のことが理解出来ないと口では言ってみせるが、高校生活に於ける寿命、財産を失ってまで居眠りをすることは煙草とそう変わらないんじゃないだろうか。
そう思うと、この幼稚な行為もまるで斜に構えた大人になれたようで、少し優越感すら感じてしまう。チャイムの音で目が覚めた時に、首や腕が痺れて痛くなっているのすら、快感の代価としていいスパイスだ。
硬い椅子。小さな机。ぼんやりと明るい部屋の中。
痺れる腕の痛みでぼんやりと目を覚ました俺は、ぼやけた頭と目で辺りを見回した。
「あれ……教室……?」
規則的に並べられた学習机と椅子。前方には教壇と、大きな黒板。黒板の上に時計の代わりに設置されているのは、テレビモニターだろうか。
どうやら俺は学校の教室で席に座り、居眠りをしていたらしい。教室に他の生徒の姿はなく、時計すら存在しないこの教室は秒針が動く音すら聞こえない、完全に静かな空間となっていた。
──えっと、なんで俺はこんな所で寝てるんだっけ。
寝ぼけているからなのか、まだ頭が覚醒していないのか、俺はどうしてこの教室で寝ていたのか、その前は何をしていたのかがイマイチ思い出せない……いや、授業中に居眠りをすることは結構ある方なので、多分授業が退屈で寝てしまったんだとは思うが……そもそも今は何時限目なんだ?
時計を見ようとしてもこの教室には時計が無い。仕方なく窓の外を見て、外の明るさで大体の時間を予想しようとした──のだが。
「っ……なんだよ、これ……!?」
寝ぼけていた俺を覚醒させ、同時に驚きと謎の恐怖感を与えるには十分過ぎる光景がそこにはあった。本来外が見えるであろう教室の窓は……全て巨大な鉄板が打ち付けられていたのだ。これじゃ窓を開けて外の風を感じるどころか、太陽の光すら一筋も教室に射し込むことは無いだろう。当然、外の様子がわかる筈もなく……結局、今が何時なのかはわからなかった。
だけど、その驚きと恐怖心で脳が覚醒したお陰だろうか。俺は少しづつ、この教室で眠る前に何をしていたのかを思い出し始めていた。
ああ、そうだ。俺は確か──
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その巨大な学園は、都会のど真ん中の一等地に聳え立っていた。
まるで、そこが世界の中心でもあるかのように……。
──私立希望ヶ峰学園。
あらゆる分野の超一流高校生を集め、育て上げることを目的とした、政府公認の超特権的な学園。この学園を卒業すれば、人生において成功したも同然と言われている。
何百年という歴史を持ち、各界に有望な人材を送り続けている伝統の学園らしい。国の将来を担う「希望」を育て上げることを目的とした、正に「希望の学園」と呼ぶに相応しい場所だ。
そんな学園への入学資格は二つ。
一つは現役の高校生であること。
もう一つは各分野に於いて超一流であること。
新入生の募集などは基本的に行っておらず、学園側にスカウトされた生徒のみが入学を許可される。
そんなフィクションの世界でしか聞かないような、ふざけた学校の校門の前に──俺は立っていた。
改めて校舎を見上げてみると、その大きさに思わず気圧されそうになる。勿論、希望ヶ峰学園が実在すること自体は知っていたが、いざ目の前にすると「本当に存在したんだな」という感想が脳内に浮かんでしまった。
どうして俺──
【入学通知書 榊真司様】
【貴方を『超高校級の███』として、希望ヶ峰学園への入学が決定したことをお知らせ致します】
正直、自分が選ばれるとは思っていなかった為、最初はイタズラや偽造を疑った。だが、その後入学手続きの書類やパンフレットが続々と届いてくる様を見て、ああこれはイタズラなんかじゃなくて「ガチ」なんだな、と思い直すようになった。
卒業すれば、人生の成功が約束されている。そんな明るい未来や敷かれたレッドカーペットを歩むこと自体には正直そこまで魅力を感じなかったが、それでも自分の才能を認められて「超高校級」と称されるのは、今までの俺の人生や努力が実を結んだような気がして、有難く希望ヶ峰学園に入学させてもらう事にした。そしてそんな入学初日が今日というわけである。
これから共に学園生活を送るクラスメイト達も、もれなく全員何かしらの才能を持った「超高校級」の高校生達なんだろう。果たして仲良くやっていけるんだろうか? そしてそんな選りすぐりの才能ばかりを集めた学校のカリキュラムや学校行事は、一体どんなものなのだろうか? ドキドキやワクワク……いや、この学園風に言うなら「希望」だろうか。この先待ち受けているであろう学園生活に希望を持ちながら、俺は門をくぐり、その一歩目を踏み出した──
──視界が歪む。
「あ……? あれっ……」
世界が反転する。胃がかき混ぜられるような感覚。目眩、吐き気、頭痛、全身の痺れ。今自分は立っているのか、それとも倒れてしまったのか、それすらわからないような平衡感覚の喪失。舌が回らない。喉から声が出ない。息が詰まる──
────暗転。
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「…………そうだった、俺は希望ヶ峰学園に入学する為に」
覚醒した脳が記憶を掘り起こす。そうだ、俺は希望ヶ峰学園の門をくぐった瞬間──異様な目眩に襲われて、そのまま倒れ込んでしまったんだった。
だとしたら、この教室は希望ヶ峰学園の教室、ということになるんだろうか? 倒れていた俺を見つけた親切な先生か生徒が、教室まで運んできてくれたのかもしれない。
だが──もし本当にここが希望ヶ峰学園だったとして、あの異様としか思えない窓に打ち付けられた鉄板は何なんだ? それはどう考えても「希望の学園」の異名には似つかわしくない、暴力的で不安感を煽るオブジェクトにしか見えない。
脳が覚醒したとしても、状況は一切飲み込めなかった。自分が置かれている環境が理解出来ない。ここが何処なのか、今が何時なのか、俺はどうしてここにいるのか……何も理解出来ない。そして、どうして誰も教室にいないのか。急速に冷えていく手足の感覚。「一人ぼっちである」ということがやけに怖くなり、俺は思わず立ち上がらざるを得なかった。勢いを付けすぎて座っていた椅子を倒してしまい、ガランという音が教室内に響く。
とにかく、誰かに会いたい。
一人ぼっちは怖い。
そう思いながら、俺は教室の扉に手を掛け、震える手で扉を開け──
「うわっ、誰っ!? ……びっくりしたぁ〜」
「うおあっ!?」
──扉を開けた瞬間目に映ったのは、まるで予想外の出来事が起きたかのように飛び上がって驚いた顔をしている、金髪の女の子だった。彼女が上げた声に俺も驚いてしまい、思わず叫び声をあげてしまう。
「いや、マジでビビった……! あ、ゴメンね!? 今なんか教室から音がしたから何かあるのかなって思って扉に近付いたらさ、急に扉開くし人いるしでビビっただけだから! そのっ……えっと、大丈夫!?」
「あ、ああ……大丈夫だけど……」
「良かったぁ〜!」
金髪の彼女は腕をブンブンとオーバーに振りながら何故か俺に謝った。いやまあ確かに驚きはしたんだが、別に謝られることじゃないというか……。
改めて彼女の姿を見ると、かなり派手な見た目をしていた。セミロングの金髪は毛先に向かっていけばいくほど緩やかなウェーブがかかっており、長い睫毛に少し長めに引かれたアイライン。ナチュラルにも見えるが、多分これはギャルメイクというやつだろう。スカートは短く折っており、制服の上からクリーム色のカーディガンを羽織って、よく見ると爪も色とりどりに飾られている。誰がどう見てもギャルの女子高生、といった出で立ちだ。
「……あのさ。いきなりで悪いんだけど、ここって何処? 俺、気が付いたらこの教室で寝てたみたいで──」
「──やっぱり、アンタもそーゆー感じ?」
俺の質問に食って答えるような彼女の発言。アンタ「も」という言葉は、きっと俺が求めている答えがこれから帰ってこないことを予想させるには十分過ぎた。いや……一番聞きたくない答えが帰ってくるのかもしれない。
「……実は、ウチも気が付いたらこの学校……学校? みたいなとこにいたんだよね。希望ヶ峰学園に入学するぞー! ってとこまでは覚えてるんだけど……」
「希望ヶ峰学園って……まさか、君も!?」
「えっうん……あっじゃあアンタも入学生!? マジ!? やっば!!」
此処が一体何処なのか。その答えは結局解らずじまいの彼女の返答。だが、その予想を立てることは出来そうな答えは貰えたらしい。彼女も希望ヶ峰学園に入学する予定だった、ということは──この学校はやっぱり希望ヶ峰学園なのかもしれない、という予想。
というか、彼女も入学予定だったってことは……彼女も全国から集められた選りすぐりの「超高校級の才能」の持ち主だってことか。見た目からは想像も付かないが……人は見かけによらないって言うしな。
「ってことは、もしかしたらクラスメイトになるかもってことだよね!? ウチ、
「え? ああ、そうだな。俺は榊真司。よろしく」
御庄は屈託の無い顔でにししと笑いながら、ヒラヒラと手を振ってみせた。その笑顔は今の何もわからない恐怖心が蔓延る状況には相応しくなかったが……それでも、何故かその笑顔を見ると少しだけ元気になれる気がした。
「真司はさ、希望ヶ峰学園からどんな才能でスカウトされたの!? スポーツ系!? それとも勉強系!?」
興味津々、というような目の輝きでこちらを見つめる御庄。確かに希望ヶ峰学園に選ばれた生徒と会ったら、その才能がどんなものか気になるのは当然だろう。俺だって御庄がどんな才能で選ばれたのかは気になっている。
「ああ、俺は──」
──俺の才能は……。
あれ?
思い出せない。
頭の中に靄がかかっているような、そんな感覚。
まるで自分の記憶が、自分の才能が、丸ごと切り取られたかのように。そこにあったはずのものが、記憶が、全く無くなっている感覚。
俺の才能は、なんだっけ?
「俺の、才能は……悪い、思い出せない」
震える声で、それでもなんでもないように振舞いながらそう答えるしかなかった。自分のアイデンティティが奪われているような感覚。少なくとも自分の才能には、超高校級と呼ばれるに至るまでの過程は、俺にとって大切なものだった筈なのに。それが思い出せない。
「そっか、また思い出したら教えてよ。ぶっちゃけここが何処かもわかんないしどうやってここに来たのかも思い出せないんだし、他に忘れることがあってもしょーがないって感じ」
──そんな俺の様子を見て気を遣ってくれたのか、御庄はそれくらいなんでもないよというように笑いながら、優しい口調で励ましてくれた。
「あ、ちなみにウチはね、「超高校級の幸運」なんだって。全国のフツーの高校生の中から抽選で「幸運にも」選ばれた一人だけが、特別に希望ヶ峰学園に入学を認められるんだって! ウチがそのラッキーなフツーの高校生ってこと」
マジでラッキーだよね〜、とピースサインを作りながら笑う御庄。なるほど、確かに全国の高校生全員からたった一人だけ無作為に選ばれるとなれば、それは幸運の持ち主と言えるかもしれない。
「なので、ウチは実質特別な才能があるって訳じゃないから。今忘れてるだけでも、絶対真司の方がスゴイよ」
「そんなこと無いだろ。全国からランダムで一人だけ選ばれるなんて、すごいことだろ? それに、今は思い出せないけど……俺の才能は、もっとしょうもないかもしれないし」
「いやいや、それこそそんなコトないって! だって希望ヶ峰学園に選ばれてるんだよ? ウチが保証する、真司の才能はきっとスゴい!」
両手で握りこぶしを作って熱弁する御庄。なんというか……表情もだが手の動きが豊かだな。
だけど、そんな風に自信満々に励ましてくれる姿を見ると、自分の才能を忘れてしまっていることに対する負の感情が、少しだけ消えていったような気がした。元気が湧いてくるような、そんな気がした。
だが、目下問題はそれだけではない。
「……でも、真司も入学生だってことは、やっぱここって希望ヶ峰学園……なのかな?」
「わからない……だけど、希望ヶ峰学園がこんな仰々しい訳無い……よな」
「うん、多分……。ウチも隣の教室で寝てたみたいでさ、まだ他の場所とか全然見てないし。真司、一緒に見て回らない? もしかしたら他にも誰かいるかも」
「ああ、わかった。取り敢えずここが何処なのかと……何か事情を知ってる先生とかがいたらいいんだけど……」
そう言いながら俺は教室を出て、御庄と一緒に薄暗い廊下を見回した。電気は点いているはずなのだが、そもそもの明かりが弱いのと、床に敷き詰められた黒と赤のタイルが暗さを不気味さを強く演出している。普通学校の廊下っていえばリノリウムなんじゃないのかよ。
「あっちは階段と……宿舎エリア?」
「こっち側にも幾つか教室がありそうだな」
御庄が指差した先は、恐らく二階へ繋がる階段があるんであろう曲がり道と、真っ直ぐ進んだ先にある大きな扉があった。扉の上には大きな看板があり、「宿舎エリア」と書かれている。学生寮とかそういう話か?
御庄が指差した方と逆の方を見てみると、恐らく彼女が寝ていたらしい教室と、その先にまだ幾つかの部屋とスペースがありそうに見える。少し視線を上に向けると、俺が寝ていた教室は「1-A」、御庄が寝ていた教室は「1-B」らしいことがわかった。
「どっちから行く?」
「うーん……宿舎エリアに多分先生はいなさそうだよね。先にいっぱい教室がありそうな方に行こうよ」
御庄の提案に乗り、廊下をつかつかと歩いていく。一切窓が存在しない異質な廊下の雰囲気に呑まれてしまったのか、俺も御庄も一言も言葉を発することが出来なかった。
少し歩くと、丁字の分かれ道が現れた。真っ直ぐ進む道と、曲がる道。どうやらここを曲がれば「講堂」に行くことが出来るらしい。真っ直ぐ進めば更に幾つかの教室──一番手前にある教室の扉の上には「職員室」の文字が見えた。
「職員室! 先生とか、大人の人がいるんじゃない!?」
「ああ、間違いねえよ! 入ろうぜ!」
「うんっ! ヤバい、ウチ職員室に入るのがこんなに嬉しいの初めてかもしんない!」
全くの同感だ。いつもなら緊張したり、面倒だったり、入る瞬間にあまり良いイメージを持てない職員室だが、今はここに大人や先生がいて、この状況を説明してくれるに違いないと考えると一刻も早くその扉を開けて中に入りたい。俺は駆け足で職員室の扉に手を掛け──
──ガチャガチャガチャ!
「…………おい、開かねえぞ……?」
まるで鍵が掛かっているかのような──或いは、本当に鍵がかかっているのか。職員室の扉は固く閉ざされており、俺が押しても引いても、どれだけ力を入れてもビクともしなかった。
「えっなんで? ……マジで開かないの?」
「ああ、マジで開かねえ……なんでなんだよ……?」
ここに人がいるかもしれない、そうに違いないという希望を持ってしまったが故に、職員室の扉が開かないことに対しての絶望を覚えてしまう。突如、「本当にここには俺と御庄以外誰もいないんじゃないか」という薄らとした恐怖が俺を襲った。
「おーい! センセー! 誰かいませんか〜!? ここってドコですか〜!?」
御庄が開かない扉に向かって、大きな声で叫んでみせた。その声は廊下中に響き渡るくらいにはよく通り、扉を隔てた職員室の向こうにいるであろう人にも間違いなく届くはずの声量だ。
だけど──職員室の鍵は開くこともなく、当然のように誰も中から出てきたり、話しかけてきたりというレスポンスは起きなかった。
「……マジかよ」
「ねえ〜! 誰かいないの〜!?」
正直、その場にズルズルとへたりこんでしまいたかった。かなりの絶望。隣で必死に声を張り上げている御庄も、少しずつ参った顔になりつつある。
おもわず大きな溜め息をついてしまいそうに──
「やけに大きな声が聞こえると思ったら──なんだ、まだ人がいたとはね」
──突然、背中から掛けられた声。俺達は待ち望んでいたはずなのに予想すらしていなかった、俺達以外の声に驚き……飛び上がりつつもすぐに振り返った。
歳は俺達と変わらないくらいだろうか。銀色のウルフカットにキレ長の目は少しキツそうな雰囲気もあるが、同時にミステリアスで惹き込まれそうな雰囲気も醸し出している。一見スーツのように見える服装はブレザーにパンツスタイルで、その高身長からして男と見間違えそうになってしまうが、身体付きとさっき聞いた声が、確かに目の前にいるのは女性だと認識させていた。
「ククク、声を掛けただけでそんなに驚かないでくれよ。まあ気持ちはわかるが……」
「だ、誰だよアンタ……!?」
「私か? 私は
「きぼっ……え、なんでウチらが希望ヶ峰学園の新入生だって知ってんの!?」
入江七緒と名乗った女は、不敵な笑みを浮かべたまま──まるで俺達のことを全て知っているかのように、見透かすような声色で俺達のことを言い当てた。
どういうことだ。こいつも希望ヶ峰学園の生徒ってことは……もしかして超高校級のエスパーかなんかで俺達の心や境遇を読んだとでもいうのか?
「不思議そうな顔をしているな。どうして君達が希望ヶ峰学園の生徒だとわかったか知りたいみたいだが……正直対したトリックも何も無いよ。「他のメンバーも皆、希望ヶ峰学園に入学する予定だった高校生だったから」、君達もそうなんじゃないかと思っただけさ」
「他のメンバー……!? 俺達以外にもここに誰かいるってことか?」
「ああ。私と君達を入れて……16人かな。皆一旦講堂に集まっている」
「16人もいるの!? それが皆希望ヶ峰学園の新入生って……じゃあやっぱここって希望ヶ峰学園!?」
「どうだろうね……正に今講堂でも私達が議論しているのがそこさ。私も含め、皆ここに来るまでの記憶を失っているらしく.……君達2人が何か知っているなら話が進んで助かるんだけど」
入江は不敵な笑みを一切崩さず、簡潔に淡々と状況を説明してくれる。その様は俺達のように困惑や恐怖、絶望が滲み出ているというよりは──この非現実的な校舎や状況を楽しんでいるようにすら見えた。超高校級の才能を持ってるやつなんて一筋縄じゃいかなさそうなのは勿論だが、一体こいつの超高校級の才能ってなんなんだ?
だが、そんな余裕そうな入江でもここに来るまでの記憶や、ここが何処なのかといったことは全く解らず、覚えていないらしい。俺達に少し期待をしているらしいが……残念ながらその希望は無駄だ。
「ゴメン、ウチらも何も覚えてないしわかんないんだよね.……」
「なるほど……いや、まあ薄々予想はしていたがね。とはいえ、同じ境遇のクラスメイト候補が2人も増えるのは有難い。君達も一緒に講堂に来てくれないか? 今ここにいるメンバーで、現状の確認をしておきたいからね」
「……ああ、勿論だ。俺達も正直何もわからなくて困ってたんだ、他にも人がいるなら心強いぜ。御庄もそれでいいよな?」
「うん、勿論! 皆希望ヶ峰学園の新入生だったってことは、クラスメイトになるかもなメンツなワケだしね」
御庄は満面の笑みでコクコクと頷いた。こいつは本当に一々動きが大きいな……。
職員室で大人を探すという目的は達成出来なかったが、入江を始め他にも沢山人がいることが解ったのは本当に心強い。俺の心の中に、少し希望の光が射し込んできた。
「それじゃ、講堂までついてきてくれ。そこに他のメンバーもいるから、その時に君達の名前と超高校級の才能を聞かせて貰おうかな。私もその時に改めて自分の才能を紹介しよう」
そう言いながら、入江は踵を返して悠々と歩き始めた。俺と御庄もその後についていく。
他の希望ヶ峰学園の新入生か……一体どんな奴らが集まっているんだろうか。
御庄はこの短時間でもかなり気がいい奴で、普通に陽キャのギャルって感じだけど……逆に入江はこの短時間でもかなり一筋縄じゃいかなさそうな奴だと確信できる。皆御庄みたいなやつなら良いんだが……入江みたいな奴ばっかりだと大変かもな……。
「……それにしても、講堂の中まで聞こえる大きい声だったな。不審に思って確認に来て正解だったよ」
「…………ねえ、真司。ウチの声ってそんなにデカかった?」
「まあ……デカいというかよく通ってはいたな……」
結果として入江が不審に思って見に来てくれたから、まあそれが助かったと言っていいんだが……女子からしたら「声がデカい」というのは恥ずかしいらしい。御庄は少し恥ずかしがっていた。