・実験は24体の実験体を3体1組(以後チーム)とし、計8チームを無人島(以後ルミア島)に解き放ち行う。
・実験体が用いる武器防具等の装備、食品は全て各実験体によって現地で調達させる。
・ルミア島は20の区域に分割されている。実験中、研究所は進入禁止区域とする。
・時間経過と共に進入禁止区域を制定し、これを最後の1つになるまで継続する。
・上記を最後の1組が決定するまで行う。
・より良好な結果を得るため、実験開始より48時間以内は実験体のチーム全員が死亡しない限りこれを必ず蘇生する。
・48時間経過後は蘇生は有償とし、後述の仮想通過の決済により行う。
・96時間経過後は如何なる蘇生も行わない。
「大体の問題は、爆発で解決できる」
そう言ったオレンジの作業着を着た水色の髪の女性、セリーヌはにへらと笑った後、川の中で爆弾を爆発させた。雨のように降る水飛沫、その後に続くように川にいた魚が数匹降ってきて陸に打ち上げられた。
「…確かに効率は悪くないかもしれないが…普通に釣ればよかったんじゃないか?」
傍でそれを見ていた大きな斧を携えた筋骨隆々の大男、マーカスは溜息をつきつつセリーヌが釣り上げた?魚を集める。
「じきにエイデンも合流するだろう、毎度こうでは目立ちすぎるぞ」
そう、ここでは生き残りをかけた殺し合いが繰り広げられている。故に迂闊な真似をしてみすみす敵に見つかるのは得策とは言えない。のだが…
「うん?探す手間が省けて、良くない?…まとめて爆発させれば、一網打尽」
一体それの何が問題なのか、と言わんばかりの顔で首を傾げるセリーヌ。
「すまない、狼を狩って周っていたら少し遅くなった。…何だ、二人で川にでも飛び込んだか?」
さてどう答えたものか、とマーカスが困っていると、遅れて白のロングコートを来た白髪の男、エイデンがやって来た。先ほどセリーヌが起こした爆発で起きた水飛沫をもろに受けていたので二人ともビショビショに濡れていたので冗談交じりにそう話しかけてきた。
「水中で爆弾を爆破させて、川魚を獲ってたんだ。ね、マーカス」
「…まぁそんなところだ。エイデンも何か言ってやってくれないか。目立ちすぎては周りから標的にされやすくなる」
セリーヌに言っても埒が明かないと考えたのか、エイデンに同意を求めるマーカス。しかしエイデンは冷ややかに笑って
「セリーヌも分かっててやっているんだろう?ならそのほうが手っ取り早い」
と言い出すのだった。更にセリーヌに向けて
「気にせず好きにやってくれ。いい陽動になる。寄ってくる連中は俺たちで何とかするさ」
とまで言うのだった。エイデンの思惑がどうあれ、好きにやっていいと言われたセリーヌは子供のように目を輝かせる。
「分かった。マーカスも、いい?」
気付けば自分が少数側になっていると気づくマーカス。しかしここで首を横に振れば自分が二人についていける強さを持ち合わせていない、と認めてしまうようなものだ。それだけはあってはならない。自分はいつ如何なる時も強くあり続けなくてはならないのだ。自分にそう言い聞かせたマーカスはふぅと一息ついて
「分かった。フォローは全力でやるが、足は引っ張ってくれるなよ?」
出来る限りの不敵な笑みで、二人にそう告げるのだった。
その日の夜、川沿いで焚火を囲いながら各々が野営の準備をしていると、焚火で焼いた魚を食べていたセリーヌが話始める。
「二人はレーション、食べたことある?」
ふと食事をしていて爆発物処理班に所属していた頃を思い出したのか、徐に二人に問いかけるセリーヌ。
「俺はあるぞ。昔は軍にいたからな、よく口にしていたわけではないが時々世話になったな」
火に薪を入れながらマーカスが答える。
「俺はあまりない。こうして野営して自炊するのが基本だった」
「ほう、お前も従軍経験があるのか?エイデン」
「いや、俺は軍には所属したことはない。戦場にいたのも傭兵としてだ」
偶然なのか必然なのか、ここに集まった3人はどうやら戦場を歩いたことがあるらしい。
「ふーん、マーカスが食べたレーション。味は覚えてる?」
「味か…あまり気にしたことがなかったな。腹の足しになればいい、としか考えていなかったが…」
興味ありげに聞いてくるセリーヌに対し、ふむと昔を思い出すマーカス。
「…インスタントの珈琲が不味かったな。珈琲は嫌いじゃなかったがアレだけは苦手だった」
「そういうセリーヌはどうなんだ?詳しいのか?」
エイデンも少し気になったのかセリーヌにそう問いかける。するとセリーヌは待ってましたと言わんばかりに
「もちろんある。アメリカのMREはもちろんイギリス、ドイツにロシアのレーションも食べたことがある」
「…意外だな。所属を転々としていた…ようではなさそうだ。自分で取り寄せたのか?」
「うん。アメリカは美味しくないって聞いたことがあったんだけど、普通に美味しかった」
「あ、でもあの珈琲はダメ。多分マーカスが口にしたのもそれじゃないかな」
何となく始まった話だったが、セリーヌの意外な趣味に驚きを隠せない二人。そんな様子を知ってか知らずかセリーヌのレーション談義は次から次へと続いていく。
「いつか、世界中の戦闘糧食を食べる。それが私の夢の1つなんだ」
話したいだけ話して満足したのか、セリーヌはそう締めくくって再び食事に戻る。
「世界中の、か。確かにそれは面白そうだな。機会があれば俺も食べてみたいものだ」
セリーヌの話を聞きながら食事を食べ終えたマーカスは立ち上がり寝床の準備に取り掛かる。一方でエイデンは辺りに人の気配がないか警戒しつつ話を聞いていたようで
「叶うといいな、その夢」
池で会った時のような冷ややかな笑みでそう答えるのだった。
夜が明け、野営を終えた一行は寺を経由し路地裏の散策をしていた。マーカスが先陣を切って進み、付かず離れずの距離をエイデンとセリーヌが追従する形で移動する。そんな中、ふとセリーヌが何かに気付いて声をかける。
「止まってマーカス。そこ、罠がある。奥にカメラもあるから、多分まだ近くに誰か、いる」
セリーヌの言葉を受けて改めて周囲を確認すると、巧妙に隠されていたが確かにそこには動体検知型の爆弾が設置してあり、路地の奥にはこれまた巧妙に隠された望遠カメラが設置されていた。
「助かった、もう少し気づくのが遅ければかかっていたかもしれない」
気付いていなければどうなっていたか、と肝を冷やしたマーカスがセリーヌに言う。
「しかしよく分かったな。こういう罠の有無の識別の仕方があるのか?」
「え?そこにあるから分かる。それだけ」
何かコツがあるのか、と思い尋ねたマーカスだったがセリーヌから得られた答えはまるで参考にならないものだった。そしてその返答はマーカスにとってこれ以上の問答は無駄である、という結論に至るには充分なものだった。
「待ってて。今、解除するから。終わったら奥のカメラ、壊しておいて」
そういいマーカスの前に出て罠のある場所へ向かうと、慣れた手つきで仕掛けられた爆弾を解除して見せた。その手腕はその道のプロだと言って差し支えないものだったが、セリーヌが罠をテキパキと解除し更に分解する様は欲しかった玩具を手に入れた子供のようでもあった。
「何だ、持っていくのか?」
その様子を近くで見ていたエイデンは、解体した爆弾をそこらに落ちていた鞄に仕舞うセリーヌに問う。
「うん。後で組みなおして、もっと強い爆弾を作る」
「そうか。俺たちが巻き込まれるようなものは勘弁してくれよ」
使えるものは何であれ使うべきだ、と考えているエイデンは特に反対することもなく子供のように目を輝かせているセリーヌにまたしても冷ややかな笑みで返すのだった。それで話は終わった…かのように思えたがセリーヌはエイデンのことを徐にジッと見つめ始める。
「…何か言いたげだな。何だ」
「エイデンってさ、電気を放出する力があるんだよね」
「あぁ、その通りだが」
この島、ルミア島に集められている実験体、と呼称されている人々は何かしらのバイタルフォース能力(以下VF能力)、一種の超能力のようなものに覚醒している。
例えばエイデンの場合は体内に電気を蓄積、及びそれを放出することが出来る。そしてエイデンは自分の得物として専用のライフルのような形状をした長剣…所謂ガンブレードと呼べるような武器を所持しており、自らの能力を応用し持ち手についた引鉄を引くことで銃口から電撃弾を射出して戦うことが出来るのである。
「レールガンの原理で爆弾を長距離射出できたら、凄いと思わない?」
そんなエイデンの能力を買ってか、そんな提案をするセリーヌ。どんな話題が来るのか、と思っていたエイデンはそんなことかと肩をすくめる。
「不可能、ではないだろうな。だがレールガンなんてどこから調達するんだ?」
至極当然の疑問だ。ここはルミア島、実験のために開拓された島であってそんな最先端の兵器などあるはずがない。
「え?作ればいいでしょ。質は多少悪くなるかも、だけど使えるものは出来る、筈」
「成程、なら素材があったとして誰が作るんだ?言っておくが俺には無理だぞ」
さも簡単なことのように言うセリーヌにこれまた当然の疑問をぶつけるエイデン。レールガンの仕組みを理解していてもだからと言って作れるようになるかと言われれば当然そうではないのだ。
「…私、は爆弾しか作れないし。マーカスは…苦手そう。…うーん、いい案だと思ったのにな」
どうやら本気で実現できると思っていたのか、エイデンの返答を聴いて少し退屈そうにするセリーヌ。隠しカメラを取り壊しにいったマーカスをよそに先ほど自分で解体した爆弾を組み立てなおし始めるのだった。
何だかんだお互いに戦場を経験したからか自然と各々が自分の役割を理解しそれを全うする。不和も特になくチームワークにも問題はなかった。
だがそれだけで最後まで生き残れれば誰も苦労などしない。万全な構えを取っていても不慮の事故1つで容易く崩れることだってある。敵と戦っている時にまた別の敵に背後を取られて…などこの島では日常茶飯事なのだ。
かれこれ実験開始から4日目の朝。全実験体に持たされている携帯端末「V-PAD」によると残りの実験体は4チーム、人数は12人のようだ。
「実験開始からかなり日付も経った。具合は悪くないんじゃないか?」
持っている携帯端末で凡その状況を把握したエイデンが言う。
「あれだけ派手に爆発物を使っていても誰も寄ってこないものなんだな」
そう、あれからもセリーヌは遠慮なく爆弾をあちこちで使いまくっている。にも関わらずこれまで他の実験体と鉢合わせたり襲撃に遭ったり、ということがなかったのだ。誰かしら人が寄ってくるものだとばかり考えていたマーカスもやや拍子抜けと言わんばかりの態度である。
「ずっと動物の相手しかしてない。楽だからいいけど、これでいい、のかな」
実験内容にも興味なさげに振舞ってきたセリーヌも流石に心配になったのか少し考える素振りをしながら呟く。
「いいんじゃないか、仕事は簡単な方がいい。それともやり応えが欲しいタイプか?」
そんなセリーヌに冗談を交えながら返すエイデン。その顔はいつものように冷ややかな笑みを浮かべている。
「いらない…ん、ねぇ、アレ」
若干むすっとしながら返事をするも、直後何かに気付いて指を指すセリーヌ。エイデンとマーカスがその方向を見やると、そこには自分たち以外の人…端的に言えば自分たちと同じ実験体、同時に自分たちの生存を脅かす敵となる存在がそこにいた。幸いこちらには気づいていないようで数十メートル前方を3人で移動しているようだ。
「どうする?そのまま追いかけるか?それとも先回りして待ち伏せか?」
「俺たちの戦い方を考えれば先回りのほうがいいだろう、行くぞ」
これはスポーツなどではない。馬鹿正直に真正面から当たっていてはいくら命があっても足りなくなるというもの。闇討ちだろうが不意打ちだろうが勝って生き残ることがこの島では何よりも優先されるのだ。
「で、どうするの?通りかかった所を、ドカン?」
「概ねそれでいいだろう。深手を負ったところを俺とマーカスが追撃、基本はこれでいい筈だ」
相手の進路を予測しつつ移動を続ける3人。戦術の確認…というには単純極まりない代物だが、複雑すぎるよりは単純な方が実行しやすいというものだ。セリーヌは聞きたいことは聞いたと言わんばかりに笑顔で爆弾の準備を移動中に進める。
そうして目的としていた場所にたどり着いた3人は、物陰に潜みつつ先ほど見かけた敵実験体が通りかかるのを待つ。目標としていた敵が来るまではそう時間はかからなかった。
「来たぞ」
マーカスが小声でそう二人に伝えながら目配せするのとセリーヌが動き出すのはほぼ同時の出来事だった。
「そういえば知ってる?初日、池で大爆発が起きたんだって~」
「知ってる!お魚いっぱいいたんだって、いいなぁ~お魚いっぱい食べたかったなぁ~」
ホテルの敷地内を歩きながら3人の実験体が他愛もない話をしている。ベージュの髪をサイドテールに纏めた、人よっては小学生くらいに見える幼児体型の少女、レニと金のショートヘアーに猫耳、青と琥珀色のオッドアイの少女、イレムは3日前に起きたらしい出来事を話している。らしい、というのは実際に見て確かめることができなかったからなのだろう。
その二人の数歩先を歩く茶髪ショートヘアーで大きな盾に消火斧を携えた女性、エステルは二人の会話を楽しげに聞きながら経路の確認をしていた。
「お二人とも、このまま森の方へ移動しますよ」
二人に目的地を伝えるため、二人のほうへ振り向き話しかけたその刹那…。
頭上から無数の小型爆弾が降りそそいだ。
「危ない、二人とも伏せて…!」
盾を上方へ構え、エステルは二人を守るため駆け寄るが…。
セリーヌによる奇襲は概ね成功した、と言っていいものだった。一人が盾を構えてやや後方の二人を庇うために駆け寄ろうとしたが間に合わなかったらしく、二人は爆発をもろに受けてしまったようだ。
「かかった。二人とも、行って」
マーカスとエイデンに指示を飛ばし、次の爆弾の準備に取り掛かるセリーヌ。マーカスとエイデンはお互いに目配せをし、マーカスは爆撃をもろに受けたレニとイレムに、エイデンは退却を試みようとしているエステルの方へと襲撃にかかる。
「これも戦場の定めだ。悪く思うなよ」
セリーヌによって深手を負わされた二人を相手するのはそう難しいことではなかった。物陰から出た勢いそのままにマーカスはその巨体でレニに突進、その威力で壁まで吹き飛んだレニは堪らず気絶する。それを見て逃げ出そうとしたイレムもマーカスは器用に斧で持ち上げ地面に叩きつける。二人がマーカスの手で処置されるまではそう時間はかからなかった。
「レニさん、イレムさん……ッ!ダメ、今は…!」
二人がやられる様を見ていることしか出来なかったエステルは我に返ると同時にその場からの退却を試みる。全滅さえしなければ、再起の余地はまだ残されているのだ。しかしそれは実験体としてここにいる全員が知っていること。ならばここで後方の憂いとなりかねない因子は潰しておくに限る。
しかしエステルは焦るあまり見落としていた。レニとイレムを襲撃したのはセリーヌとマーカスの二人。そう、この島での実験は三人一組が基本。ならばあと一人はどこへ?実験の最中で脱落したのか?そうであったらどれだけ良かっただろうか。だが、現実はそう優しいものではない。
「判断はいい。だが相手も運も悪かったな」
踵を返し走り始めたエステルを追い越して正面に立ちふさがるエイデン。彼の持つ剣はエイデンの能力によって帯電していた。
「そこを、通してください…!」
エステルの盾を握る手に力がこもる。求めている答えなど帰ってくるはずがない、ここで逃がしてもらえるはずがないことは自分でも分かっている。だとしても自分はここを生き延びなくてはならない、先に斃れた二人のためにも。覚悟を決め、立ちふさがるエイデンをエステルはじっと見る。
「諦め…とは違うな。いい目をしている、勝算があるのか?それとも…ただの蛮勇か?」
三対一、不利な状況なのは考えるまでもないことだ。それでもエステルは毅然とした態度でエイデンを睨む。エイデンの表情はいつもと変わらぬ冷たい笑みだが、そこには僅かばかりの賞賛の意が含まれていた。
「蛮勇…確かにそう見えるかもしれませんね、それでも…私は二人と約束、しましたので」
「そうか。それがお前の戦う理由か。だったらこうしてお喋りに付き合ったのは間違いだったな」
さぞ残念そうに剣の切っ先をエステルの背後に向ける。ハッとなったエステルが振り返ればレニとイレムの遺体を処理していたであろうセリーヌとマーカスがあと数歩、というところまで近づいていた。
そう、始めからエイデンは一対一で戦おうなどと考えてはいなかった。万に一つの可能性すら潰すために態と時間を稼ぐような真似をしていたのだった。仮に聞く耳を持たれなくても死なない程度の時間を耐え忍ぶのも彼にとってはさほど難しいことではない。最も、今回は向こうから話しかけてきたのでその心配も杞憂に終わったのだが。
「……悪いが、これはスポーツなんかじゃないんでな」
「卑怯、とは言いませんよ。確かに間違えたのは私ですから」
その後のやり取りはおよそ戦闘とは言えない程に一方的だった。状況によっては二人の攻撃を同時に捌いて生存することすらあるエステルも流石に三人からの波状攻撃となっては耐え忍びようがないのだった。
「終わり。残りは…私たち含めて2チームだって」
セリーヌがV-PADで状況の確認をしたところ、どうやら自分たちが戦っている間に他の場所でも戦闘が起きていたようで残るチームは自分たちを含め2チーム、多く見積もっても残りは6人という状況になっていた。
戦いの最中で人数が変動したのなら向こうも態勢を立て直す必要があるはずだ、セリーヌはそう考えていた故に気付けなかった。自分たちがいる場所から遠く、黒く輝く狙撃銃で狙われているということに。
「…不味い、狙撃だ!避けろ!」
マーカスは遠方からの狙撃に気付いて声を上げたが、それとほぼ同時に敵の狙撃は始まった。若干の距離があるため、発砲から着弾には多少のタイムラグが生じる。だがそれもほんの僅か、致命傷コースの被弾を少々ズラしてやるのが限界。現に今の狙撃でセリーヌは…。
―――右肩に一発の弾丸を受けてしまっていた。
「ッ……ごめん、失敗した」
「態勢を整えろ、来るぞ……!」
エイデンの言葉が終わるや否や、追撃に来たであろう敵実験体が襲い掛かってくる。
一人はハンマー片手に担ぎながら暴走族が乗るようなバイクで突っ込んでくる大男、マグヌス。一人はチェーンソーを振り回しながら笑顔でこちらに向かってくる女性、ジャッキー。最後に少し遅れて自分たちを狙撃したであろう深緑の迷彩マントを羽織り小さなドローンを付き従わせている銀髪の少女、カティア。
先の戦いでの消耗を回復しきれなかったまま、手負いのセリーヌをカバーしながら戦うことを強いられるエイデンとマーカス。その戦いは一方的なものにはならずともかなり苦境に立たされる戦いとなってしまった。
「ここまで生き残った連中だからと期待していたが、こんな狙撃1つでここまで楽にやれるとはなぁ?拍子抜けだぜ」
「同感。もうちょっと楽しめると思ったんだけどこれじゃあねぇ。カティアが慎重すぎるからぁ」
頑丈な身体で攻撃をものともせずにハンマーを振り回すマグヌス、チェーンソーによる痛烈な斬撃で致命傷を狙ってくるジャッキー。余裕の態度で戦いの感想を述べ始める二人はそれでも手を緩める様子は一切見せない。
「遊びでやってるんじゃないんだから手を尽くすのは当然でしょ」
その二人の少し後ろから狙撃銃を構えエイデンたちを狙い撃つカティア。前に立つ二人の隙間を縫うような精密射撃がエイデンたちを更に苦しめる。
猛攻の中、ほんの少し戦線から離脱したエイデンが最初に狙撃を受け負傷したセリーヌに告げる。
「いいかセリーヌ。出来るだけ俺たちで時間を稼いでやる。だからお前のありったけをここで見せてくれ」
返事は聞いていない。と態度で示すようにそのまま彼は再び前線へ向かって行くのだった。
「ありったけ、全部……よし」
覚悟を決めたセリーヌは顔を上げ今時分ができることを確認し始める。手元にある材料、ここらで収集できる材料…これらを合わせて出来る爆弾…。
「勝てる、邪魔さえ入らなきゃ…3人で、勝てる」
自らの覚悟を小さく声に出し、作業に取り掛かるのだった。
「ハッ、結局お前のトコの女は逃げ出したのか。ザコがいくら逃げようが時間の無駄だろ」
「ザコかどうか、試してみるか?」
セリーヌの意図を察したマーカスもマグヌスに食って掛かる。互いの大きな体躯から繰り出される一撃が火花を散らす。力と力が正面からぶつかり合うような二人の戦い、互いの得物が衝突する度に轟音が上がる。
「アハハ!あっちも楽しそうだけど、キミが私の相手をしてくれるのかなぁ?」
「レディーのエスコートか。こういうのは苦手なんだがな」
心の底から楽しそうに、歌うように誘うジャッキー。それをいつものように冷たい笑みで返すエイデンだったが今回は目だけは鋭くジャッキーを捉えていた。おどけているように見えるジャッキーだがつけ入る隙はなく、こちらが気を緩めようものなら刹那に刈り取られる。エイデンは内心恐れてすらいた、故に今まで以上に彼は集中してジャッキーの動きを見ていた。
マグヌスとマーカスが力と力のぶつけ合いならば、ジャッキーとエイデンは技と技の応酬。互いに耐久力があるわけではない故に一撃一撃が致命傷になる。互いの必殺の一撃をいなし、躱す、その繰り返し。
しかしこの戦いは2対2ではない、マグヌスとジャッキーにはもう1人味方がいる。カティアは双方の戦いを見つつ隙があればいつでも射撃できる姿勢を取っている。そして同時に傍を浮遊していたドローンを飛ばしセリーヌを捜索していた。
数の時点で劣勢、ということもあってか戦いはエイデンとマーカスにとってどんどんと不利な方へ転がっていった。マグヌスとジャッキーの猛攻を凌げてもその隙を埋めるようなカティアの射撃にまでは対応しきれないのだ。
「いつまで経っても逃げ出したセリーヌは来ないし、もう終わらせちゃう?」
飽きてきたのか、ジャッキーの表情から笑顔が消え始めた。そして一瞬のスキを突いてマーカスに飛び掛かり持っていたチェーンソーを振りぬいた。急な襲撃にマーカスは対応しきれず、ついに致命傷を受けて膝をついてしまうのだった。
「残念だったな、俺様1人でも倒せたがこいつはスポーツでもなけりゃゲームでもないんでな」
やや不満げにジャッキーを見るが、もう既にカティアの手を借りている以上1人も2人も関係ないと心の中で割り切るマグヌス。膝をついたマーカスに最早用はないと言わんばかりに3人がエイデンの方を向く。
―――その瞬間。
3人とエイデンを裂くように何かが投げ込まれる。そしてそれはたちまち甲高い音と閃光を上げる。
「がぁっ、くそッ……!」
カティアとジャッキーは寸でのところで閃光防御が間に合ったがマグヌスはそうはいかなかったようだ。そしてカティアとジャッキーの2人が閃光弾が投げられた方向を見るとそこにはセリーヌが立っていたのだった。
「お待たせ。少し、遅くなった」
エイデンのほうを見て冗談めかして微笑んでみるセリーヌ。それを見てか見ずか、エイデンはいつもの冷ややかな笑みをこぼす。
「全くだ。もう来ないかと思ったぞ」
正直ジャッキーとカティアの相手で満身創痍だったエイデン、しかし待ち望んだ援軍を前に膝をついてなどいられない、と彼は再び立ち上がり戦う決心をする。
「今更来たの?最初からちゃんと戦ってれば勝てたかもしれないのにね?」
やっと最後の獲物が来た、と再び笑顔が戻るジャッキー。ゆらりとセリーヌに近寄っていく。だが…
「そこ、爆発するよ」
そう言い終わる頃にはジャッキーの足元から爆炎が上がる。ジャッキーはリアクションをギリギリ取ることが出来、致命傷は免れたが先の閃光で視界を奪われていたマグヌスはまともに回避することもままならず直撃してしまう。
そしてその動乱を2人は見逃すことはなかった。セリーヌはすかさずジャッキーのいた所へ煙幕を撒く。一方でエイデンは…。
「……蓄積」
閃光による割り込みの時からたった今までエイデンは自身のVF能力により限界まで体内に電気を蓄積していた。そしてエイデンがそれを解き放った刹那―――。
「―――放出!」
一筋の雷光がジャッキーを襲った。
まさしく一瞬の出来事、と呼ぶに相応しい出来事だった。確かに自分たちが優勢だったはずだ、とカティアは自問する。この事態を招いたのは何故か?マグヌスが悠長に力比べなどしていたからか?ジャッキーが慢心していたからか?自分がさっさと2人を仕留めるかセリーヌを見つけることが出来なかったからか?
動乱のどさくさに紛れて前線を離れていたカティアは答えの出ない自問自答を繰り返しながらも走る。まだ4日目の夜だ。急いで一番近くにあるkioskで持っているクレジットを支払えば2人を蘇生してもう一度戦うことが―――。
「あ」
瞬間、足元で何かが爆ぜると同時に自分の身体は逃げてきた方向へと吹っ飛ばされていた。
「はい、残念。遺言くらいは、聞いてあげる」
吹っ飛ばされて転げたカティアの傍に手榴弾を手に持ったセリーヌが見下ろしていた。いつでも止めは刺せるぞ、と視線で訴えながらカティアの最期の言葉を待っていた。
「ふぅん、それじゃ遠慮なく」
一瞬、カティアの瞳孔が僅かに開く。そして左手で身の丈ほどもあろうかという狙撃銃をセリーヌに向けて振りぬこうと腕を振るう。最後の最後まで貪欲に生き残るために足掻くカティアの一撃は……。
セリーヌが左手に持っていたアタッシュケースにあっさり受け止められてしまうのだった。そして
「嫌いじゃないよ、その目」
隠し持っていた拳銃を右手で構え、すかさず眉間を撃ち抜く。
―――最終生存者が確定しました。
V-PADから流れた無機質な音声が、実験の終わりを告げた。
―――ルミア島の中央に鎮座する研究所。その一室、暗い部屋をいくつものモニターが照らしている。モニターはルミア島の様々な場所を映し出し、その1つは今しがた決着がついたカティアとセリーヌの2人を映していた。
「
「はい、一時は
そしてモニターの前にいた白衣を着た研究員であろう人物が2人、先の戦闘について会話をしていた。
「回収班は?」
「既に向かってます、間もなく接触するかと」
最終生存者は確定し実験は終了した。そうとなればここから先は研究員の仕事。実験体を回収し死亡した実験体は蘇生、記憶処理を施し、次の実験開始まで待機させる…。こんな仕事を幾度となく繰り返してきているのがこの島なのだ。
「実験体の数も増えてきましたね、管理のほうは問題ないのでしょうか?」
「いらぬ心配だ。ここ最近は実験に肯定的な実験体も確保できている、物分かりが良くて助かっているくらいだ」
「おっかないですね。進んでこんなことをやろうだなんて、理解できませんよ」
「アイツらの考えなどどうでもいいことだ。所詮ヤツらは実験のサンプルでしかない、良質なVFを観測できるなら実験体の思想程度気に留める必要はない」
部下であろう研究員が恐る恐る尋ねるが上司であろう研究員は平然としていた。言葉通り、実験体である彼らを同じ人として見ていないのだろう。そんな会話の中、部下の端末から通知音が流れる。
「回収も済んだようです。この後は予定通り聴取の後記憶処理…で構いませんね?」
「あぁ、問題ない」
そう、彼らは様々な目的や思想を以て実験に臨んでいるが、生き残ろうが途中で死のうがこの循環から逃れることは叶わない。そして循環していることにも気づかぬまま、何度も何度も繰り返し続ける。
研究員は端末を通じて今後の指示をすると、島の監視をしていたモニタールームを後にするのだった。
ルミア島第二次研究実験規定2
・全実験体にはタイマーが設定された爆弾を搭載した腕輪を装備する。
・タイマーは進入禁止区域への滞在でカウントが進行、0になると爆発する。
・実験体を処置した場合、減少したタイマーの時間を少々回復させる。
・全実験体には実験開始より実験中に使える仮想通過(以下クレジット)を与える。
・クレジットは生存時間に応じて自動的に増加、野生動物及び実験体の処置でも増加する。
・V-PADにてクレジットを支払うことで実験体が求めた素材をドローンにて輸送する。
・ルミア島内に点在する無人販売端末「kiosk」にて実験体が一定額のクレジットを支払うことで通常より強力な装備を作るための特殊素材を獲得できる。
・また先述の48時間以降96時間以前の蘇生は「kiosk」を介してのみやり取りできる。