シリーズ「私のミスでした」   作:竜田揚げ丸

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「私のミスでした…」ヒナ「その10。…巡回に戻るわ」

「私のミスでした…」

 

少女は泰然とした態度で、襲撃を仕掛けてきた彼女らを見ている。その瞳はいつも通りの穏やかさを持ちながらもどこか鋭い。

 

「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」

 

「…この結果にたどり着いて改めて、私のあの選択が間違っていたことを思い知るなんて…」

 

「図々しいお願いですが、お願いします」

 

そこで一旦言葉を切ると、彼女は真っ直ぐ相手を見据えた。その空のように青い瞳を細め、襲撃を行った下手人たる『彼女たち』に告げた。

 

「…まずは銃を下して話をしませんか?」

 

少女──連邦生徒会長の前に立つのは二人の小柄な生徒たち。アビドス高等学校生徒会長・小鳥遊ホシノとゲヘナ学園風紀委員長、空崎ヒナ。

このキヴォトスでも屈指の実力を誇る二人がそろって覆面を着けて連邦生徒会に襲撃をしてきたのだ。普段ならば二人はこのような蛮行を絶対に行わないので、なにかしら事情があると連邦生徒会長は判断しその事情を把握しようと周囲の反対を押し切って会長室で待っていたのである。

ただ、正直に言えばあまりにもあっさりとここまで辿り着いたのは想定外だった。ヒナもホシノもさして疲れた様子すら見せていないため、提出されたセキュリティの強化プランを見直しという形にしたのはやはりミスだったと連邦生徒会長は嘆息したのである。

 

「…いいよ。ヒナちゃんは?」

 

「私も構わない。でも妙なことをしたら…わかってる?」

 

「ありがとうございます。では、単刀直入に──お二人は何の用でこちらまで?」

 

連邦生徒会長は穏やかながらもどこか鋭さを感じさせながら彼女らに問うた。その答えは、連邦生徒会長が想像していたものとは随分と違う答えだった。

 

「要求はシャーレの業務量の改善。先生たちがいまどんな状況か、わかってるの?」

 

逆にホシノから帰ってきた質問に、多忙で最近シャーレへと足を運べていない連邦生徒会長は無言で首を横に振った。すると、今度はヒナが彼らの状況を説明してくれた。

 

「…冷蔵庫はエナジードリンクの缶だらけ、ご飯もまともに食べてないしもう何日も寝ていなくて隈がすごい。休めって言っても連邦生徒会の押し付けた仕事が終わらないからって、ろくに休みもしない」

 

そう聞いて、連邦生徒会長は──ぽかんと口を開け、目を丸くしていた。

そんな彼女の様子に苛立ったのか、ヒナとホシノは更に激怒の雰囲気を漂わせ、銃を握る力を強めて彼女たちは更に連邦生徒会長に詰め寄った。

 

「なんで…そんな顔できるの? あの人たちを使い捨ての道具かなにかと思ってるの…?」

 

「落ち着いて、ホシノ。…でも、もし答えがイエスなら…」

 

とヒナは無言でその手に持ったマシンガンの銃口を連邦生徒会長に向けた。連邦生徒会長は彼女らの怒りを受け止めるために目を伏せる──こともなく、逆にヒナやホシノに聞き返した。その様子は往生際が悪いとか悪びれていないとかではなく、本気で訳が分からないといった類いのものである。

 

「…待ってください。私たちがシャーレに回している仕事ってそんな多くないですよ?」

 

「…は? この期に及んでそんなウソを誰が──」

 

「いえ、本当です。えっと、少し待っていてくださいね。確か明日の分は…っと」

 

そう言って連邦生徒会長はタブレットといくつかの書類の束を持ってきた。タブレットに映っているのはシャーレの予定。疲労している身では辛いものかもしれないが、しかし普通の状態ならばそこまで疲れるものではない。

一方の書類の束もそこまで高くはなく、普段ヒナが処理している量よりはよっぽど低いものである。それが三束あるが、シャーレの職員達にそれぞれ割り振られているということがわからないほどホシノやヒナは愚かではない。

 

「この束で一日分です」

 

タブレットの内容と書類の束を確認した二人は顔を見合わせて、そして改めて連邦生徒会長を見つめる。その視線は明らかに『本当に?』と訴えかけてきているのが分かったため、連邦生徒会長は無言で首肯すると二人は連邦生徒会長から無言で、そして気まずそうに視線を逸らしたのだった。

 

…会長室に流れる異様な雰囲気。

 

当然と言えば当然である。ここに至るまでに連邦生徒会側はヴァルキューレはおろかSRTにすらも出動を要請し、またホシノやヒナはそれらをすべてなぎ倒してきたのにも関わらずその原因が勘違いであることが判明したのだ。この場において、連邦生徒会長は全面的に被害者なのである。

が、その連邦生徒会長は気になることがあったために、場に流れる異様な空気を破壊せざるを得ない。

 

「…あの、気になったことがあるんですが。私たちからはそんなに仕事を押し付けていないのにもかかわらず先生たちは何故そんな状態になっているのでしょうね…?」

 

「…言われてみれば確かに。先生たちは何であそこまでの状態になってるんだろ…?」

 

「…話を聞いてみるべきね」

 

と三人がこれからどう動くべきかを決めたところで、しかし今のままでは二人が目立ってしまう為に二人を連邦生徒会の服に着替えさせて、その間に自分は問題は解決したという旨のメッセージを連邦生徒会全体に送った後、三人はシャーレへと向かった。

するとそこにはおおよそ人がしてはいけない表情の先生、空のエナジードリンクの缶を周辺に散らばらせて目の下に隈を作ったユメ、そんな二人の様子を見て頭を抱えるプレナパテスの姿であった。

まともに話ができそうなのがプレナパテスしかいないため、連邦生徒会長たちはとりあえず彼に話を聞いてみることにした。

 

「あの…何があってこんな事になったんですか?」

 

連邦生徒会長がそう聞くと、プレナパテス…ではなくプラナがその質問に答えてくれた。どうやら相当頭に来ているらしく、彼女の発する言葉にはどことなく棘を感じる。

 

『説明。ここ最近の先生たちは休めと言っているのにも関わらず生徒達の無茶なお願いに答え続け、そしてその結果業務に支障をきたしているのです』

 

「…無茶なお願い、というと?」

 

『温泉開発に美食の探求に半強制的に巻き込まれたり、ゲーム開発の手伝いに新型デバイスの開発協力…他にもスイーツ購入やら雑誌の購入やら花壇の整備やらです。昼から外に出ては困った生徒を見かけては助けるを繰り返して疲労を溜めて夜にシャーレに戻ってきては残業で書類処理といった行動ばかりで休む気配が一切ありません。…あぁ、この前はゲマトリアの黒服に半ば拉致じみた方法で三人そろって飲み会にも連れていかれてましたね。あれのおかげで更に書類が溜まっていったのでしたか』

 

「…なるほど」

 

連邦生徒会長がプラナの報告に相槌を打った瞬間、ガシャンと重い音が背後から聞こえてきた。それと同時に重いプレッシャーを感じて恐る恐る振り返ると、ホシノとヒナは凄まじい形相で愛銃の弾倉や薬室の確認などを行っていた。

これからどうなるかが分かったために、連邦生徒会長は一つ溜息をこぼした。

 

「…止めたところで聞いてはくれないでしょうから止めはしませんけど、なるべく手加減してあげてくださいね?」

 

「まぁ、努力はするよ」

 

「先生たちの事、お願いするわ。…行きましょう、ホシノ」

 

そうして二人はシャーレから出ていった。これからの事後処理が大変だなぁと思いながら、連邦生徒会長は目の前に居る大人たちへと改めて視線を戻した。改めてみると凄まじい惨状で、先生の周りには書類が散乱しているうえ先生本人はおおよそ人を教え導く人間がしてはいけない表情をしており、pcに打ち込んでいる書類らしきものは誤字脱字だらけでもはや書類の体すら成していない何かである。

ユメはユメで机の周りにはエナジードリンクの缶が散乱しており、額には冷却シートを張り付けて一心不乱にpcに何かを打ち込んでいる。こちらは溜まっている業務を進めているのかと思って覗いてみれば、「アビドス借金返済」というタイトルでおおよそ現実的ではない案を企画書として書き連ねまくっていた。

そして、ほぼワンオペ状態で業務をこなしていたプレナパテスは一通りの書類処理を終わらせた後にpcをシャットダウンすると。

 

「…先生たちを、お願いするね」

 

と言い残して、やはり限界だったのか彼はデスクに勢いよく顔面から突っ込んで意識を失った。そんな彼に託された連邦生徒会長は。

 

「──連邦生徒会長の名において、貴方の要請に応えます」

 

改めて意志を固めて彼女は目の前に居る大人たちに目を向けた。人がしてはいけない表情の先生、無謀な企画書を作成中かつ目がキマっているユメ、そしてぶっ倒れているプレナパテス。

そんな彼らをなんとかする方法は一つ。

 

「もしもし、ミネ団長ですか? 急患です。えぇ、シャーレに急行お願いします」

 

────連邦生徒会長の電話から数分後。

 

「離してセリナ! まだ書類が終わっていないんだ!」

 

「ちょっと来ない間にここまで疲労を溜めて、いいから休んでください! ミネ団長に無理やり『救護』されたいんですか!?」

 

ぐいぐいと先生を引きはがそうとするセリナと。

 

「ハナエちゃん!? だめ、まだまとまってないの!」

 

「休まないとだめですって! 私はミネ団長に『救護』されるユメ先生を見たくないんです!」

 

同じくユメを机から引きはがそうとするハナエの姿があった。

ぶっ倒れたプレナパテスの介抱をしながら彼女らの格闘を見ている連邦生徒会長が彼らを説得しようとしたその瞬間、遅れてやってきたミネの温かくも厳しい声が聞こえてきた。

 

「──その状態でまだ仕事にかじりつくとは。これは『救護』の必要がありますね」

 

そこからは圧巻であった。ミネに口ごたえしようとした先生とユメはあっという間に制圧され、そして気絶したまま担架で運ばれていったのだった。なお、プレナパテスは既に気絶しているため気持ち優しめに担架で運ばれていった。

 

後に意識と正気を取り戻した三人は揃いも揃って救護騎士団を始めとした各学校の生徒たちの説教をしこたま受け、シャーレに溜まりに溜まっていた書類は連邦生徒会長を中心に有志の生徒たちが処理を行った。

なお、更にその後の話として黒服たちはホシノや事情を聞いたシロコ*テラーによって手痛いお仕置きを受け、美食研究会や温泉開発部はヒナを中心とした風紀員会に捕まり、そして連邦生徒会長はヒナとホシノの襲撃によって破損した連邦生徒会の建物の修理や役員たちにする説明に悩まされていたという。




読了ありがとうございます。

この作品群は何でもありのふわっふわな設定で作っています。なのでこれからもプレナパテスはユメやケイともどもちょこちょこ出てくる…というかシャーレが絡むとほぼ確実に出てくるのでご留意のほどよろしくお願いします。

この作品は、Pixiv様にも同様のものを投稿しております。
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