シリーズ「私のミスでした」   作:竜田揚げ丸

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こんにちは。

ハロウィンなので投稿します。

この作品はPixiv様にも投稿させていただいています。


「私のミスでした…」リン「ハロウィン特別版ですよ」

「私のミスでした…」

 

少女は心底残念そうに溜息をつく。その顔色、その声音はどこまで行っても失望に満ちており、その場の空気感を深く冷たいものへと変えていった。

 

「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」

 

「この結果にたどり着いて初めて、私のあの判断が間違っていたことを知るなんて…」

 

そこで一旦言葉を切ると、はぁと再び深い溜息を吐いて天井を見上げた。その空のように青い瞳には昏い失望の瞳が宿っており、見上げた後に天井から降ろし視線は全く揺るがずにただ一人だけに向けられていた。

 

「…まさかカヤ防衛室長がハロウィン要素ゼロで来るとは思いませんでした…」

 

「私以外全員仮装してくるだなんて思ってなかったんですけど!?」

 

連邦生徒会長の失望の視線は、一人だけいつもの連邦生徒会の制服に身を包んでナチュラルメイクしか行っていない不知火カヤに向けられている。

一方の連邦生徒会長の姿はというと、かなり緻密ながらもチャーミングなゾンビメイクを全身に施し、ところどころにダメージが入った私服を身に纏っている。

どうして彼女がそんな恰好をしているのかと言えば、それは本日がハロウィンだから、の一言で説明がつく。

補足すると、先々月上旬での連邦生徒会での会議にてこういうことがあった。

 

『さて、再来月といえば勿論ハロウィンな訳ですが…』

 

と会議の終盤において連邦生徒会長が切り出すと、リンはそれに対して食い気味に素早く釘を刺してきた。

 

『連邦生徒会は行政組織です。ハロウィンに現を抜かしていていいものではないかと』

 

それ自体は至極真っ当な意見であるし、勿論連邦生徒会長とてそれは理解している。とはいえ、だ。

 

『連邦生徒会が堅苦しく融通の利かない組織であると誤解されれば、それだけ反発・恐怖する生徒たちも多くなります。何かの制度を導入するにしても著しく効率を欠くでしょう』

 

という連邦生徒会長の切り返しの一言によってその場のほぼ全員が連邦生徒会長への同調の空気に包まれた。それは堅物と言われることが比較的多いリンやアオイすらもかなり渋々ながらも例外ではない。

そんな空気感を目敏く察した連邦生徒会長は、更に連邦生徒会の役員たちに対してイベントの提案をした。

 

『という訳なので、私はハロウィン当日はちょっとしたイベントを開催しようかと考えています』

 

『イベント…ですか?』

 

『はい。連邦生徒会は思い思いの仮装をして、なんらかの用があって訪れた生徒たちにお菓子なりジュースなりを渡す。…シンプルにこれで行きましょう。異論はありますか?』

 

連邦生徒会長のその言葉に、役員たちは各々違う反応を見せた。頭を抱える者、何かを考え込む者、顔を見合わせる者。反応はさまざまである。しかしそんなざわめきの中で静かにアオイは挙手をし、そのまま発言を行う。

 

『いくつか確認させてちょうだい。まず企画書が上がっていない以上、財務室長として今この段階でそれは承認することはできない。それは貴方もわかっているわね?』

 

『えぇ、もちろん。ですのでまだ提案です。企画としてはまだスタートラインにすら立っていません。その辺りは追々詰めていくつもりです』

 

『承知したわ。次に、仮装は強制かしら?』

 

『いえ、強制はしません。が、もし開催されるなら私は全力で仮装を行います。皆さんも思い思いにやってもらって構いませんよ』

 

『…そう、安心したわ』

 

アオイはそう呟いた後に以上よ、とそっけなく告げてこの場での意見を終える。その後も様々な意見が飛び交った後にこの場はお開きとなった。

その後様々な人の手を借りて企画が立ち上げられ、それが承認されたことにより正式にイベントとして開催決定。当初とは少し形を変えて昼は近場の広場に屋台を出してそこでお菓子やら特製の飲み物を配布、夜にはちょっとしたナイトパーティを開催ということで落ち着いた。

そして当日。連邦生徒会の生徒たちが大小あれど仮装をしてきて、いよいよ開催当日であるにも関わらず全く仮装をしてこなかった不知火カヤが現れて冒頭に至る。

 

「いえ…全員仮装してくるとは別に思っていなかったですよ? …うん、そういうのもアリだとは思います。えぇ、はい。ただハロウィンなので多少は羽目を外してくれるかなぁ、とか思ってました。誤算でしたけど」

 

「え、これ私が悪いんですか…? アオイ財務室長やリン行政官まで仮装してくるとは思わないじゃないですか…。あれだけ仮装するのは嫌ですみたいな空気出しといて実際にコスプレしてくるなんて誰が思うんですか…? …というか私が駄目なのにリン行政官のそれはアリなんですか!?」

 

半ば八つ当たりに近い大声を受けたリンは突然の攻撃に一瞬だけ目を見開いた後、気まずそうに目を逸らした。恰好こそいつもの連邦生徒会の制服であるが、しかしその頭の上には申し訳程度に魔女帽が置かれている。

その場の全員が自分に集まったことを察して口を開こうとしたリンだったが、しかしその前にリンの横に立っていたアオイが口を開いた。

 

「私が無理やり被せたのよ。性格上こういうことしないのはわかっているけれど、こういうときでもない限り息抜きをしないと思ったから。それと、会長は既にこれでゴーサインを出してるから問題はないわ」

 

「澄ました顔をしていますが、さては貴方会長以外だとこのイベントを一番楽しみにしてましたね?」

 

カヤがそう指摘した瞬間、オーソドックスな魔女のコスチュームを身にまとった上できっちりメイクを決めてきたアオイはきょとんとした顔をしていたが、すぐにアオイは何を言っているかわからないと言いたげな顔をしてきたのでもうこれは話が通じないと思ったのかカヤは再び連邦生徒会長に目を向ける。

 

「はぁ…わかりました。簡単なものでいいなら今から何かしますから。何かあります?」

 

「お、じゃあこんなのどう? リン先輩があれでいいならカヤ先輩もこれでいいでしょ」

 

そう言って自前の尻尾と併せて雑なクオリティの悪魔のコスプレをしているモモカからカヤに渡されたのは鼻眼鏡と「本日の主役」と書かれたタスキ。明らかに何か毛色が違うことは、その場の全員が感じ取っていた。

 

「…これどう考えてもなにか違いますよね。これで人前に出たら一生ネタにされるヤツではありませんか…?」

 

そう言いながらも律儀にもカヤは鼻眼鏡とタスキを着用したものの、どこからかくすくすと笑い声が耳に入ってきた。瞬間、カヤはあまりにも機敏な動きで鼻眼鏡とタスキを床に叩きつける。

その一連の流れでモモカは腹を抱えて大爆笑し、連邦生徒会長とリンとアオイは顔を背けて肩を震わせている。

 

「カヤ室長、今の結構似合ってたと思うんだけどなぁ…」

 

と悪気のない追撃を加えるホッケーマスクを被ったハイネ、これまた雑に悪魔のコスプレをしているスモモはもはや我関せず。連邦生徒会は混沌に包まれていた。

しかしそんな混沌とした空気もどたばたとした足音と共にやってきたアユム(シスター服着用)が連邦生徒会が待機している部屋へとやってきたことにより、霧散すると同時に全員の視線がそちらに向いた。

 

「あ、あの…! 既にかなりの数の生徒が屋台に並んでいます…! 今は先生達も手伝ってくれていますけど、やっぱり手が足りないそうで…応援お願いします!」

 

「おや。思ったよりも盛況のようですね、今行きます。カヤ室長、ナイトパーティ参加の際はできれば何か用意しておいてくださいね」

 

「ちょっ…いくらなんでも無茶振りがすぎま…!」

 

カヤが何かを言い終わる前に連邦生徒会長やカヤと一部の室長達は扉を閉めて外に出ている屋台に赴くと、そこには長蛇の列ができていた。

あらまぁ、と連邦生徒会長はそれに対して軽く驚嘆していたが、しかし直ぐに切り替えて列を捌くためにヘルプに入る。

現状人が多そうな屋台に入ってみれば、そこには全身にサイバーチックなアーマーを纏った謎の人物が連邦生徒会の生徒と共に屋台を切り盛りしていた。

 

(えっ…誰…?)

 

連邦生徒会長はそう思ったが、しかしその人物は朗らかに冗談めかして声をかけてくる。

 

「あ、勝手に手伝わせてもらってるよ。しかしすごいね、これも連邦生徒会の人望ありきかな?」

 

「あれっ、もしかして先生ですか!?」

 

先生がキヴォトスの外から持ち込んできて見せてくれた映画に登場する某鋼鉄男のスーツを完全に再現しているそのフルアーマー人間こと先生は、何事もなかったかのように来客した生徒を捌いていく。

そんな働く鋼鉄男の姿を見て、ここに突っ立っている場合じゃないと正気に戻った連邦生徒会長もまたヘルプに入っていった。

その十数分後。

 

『危機。ドリンクの材料が底を着きました。指示をお願いします、連邦生徒会長』

 

「想定よりも大分盛況ですね…。わかりました、とりあえず買い出しを行います。誰か手の空いている方、は…」

 

プラナの声を聞いて振り返ってみれば、そこには同じく先生がキヴォトスの外から持ち込んだ映画に登場する蜘蛛男を完全再現している人物が居た。…違う、蜘蛛男は蜘蛛男でもよく見れば映画に登場する方ではなく無敵のロボットを出してくる方の蜘蛛男のコスプレだ。

プラナの声がした辺り、ほぼ間違いなくプレナパテスだろう。連邦生徒会長が軽く言葉を失っていると、プレナパテスはさっとキレ良くポーズをとって次の指示を促してくる。

困惑しながらも促されたこともあり、連邦生徒会長は改めて買い出しの指示を出した。

すると鋼鉄男と蜘蛛男は静かに見つめ合い、かと思えばおもむろに蜘蛛男が鋼鉄男の肩に手を置いた。瞬間、鋼鉄男の両掌からジェットが噴射される。その後ふっと浮き上がったと思いきや、凄まじいスピードで二人は空をかっとんでいった。どうやら見た目だけでなく中身も再現していたらしい。あれは間違いなくエンジニア部製だと、その場にいた人物全員がそう確信させるにはそれは十分すぎる光景であった。

そんなスーパーヒーロー二人を見送った後連邦生徒会長は列に並んでくれた人たちへの事情説明を行った後、菓子配布はつつがなく進んでいく。

途中でスーパーヒーロー達が材料を携えて戻ってきたため、ドリンク配布のほうもなんとか好評のまま昼の企画は終わりを迎えるのだった。

 

 

そして、その日の夜。ナイトパーティが大好評で終わり、連邦生徒会の生徒以外が解散し終わった頃。

ナイトパーティの舞台となった建物の通路でゆらりゆらりと一つの影が揺れる。

 

「ウゥゥ…ッ…!」

 

その影はうめき声をあげ、ただ揺れているだけかと思えば。

 

「ウゥゥ……アァアァァァァッ!」

 

近づいてくる足音に叫び声をあげて獣の様に襲いかかる。足音の主は突如として襲いかかってきた存在に動揺する──こともなく、容赦なくズガンズガンと2発発砲。

 

「いったぁい!?」

 

影──連邦生徒会長は容赦のない反撃に思わず情けない声をあげて尻もちをつく。

そんな彼女を発砲者・ 七神リンは呆れた視線で見下ろしている。

 

「いたたた…いきなり発砲するのはどうかと思うよ、リンちゃん。これが私じゃなかったらどうするの」

 

「私にこういうことをするのは貴方くらいですよ、会長」

 

そう言いながら尻もちをついた連邦生徒会長に向けて手を差し出すリン。彼女の手をとって、連邦生徒会長はすっと立ち上がったあと軽く埃を払う。

 

「うーん、何がいけなかったんでしょう。頑張って声質も変えてたんだけどなぁ」

 

「ゾンビメイクの時点でこういうことをしてくると思っていましたからね。うめき声が聞こえた時点で今だと確信しました」

 

「む。流石だね、リンちゃん」

 

「リンちゃんはやめてください。…それと」

 

言葉をそう切った後、リンはおずおずと話を続けた。

 

「トリックオアトリート、です。甘味を頂けないなら悪戯しますよ」

 

まさかリンからそういうことを言われるとは思っていなかった連邦生徒会長は思わずぽかんと口を開いた後に数秒考え、そしてようやく状況を理解したのちなんとか言葉を絞り出すのであった。

 

「…リンちゃんがこういう事を言い出すだなんて…。想定外過ぎて何も用意してなかった…」

 

「では悪戯確定ですね。さて、どのようなものがいいでしょうか。とりあえず言ってみたのはいいですが、私はこういう事には慣れていないのでモモカ達に相談が必要ですね。腕が鳴ります」

 

「お、お手柔らかにお願いするね…?」

 

そんな言葉を交わしながら彼女たちはパーティと同時にハロウィンという一日の終わりを迎え、そして冬の冷たい空気と共にいつもの日常がやってくる。

翌月においての連邦生徒会長の最初の大仕事は、モモカによって入れ知恵されたリンの悪戯によってチョーク塗れにされた会長室の掃除であったのだった。

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