「私のミスでした…」
少女は引きつった表情でその光景を見つめる。表情から伺えるその内心はどこか嬉しそうでもあり、また同時にやってしまったと悔恨しているようにも見える。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のあの選択が間違っていたことを知るなんて…」
「図々しいお願いですが、お願いします」
そこで一旦言葉を切ると、彼女は隣に立つ人影に声をかけた。その空のように青い瞳を潤ませ、なんとかならないかと縋るような視線を眼前の『彼女』に向けた。
「…本当に申し訳ないのですが、次から植える花はこれ以外にしてもらってもいいですか?」
「え、どうして? この子たち、気に入らなかった…?」
桃色の髪を持つかわいらしい顔の少女──秤アツコは隣に立つ連邦生徒会長の言葉に心底不思議そうに、また同時にかなり悲しそうな表情を向けた。
そんな彼女の表情を見て連邦生徒会長は若干心は痛んだものの、それでもこの光景には流石に苦言を呈さざるを得なかった。
別に連邦生徒会長は彼女の植えた花が嫌いな訳では一切ない。ないのだが、しかし。
「…いえ、そういう訳では。ですが、その…連邦生徒会がちょっと…なんといいますか、これの影響で不気味がられている、んですよね…」
現在二人が立っているのは連邦生徒会が所有する建物の玄関である。その一面にはアツコが丹精込めて育て上げた彼岸花が咲き乱れていた。それは血を啜ったかのように紅く、そして凛として咲き誇っている。
ここが花畑であるならばただ「わー、きれー」で済むのだが、しかし建物の周りに群生しているともなれば話は別。
彼岸花の持つ不吉なイメージと連邦生徒会のオープンなようでその性質上機密の多い体制が見事に嚙み合った結果、現在の連邦生徒会には「影響力の高さを隠れ蓑に何かとんでもない実験をしているのではないか」というとんでもない噂話が世間に出回っているのだった。
勿論根も葉もない与太話でしかないのだが、しかし連邦生徒会としてはこれを放っておくわけにもいかない。何人かから伐採の意見が出たのを何とか退けたあと、連邦生徒会長は花壇の管理を任せていたアツコに連絡を取って現在に至る。
「…でも、いくらでも植えていいって言ってたよね?」
「うぅっ…そこを突かれると非常に申し訳ないです…。約束を違えるようなことになってしまったことを、ここに正式に謝罪します…。当時はまさか彼岸花を植えるだけでこんな風評被害が発生するとは思ってなかったんです…」
そう言いながら綺麗に腰を曲げて頭を下げる連邦生徒会長。そんな彼女を見てアツコは「あ、ごめんね。そういうつもりじゃなかったの」と頭を上げるように優しく語り掛ける。
そんな言葉に甘えて連邦生徒会長は顔を上げると、アツコは寂し気に微笑んでいた。そんな彼女の様子に、連邦生徒会長は更に心を抉られる。
「…それじゃあ、この子達とはこれでお別れ…なんだね」
「はい…。なんとか今シーズンまでは残せるようには説得できましたが、それが限界でした…」
「そっか…」
「…提案ですが、何輪かを加工して押し花にでもして栞なんかを作るのはどうですか? そうすればもう少しだけ、長く一緒に居られますよ。加工の方法を探すことになるので、少し待たせてしまいますが…」
「そうなんだ…。…うん、じゃあお願いするね」
「はい。4輪…いえ、少しでも多く加工できるよう後で手配しておきます」
連邦生徒会長がそう宣言すると、アツコはほっとした様子でどこか嬉しそうに微笑んだ。そんな彼女の様子を見て、連邦生徒会長もまた少し嬉しくなる。
数秒二人とも何もしゃべらずにしんみりとした空気が流れていたが、そんな空気を変えるようにこほんと咳ばらいをした後連邦生徒会長はあえて明るく次の話題を振った。
「さて! それでは次はどんなお花を植えましょうか。アツコさんはどんな子に会いたいですか?」
「うーん…。じゃあ、次は──」
一体どんな花を植えて、どのようにこの花壇を彩ってくれるのだろう。連邦生徒会長は未来に思いを馳せながらアツコの返答を待つ。
そして、帰ってきた答えは。
「──トリカブトとか」
「トリカブトですかぁ。…えっ、ちょっ…トリカブトですか!?」
まさかの返答に思わずばっとアツコの方を見ると、彼女はきょとんとした顔で連邦生徒会長の事を見つめ返していた。どうやら彼女は自分の答えが危険なものであるとは知らないらしい。思えば彼岸花のときもそうだった。彼岸花を育てたいと聞いた瞬間即座に危険性と育成方法を2時間みっちりレクチャーしたのは記憶に新しい。
連邦生徒会長が彼岸花の時同様に懇切丁寧にトリカブトの危険性について説明すると、アツコは小さく「そうなんだ…。トリカブトにも毒があるんだ」と小さく呟いた。どうやらわかってくれたらしい、と連邦生徒会長が思ったその刹那。
「…それなら、植えるだけ植えとこう。何かに使えるかもしれないし」
「一体何に使うつもりですか…!?」
「それは…ほら、色々使い道はあるでしょ?」
「ダメですよ!? 私の目の黒いうちはそういう用途には使わせませんからね!」
連邦生徒会長はそう言うと同時に、このアツコも穏やかなように見えて凄まじく荒んでいるアリウスの育ちだったということを思い出した。時と場合によっては穏やかな顔をして容赦なく暴力に訴えかけることも辞さないのが秤アツコと言う人物である。
「むぅ…」
「むくれてもダメですよ。本来は一生矯正局に叩き込まれるはずのところを監視付きとはいえ自由に動けるようにしてるんですから、お願いなのでよっぽどのことが無い限りは大人しくしててください。毒物とか使われるといくらなんでも庇いきれませんし、もし何か問題を起こされるとこちらもそれなりの対応を取らないといけないので」
「…ケチ」
「ケチって言われた…!?」
アツコの発言に思わずショックを受ける連邦生徒会長。しかしアツコはそんな連邦生徒会長の様子を見てくすくすと笑う。どうやら流石に冗談だったようだ。…いや本当に冗談だったのだろうか。連邦生徒会長には真相はわからなかった。
「貴方がそこまで言うならトリカブトは諦める。…それから、私達を自由に動けるようにしてくれてありがとう」
「処分を言い渡すときも言いましたが、貴方達もベアトリーチェの被害者です。それ故に、ある程度は情状酌量の余地はあります。…とはいえ、やったことはやったことです。幸い死者は出ませんでしたが、罪の意識はこれからも持っておいてくださいね」
「…うん、それは勿論」
アツコは真剣な顔をして連邦生徒会長の言葉に応える。アリウススクワッドは変わった、これからは犯罪行為はしないだろう。連邦生徒会長は確信する。
「それでなんだけど。次植えるお花はエンジェルストランペットっていうのがいいかなって思うんだけど、どうかな?」
「また有毒植物ですか!? もうわざとやっていませんか!?」
その後アツコと連邦生徒会長、二人から呼び出された先生も立ち合いの協議の結果、オーソドックスにチューリップやコスモスなどの毒が無い植物を栽培することに決定。
ちなみにそこに至るまでの候補としてはどう考えても碌なことにならないラフレシア、それそのものには問題はないが明らかに育成の動機に他意がありそうなサボテンなど様々な候補があったのだが、それはまた別の話である。
また、何者かによって花壇にミントが投げ込まれたのを知って怒り狂ったアツコを宥めるのに他のアリウススクワッドのメンバーやアズサを始めとする補習授業部、それにミカまでも巻き込んでかなりの大騒ぎになってしまったのも別の話である。その件の結末としてミントを投げ込んだ生徒は後日しっかりシメられていたが、誰がやったのかは定かではない。
連邦生徒会長は犯人のアタリはついていたが、考えるのが怖かったのでその件は闇に葬ったのだった。
こんにちは。
今回花の栽培についてのお話になっていますが、投稿主はガーデニングエアプなので誤ったことを書いているところが多々あると思われます。もしそういったところがあっても温かい目で見守りつつマイルドな表現で指摘していただけると幸いです。
また作中には毒性のある花について栽培、という話がありますがそういった植物はきちんと確認してから栽培、あるいは専門家などに確認をとって法的に問題ない形で、栽培だけに留めておいてくださいね。まかり間違っても実用はダメだゾ☆
この作品は、Pixiv様にも投稿させていただいています。