シリーズ「私のミスでした」   作:竜田揚げ丸

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こんにちは。

ゲヘナイベントの復刻ということで投稿させていただきます。
実はゲヘナのお話は意外とネタが出ない上、この話を書き上げたのもだいぶ前です。故に話のキレもちょっと悪い気もしますが、楽しんでいただければ幸いです。

この作品は、ハーメルン様にも投稿させていただいています。


「私のミスでした…」イブキ「その15だよー!」

「私達のミスでした…」

 

少女は沈痛な面持ちで俯く。その表情は悔しさを堪えるように、唇をきゅっと縛っている。

 

「私達の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」

 

「この結果にたどり着いて初めて、私達のあの選択が間違っていたことを知るなんて…」

 

「図々しいお願いですが、お願いします」

 

そこで一旦言葉を切ると、彼女は顔を上げた。その空のように青い瞳を潤ませ、他に選択肢は無いとばかりに眼前の『大人』に懇願した。

 

「…どうかイブキさんにゲヘナに帰るよう説得をしていただけないでしょうか」

 

「うーん、やってはいるんだけどね。今日は中々帰りたがらないね」

 

視線の先にはユメやプレナパテスと遊んでいるイブキの姿があった。今でこそ弾けるような笑顔であるが、そろそろ時間だから戻った方がいいと告げるとしゅんとして今にも泣きそうな顔になるために、申し訳なくなってもうちょっといてもいいと言うしかなくなってしまうのである。ちなみにかれこれ8回はこういった話を繰り返している。

 

「あと片手間でもいいのでマコトさんの説得もお願いできませんか。さっきから鬼のように電話かかってきてるし出たら物凄い怒声が飛んでくるんですが」

 

「イブキ絡みのマコト…というか万魔殿の対応はコツがいるからね。まぁ、取り敢えずそっちは私からも話してみるよ」

 

「お願いします。こちらも特に軟禁してるつもりはないのですが、マコトさんは話を聞いてくれなくて」

 

連邦生徒会長がそう言った瞬間、着信音とともに携帯が震える。ほぼ間違いなくマコトからであろう。

既に二桁回数もかけられている為に若干面倒くさくなってきているが、しかし出ない訳にもいかない。取り敢えず応答のボタンを押してみると。

 

『いい加減イブキを返せこのタヌキどもォ! いいのか!? 空崎ヒナをそちらに向かわせるぞ!?』

 

開口一番そう怒鳴られた。無言で携帯を先生に渡し、応答を任せる。そうして先生がマコト…というか万魔殿全体の説得を始めたこの時間に、連邦生徒会長はどうしてこうなったのかを思い返すことにした。

事の発端はやはり、イブキがシャーレの当番にやってきた事だろう。この時点ではどうということはなかったのだが、ここからの皆の行動に問題があった。

まず最初に、シャーレに用事という名目でサボりに行ったモモカ。

 

『んー? 一緒に遊びたいの? …もー、しょうがないなぁ』

 

とこのようにどうやらイブキと一緒にモモカは色んな物で遊んでいたらしい。そんなモモカを役員たちのクレームを受けて連れ戻しに来たアユムがシャーレに訪れると。

 

『あ…。私の翼、気になりますか? お仕事があるので一緒に遊べはしませんけど…。はい、私の羽根です。私のでよければ、どうぞ…!』

 

と一枚羽根を渡して、そしてモモカとともに去っていったようだ。どうやらそれはかなりイブキのお気に召したらしく、リフレッシュもできたイブキは当番の仕事を張り切るようになった。

そんな中でモモカと違って本当に用事があったらしいアオイが訪れて、

 

『よく頑張ってるわね。…今の持ち合わせはこれしかないけれど、貴方がよければあげるわ』

 

と本来の用事のついでに当番を頑張っているイブキに飴をいくつか渡し、シャーレを去っていった。これはイブキの好きな銘柄だったらしく、彼女は更に当番の仕事を頑張っていく。

その次には書類の不備を指摘しにきたリンがシャーレに訪れ、

 

『ふふ…貴方のような方がゲヘナのトップに立ってくれれば、少しはゲヘナの治安も良くなるかもしれませんね』

 

と連邦生徒会長も見たことがないくらい優しい笑みを浮かべ、そして頭を優しく撫でていったらしい。

最後にリフレッシュついでにシャーレを訪れた連邦生徒会長が、

 

『お疲れ様です、イブキさん。貴方が頑張っていること、聞き及んでますよ。…ということで、じゃーん! ケーキを買ってきました! さぁ、先生達も一緒にちょっとだけ休憩しましょう!』

 

…とまぁ、こんな具合に連邦生徒会の面々はイブキを甘やかしに甘やかした。そこは別にこの際構わないのだが、ここからがこの状況において厄介なところであった。

イブキは優しい子なのでそんな彼女達に、

 

『連邦生徒会の人たちにありがとうって言い忘れてて…。ありがとうって言いたいんだけど、だめ…?』

 

とシャーレに残ろうとしたのだ。が、間が悪いことにリンやアオイは出張で今連邦生徒会に居ないのである。

その上、次にシャーレに来られるのはかなり後になるからとイブキは今日中にお礼がしたいと言って聞かないのであった。

そうこうしている内に時間は過ぎ、そしてマコトから電話がかかってきて今に至る。

 

「…え? 実力行使も辞さない? ヒナは絶対にこっちに差し向ける? …取り敢えずそうしてもらっていい? あとイロハもこっちに。うん、お願いね。しつこく言うようだけど別に連邦生徒会もシャーレもイブキを軟禁してる訳じゃないから攻撃はダメだよ?」

 

そう言って先生は電話を切って、連邦生徒会長に携帯を返却してくれた。

 

「ヒナが…というか風紀委員会とイロハが迎えに来るって」

 

「あのすみません、聞き間違えではなければ襲撃するみたいな言い方してませんでした?」

 

「あぁ、そういう言い方はしてたね。…でもヒナもイロハも、流石に襲撃はしてこないだろうから大丈夫だよ」

 

大丈夫…なんだろうか。連邦生徒会長は一抹の不安を覚えながら、ゲヘナの主力メンバーが来るのをイブキとの遊びに加わりながら待つのであった。

その数十分後。

 

「先生。イブキを迎えに来ました」

 

「…私まで呼ぶ必要はなかったんじゃないかしら。本当にもう、この忙しい時にマコトは…」

 

とイロハとヒナはシャーレを襲撃することもなく、普通に扉から入ってきた。

そんな彼女らの姿を認めると、イブキはシャーレの大人達の間をすり抜けて彼女達の下へと一目散に駆けていく。

 

「心配しましたよ、イブキ。さぁ、ゲヘナに帰りましょう」

 

「イロハ先輩…。でもイブキ、まだ連邦生徒会の人たちにありがとうって言えてないよ?」

 

「…イブキに何をしたんですか?」

 

イロハの纏う雰囲気が剣呑なものへと変わっていき、徐々に連邦生徒会長に詰め寄っていく。その様子を見たヒナは無言で頭を抑えた後、説得に入った。

 

「害になることは流石にやってないでしょう。連邦生徒会はその性質上、ある程度は中立でなければいけないし」

 

「ですが危ない遊びを教え込んでいたらどうするんですか。それがきっかけでイブキの身に何かあったら…!?」

 

「少しは落ち着きなさい…」

 

珍しくヒートアップするイロハに極めて面倒くさそうに返すヒナだったが、しかし未だヒートアップ中のイロハは次の瞬間急激なクールダウンをすることを余儀なくされた。

 

「イロハ先輩は連邦生徒会の人たちにいじわるするの? …だったらそんなイロハ先輩、イブキは嫌い」

 

「う゛ッ゛」

 

そんなうめき声をあげ、それと同時にイロハは膝から崩れ落ちた。どうやらイブキの口から飛び出た嫌いという言葉はクリティカルヒットだったらしい。

さめざめと涙を流して床に這いつくばるイロハをよそに、ヒナは頭が痛くなってきたとばかりに頭に手をあてた。

 

「…ねぇ、聞き忘れていたけれど何がどうしてこんなことになっているの?」

 

「実は…」

 

ヒナの心底めんどくさそうながらも鋭い視線を受けて、連邦生徒会長と先生はここまでの経緯を説明した。すると彼女は露骨に顔を顰め、

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

 

と、とてつもなく深い溜息を吐きだすのだった。

連邦生徒会長と先生は彼女のそんな姿を見て限りなく申し訳なさそうな顔をするしかなかったのだが、しかし彼女はそんな様子を見てこほんと咳ばらいをした。

 

「…ごめんなさい、ちょっとマコトにイラついただけ。二人に対してじゃないわ。…もちろん貴女にもよ、イブキ」

 

若干涙目になっているイブキを優しく撫でると、再び連邦生徒会長や先生に視線を戻した。その目にはもう特に鋭さといったものはなかった。

ただただ判断をこの場の責任者たちに委ねるし、自分はそれに従う。そういった瞳だ。

 

「えぇと…どうしましょうか? リンちゃんたちは明日までは帰ってきませんし…」

 

「んー…確認だけど、イブキは今日はゲヘナに戻りたくはないんだよね?」

 

「うん…だってイブキ、まだありがとうって言えてないし…」

 

「じゃあ、明日まで待とうか」

 

先生がそういった瞬間、その意図を察した連邦生徒会長は瞳をきらきらと輝かせた。一方のヒナとイブキは意味がいまいちわかっていないようで、イブキはぽかんと口を開け、ヒナはきょとんとして首を傾げていた。

そんな彼女たちに、連邦生徒会長は興奮しながらも彼女らに説明を行う。

 

「お泊り会ですよ! ヒナさん、イブキさん!」

 

「…お泊り会? 誰が、どこで?」

 

「私たちが、このシャーレでです!」

 

連邦生徒会長がそう宣言した瞬間イブキは連邦生徒会長同様に目を輝かせ、ヒナは目を見開いた。それと同時に、先ほどまで膝をついてさめざめと涙を流していたイロハはちらりとこちらに視線を向けていた。その瞳は悲哀に満ちている。

そんな彼女の様子に気づいた先生は、直接彼女たちに確認を取った。とある策略の為である。

 

「勿論みんながよければだけどね。イブキもヒナも、イロハもいいかな?」

 

それに対して、ヒナは。

 

「私はまだゲヘナに仕事があるから…」

 

と断った。それに加えてイロハも、

 

「私は…いえ、私がイブキと一緒に居ても楽しくないでしょう…」

 

と先ほどの「嫌い」を受けてかなり落ち込んでいた。が、しかし先生の作戦はここからが本番。

先生の本命はこの次のイブキの行動であった。

 

「え…? イブキとお泊り、してくれないの…?」

 

「「ううっ…」」

 

涙目のイブキによる懇願。これがヒナとイロハが相手なら確実にこれはダメージになると踏んでいた先生とその意図を察していた連邦生徒会長はこの様子を見て内心ほくそ笑んでいた。

そして、とうとう。

 

「はぁ…。わかったわ、今回だけよ」

 

「…仕方ありませんね。ほかでもないイブキの頼みですから。そうと決まればマコト先輩に報告しなければなりませんね」

 

と折れた瞬間、連邦生徒会長と先生は二人が見えていないところでぐっと勢いよく腕をひいて喜びをあらわにした。ちなみに事を見守っていたユメとプレナパテスはそんな二人の様子を見て吹き出している。

そしてその後、彼女たちはシャーレ居住区によるお泊り会を満喫の後、連邦生徒会のメンバーたちへと感謝の気持ちを伝えゲヘナに帰っていったのだった。

ちなみにお泊り会の開催からゲヘナに帰るまで、連邦生徒会長やイロハの携帯にかかってきたマコトからの電話の回数はゆうに70回は超え、イロハが事の仔細を報告した際には目から血を流すレベルで悔しがっていたらしい。

その腹いせに風紀委員の書類仕事をびっくりするほど多く押し付け、それが原因でヒナによって万魔殿は襲撃されることになったのはまた別のお話。

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