最近バチクソ寒くなってきたので投稿します。
今回の発端については、『まぁ、なんかあったんだな…』と深くは考えずにお楽しみください。
この作品は、Pixiv様にも投稿させていただいています。
「私のミスでした…」
少女はその光景を見て口元に苦笑を浮かべると同時に若干の頭痛に襲われた。その顔色は連日の勤務により微妙に悪い。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「…この結果にたどり着いて改めて、私のあの選択がこんな状況を作り出してしまったなんて…」
そこで一旦言葉を切ると、彼女──連邦生徒会長は何度も繰り返される『ソレ』を目視しした後静かに顔を覆って、その光景を作り出してしまった自分の考えの甘さを嘆いた。
「…やはりあの騒動の時に無理をしてでも連邦生徒会が介入するべきでした…」
「うーん…。他の誰だって流石にこれは予想できないと思うよ…」
顔を覆った連邦生徒会長の隣に立って、先生はそうフォローする。彼らの、そして先生達の近くにいる対策委員会のその視線にあるのは。
「うへ、へ、へ…へっくしょん!」
盛大なくしゃみと共に、衝撃波を周囲に撒き散らすホシノの姿。
その衝撃は凄まじく、ある程度離れているにも関わらず踏ん張っていなければ吹き飛ばされてしまいそうな程であった。
これと同じものを既に対策委員会と先生は体感しているし、また様々な事情によって介入が叶わなかった連邦生徒会長もまた書面上で確認している。
それは少し前にホシノの『神秘』が『恐怖』に反転しかけたとき。あのときと全く同じ事が、今彼らの目の前で起こっている。だがしかし、状況は全く同じという訳では無い。
ホシノのくしゃみに合わせて衝撃波が発せられているというだけのことで、ホシノの姿は一切変わらず、また反転する兆候は一切見られないのだ。
『こ、これ…またホシノ先輩が暴走するんじゃ…!?』
『わ、わからない、けど…。…でも、ホシノ先輩を置いてなんていけません!』
はじめはこんな具合にセリカやアヤネ、他の対策委員会のメンバーや万が一の為に招集されてきたシャーレの先生一同や連邦生徒会長(と彼女が不測の事態の時の為に連れてきておいたSRTの隊員達)は厳戒態勢だったのだが、その一時間後。
『へ、へ…出ないや。…っくしゅ! …スッキリした』
『…っ、また…! …それにしても、全然様子が変わりませんね…?』
『ん…。全く姿が変わらない。変わらずくしゃみで衝撃波を飛ばしてるだけ…』
とノノミやシロコが衝撃波に耐えながらホシノの様子を見守っているところ、ここでようやく違和感や疑問を持ち始めた。だがしかし、やはり油断はできない。この場の全員がそう思っていたところで、もう一人のシロコがその姿を現した。
『…またあんなことになる前に止めに来た。状況は?』
と対策委員会や先生達の説明を受けると、もう一人のシロコは無言で数秒何かを考え込んだ後、その口を開いた。
『…抵抗してる、のかも。ホシノ先輩はアビドスを壊すことなんか望んでないから』
『…だとしたら、止めないといけませんね。どうすれば?』
『…今の状況じゃただいたずらに反転を進行させるだけの結果に終わるかもしれないから、下手に手は出せない』
『じゃあこのままホシノ先輩を放っておけっての!?』
『ん…今のところは、そうなる』
『そんな…!?』
『ホシノちゃん…!』
アビドス対策委員会の面々や連邦生徒会長、それからユメはそんな悲壮感を漂わせていたが、しかし先生のとある行動によってこの状況に介入することになったとある人物によってあっさりとその空気感は吹き飛んでいった。
『…皆さんはかなり大事かのように扱っていますが…私が見たところ、あれはただの力の発散ですね』
明らかに先生とは違う大人の声に、先生以外の全員がそちらに視線を送った。そこにあったのはタブレットでテレビ電話を行っている先生の姿であり、そしてその通話先には反省中と書かれたプレートを首にかけて正座させられている黒服の姿があった。
その周囲には先んじてかなり深めのトラウマを植え付けられるほどの折檻を食らったベアトリーチェと地下生活者を除いた、他のゲマトリアのメンバーが同じように正座させられている。その後ろにはプレナパテスが腕を組んで立っているため、どうやらゲマトリアはまたも全員彼に折檻されたらしい。
『…一体どういうことですか、黒服』
『クックック、言葉通りの意味ですよ。どうやら暁のホルス…小鳥遊ホシノの体には恐怖に反転しかけた時の力が残っていたようですね。それは彼女の体に滞留・封印されていたが…どうやら制御が効かなくなっているようです』
『…対処法は?』
『外部からできることはないでしょう。今の小鳥遊ホシノが制御できるまで『恐怖』の力を発散させることしか対処法はないでしょうね』
『完全に『反転』することは?』
『まずないでしょうから安心してください。それと、身体にもそう影響を及ぼすことはないでしょう』
『…もう一つ。こうなった原因は?』
連邦生徒会長が鋭く問いかけると、場の緊張感は更に深まる。自分たちが気づかない間にホシノが苦しんでいたのではないか。ホシノは自分達を心配させまいと気を張っていたのではないか。この場の全員がそんな考えを巡らせていたが、帰ってきた答えは。
『…シンプルな話ですが、体調を崩したのが原因ではないでしょうか』
その答えに一部の面々は『は?』と声を漏らし、そして全員が顔を見合わせた。
『…クックック、そのような反応をされると傷つきますねぇ。我々に不信感があるのは勿論わかっていますが、しかし今回はふざけていませんよ』
『いやふざけてるでしょ。風邪ひいてあんなことになるわけないのは誰だってわかるわよ』
セリカの至極真っ当なツッコミが突き刺さったが、しかし黒服はいつも通りの不遜な笑い声を出すこともなく極めて真剣に話を続ける。どうやら黒服は本気で言っているらしい。
『先程も言いましたが、小鳥遊ホシノの体には不完全な反転によるエネルギーが滞留しているものと考えられます。普段は上手く折り合いをつけていたのが、しかし体調を崩してしまったことにより均衡を失い制御に失敗してこのような有様になっている。
その衝撃は凄まじいですが、小鳥遊ホシノの身体や外部にはそれ以上の害は発生しない』
黒服はそこまで言った後、こほんと一つ咳払いをしたあとに現在の状況を極めて簡潔に纏めてくれた。
『つまり。今の小鳥遊ホシノはですね、風邪をひいてすごいくしゃみをしてるだけです。衝撃がなくなるのは無理な反転の影響が完全に抜けきった時ですね』
『…それは確実と見てもいいのかな、黒服?』
『ククッ! 私が嘘などついた事がありますか、先生?』
そう言った瞬間嘘をつかれたことがあるらしいプレナパテスに関節をきめられ床をタップする黒服の結論に、一同は全員押し黙った。背後では相変わらずホシノがくしゃみをしまくって大気に振動を与え続けている。
そして一瞬の静寂の後に、対策委員会の怒りは爆発した。
『はぁぁぁぁぁぁ!? ここまで不安にさせといて、風邪ひいてすごいくしゃみしてるだけだってのぉ!?』
『なんなんですか本当に!? 勝手に飛び出して反転しかけるしその後遺症があるのかと思ったら風邪ですか!? ホシノ先輩の不摂生が招いた結果じゃないですか!』
『うーん…ホシノ先輩が飛び出していったのには私にも責任の一端はありますけど、これについてはアヤネちゃんの言う通りホシノ先輩の不摂生が原因ですよねぇ…』
『私にも責任があるから強くは言わないし言えないけど…。最近は寒くなってきたし、お昼寝で身体を冷やしちゃったのかなぁ…?』
『ん、これを機にホシノ先輩は少しは生活習慣を改めるべき』
『ん…ちびシロコの言う通り。ホシノ先輩は少し体を休めるべき』
もう一人のシロコのちびシロコという単語に火がついたちびシロコことこちらの世界のシロコとでかシロコこともう一人のシロコが乱闘を始めたが、しかし他の対策委員会のメンバーはそれを無視した。というかホシノへの怒りと呆れでそれどころではなかった。
そんな彼女達の怒りを横目に見て、連邦生徒会長は静かにため息をついた後冒頭に至る。
「…それにしてもどうしましょう、この状況。黒服の言う事を信じるなら別にこのまま放っておいてもいいのではと思わなくもないですが…」
そんな連邦生徒会長の言葉に全員が一定の理解を示した…が、しかし全員が薄々感じていることを代表してアヤネが呟いた。
「ですが…問題はその黒服、なんですよね…。本当に信用してもいいものでしょうか…」
アヤネのその言葉を受けて、未だに喧嘩しているダブルシロコとくしゃみで大気を揺るがしているホシノ以外の全員がそうなんだよなぁ、という表情を見せた。黒服には大小差はあるがみんなそれなりの被害にあっているので残念ながら当然の反応ではある。
が、しかし。皆思っていたその疑念は、ここまで黙って解析に回っていたプラナによってあっさりと払拭されるのだった。
『…解析終了。黒服の言ったことは信頼してもよいかと思います。…癪に障りますが』
「プラナがそういうんだったら大丈夫だね。信用してもいいんじゃないかな」
「まぁプラナちゃんがそう言うのでしたら安心ですよね。それにしても黒服もたまには役に立つことを言ってくれますね、いつもこうだといいのですが」
プラナの言葉を聞いた瞬間、先生と連邦生徒会長はあっさりと疑念を翻して全面的に黒服の言葉を信用しだした。これが信頼と実績の差かと思いながら、アビドス生もまた黒服の言葉を信じてホシノの様子を見守る。
「うへ、へ、へ…へっくしょん! へぇーっくしょん!」
大気を震わすホシノのくしゃみはその後数時間にわたって続くものの、気持ち衝撃は下がった程度で状況は全く変わっていない。
流石にこの状況が数時間も経つと皆の警戒は若干緩くなり、セリカやダブルシロコからはまだ終わらないのかという思いが顔から若干漏れ出している。
そして更に時間は経ち、太陽が本日の仕事を終えてその姿を隠し、現在は時計の短針が2を少し過ぎたあたり。
小鳥遊ホシノはというと。
「へぇっくしょーん!」
まだやっていた。しかも、アビドス生も連邦生徒会長も先生もユメも皆律儀にそれを見守っている。
が、しかしこれにはシンプルな理由がそこにはあった。ホシノのくしゃみがうるさすぎて家に帰ってもそれが気になって眠れないのである。
経過観察で場に残った先生とユメと連邦生徒会長は一度家に戻ったのにもかかわらずこの場に戻ってきた彼女達の姿を見たときは3人とも驚いたが、話を聞いて苦笑せざるを得なかった。
「…なっがいわねー…」
「…そうだね、セリカちゃん…。いいかげん寝たいけど、これじゃあ寝れないよ…」
「…ん…。…ホシノ先輩、近所迷惑…」
「もう皆大分おねむさんですねー…。かくいう私も人の事は言えませんが…」
「…流石の私でも全然眠れない。一回絞め落としたほうが皆安眠できるんじゃないかな」
でかシロコのそんな発言を聞いた対策委員会は一瞬だけ目を見開いて本気か!? という表情を見せたが、しかし次の瞬間目をぎらりと輝かせたと思ったその瞬間、アビドス廃校対策委員会は止めるまもなくホシノに向かって飛びかかっていった。
「うへっ!? ちょっ、待って皆!? おじさんも悪いとは思ってるんだけど止められなくて…! シロコちゃん…! 首、おじさんの首絞まってるから…!」
「ん…ホシノ先輩、お願いだから抵抗しないで」
「そうです…! 少し眠っていてもらいますっ!」
「ホシノ先輩、寝るのは得意でしょ!」
「うふふ☆おやすみなさい、ホシノ先輩☆」
「私たちの安眠のために…お願い」
5人からの総攻撃を受けて、体調不良の上碌に眠れていないホシノはあえなく撃沈。
アビドスはようやく夜の静寂を取り戻し、しかし5人はそれで気力を使い果たしたのかその場で眠ってしまった。
そんな電光石火の攻防を止められなかったがために現在あたふたしているユメを見ながら、連邦生徒会長は薄く微笑んで。
「…これ、結局どう書類にまとめたものでしょうか」
と呟いて、そのまま夜は更けていった。
日が昇って、みんなが目覚めたあと。ホシノを除くアビドスの生徒達は全員揃って手段が乱暴すぎると全員がユメに説教されていた。その後ろでは昨日よりはマシになったとはいえくしゃみで空気を揺らすホシノの姿があり、そんな彼女たちを微笑ましく眺めていた連邦生徒会長は。
「は、は、…くちゅん!」
とくしゃみをした後、
「…風邪が伝染ったかもしれませんね。…心なしか寒気も感じますし」
とぼそっと告げて、そしてそれを聞き逃さなかった先生によって自宅へと強制送還されるのだった。なお、体温は平熱であったしそれ以降くしゃみもなかったので普通に気の所為である。