イチカ主役のイベントが終わるので投稿します。
この作品は、Pixiv様にも投稿させていただいています。
「私のミスでした…」
少女は汗を一筋垂らし、隣に座る人物にそう呟いた。その表情は引きつっており、完全に何かやらかしたことを示していた。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のあの選択が間違っていたことを知るなんて…」
そこまで言った後、少女──連邦生徒会長は隣に座る人物…真っ黒なセーラー服に身を包み、同じく黒い髪を伸ばした生徒に頭を下げた。
「…まさか目的の駅で降り損ねて二度手間に付き合わせてしまうとは…。付き合っていただいているイチカさん達には本当に申し訳ないです…」
隣に座る人物──それなりに個性派揃いの正義実現委員会の中でもかなりの常識人と目される生徒、仲正イチカは自分よりもよっぽど位が高いはずなのに何の躊躇もなく頭を下げる連邦生徒会長のフォローに回るのだった。
「いやいや、会長さんのせいじゃないっすよ。というか、会長さんが思うほど私たちは気にしてないっす。何が悪かったかって言ったら、ゲームが楽しすぎたのが悪いっすよ」
「うぅ…イチカさん、そう言っていただけるとありがたいことこの上ないです…。本当に面目ありません…」
「ほんと、気にしてないっすから…。できれば早く頭を上げてもらえるとこっちは色んな意味で助かるっす…」
要人のはずなのにまったく威厳などを感じさせず、ともすれば情けなさすら湛えて連邦生徒会長はイチカや周りの生徒たちに頭を下げて謝り続け、一方頭を下げられているイチカ達はだらだらと冷や汗を流しながら連邦生徒会長を宥め続けていた。
何故こんな事になったか、その発端といえば時は数時間前にまで遡る。
『さて…今回の談話はこの程度で構わないでしょう。皆さん、お疲れ様でした。連邦生徒会長、毎度のことながらトリニティに足を運んでいただきありがとうございます』
『ナギサさんもお疲れ様でした。ミカさんやセイアさんも、今回もお疲れ様です。トリニティとの会合は三者三様の意見があり毎回有意義な話し合いができるし、なにより人が沢山いて楽しいですね。…それと、毎回美味しいお茶をありがとうございます』
トリニティと連邦生徒会の代表同士での意見交換が終わり、連邦生徒会長が連邦生徒会に戻ろうという時のこと。
『…時に連邦生徒会長、トリニティの治安が少し悪くなっていることは気づいているかい?』
セイアが真剣な表情で連邦生徒会長に問いかける。連邦生徒会長はトリニティに訪れたときに違和感は感じていたが、やはりそういうことだったらしい。
『そうですね…。トリニティにしては少し空気が剣呑な気はします。…山海経とレッドウィンターの悪い空気のハイブリッド、と言いますか…』
ゲヘナでもよく感じる雰囲気ですねと連邦生徒会長は危うく口に仕掛けたが、しかしそれはどこからどう考えても地雷であるために即座に口を噤んだ。口は禍の元、うっかり余計なことを言ったらその時点で戦争になりかねないからだ。
『へぇ、他の学校ってそうなんだ。トリニティと比べると物騒だね』
『その物騒な空気がトリニティにも流れている、と言っているんだがね。まったく…ミカ、君はもう少し言葉の意味を理解した方がいい。度々言っていることだけれど、ね』
『じゃあセイアちゃんはもっと人にわかりやすく伝えることを意識した方がいいと思うよ? 私もちょいちょい言っていると思うけど、セイアちゃんったら一向に改善してくれないよね』
『学びのなさは君も同じくだろう? 大体君は──』
『二人とも、そこまでです。いくら最近よく顔を合わせる方とはいえ、客人の前ですよ』
突如として勃発しかけた、しかし後々話を聞いてみればよくあるらしいミカとセイアの諍いを連邦生徒会長が介入する前にナギサは努めて冷静かつスマートに収めた。流石に二人と長い付き合いで対応が早いと連邦生徒会長が感心していると、ナギサは気恥ずかしそうに微笑んだ。
『見苦しいところをお見せしてしまいましたね、連邦生徒会長』
『いえいえ、お気になさらず。喧嘩するほど仲がいいと言いますし、まだ微笑ましい光景ですから。…けれど、余計なお世話と思いますがいくつか忠告させていただきますね。喧嘩もほどほどに、それから言葉には気を付けたほうがいいですよ。あまり強い言葉を使えば、互いに傷つく結果になるかもしれませんので。それと、もしお互いの関係に悩みがあるなら腹を割ってとことんまで話し合ってみることをお勧めしますよ』
連邦生徒会長のその言葉に三人とも視線を合わせ、そしてそのあとになんとも言えない表情で視線を外した。連邦生徒会長の発言に何か思うところがあったらしいが、しかしそれは彼女たちの問題。頼まれてもいないのに連邦生徒会長がこれ以上首を突っ込むことではないだろう。
…ここまで良い人間の見本のような動きをしていた連邦生徒会長であったが、しかし実は先ほどの忠告は連邦生徒会長の実体験なのであった。以前に一度だけリンの地雷をうっかり、そしてかなり強めに踏んでしまい大喧嘩をした結果、培った友情と共に連邦生徒会を瓦解の危機に陥らせた体験をそうとはわからないように彼女たちに言っただけなのである。
『…話の腰を折ってしまいましたね、申し訳ありません。話を戻しましょうか』
そんなことを全く感じさせないほど清々しく、また透明感のある微笑をその場に残す連邦生徒会長。
彼女のそんな過去などつゆ知らず、ティーパーティーのメンバー達は表情に各々思うところを表しながら連邦生徒会長の言葉通り話を戻すのだった。
『本題に戻していただいてありがとうございます。えぇと、どこまで話したでしょうか…』
『トリニティの空気が少し悪い…というところまでですね』
『あぁ、重ね重ね申し訳ありません。…はっきり言って、今のトリニティはいつ何が起こるかわかりません。情けない話ですが、このまま連邦生徒会長を一人でお帰しするのは私達としても不安がありまして…』
そう言ってナギサが困り顔を浮かべるのと同時に、話の続きはナギサとは対照的に表情が明るいままのミカが引き取った。少なくともミカはこの場においては互いの関係性についてはある程度割り切っているようだった。
『トリニティから護衛を出すってことになったんだよね。…連邦生徒会長が最初っから護衛を連れてきてくれれば、あーんなめんどくさい手続きとかしなくて済んで楽できたんだけどね』
『ミカさん? それ以上余計なことを言うようならロールケーキを口にぶち込みますよ?』
余計な事を言うミカにナギサがじとっとした目つきでミカを睨みつけ、睨みつけられたミカは『はいはい、ごめんねナギちゃーん』と極めてテキトーな返事を返していたが、その応対にナギサが微笑を浮かべているのを確認した瞬間『やばっ…』と呟いてちょっとだけ顔を引きつらせていた。ナギサの微笑のその中には明らかに怒りが混じっているのが目に見え、その表情にいつものお怒りモードのリンを重ねてしまった連邦生徒会長は思わず苦笑し、また唯一それに参加していなかったセイアは溜息を吐いた。
『…どたばたしていてすまないね、連邦生徒会長。だが、話の流れはわかっただろう? 今この状況では安全性の観点から見て一人で帰すわけにはいかない。君が連邦生徒会に無事に戻れるよう、トリニティから護衛をつけさせてもらいたいんだ』
『なるほど、そうですか…』
連邦生徒会長としては一人で連邦生徒会に戻っても構わないが、しかし一人で帰してもしも連邦生徒会長になにかあった場合トリニティに責任と疑惑が向きかねないし、更に下手を打てば連邦生徒会とも衝突しかねない。それは避けたい、というのが彼女たちからの今回の提案の真意なのだろう。
真意がわかったところで別に連邦生徒会長には断る理由も無いので、その提案を飲むことにした。
『承知しました、お気遣いに感謝します。護衛の生徒たちは既に選出済みですか?』
『あぁ、この外に待機させている。ここから出れば、すぐに顔合わせになるはずだ。…改めて本日はありがとう、連邦生徒会長』
『えぇ、それではまた。セイアさんも息災で。…後ろで取っ組み合いをしているお二人にもそうお伝えください』
そうして連邦生徒会長は会合場所から退室すると、そこには正義実現委員会の仲正イチカと、彼女を慕う4人の正義実現委員会の生徒たちがそこにいた。
彼女たちは連邦生徒会長の姿を認めた瞬間、即座に頭を下げて連邦生徒会長に挨拶を行い始める。
『どもっす。今回会長さんの護衛をさせていただく、仲正イチカっす』
それに続いて正義実現委員会委員会の生徒たちもまた自己紹介を行っていく。イチカに比べると彼女たちはやや緊張しているようで、もともと可愛らしい印象の彼女たちが更に可愛らしく見せてしまう。しかしながらそれを表情に出してしまうと失礼かと思い、連邦生徒会長は表情を微笑のまま変えずに挨拶をし返した。
『イチカさん達が護衛の方々でしたか。本日はよろしくお願いしますね』
『はいっす。身辺警護は任せてください』
『ふふ、頼もしい限りです。…ですが、そこまで気負わずのんびりと連邦生徒会まで行きましょう。焦ってもいいことはありませんからね』
今回集まってくれたイチカ以外の正義実現委員会のメンバーの緊張をほぐす為にも連邦生徒会長は極めて穏やかに、できるだけ緊張感なくそう言ってみたのだが、しかし。
『は、はい! のんびり、ですね!』
『が、がが、頑張ります!』
『のんびりでもしっかりお守りするので! ご…ご安心ください!』
『わたしたち、頑張ってお役に立ちます! 見ててくださいね!』
『…あれ。逆効果でしたかね…』
思っていたのと逆の反応が帰ってきた連邦生徒会長はちょっとだけ困った表情で微妙に首を傾げつつそう呟いたが、しかしその呟きを耳聡く聞き逃さなかったイチカがさり気なく耳打ちしてきた。…距離が近い上、既に目を開いている。
『…今はこんな感じっすけど、でも普段の訓練では腕は確かな子たちです。私もフォローするんで心配は必要ないっすよ』
イチカはそんな耳打ちの後、ウィンクをぱちんと一つ飛ばしてきた。後輩への信頼に溢れているイチカの様子を見た連邦生徒会長は『まぁ、いいか…。最悪自分で自分の身くらいは守るし…』と勝手に納得してこの人選について深く考えるのをやめると、号令をかけた。
『さて。顔合わせも終わりましたし、そろそろ行きましょうか。皆さん、改めて護衛はお任せしますね』
『『『『は、はいっ!』』』』
『大丈夫、会長には指一本触れさせないっすよ!』
イチカが勇ましくそう言うと、連邦生徒会長の護衛を伴った帰還はここに幕を上げたのだった。
時間は少し進み、場所はD.U.を通過する電車内。ここまでの道中は特に何も起きず、連邦生徒会長とイチカを含めた正義実現委員会の生徒たちは様々な話に花を咲かせた結果ほんのちょっとだけ仲良くなった。
『ふぅ…。ここまで無事に来れましたね。なにも起きなくて何よりです』
連邦生徒会長がそう言うと、護衛の生徒達もちょっとだけ気を緩めて連邦生徒会長に同意するようにこくこくと首を縦に振った。彼女らと連邦生徒会長の間には出会った時ほどの緊張はあまり無く、友達の友達くらいの空気感が漂っている。そんな何とも言い難い空気の中、誰かのお腹がきゅうと鳴りそれと同時に護衛の生徒の一人がお腹を抑えた。
『あ…ご、ごめんなさい!』
『いやいや、そんな気にすることでもないっすよ。ね?』
『えぇ。あれだけ歩けばお腹も空きますよ。…というわけで』
連邦生徒会長はにやりと笑みを浮かべ、車内販売でワゴンを押している生徒に声をかけた。
『すいません、商品を見せてもらえますか。…皆さん、どうします? せっかくなので奢りますよ?』
『え? で、でも…』
『ここを逃したら、次はいつ食べられるんですかねぇ…?』
戸惑い気味の正義実現委員会の生徒たちに、連邦生徒会長は悪い顔を浮かべながら迫る。まるで裏取引をする悪徳政治家のような絵面だが、別に買収しようとしている訳ではなく純粋な善意から何か奢ろうというだけの話である。イチカもそれは理解しているために、まったくもって止める気はない。それどころか。
『あ、じゃあ私はアイスで。最近忙しくてスイーツとか食べれてないんすよね』
とアイスを買ってもらって鼻歌交じりに開封、その後見せつけるように口に運んだ。『ん~、おいしいっす~♪』と舌鼓を打つイチカの様子を見て、護衛の生徒たちもおずおずと弁当なりスイーツなりを連邦生徒会長に奢ってもらい、その連邦生徒会長もまた車内弁当一つとアイスをいくつか購入。各々食事を楽しんでいたのだが、しかし。
『…調子に乗ってアイスをいっぱい買っちゃったんですけど、実は一人で食べきれる気がしなくて。せっかくなのでこれをかけてゲームとかしません…?』
普段あまり関わらない生徒とこうまで密接に関わっているという貴重な時間にテンションが上がってしまった連邦生徒会長はそう提案し、それに乗った皆とのアイスを賭けた即興のゲームがこれまた白熱。アイスなんかそっちのけで何回も何回もゲームを行い、そして。
『…あれ? よく見たら降りる駅もうとっくに過ぎてないっすか?』
『え? …そんな筈は…。…ぇ、あれっ…!? 嘘でしょう!? 乗り過ごした!? いつの間に!?』
こうして連邦生徒会長とその護衛の生徒たちは乗り過ごしに気づき、気づいたその次の駅で緊急下車。反対のホームにまわって特急や快速などいくつかの電車を見送り、その後ようやくやってきた電車になんとか乗り込み、そして冒頭に至ったのだった。
「ナギサさん達やツルギさん達には私の方から謝っておきます…。本当に申し訳ありません…」
「いやいや、私もみんなも気にしてないっすから。それより会長さんはどうっすか、この後に詰まってる仕事とかは…」
イチカがそう問いかけた瞬間、連邦生徒会長はさあっと顔を青くした。…連邦生徒会長がトリニティの会合の後にも仕事がみっちりなのは誰の目にも明らかであり、その様子を見たイチカは冷や汗どころかかたかたと震えだし、イチカ以外の生徒たちも焦りを深め始めた。
どうするどうする、と連邦生徒会長とその護衛達が焦りに焦って色んな案を出していたが、状況打開の一手は一向に出ない。そして、議論の末に。
「…もうどうにでもなーれ、ですっ☆」
その言葉とともに連邦生徒会長は青い顔のまま全てを諦め、仏の如く穏やかな微笑みを浮かべた。そんな彼女の様子を見たイチカ達は何も言葉を掛けられずに頭を抱えることしかできなかった。
もはやこの状況に打つ手はない。この場の全員がそう思ったその瞬間、銃声が車内に響いた。一行がそちらの方を窺うと、そこには。
「この電車はジャックしたぁ! この電車とその乗客たちはキヴォトス革命の礎となるぅっ!」
あっはっはっはぁ! とどこぞの小さな学園のテロリスト生徒は仲間たちとともに高らかに笑っている。一行がテロリストの存在に顔を見合わせると、全員の瞳には共通の疑念が浮かんでいた。その疑念というのは。
『…これ、あいつらの所為にできるんじゃね…?』
というものである。『テロに巻き込まれたけど鎮圧のために遅れました』という言い訳ならば、この後の仕事に遅刻したとしても相手は『そ、そう…。それなら仕方ないですね…』という反応になる…はずだ。
見たところ、相手の装備も練度もそう高くはない。このメンバーなら十二分に制圧は可能だろう。連邦生徒会長をはじめ、一行は制圧を決めて深く頷く。
「おぉっと、動くなよ!? この電車に仕掛けた爆弾が──」
そうとも知らないテロリストが遠目に見ても粗雑な作りの起爆スイッチを掲げるが、ズガンと一発銃声がした後に即座にスイッチは砕け散った。
銃撃の主──連邦生徒会長とその一行は、悪い笑みを浮かべた。
「…別に、あんた達に恨みがあるわけじゃないんすけどね」
「ただまぁ、なんと言いますか。運が悪かった、と言いますか…」
イチカと連邦生徒会長、それから護衛の生徒達は変わらず天使の如き微笑みを浮かべてじわじわとテロリスト達に近づいていき、そして不意に銃口を突きつけて。
「──ちょっとした地獄を味わってもらうっすよ」
「大丈夫、命はとりませんよ。骨や内臓がどうなるかは…知りませんけど」
…ここから始まった戦闘の様子は、語るまでもないだろう。抵抗の隙さえも与えられず、ただ徹底的にテロリスト達はぶちのめされた。以上である。
この件の事情聴取も済んだあと一行は無事目的地に着き、晴れて解散。
その後仕事に戻った連邦生徒会長は遅刻の理由を聞かれたが、テロ鎮圧で押し通しきることに成功。
仕事の遅れを取り戻すことには成功したのだった。
…更にその後、連邦生徒会長は戦闘の舞台となったハイランダーから死ぬほど小言を受け、どこからか事情を耳に挟んだリンには強めの説教と心配の言葉をかけられ、同じく事情を聞いたツルギやハスミにもちょっとした注意を受け、そして最後に事情を説明したところ心労で倒れたナギサへのお見舞い品の選定に奔走することになったのは別の話である。
──おまけ・筆者のビフォーアフター(ブルアカとは一切関係がありません)──
書き始める前のぼく「このシリーズは3500文字くらいですっと書けるから楽だぜぇーwww今回もさっくり書くかぁーwww」
書き終わった後のぼく「おい…なんで7000文字近くある…? なんで平均の約1.8倍の文字が詰まっている…?」
※これを投稿する前の平均文字数は3846文字くらい(ハーメルン様調べ)