シリーズ「私のミスでした」   作:竜田揚げ丸

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こんにちは。特に理由はありませんが強いて言うならば冬なので投稿します。

この作品は、Pixiv様にも投稿させていただいています。


「私のミスでした…」イロハ「その23です。ふふ、計画通りですね…」

「はーっ…私のミスでしたぁ…」

 

少女は「はふぅ…」ともの凄く緩い声をあげて炬燵に足を突っ込んでぬくぬくとしながらそう呟く。普段の彼女も威厳というほどのものはあんまりないが、今の彼女は普段以上に緩い雰囲気を醸し出している。

 

「私の選択…そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」

 

「この結果にたどり着いて初めて…私のこの選択が間違っていたことを知るなんてぇ…」

 

少女──連邦生徒会長はもの凄く緩慢な動きで炬燵の天板に顎を載せながら、向き合った彼女に向けて話しかけた。

 

「ここまで快適な休憩を覚えてしまったら…。もぉー仕事に戻れませーん…」

 

連邦生徒会長のあまりにも緩いその態度に、彼女と相対するその人物──棗イロハは先程まで目を通していた本をぱたりと閉じて口角を上げ、計算通りと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

「ふふ…。そうなるのも無理はありませんね。なにせここは私と貴方が共謀して作り上げた楽園なのですから」

 

現在、連邦生徒会長とイロハは対面しながら炬燵に足を突っ込んでサボりの真っ最中。しかも、場所はゲヘナのイロハ謹製の休憩スペースではなく連邦生徒会の空き部屋である。

風紀や規律がお堅い筈の連邦生徒会に何故そんなものが有るのか、そしてそれは許されているのかと聞かれれば、「連邦生徒会長とイロハが最近無断建設したので無許可である」がその質問の答えになる。

 

「いやー…ほんと、快適ですねぇ。あ、みかんいただけますか?」

 

「貴方が話の分かる方で助かりましたよ。おかげで私もこちらに来る時の億劫さが少し…いえ、かなり薄くなりましたから。…あとみかんは自分で取ってください。私は読書中なので」

 

そう言いながら、イロハは先程閉じた筈の本をわざとらしく広げ直して動く気がありませんというアピールを全身から醸し出している。

そんな彼女の態度に連邦生徒会長は「えー…いいじゃないですかぁ…。イロハさんのケチー…」と文句を垂れつつも立ち上がり、みかんをダンボールから一個引っ張り出す。それをちらりと確認すると同時に、イロハは「私にも一つお願いします。できれば剥いた状態でいただけるともっと嬉しいですね」としれっと要求してくるのであった。

 

いつもならば長々とこうなった経緯を説明するのだが、しかし今回については時間と長文を使って説明することはないので端的に説明させていただくことにしよう。

シャーレにサボりに来た連邦生徒会長がイロハと遭遇、有能なサボり魔同士が意気投合の末結託した結果連邦生徒会の空いた部屋にサボり部屋を建設する事に決定。

サボり中堅の連邦生徒会長がサボり上級者のイロハの指南を受けた結果としてサボり部屋予定地にはこたつやダメにするソファなどの様々な家具が設置されることになり、快適なサボり部屋が連邦生徒会の建物内に爆誕したのであった。

それ以来連邦生徒会長はかなりの高頻度で、イロハは連邦生徒会に用事がある時はほぼ確実にこのサボり部屋に訪れている。

 

「どうぞ、イロハさん」

 

「どうも。…もぐもぐ…ふむ、このみかんおいしいですね」

 

「ですよね。店員さんに聞いたところなんでも近年で一番美味しく仕上がったんだとか」

 

「なるほど、そうでしたか。…40個くらい持ち帰ってもいいですか?」

 

話の流れでしれっととんでもない量を持ち帰ろうとするイロハに、連邦生徒会長は「流石に欲張り過ぎではありません?」と苦笑しながら返答。

そんな彼女の返答にイロハは「ちっ…」と露骨な舌打ちでさらに返答。さらに彼女は悪びれずに「仕方ありませんね、15個くらいで手を打ちましょう」と交渉を勝手に打ち切るのだった。

しかし、そんな和やかな時間も突如として響いた鋭い声とともに終わりを迎えた。

 

「あら…連邦生徒会の建物にまさかこんな部屋があったとは思わなかったわ」

 

扇喜アオイ。リンと同等かそれ以上の堅物と呼ばれる彼女に、とうとうこのサボり部屋が発見された上で踏み込まれてしまったのである。

わざとらしい声を出す彼女の姿を見た途端に連邦生徒会長とイロハは視線を合わせると。

 

「…尾けられましたね、連邦生徒会長?」

 

「みたいですね…。…はぁ、このサボ…休憩室ともおさらばでしょうか…。結構気に入ってたんですけどね…」

 

と二人揃ってこたつに入りながら楽園の終焉を予感しがっくりと項垂れる。そんな彼女達に容赦は一切なく、アオイは二人──というか、連邦生徒会長に冷たい視線と鋭い声で問い詰め始めた。

 

「会長。まさかとは思うけれど連邦生徒会の運営費を横領してこの部屋の物を調達した、というわけではないでしょうね?」

 

「あ、それは大丈夫ですよ。この部屋に置いてある家具や嗜好品の数々は全部私達の自費で購入・設置したものですから」

 

アオイの冷たい視線を受けながらも、連邦生徒会長は実に飄々とした態度でその質問にあっさりと返答。本当のことを口にしているためそこに嘘をついている様子は見られないが、しかしアオイは信用できないのか連邦生徒会長に対して疑いの目を向け続ける。

 

「…本当でしょうね? もし嘘だったなら──」

 

「本当ですよ。信用できないなら帳簿や金庫を確認してみてください。食い違いは一切ないはずですから。もし食い違いがあったとしたら何か別のとんでもない事件が起きていると私達は主張します」

 

互いにまったく譲らず、言葉と視線は交錯する。数秒の間、二人は無言で見つめあって…そして、アオイはため息とともに追及をやめた。

 

「はぁ…わかったわ。念の為に調査はさせてもらうけれど、取り敢えず今はその言葉を信用しておくわね」

 

「ふぅ…ありがとうございます、アオイ室長」

 

「…理解が得られたということは、このサ…休憩室も黙認されたのでしょうか?」

 

一通りの話し合いが終わったのを見計らってイロハが口を挟む。どうやら面倒事を避けるために口を噤んでいたようだ。

イロハのその質問にアオイは仕方ないわね、とばかりにふっと少しだけ微笑むと。

 

「黙認するわけがないでしょう、さっさと撤収しなさい。…というか貴女はいつまで連邦生徒会でくつろいでいるの、早くゲヘナに戻りなさい」

 

と至極当然の判断を口にした。その返答は連邦生徒会長もイロハも想像していたので、二人とも特に驚きもせず「ですよねぇ」とただ二人で視線を合わせた…のだが、しかしその瞬間。サボり魔二名の脳に閃光が奔り、二人はニヤリと悪い笑みを浮かべた。

 

このお堅い美少女にサボりの悦楽をその身に教え込めばこの場を上手く丸め込んだ上でこのサボり部屋の存在を黙認させられるのではないか、と。

 

幸い、ここには様々な物品が揃っている。先程から連邦生徒会長達が足を突っ込んでいるこたつに始まり、ダメにするソファやらマッサージチェア、挙句の果てには布団まである。

娯楽品についてはチェス盤やらオセロ盤やらのアナログゲームにテレビゲームなどのデジタルゲームなども完備されているし、食料に至っては先程二人が口にしたみかんに始まり、お菓子やらアイスやらスイーツやら他の果物やら色々と潜んでいる。

これだけあればアオイを堕とすには恐らく十分。

 

「ふぅ…仕方ありませんね…」

 

連邦生徒会長は仕方ないなぁ…という雰囲気を全身から醸し出しながらもとりあえず立ち上がった。

勿論、これは演技であることは言うまでもないだろう。連邦生徒会長にはここから立ち退く気など微塵もないが、しかしそういうポーズをとりあえずとってアオイの気を引こうという魂胆である。

 

「あら…? 随分と素直ね。正直もう少しゴネてくると思っていたのだけれど…。まぁ、素直に立ち退いてくれるなら…」

 

連邦生徒会長達の真意に気づかないアオイは世にも珍しく素直な言う事を聞くふりをする彼女を見て思わず感心。

一方の連邦生徒会長は掃除用具を取り出すためにロッカーに近づくふりをしてアオイの横を通り過ぎようとするその瞬間。

 

「隙ありです」

 

「ひゃっ…!? ちょっ、ちょっと…!?」

 

突然アオイの身体を抱え、所謂お姫様だっこの体勢を取って踵を返すと、こたつに近づくや否やアオイの身体をこたつの中に思いっきり突っ込み、そしてこたつから出ようとするアオイの身体を固定。

 

「どういうつもり…!? 私はまだ仕事があるのだからこんなところで油を売ってる暇は…!」

 

「はいはい、落ち着きましょうね」

 

こたつから抜け出そうとじたばたするアオイとそれを阻止せんと彼女の身体を固定する連邦生徒会長の諍いが発生しているが、イロハはそれを意に介さずにこたつから抜け出て部屋内のとあるものを回収に向かい、その回収したものをアオイの眼前と自分の席にことんと小さな音を立ててそれぞれ置いた。

 

アイスクリームである。しかもまぁまぁいい値段の。

 

眼前に置かれたそれにアオイが一瞬硬直するも、「…食べないわよ」と誘惑をなんとか拒絶しようとする。

しかし、そんなアオイを横目に見ながらイロハはアイスクリームの蓋を剥がして木製スプーンを手にとって、これ見よがしと言わんばかりの表情でアイスクリームを口に運ぶ。しかもわざと大きめに掬って口の周りにわざわざ少しつけながら、である。

 

「こたつに入って食べるアイスクリームは、最高ですねぇーっ?」

 

「おやぁー? よく見たらいいところのアイスじゃないですかぁー、これぇーっ?」

 

かなりわざとらしく誘惑するサボり魔二人の様子を最初はなんともなさそうな顔をして眺めていたアオイであったが、しかし途中からその視線には羨ましそうな色が僅かに混じった。恐らくは本人も無意識だろうが、しかし連邦生徒会長たちはその様子を見逃さず。

 

「…さぁさぁ、アオイ財務室長。あなたもどうぞ」

 

「くっ…。いえ、私は…」

 

「…ちなみにですが、このフレーバーは再販未定らしいですよ?」

 

とさらに追い込んでいく。アオイはこれにも抵抗の様子を見せていたが、しかし連邦生徒会長とイロハの誘惑もまたアオイが抵抗を強くするほど更に激しくなっていく。アイスに始まり、中々貴重なフレーバーのお菓子、ブランドもののフルーツ…。

そして、アオイと仕事のできるサボり魔達の攻防の末に。

 

「…………わかった、わかったわ。えぇ、体感してみて理解したわ。リフレッシュルームとしてかなり優秀ね、この部屋は…。解体するにはかなり惜しい…いえ、もはや解体する気が私にはもう出ないわ…」

 

とアオイはこたつに足を突っ込んで解体を断念し、サボり部屋を死守しきった連邦生徒会長とイロハはそんな彼女の後ろで二人揃ってしたり顔でハイタッチ。

このことからわかるように、此度の攻防は連邦生徒会長とイロハの勝利。つまり、これからもこの部屋で密かにサボることが可能となる。

二人はそう思っていたのだが。

 

「…けれど私達だけで独占するのは流石に勿体ないわね、正式に休憩室として開放しましょう。部屋も下にもっとちょうどいい部屋があるから…そちらに移した方が皆の使い勝手もいいわね」

 

「「…………えっ」」

 

こうして、休憩室として大衆に開放しようとするアオイとサボり部屋としてこのままにしておきたい連邦生徒会長とイロハの第二次サボり部屋攻防戦が勃発し、そしてサボり魔二人はそれには敗北。

サボり部屋は休憩室としてリニューアルされて場所を移されることになり、サボり魔たちの楽園が大衆向けの休憩室に改造された結果人が徐々に増えて二人が落ち着いてサボれるスペースは完全に消失したのだった。

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