もしかすると本編の設定とは違うかもしれませんが、そこは暖かい目でみていただければ幸いです。
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「私のミスでした…」
少女は沈痛な面持ちで俯く。その表情は悔しさを堪えるように、唇をきゅっと縛っている。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のこの選択が間違っていたことを知るなんて…」
「図々しいお願いですが、お願いします」
そこで一旦言葉を切ると、彼女は顔を上げた。その空のように青い瞳を潤ませ、他に選択肢は無いとばかりに目の前に立つ『彼女』に懇願した。
「…どうか今回のお食事代はツケにしてはいただけないでしょうか?」
目の前に居た彼女──朱城ルミは困ったように笑いながら、それでいてやんわりと拒否した。
「あー、ごめんね。あたし個人としては別にそれでもいいんだけど、玄武商会の会長的にはちょっとね…」
本当に申し訳無さそうに笑う彼女の顔を見て、連邦生徒会長はがっくりと肩を落とした。どうやらツケは望み薄らしい。
事の発端はほんの数時間だけ前に遡る。
連邦生徒会長が山海経へとサボ…視察をしに行ったことが今回の件の原因であった。
「…百鬼夜行もですけど、こういう独特な雰囲気っていいですよねぇ。今度また先生と来ましょう」
彼女は特にあてもなく山海経を見て回り、文化にある程度触れたり見たりしたところでちょうどお昼時となった。
「山海経で食事といえば、やっぱり…」
そういって連邦生徒会長は意気揚々と玄武商会の食事処の暖簾をくぐっていった。
ただでさえ空腹なのに、それをさらにくすぐる料理の匂い。空気だけでもわかる美味しい料理に連邦生徒会長は思わず顔を綻ばせた。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「えぇ、そうです」
「承知しました。お席に案内いたします」
店員の後に続き、指定された席に案内された連邦生徒会長。
「メニューはこちらです。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
店員のその言葉にそう返し、連邦生徒会長は早速メニューを開いた。よく食べる中華食から、あまり聞いたことのない料理までが多数並ぶメニューを目にし、連邦生徒会長は頭を悩ませる。
(…ふむ。堅実なものを頼むのもいいけれど、ここは敢えてチャレンジしてみるのもいいかも。…いえ、ですが…)
頭の中でぐるぐると料理とその名前が踊り、そして超人とも噂される彼女の導き出した結論は。
(…気になったものを全部食べちゃえばいいですね! えぇ、お腹も空いていますしそうしましょう!)
そうして色んなものを頼んだ連邦生徒会長。玄武商会の料理はどれも美味しく、連邦生徒会長は大量に頼んだ料理を目を輝かせながらペースを落とすこともなく全て完食した。
食後に頼んだお茶も飲んで一息つき、そして会計へと進んでいった連邦生徒会長。
そうして、事件は起きた。
お会計、2万4983クレジット。連邦生徒会長の財布に入っていたクレジットは、2万4213クレジット。
僅かに足りない。
いや待てカードで、と思い財布のカードスリットを確認してみれば、有るべき筈のものがそこには入っていなかった。
そして脳裏によぎる、先日行った財布の整理。あの時、一度財布の中身を全て引っ張り出して整理した後、使わないカードと共に間違えて片付けてしまったらしい。
その事実を受け止めてしまったが為に、連邦生徒会長は密かに冷や汗を流した。
「…あの、ごめんなさい。持ち合わせが足りないのですが…」
連邦生徒会長はそれを聞いた玄武商会の生徒の「マジかこいつ…」という表情を一年は忘れることはないだろう。
他の従業員の監視の目の中、待つこと数分。ルミが厨房から現れ、そして冒頭に至る。
「しかし、ここから自宅まで数時間はかかってしまいます。皆さんもそれを待っている余裕はないでしょうし…」
「うーん、まぁそうだね。とはいえ、このまま何もせず帰すわけにもいかないし…」
どうしよっかなぁ、と悩むルミ。うーんうーんと唸るたびにゆらゆらと彼女の大きな耳が揺れていたが、やがてぴこんと跳ねた。
それと同時にルミは満面の笑みを見せる。
「じゃあ、こうしようか。あたしのお願いを二つ聞いてくれるなら、今回の件は無かったことにしてあげる」
「お願い…ですか」
「そう。まずはここの接客を今日の営業終了まで手伝うこと。もう一つは…後でのお楽しみってことで。大丈夫、問題になることはお願いしないよ」
もとより拒否権はない為に連邦生徒会長はそれを承諾し、午後より玄武商会の手伝いに入った。最初の三十分は慣れなかった為に苦戦していたものの、そこからは誰よりも丁寧な接客に客からも玄武商会の生徒たちからも好評をもらっていた。
時に食い逃げ犯を確保し。
「人のことをあまり強くは言えませんが、お金がないならばそういえばいいでしょうっ」
時にはクレーマーを玄武商会のやり方で応対し。
「申し訳ありませんでした。…ふぅ。あたしはさっきのお客さんと「お話」してくるから、よろしくね」
「あれはD.U.でも名を轟かせた悪質なモンスタークレーマーですし、後処理は任せてください。ありとあらゆる手を使って慰謝料をふんだくってやります」
「あはは、頼もしいよ。それじゃ、行ってくるね」
時に知り合いからの白い目をやり過ごし。
「…リンちゃんかなり怒ってたよ。あと私からもお説教があるから、そのつもりでね」
「はい…」
「あとその格好、似合ってるよ」
「えへへ…ありがとうございます。それでは、ごゆっくりどうぞ」
そうして連邦生徒会長は営業終了まで真面目に働ききった。
営業終了後、ルミと連邦生徒会長の2人はスタッフルームで話し合っていた。その様子はかなり和気藹々としていた。
「いやー、助かったよ。このままウチで働かない? サービスしとくよ?」
「ご存知の通り、私は連邦生徒会長ですから。申し訳ないですけど、ちょっとそれは…」
「あはは、冗談だよ。…でもバイト先に困ったらいつでも来てもらっていいからね?」
「えぇ、その時には是非」
あはは、と笑っていたルミだったが、こほんと咳払いの後に表情を引き締めた。
どうやらもう一つの「お願い」についての話らしい。
「さて、あたしからのもう一つのお願い」
「…それは一体?」
ふふ、と挑戦的な表情を浮かべ、ルミが取り出したのは幾つかの皿。その上にはこれまたおいしそうな料理が盛り付けられている。が、連邦生徒会という影響力が大きい組織の長にお願いするには弱いように感じたために、連邦生徒会長はその料理を訝し気に覗き込んだ。
そんな彼女の様子を見てか、ルミは朗らかに笑った。
「あはは、毒なんか入れないよ。料理人のプライドに懸けてね」
しかしながら朗らかに笑いながらもその目は限りなくまじめだ。そこまで真剣に言えるならば、恐らく自分にも連邦生徒会にも危害は及ばない。そう思い、連邦生徒会長は警戒をほぼ解いた。
それを確認してルミは改めて続けた。その目はどこか輝いて見える。
「あたしが頼みたいもう一つのことは、研究してる料理の試食! 誰かに頼もうと思ってもなんでかみんなに断られちゃってさ。ちょうどよかったよ」
あはは、と相も変わらずに朗らかに笑うルミ。そんな彼女に思わず呆気に取られてしまった連邦生徒会長は思わず彼女に聞いてしまった。
「お願いってこれでよかったのですか? こう、私相手ならもっと政治的にいろんなことをお願いするべきなんじゃないかと…」
「うん? あー…なるほどね、言われてみれば確かに。まぁでもいいんじゃない? キミはお金が足りないお客様で、足りない分だけあたしたちのところで働いてもらうっていう関係で。あたしはそっちのほうが好きだけど」
キサキならその辺も利用したかもね、と言いながらも若干遠い目をしているルミに連邦生徒会長はなるほどさっぱりしていると思わず感心してしまった。
そんな彼女にならって、連邦生徒会長は四の五の言わずに足りない分働くことに決めた。
「…なるほど。では、料理の試食というあなたのお願いを改めてお聞きしますね。ふふ、玄武商会の美味しいお料理を他の方に先んじて食べられるとは。お財布にお金を入れ忘れる不運も、悪いことばかりではありませんね」
「あはは、そう言ってもらえると料理人冥利に尽きるよ。でも、いち早く試食したいからって次からはお金を払わない、なんてのはやめてね?」
冗談めかしてルミが言った後、箸を連邦生徒会長に渡してくる。出された料理を内心わくわくうきうきしつつ美味しいという言葉を準備しながら連邦生徒会長が料理を口にしたところ、数口で涙が滲み出てきた。
美味しそうな見た目から繰り出される、殺人的ともいえるほどの辛さが瞬く間に口内を支配していく。
「…かりゃい、れす…。おみじゅを、くらひゃい…」
「あー…それでもマイルドにしたんだけど、ダメだったかー…。あ、お水ね」
連邦生徒会長が水を凄まじい勢いで飲み込み、落ち着いてきたところで彼女が次の料理に手を出してみたところ。
「…苦いです。言い方が悪くて申し訳ありませんがこれは…食べられたものでは…」
「うーん、そっかぁ…」
次、酸っぱい。次、しょっぱい。次、シンプルに食い合わせが悪い。次、次、次──。
そうして辛うじて食べられなくはないが味に難がある料理の試食と食レポを続け、やがて予定していた分の試食は終了した。
そのころには先んじて美味しいお料理を食べられる! と目を輝かせていた連邦生徒会長はもう存在しない。虚無という表現がしっくりくる表情を浮かべ、食べ過ぎで顔色が悪くなったただの一人の生徒がそこに立っていただけである。
「準備してたのはさっきので全部! ありがとう、約束通り食事代はチャラにしとくよ」
「…ありがとうございます」
口と胃をぼろぼろにしつつも、ようやく解放された連邦生徒会長はとりあえずサンクトゥムタワーに戻っていく。
そうして戻ってきた連邦生徒会長の前に待っていたのは、青筋を立てながら満面の笑みをしながら仁王立ちで待っている七神リンとそんな彼女を見て明らかに恐怖している先生。
「会長。何か申し開きはありますか?」
明らかに怒っている…というか激怒しているリンの様子を見てこの後起きることを察して、どこか諦めたように優しい微笑みを浮かべた連邦生徒会長は。
「…ないよ、リンちゃん」
そうして日を跨いでなお2時間にも渡るほどの猛烈なお説教を受けた上、滞っていた書類を徹夜で処理した連邦生徒会長は忙しい仕事の合間を縫って山海経へと赴いてやはり気になるからとチャラにしてもらった分のお金とお詫びのお茶菓子を手渡ししに行った。
そして紆余曲折あった後、連邦生徒会長とルミはモモトークのアドレスを交換し時々一緒に遊びに行くようになったというのは、別の話。