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「私達のミスでした…」
少女は沈痛な面持ちで俯く。その表情は親に叱られた子供のようにしょんぼりとしており、またそれと同時に全身からもしょんぼりと沈んだ雰囲気を滲みだしている。
「私達の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私達のあれらの選択が間違っていたことを知るなんて…」
そこで一旦言葉を切ると、少女──連邦生徒会長は顔を上げた。その空のように青い瞳を揺らし、正座をしながら同じく隣に正座している普段は頼れる『大人達』に対して己の抱いた感想を素直に告げた。
「普段温厚なフウカさんとルミさんにあそこまで怒られるとは思いませんでした、先生…」
「うん…。でも二人の言い分はもっともだからね…。これは受け入れようか…」
現在、連邦生徒会長と先生、それからプレナパテスは並んで正座させられている。なお、ユメは外出中で今はいない。
どうしてこうなったか、事の始まりは丁度2日程前に遡る。連邦生徒会長がシャーレへと訪れた際、シャーレの先生達は現在昼休憩中であったのだが。
『あ、先生達はお昼休憩中だったんですね。出直しましょうか?』
『いや、大丈夫だよ。それより、一緒に食べていく?』
『お気持ちは嬉しいですが、既に食べてきたので遠慮しますね。…先生の今日の昼食はカップ麺ですか?』
連邦生徒会長のその質問に先生が苦笑しながら首肯すると、既に弁当に手を付けていたユメがかなり珍しく声を荒げて連邦生徒会長に声をかけてきた。
『聞いてよ会長ちゃん! 先生ったらもう3日連続でごはんをカップ麺にしてるんだよ!? それだけでも体に悪いのにひどい時にはごはんを抜いてるって言うし、もう信じられないよね!?』
『3日連続…ですか。それは…えぇと…』
それにプレナ先生は逆にずっとサラダしか食べてないし、とお怒りのユメから先生に視線を戻すと、先生は困ったように笑ってカップ麺の蓋を剥がしてずず、と麺を啜っていた。
周囲にカップ麺が発する濃厚な匂いが立ち込める中、突如として連邦生徒会長に向けてキラーパスが放たれた。
『疑問。連邦生徒会長は普段に比べて顔色があまり良くない上、少し痩せているようにも見えます。…ちゃんと昼食をとりましたか?』
草食動物のようにサラダをもさもさと食べるプレナパテスの傍に置いてあるシッテムの箱内のプラナのその質問を受けて、いきなりしんと静まり返るシャーレの部室。全員のじとりとした視線を受けた連邦生徒会長が視線を泳がせていると、いつの間にか麺を啜るのを止めていた先生は普段通りのようでいつもよりも微妙に低い声で連邦生徒会長に質問をぶつける。
『もう既に食べてきたって言ってたよね。…何を食べてきたの?』
『それは、そのぉ…』
視線を泳がせてどう切り抜けるかを考えている連邦生徒会長に、先生と同じく普段よりもちょっと低い声、そしてちょっと鋭い視線でユメは彼女に詰め寄ってくる。
『ちゃんと正直に答えてね。あとでリンちゃんにもしっかり確認するから、嘘は通用しないよ?』
二人の圧力を受けた連邦生徒会長は冷や汗を流しながらゆっくりと後退りし──そして無言で逃げだしてこの日は先生達を会長室に入れないように指示を飛ばした。ちなみにこのとき、つまり2日前の連邦生徒会長の昼食はエナジーバー2本であった。
そして、その翌日…つまり先生と連邦生徒会長が正座でお説教される1日前のこと。
『あのー、先生方…? 今はお時間よろしい、でしょうか…?』
『うん、いいよ。どうしたの?』
『えっとですね…』
とちょっとした打ち合わせを済ませ、連邦生徒会長が連邦生徒会本部に戻ろうとしたその瞬間。
『あ、ちょっとだけ待ってね。…今日はお昼、どうしたの?』
『えっ、とぉ…。お弁当をいただきました、よ?』
『……本当に?』
連邦生徒会長はゆっくりと首肯する。先生達はそんな彼女の様子を訝しげに見つめていたが、しかし嘘ではないと判断したのか席に戻っていき、連邦生徒会長もまた本部に戻って執務を再開していった。なお、連邦生徒会長のこの日の昼食は弁当は弁当でもコンビニ弁当である。
そして審判の日。緊急事態と銘打たれたメールが連邦生徒会長のもとに届いたので何事かと急行してみれば、そこには何故か正座させられている先生とプレナパテス、そして遠目からでもめちゃくちゃ怒ってるのがわかるフウカの姿があった。
嫌な予感がしたので連邦生徒会長が立ち去ろうと振り返れば、そこにはにっこりと笑みを浮かべながらも凄まじい圧力を醸し出して愛用のサブマシンガンの銃口をこちらに向けているルミが居た。
『おっと、まだ帰っちゃ駄目だよ? 中に入って正座しててねー?』
ハンズアップの状態でシャーレの部室に押し込まれた連邦生徒会長。先生とプレナパテスの隣に正座させられ、そして質問…というか尋問が始まった。
『三人とも、どうして正座させられているかわかりますか?』
普段と比べると微妙に抑揚のない声でフウカは三人に問いかけてくる。口元こそ笑っているが、しかし目元はまったく笑ってはいないためにすごく怖い。
そんな彼女の質問に三人は俯きながらもちらと視線を合わせたところ、全員に心当たりがあった。
即ち、食生活。
フウカやルミが怒る理由と言えば、これしかない。
正座させられている全員がこくりと頷くと、フウカは「言ってみてください」と三人が出した回答を促す。
『食生活の乱れ…ですよ、ね…?』
連邦生徒会長がおっかなびっくりながらも答えた、その瞬間。
普段穏やかなフウカが怒りを爆発させて正座している三人に詰め寄ってきたため、三人はその勢いに思わず気圧されてしまう。
『はい、その通りですっ! ユメ先生から聞きましたよ、最近三人の偏食が酷いって! というか逆に食生活が悪いって自覚しててなんで食生活を変えないんですか!?』
ずい、と連邦生徒会長の眼前にまで顔を近づけ更にヒートアップするフウカ。その隣ではルミが目を閉じながらうんうんと首肯しており、彼女もまた同様の意見らしい。
そんな彼女らの言い分を聞きながら、しかしこの状況がちょっと不服な連邦生徒会長はお怒りの彼女たちに聞こえないようにぼそっとその心情を吐き出した。
『…とはいえ最近忙しいし、あんまり栄養とか考えて食べてる余裕がないんですよねぇ…』
連邦生徒会長がうつむいて反省している風ながらも最近の食事事情をぼそっと吐き出したその瞬間、彼女は二つの怒りの視線が自分に突き刺さっていることに気づいた。
その視線に冷や汗をかきながら視線の主を探ってみればフウカとルミが今にも連邦生徒会長に銃を向けんとばかりの鋭く冷たい視線を向けており、連邦生徒会長よりも早くそれに気づいた先生とプレナパテスからは哀れみの視線が向けられていた。
『…えっ、と…。あの…もしかして、聞こえて…?』
『うん、それはもうばっちりとね』
『そうですか。会長さんはそう思ってたんですね』
ゴゴゴ、と音がしそうな圧力を出しながら、二人はふぅーっと一つ溜息を吐いたあとに。
『…忙しくても栄養のあるものをちゃんと摂ってください、と言っているんですっ!』
フウカのその大声に先生と連邦生徒会長は思わず怯んでしまうが、しかしプレナパテスはびくりと身体をちょっとだけ動かしたがすぐに体勢を戻し、挙手をする。
しかしその意図は二人は察していたらしく、
『先に言っておくけど、野菜ばっかり食べるのも健康には悪いんだからね。ちゃんとタンパク質も摂らないとだめだよ』
というルミの釘を刺すための一言によってプレナパテスの意見は実際に口に出される前にものの見事に撃沈。若干しょんぼりしながらプレナパテスは手を下ろした。
そしてその後も二人による説教は続き、その末に今日は二人が料理を作ってくれるということになったのだが、料理を作っている間正座して反省していろという指示を受けて冒頭に至る。
「…足がしびれてきました…。先生は大丈夫ですか?」
「私は大丈夫。プレナ先生は…ちょっとしんどそうだね」
足のしびれでプレナパテスが若干ぷるぷるし始めたところで、フウカとルミがいい香りと共に料理を運んでくる。それと同時に三人のお腹はタイミングよくぐぅ、と音を立てた。
説教が長引いたのですっかり忘れていたが、よくよく考えればもうお昼時。こうなるのは当然ではある。
「お、タイミングよくお腹が空いてるみたいだね。まぁあれだけの時間お説教したんだから当然と言えば当然だけど」
「言いたいことはまだまだありますけど、とりあえず今はいいです。さぁ、みんなで一緒にご飯にしましょう!」
フウカが笑顔でそう言った瞬間、がちゃりとシャーレのドアが開いた。連邦生徒会長達が振り返ってみれば、外出から戻ってきたユメがそこには居た。…コンビニのビニール袋を抱え、その中に山ほどお菓子を詰め込んで。
ちなみにだが、シャーレのお茶請け菓子にはユメが買ってきたようなタイプのお菓子はあまり用意されていない。なのでそれらをユメが買ってきたということは、つまりそういうことである。
彼女は最初こそ目を丸くしていたが、やがて状況を理解したのか無言でゆっくりと目を逸らすと同時にシャーレには静寂が訪れた。フウカとルミが作って持ってきてくれた料理とは裏腹に場の空気は凄まじく冷えている。
そして、三秒ほど経った後に。
「ユメ先生も人の事言えないじゃないですか!」
「どういう感情で私たちに三人の食生活の是正を頼んだんですか!?」
「ちょーっとこれはいただけないかなぁー?」
「それだけ買ってきてよく人に栄養バランスが、とか言えたね!?」
「ひぃん、ごめんなさーい!」
と全員からそうすかんを受けてユメは謝罪。以降シャーレの先生たち及び連邦生徒会長はしばらくの間、フウカやルミをはじめ料理上手の生徒たちが作ってきてくれたお弁当を昼食に食べることになった。
が、間食をしていたことや夜食にカップ麺を食べていたことがひょんなことから発覚し、説教するメンバーが増えて第二回シャーレ&連邦生徒会長への説教大会が開催されるのだった。
それとは別に弁当差し入れ期間の間に何度か生物災害が起きてSRTやヴァルキューレが出動したり、これにかこつけて色んな学園から色んな生徒が弁当を押し付けたり押し付けなかったりしたのは、別の話。