今回の話は突貫工事で作ったのでアレな部分が多々あると思いますが、どうかお楽しみいただけると幸いです。
この作品は、Pixiv様にも投稿させていただいています。
「私のミスでした…」
少女は沈痛な面持ちで俯く。その表情はとんでもないことになったと真っ青であり、唇はきゅっと縛ってぷるぷると震えている。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のこの選択が間違っていたことを知るなんて…」
「図々しいお願いですが、お願いします」
そこで一旦言葉を切ると、彼女は顔を上げた。その空のように青い瞳を潤ませ、他に選択肢は無いとばかりに目の前に立つ『彼女』に懇願した。
「…ヴェリタスの皆さんにすっぱ抜いたデータを削除するようお願いしてくれませんか?」
目の前に居る彼女──各務チヒロは眼鏡の奥、青みがかったグレーの瞳に呆れを灯しながらとてつもなく重いため息を吐いてこう告げた。
「勿論だよ。勿論だけどなんでセキュリティチェックで実際のシステムにハッキングさせようって発想になったの。こうなるって分かってたでしょ」
場所は連邦生徒会応接室、時間は真っ昼間。
営業の合間に呼び出されて若干キレ気味なチヒロのその問いに、連邦生徒会長は心底申し訳なさそうに続ける。
「違うんですよチヒロさん。普段は本物のシステムそっくりに作った仮想システムにダミーデータを入れてセキュリティホールのチェックを依頼しているのですが、今回はこちら側の不手際でシステム切り替えが上手くいってなかったんですよ…」
「完全に人的インシデントだよそれは。そういうのはやる前にちゃんと責任者と確認しとかないとダメだからね」
「おまけに端末の壁紙がどうやってもマキさんのグラフィティになるウィルスまで仕込まれてましたし。一応こちらからも言ってみましたけど、チヒロさんから言ってもらったほうが効果あるかなぁと思いまして今回はお呼びした次第です…」
「あの子達はほんっとに…!」
ただでさえキレ気味だったのにも関わらず、おまけのイタズラでジョークウィルスを仕込ませた問題児集団に更に怒りを深めるチヒロとそんな彼女の様子を申し訳なさげに見守る連邦生徒会長。
何故こんなことになっているのかと言えば、それは連邦生徒会が定期的に行っている情報セキュリティチェックに端を発する。
このご時世において情報というのはかなりの武器であり、厳重に取り扱わなければならないものである。とりわけ連邦生徒会のような組織において流出しては本当にとんでもないことになりかねない。
なので連邦生徒会は定期的にセキュリティチェックを行っているのだが、その一環でわざと攻撃させて脆弱な部分を炙り出し、そしてそこを補強するという行為も行っている。
普段ならば実務に使わないが構造は同じの仮想システムにダミーデータを突っ込んで行うのだが、しかし今回は連邦生徒会の担当者がうっかりシステムを仮想システムに入れ替え忘れた結果本来のシステムで攻撃させてしまいまんまと情報が流出。
いつも通り攻撃役を請け負ったヴェリタスに連邦生徒会の一部データが渡ってしまったのだった。
「はぁ…。状況はわかったよ。それと連邦生徒会のセキュリティ意識の低さもね」
「面目ありません…。本来私やリンちゃん…七神首席行政官も確認するべきだったのですが、この前トリニティ方面で騒ぎがあったのでそちらの後処理で忙しくて手が回らず…」
「……まぁ、それならしょうがないといえばしょうがないか。…でもね、日時をずらしてでも貴方達の手が空いてる時にやるべきだったとも思うよ。どれだけネットワーク上のセキュリティを強くしたところで人の心理っていう部分は重大なセキュリティホールになり得るんだから。これからのセキュリティチェックは貴方達上層部の余裕がある時に行うこと。今回はこれを教訓にしておいて」
わかった? と視線で確認をとると連邦生徒会長がそれに応じて首肯。それを見た彼女はここにきてはじめて微妙に顔を綻ばせ、そしてソファから立ち上がってスマホを手にとり電話をかけ始めた。
連邦生徒会長もその後ろ姿を申し訳なさそうに数秒見つめ、彼女もまたノートパソコンを取り出して今回の件の通達の書類を作成し始めた。
瞬間、チヒロの大声が応接室に響きわたる。
「……ヒマリも今回のハッキングにノリノリで加わってたの!? しかもバックドア設置済み!?」
「!?」
連邦生徒会長もまたチヒロの発言に彼女の方をぎょっとしながら見てみれば、チヒロはキレるどころか顔を真っ青にして驚愕の表情を浮かべていた。
当然である。百歩譲って他のヴェリタス部員ならばチヒロが強く言えばギリギリ言うことを聞いてくれるためにプラマイはトントンとなるのだが、しかしヒマリだけは話が別。
彼女の性格と腕でバックドアが作られる…つまり連邦生徒会の情報に自由にアクセスできるようになると、彼女は何をしでかすかわかったものではないのだから。
一応彼女なりにある程度線引きはしているために周囲に迷惑をかけることはしない…と思うが、しかしながら彼女には先生に行った前科がある。これについては先生にお説教されてもあんまり改善されていないし、先生に言われてあんまり改善していないということはつまりチヒロが言ってもあんまり効果が無い、というわけで。
「チヒロさん、これさては当初の想定よりも相当まずい状況ですね?」
「そうだね、リスク値が一気にとんでもないことになったかな。もう、なんでこんな時に…」
突如として降って湧いてきた無理難題に流石に頭を掻いて愚痴が飛び出すチヒロと思わずげんなりした表情を浮かべる連邦生徒会長。明星ヒマリの心からの反省を促すということは、それほどまでに難しいことなのである。しかしながら、彼女の説得に動かなければこの件が終わらないことは事実な訳で。
「…とりあえずミレニアムに向かおっか。ヒマリと話をしないと根本からの解決にならなさそうだし」
「そうですね、私も同行します。準備してきますので、少し待っていてください」
連邦生徒会長とチヒロは色んな意味での準備の後、揃ってミレニアムへ。ミレニアムへと着いた後はまずヴェリタスの部室へと向かい部員たちに小言をぶつけ、データの削除を確約・見届けた後にヒマリの居場所を問いただす。彼女はどうやら今は別の場所にいる、とのことらしい。
恐らく特異現象捜査部の部室にいるとアタリをつけた連邦生徒会長達がそこに赴くと、彼女は来るとわかっていたと言わんばかりに待ち構えていた。
「お待ちしていました、二人とも。よくここがわかりましたね…と言いたいところですが、先生から報告が入っている以上当然ですか」
「前置きはいいよ。ここに来た理由はわかってるんでしょ?」
「連邦生徒会のデータの件ですね。えぇ、勿論データは消しました。だからお二人がここに来る理由はないと思いますが」
そう言いながらヒマリはニコニコと微笑み、しかしこちらの様子はきっちり窺っている様子。どう見ても何かを誘っている彼女の様子に連邦生徒会長はきな臭いものを感じながらも、ヒマリが設置したもう一つのものへの撤去を要求した。
「もう一つ。バックドアの撤去もお願いします」
「あぁ、これはうっかりしていました。削除しておきますね」
手慣れた様子でバックドアの削除を行っていき、そして「これで終わりです」と操作完了の画面を二人に見せつけるヒマリ。そんな彼女の様子を見て──連邦生徒会長とチヒロはじとりとした視線を向ける。あからさま過ぎてどこからどう見ても嘘だと確信しているのだ。
「…他にも絶対何かありますよね?」
「おや。全知の称号を持つこの私が次善の策を用意していない訳が無いと、そう言いたいのですか? えぇ、確かに超天才清楚系病弱美少女ハッカーの私は普段なら失敗した後の策も用意していますが、しかしながら今回はものがものです。倫理観が美少女の形をとっているかのような私が、まさか連邦生徒会にバックドアを複数つくるなどするわけがありません」
「普段のあんたを見てるとまるで説得力がないよ、それ。こういう時のヒマリって絶対何か裏があるし」
「まさかチーちゃんにそこまで信頼されていないとは…。うぅ、私は悲しいです…」
よよよとわざとらしく涙を流すふりをしながらちら、と二人の方を見るヒマリ。そんな彼女を見る連邦生徒会長とチヒロの視線は限りなく疑惑の色に満ちている。未だに疑惑が解けていない、というか絶対に何か仕込んでいると確信しているのは相変わらずであった。
しかしながらヒマリはすっとぼけてこれ以上会話する気がないのでこれ以上の追求は難しい。これでは千日手だ。
なので。連邦生徒会長たちは準備してきた道具のうちの一つ──携帯電話をここで取り出した。
「…? 携帯を取り出して、一体…?」
『残念だわ、ヒマリ。貴方はもっと潔いかと思っていたのだけれど』
「…リオ?」
連邦生徒会長が取り出した携帯から聞こえてきたのは明星ヒマリにとって最大のライバルと言っても過言ではない生徒──調月リオの失望の声である。
これにはさすがのヒマリも表情を変え、連邦生徒会長の持つ携帯を睨みつけていた。チヒロも連邦生徒会長もそんな彼女の様子を黙って見守っている。
「貴方にだけは言われたくありませんよ、リオ。いくら私が貴方を問い詰めたとしてもだんまりじゃないですか」
『私は例え一人でもキヴォトスを、世界を守るためにやり方を常に模索しているの』
「やり方を模索したところでどうせ周囲に何も言わず一人で抱え込んで独断専行をして結局周囲に迷惑をかけるのが目に見えています。やり方が下手なんですよ、貴女は昔からずっと」
『……貴方は違うというの?』
「えぇ、私は必要とあらば周囲の手を借ります。貴方とは相変わらず相容れませんね、リオ。私は貴女のそういうところが本当に気に入りません」
『…そう。そうかも…しれないわね』
通話越しにも拘わらずばちばちとした空気を流す、若干熱くなっているヒマリと口調は冷淡なリオ。そんな二人の言い合いを、未だ連邦生徒会長とチヒロはどこか緊張した面持ちで見守っている。
『…雑談はここまでにしておきましょう。いくつか質問をするわ』
「…まだ話は終わっていませんが、これ以上話す気はないようですね。いいでしょう、なにを聞きたいのですか?」
『連邦生徒会にハッキングを仕掛けたと聞いたわ。それは何故?』
「その連邦生徒会に頼まれたからです。それが何か?」
『その際貴女は連邦生徒会にバックドアを仕掛けた。これについて理由は?』
「いつもの手癖です。次にハッキングするときの布石づくりですが、今回はうっかりやってしまいました。他に質問は?」
『手癖で証拠を残すの? 思ったより甘いのね、貴女』
「証拠にはなり得ませんよ、この私が独自プログラムで作るバックドアですから」
『まぁいいわ。…話を戻すけれどそのバックドアを二人が見ている前で消した。二人が到着する前に消しておけばいいのに、その非合理極まりない行動をした理由は?』
「セキュリティホールになるからです。ただのテストで本当にセキュリティホールを作る訳にはいかないでしょう? というか、貴方は本当は何を聞きたいんですか?」
「他には何も仕掛けてないわけ?」
「私を舐めないでください、誰にも気づかれていないバックドアを複数…あっ」
チヒロのあまりにも自然に割り込んだ質問に、リオに煽られて珍しく頭に血が上ったヒマリがうっかり口を滑らせて事実を口にしたヒマリ。しまったと口を押える彼女から言質をとったチヒロは「へぇ…? やっぱりやってたんだ、あんた…」と眼鏡をくいと押し上げて体中から激怒の雰囲気を醸し出していた。
そんなチヒロの様子に、露骨に視線を逸らして身体から冷や汗を滝汗のごとく流し始めているヒマリ。そんな彼女を見て、連邦生徒会長は静かに溜息を吐いた。
たった今二人が行ったのは、ヒマリとリオの仲の悪さを利用してヒマリから言質を引き出す罠である。
犬猿の仲…というかヒマリが一方的に嫌っているリオに挑発をしてもらってヒマリの冷静さと余裕を奪い、そして彼女がイラついてきたところで本命の質問を繰り出して言質を引き出す。これがこの罠の全容だった。
「ヒマリはさ、さっきまでバックドアを複数作る訳ないとか言ってたよね? でもバックドアを複数作ったって言ったあとヒマリは露骨に焦ってる。…どっちが本当の事かなんて、わざわざ聞かなくてもわかるよ」
「ち、チーちゃん…? あの、少し落ち着いて…」
「…ふぅ、これは本格的なお説教が必要そうかなぁ…」
凄まじい怒気を全身から醸し出し、ヒマリの話を聞く気がまるでないチヒロに恐怖しているヒマリは助けを乞うように連邦生徒会長に視線を送る。そんな彼女と無言で視線を合わせた連邦生徒会長はリオにお礼を言った後に通話を切って携帯を動かし、それと同時にヒマリはぱぁと表情を明るくする。
そして、連邦生徒会長は先ほどとは違うところに通話を繋ぐと。
「先生ですか? えぇ、クロでした」
『そっか。ヒマリ、チヒロの説教の後に私達シャーレから説教があるから。かなり長くなるけどそのつもりでね』
先生の長尺お説教宣言に先ほどとは打って変わって絶望の表情を見せるヒマリ。
連邦生徒会長はそんな彼女に、溜息交じりに告げる。
「きっちりお説教を受けて、ちゃんと反省してくださいね。我々も次がないようしっかり対策していくので」
「ちょっ…ちょっと、待ってくださ──」
ヒマリの呼び止める声を無視し、連邦生徒会長はその足で特異現象捜査部を後にしてリオが居るセミナー本部へと向かう。もちろん今回の協力のお礼を言うためだ。
「リオさん。先程はありがとうございました。…リオさん?」
「…ねぇ、連邦生徒会長」
「リオさん…? 何やら落ち込んでいるようですが、一体…?」
「私は本当にヒマリにあそこまで言われなければならなかったのかしら…?」
「………巻き込んでしまって本当に申し訳ありませんでした…」
その後連邦生徒会長はユウカやノア、コユキとともに無表情ながらも明らかに落ち込んでしまったリオに対するフォローをする事になったが、そんなリオによって放たれた「そもそも連邦生徒会のセキュリティチェックのやり方に問題があるわ」から始まるリオの正論パンチのラッシュによって、今度は連邦生徒会長が落ち込んでしまいユウカ達に慰められてしまうことになってしまったのだった。
ちなみにヒマリは先生達やチヒロにかなりキツめに絞られてその場ではへこんでいたが、しかし翌日には元のテンションに戻っていた。
が、チヒロの念の為に行ったセキュリティチェックによりバックドアがまだあったことが発覚し、二日連続でチヒロによって強めにキレられて今度こそ本当に反省したとかしていなかったとか…。
余談ですが、私はキャンプイベで何回かカレー作り忘れて石貰い損ねてました。やっちまったゼ☆