この作品は、
・ハーメルン様(ココ)
・Pixiv様
の二つのサイトで投稿させていただいています。
「私のミスでした…」
少女は微笑みながら、しかしながら実際のところ何を思っているのかよくわからない感情の声で呟いた。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のあの選択が間違っていたかもしれないことを知るなんて…」
そう言いながら少女──連邦生徒会長は頭に意識を集中させ、それと同時にその場にいる全員が彼女の頭に視線を集中させた。
「……今まで問答無用で退治してきましたが…。まさか小さいパンちゃんにそれなりの可愛げがあるとは…」
「あの、どういう感情で言ってるんですかそれ…? というか、大丈夫…ですか…?」
その場にいる一人であるフウカは引き攣った表情で連邦生徒会長の頭にへばりついている紫色のパンケーキのような見た目の、生物なのか食べ物なのかよくわからない物体──通称パンちゃんに目を向けた。
パンちゃんは触手で連邦生徒会長の頭にへばりつきながらあむあむと彼女の頭を先程からずっと甘咬みしている。
「大丈夫、って…あぁ、私の頭にへばりついているパンちゃんですか? 加減してくれているようで、意外と痛くないんですよ」
「え、えっと…パンちゃんと仲良くしていただいているようで、何よりです…?」
「どう見てもあれ捕食されかけてると思うんだけど…?」
現在地、ゲヘナ学園食堂。時間はお昼ちょっと過ぎくらいのこと。
経緯としては連邦生徒会の恒例行事たる学園間会談兼学園視察の真っ最中、連邦生徒会長が食堂に赴いたタイミングで小型パンちゃんが爆誕し大騒ぎに。
生まれたばかりでわんぱくな彼(彼女?)は連邦生徒会長に襲いかかって頭にひっついたはいいものの、彼女を気に入ったのか特に周りに危害を及ぼすことはなく連邦生徒会長の頭から何故か離れず、その間にフウカ達以外の全員の生徒が食堂から脱出してかれこれ数分が経って現在に至る、という次第である。
「捕食だなんてそんな。この子は甘咬みしてるだけですよ。少なくとも今のところは」
「そ、そうなんですか…? 今回のパンちゃんは大人しい子…なのでしょうか…?」
「個体差あるのアレ…? いっつも暴れ回ってるイメージなんだけど…」
フウカの至極真っ当な疑問が飛ぶ中、連邦生徒会長はごく当たり前のように食堂の席につく。
そして、彼女は。
「ところでフウカさん。今って注文は大丈夫なのでしょうか? よろしければ給食部の食事を頂いてみたいのですけれど」
「…えー…今はちょっと食堂が荒れてるので無理そうです…。本当にごめんなさい、なんですけど…その、注文よりも会長さんの方が大丈夫なんですか…? えっと、あの…映画とかで出てくる怪物みたいになってますけど…」
「あ、周りからはそう見えてるんですね、今の私」
あまりにも落ち着き払った様子の連邦生徒会長だが、しかしその外見はというととんでもないことになっている。
パンちゃんが頭に際限なく甘咬みしてくるのは先程説明した通りだが、そのパンちゃんは口(っぽい部分)から緑色のソースを垂れ流している。
当然甘咬みされている連邦生徒会長の頭や顔にもソースが垂れてきている上に顔色が青くなってきており、まるでパンちゃんに寄生されて緑色の血を垂れ流しているような感じの結構キツイ見た目になっているのだった。
「大丈夫ですよ、フウカさん。今のところ危ないところはありません。強いて言えば、時々触手を口の中に突っ込んできたり口の中にまず…独特なソースの味が広がるくらいです。パンちゃん的にはじゃれているのでしょう、多分」
「…いや、だとしても引っ剥がしたほうがいいと思うんですけど…」
フウカは相変わらずなんとも言えない絶妙な表情で正論を呟くが、そんなフウカの隣に立っていたジュリの瞳はというと…何故か輝いていた。
「あの、会長さん! 会長さんさえよろしければパンちゃんとどうすればもっと仲良くなれるのか教えてもらえませんか!?」
「ジュリ…? あのよくわからない生物らしきモノと仲良くするのはちょっとやめておいたほうがいいと思うんだけど…」
「もしかしたらパンちゃんだって何かの事情があって暴れているだけなのかもしれませんよ、フウカ先輩」
「うーん…言いたいことはわかるしジュリのそういうところは好きだしなんなら尊敬もしてるけど、でも大体の場合発生したばかりで大暴れしてるのよねアレ…。産まれてはいけないものの可能性が高い気がするんだけど…」
「パンちゃんと戦わずに済むならそれに越したことはないと思いますっ!」
ジュリはそこまで一息に言い切ったところで、未だパンちゃんに頭を甘咬みされながらも優雅に椅子に座る連邦生徒会長に目を向ける。
そして、彼女は「お願いします、会長さんっ!」と勢いよく頭を下げた。
連邦生徒会長はそんな彼女の真摯な姿を見て静かに微笑むと。
「…ジュリさん。私は一つ、貴方に伝えておくことがあります」
「な、なんですか…?」
「パンちゃんが何故ここまで私に懐いているのか、私自身さっぱりわかりません」
連邦生徒会長がよくわからない感情での微笑みのままそう告げた途端、パンちゃんの触手が連邦生徒会長の口の中に侵入し彼女は「もがもが…」とこれまた何とも言えない声を上げた後、表情をかなり歪ませながらもかなり無理やり触手を口の中から引っこ抜いてげほっと苦しそうに咳を吐く。その顔色は青いどころか緑色に達してきていた。
「な゛の゛で゛…。…ゲ゛ホ゛ッ゛…! …失礼しました。私からジュリさんにお教えできることは本当に何もないんですよね…」
「あの、本当に害はないんですよね? 会長さん、触手が口の中にねじ込まれる度に顔色が悪くなってるんですけど。いよいよもって映画の怪物みたいになってますよ?」
「…実はですね、野に放つと危なそうなのでパンちゃんを留めるためにさっきからずぅーっとやせ我慢しています。しかしそれもいい加減限界に近づいてきていまして、はっきり言ってもう意識を飛ばしたいくらいにはしんどいんです…」
「た、大変じゃないですか…! フウカ先輩、やっぱりパンちゃんを会長さんから引き剥がしましょう!」
「そ、そうね…いつまで経っても会長さんを犠牲にし続ける訳にもいかないし…。でも、まずは捕獲の準備を整えてからにするわよ。ここの状況から逃げられると多分いつも通りになるだろうから」
連邦生徒会長の珍しい弱音にフウカとジュリはそんな発言を残したあと、ざるや鍋など様々な道具を揃えてすぐ手に取れる位置に置いた後に二人は連邦生徒会長の前に立つ。
その顔には緊張と、そしてある種の覚悟が浮かんでいた。そして連邦生徒会長と二人は視線を交錯させて互いに頷くと。二人は凄まじい勢いで連邦生徒会長の頭に張り付いたパンちゃんに手を伸ばした。
「ふっ、くぅ…! ふん~~~~っ…!」
「ふんぬぅ~~~~っ!」
「…っ、っく…! …い゛っ…い゛た゛た゛た゛た゛た゛た゛!」
パンちゃんをとりあえず引きはがそうと可愛らしい声をあげながら力いっぱい引っ張るフウカとジュリ。彼女たちに負けじと連邦生徒会長の頭に力強く張り付く未確認生命体ことパンちゃん。そしてそんな攻防に痛みを訴えて食堂の机をばしばしとタップし始める、色んな所が緑色になっていてえげつない見た目になっている連邦生徒会長。
ゲヘナ学園食堂は、傍から見ればすさまじくカオスな状況が展開されていた。
当事者たちは必死であるために絵面の異様さに気が付いていないようだが、しかしながらそんなことをしているタイミングで食堂の扉が開かれた。
「風紀委員会だ! 全員そこを動く、な…」
現れたのは銀鏡イオリ率いる風紀委員会の面々。彼女たちは食堂に入ってきて飛び込んで来たあまりにも異様すぎる光景にフリーズしており、またフウカもジュリも連邦生徒会長もまた突然入ってきた風紀委員会に驚いて目を丸くしている。が、あまりにも絵面が悪いということに気づいたのかフウカとジュリは次第に顔を青くしはじめた。
ちなみにパンちゃんはフウカ達の苦労も空しく剥がれておらず勝ち誇ったかのように触手がうねうねしており、無駄に痛みを与えられた連邦生徒会長の顔色は相変わらず緑がかっておりぜぇぜぇと息を切らしていてそれどころではない様子である。
「…お前たち、本当に何やってるんだ…? その人一応要人だぞ…?」
「ち、違うんです…! これはですね、パンちゃんを引きはがそうとしてですね…!」
「そ、そうなの! ほら、これ見て! パンちゃん! また生まれちゃったの!」
「…あの、今一応って言いました…? これでもしっかり要人なんですけど…?」
フウカ達の主張を聞き、そして連邦生徒会長のささやかな抗議を無視してイオリは「またか…」と呟いてから連邦生徒会長に近づき、そして状況をきちんと理解できたのか心底同情するように「うわぁ…」と口に出した。彼女もまたパンちゃんによる被害にあったことがあるのでどうやら連邦生徒会長の現在の状況に思うところがあるらしく、その視線にはどこか普通の生徒なら即座に気絶するところを精神力だけで耐えている連邦生徒会長への敬意も含まれているようにも見える。
「…状況は理解した、お前たちの言い分も信じるよ。信じる、けど…これどうしようかなぁ…」
イオリは未だ連邦生徒会長の頭に引っ付きながら触手をうねうねさせるパンちゃんを横目に静かに息を吐くが、しかしすぐにどう動くか決めたらしく風紀委員会の生徒に鋭く指示を飛ばした。その赤い瞳には先ほどまでの迷いの色は既に消えていた。
「とりあえず連邦生徒会長からこの…なんだ、形容しがたいこの物体を剥がすぞ! 何人か手伝ってくれ!」
「「「はいっ!」」」
「…あの、できれば丁寧にお願いをしたいのですが…」
「「「「せー、のっ!」」」」
「あ゛い゛た゛た゛た゛た゛た゛!」
連邦生徒会長のやんわりとした要求を無視し、イオリを含む今回現れた風紀委員会の面々は先ほどのフウカ・ジュリと全く変わらず力業でパンちゃんを連邦生徒会長から引っぺがそうとしはじめ、パンちゃんもまた抵抗。再び連邦生徒会長は痛みに叫び、そんな彼女の様子を先ほど同じことをしたフウカとジュリは同情するような視線で見守っていた。
しかし、そんな攻防も突如として終わりを迎えた。ついにパンちゃんが連邦生徒会長の頭から離れたのである。それと同時に後ろに体重をかけていた風紀委員会の面々は揃って後ろに倒れ込む。
そして。
「確保…ぐあぁぁ!?」
「なんだこれ、まっず…う゛ぉ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛…!」
ようやく連邦生徒会長から離れたパンちゃんを捕獲しようとした風紀委員会の生徒たちに、パンちゃんは触手やソースで反撃。捕獲に走った風紀委員会の生徒は次々とダウンしていき、そしてその間にパンちゃんは食堂から逃走。
これらの場の動きにこれからの展開をその場の全員が理解したのか、食堂には一瞬だけ静寂が訪れる。とりわけフウカとイオリの表情は凄まじく面倒くさそうであるが、しかしイオリは気を持ち直してパンちゃんの追跡の為に残った風紀委員会の生徒達とともに慌ただしく去っていった。
「……結局いつも通りの展開になったわね」
「…うぅ、ごめんなさい…」
フウカとジュリは風紀委員会の生徒たちが去っていった扉を眺めてそんな会話をしていたが、しかしそんなふたりの後ろでどさりと重い音がした。
「………………ぅ、うぅ…」
「「…あっ…」」
今回の騒動における現時点での最大の被害者である連邦生徒会長が、とうとう限界を迎えて椅子から転げ落ちて気絶してしまっていたのである。
電光石火のどたばたっぷりに、彼女は二人からその存在をすっかり忘れられてしまっていたのだった。
その後連邦生徒会長はフウカ達の通報により救急医学部へと搬送されることになったが、少量でも気絶する液体を山ほど流し込まれてなおしばらく耐えていた彼女が意識を取り戻すのに丸一日と四時間かかり、そしてその後一週間ほど静養する羽目になった。
トップが問題に巻き込まれたことに連邦生徒会が正式に抗議を表明したが、しかしそこはゲヘナ学園万魔殿の無駄に高い政治力によりのらりくらりと躱して責任を回避。
この結果に露骨に調子こいていたマコトであったが、しかしそんな彼女は天罰とばかりにすっかり大きくなってしまったパンちゃんにひどい目にあわされ、それの鎮圧にあたったヒナによって巻き添えをもらう形で痛い目にも遭ったのだった。