なお、今回の話は作者が頭のネジを数本外して作った頭の悪い話ですのでご注意ください。
この作品は、
・ハーメルン様(ココ)
・Pixiv様
の二つのサイトで投稿させていただいています。
「私のミスでした…」
そう言いながら、少女はガラス越しの目の前の人物に向けて呆れたように語り掛けた。その空の如き水色の双眸は、心底面倒くさそうに相手を射抜いている。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のあの選択が間違っていたことを知るなんて…」
「図々しいお願いですが、お願いします」
そこで一旦言葉を切ると、彼女はいったん溜息を吐いた。そして再び口を開いた少女──連邦生徒会長は懐から小瓶を取り出して、目の前に居る女性に見せながらいつもと違う少し硬い声色で告げた。
「…暇だからって碌でもない効能の仙薬を調合しては連邦生徒会に送り付けるのをやめてはいただけないでしょうか?」
連邦生徒会長のその発言にガラス越しに居る女性──矯正局に放り込まれている囚人の一人、申谷カイは楽しそうに口元に笑みを作った。その笑みには嘲りなどの悪意は一切含まれてはいない。その笑みはイタズラが上手く発動して計画が上手くはまったというような極めて純粋で楽しそうなものである。
「おや、碌でもないとは心外だね。これでも私は君たちの助けになるようなものしか作っていないつもりだけれど?」
連邦生徒会長の呆れが混じった視線や言動には一切怯まず、まったくもって反省してはいない言動で挑発をするカイ。そんな彼女に連邦生徒会長は再び溜息を吐いた。
「…えぇ、確かに貴方が作って私たちに送ってきた仙薬は『基本的には』私たちの得になるものでしたね。ある時は集中力が上がったり、またある時は疲労軽減効果が得られたり。そこについては感謝はしています」
そこまで言った後に連邦生徒会長は「しかしですね」と言って話を続け、カイの仙薬によって連邦生徒会に引き起こされた『事件』を口にする。連邦生徒会長の言葉に含まれている感情には若干の怒りと共に限りない疲労の色と呆れの色が多分に含まれていた。
「その副作用で身体が発光したり、睡眠をとったら必ずトンチキな夢を見るようにしたり、性癖を誤魔化せないようにするのは絶対に私たちの助けにはならないでしょう!?」
そう、連邦生徒会長がわざわざ矯正局まで出向いてカイに面会しに来た理由は余罪が見つかったために断罪を行いに来たという真面目な理由では決してなく、矯正局にいるカイによって製造された仙薬によって連邦生徒会がかなりの業務妨害を受けたためにカイに苦情を言いに来ただけである。
事は連邦生徒会に送り届けられた一つの届け物から始まった。その贈り物の差出人の名義は全く違ったが、中にはアロマ型の仙薬とカイのメッセージカードが添えられていた。
『頑張っている君たちに贈り物だ。簡単な仙薬であるが故に効果は薄いと思うが、疲労軽減の仙薬を作ってみた。獄中から応援しているよ、頑張ってくれたまえ。
追伸:人体に悪影響を及ぼすものは入れてはいないが、不安ならば山海経の薬子サヤに検証をしてもらうこと』
そう書かれたメッセージに連邦生徒会は困惑し、シャーレに調査を依頼。サヤの薬剤検査や先生達やヴァルキューレ、それにSRTによる執拗なカイ本人への聞き取りと臨床試験の末に有害なものは入っていないとの結論に至り連邦生徒会の一部生徒は自己責任でこれを使用することに。
その結果としてその時の仕事の能率は上がった…のだけれど、しかし一度安全な物だと油断すれば以降の警戒はゆっくりと、しかし確実に緩くなるもので。
段々とチェックが雑になっていったときに事は起きた。
『か、会長!』
『どうしたんですか、そんなに慌てて…?』
『本日昼過ぎから突如として連邦生徒会の一部の生徒たちの身体が発光したり、同じく連邦生徒会の生徒が支離滅裂な発言をしたりして大変なことになっています!』
『大惨事じゃないですか…。…ちなみにそうなる前後で何かありました?』
『…あ、そういえば。最近よく届く例のアロマを私と他の生徒たちで開封して焚いたあとからそうなった、気が…』
焦った様子の連邦生徒会の生徒の報告を受けて、連邦生徒会長は静かに頭を痛めた。実のところ、最近カイからの贈り物へのチェックが疎かになっていたような気がしていた。時間はかかったとしてもちゃんと検査をしておくべきだった。
連邦生徒会長はそう思ったが、しかし後の祭りである。事は既に起きてしまったのだ。
『…なるほど、そうですか。シャーレ・SRT・ヴァルキューレに連絡、申谷カイを徹底的に尋問した後ボイスメールで報告し、連邦生徒会には近づかないよう指示を…。…いえ、それは私が指示しておきます。貴方はできる限り症状をまとめておいてください、こちらの用が終わったら私もそちらに参加します。連邦生徒会内に散布されてしまった以上は私に逃げ場はありませんしね』
『しょ、承知しました…。その、会長。勝手な判断をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした…』
『いえいえ。最近チェックが疎かになっているのに気づいてて放置してしまった私にも責任はありますし、しかもよく考えれば最初に申谷カイから薬品を渡されたときに破棄する判断をしなかった私のミスですから。あんまり気を病まないようにしてくださいね』
『はい…』
とぼとぼと去っていく連邦生徒会の生徒の後ろ姿を見つつ、『もし何事もなくこれを切り抜けられたならメンタルケアとちょっとした講習が必要だなぁ』とか『先生は来るなって言っても多分来るんだろうなぁ』とかぼんやりと思いながら各所に連絡をはじめ、そして終えると同時に連邦生徒会員たちに『外に出ず室内で待機、ガスマスクがあればそれを着用するようお願いします』と放送してからガスマスクを引っ掴みつつ、会長室を後にして事態の把握に入った。
そして連邦生徒会長が片っ端から部屋を開け、一人一人に聞き取り調査を行っていく。そしてそれなりの下層に進んだところでのとある扉を開くと。
『うっ、眩しい…!』
どうやら件の仙薬の影響が出ているフロアに踏み入ったらしく、扉を開いた瞬間に結構な量の光に連邦生徒会長は襲われる。それに負けないようにゆっくりと目を開き、そして連邦生徒会長は自分で開けた部屋に踏み込んだ。
『大丈夫ですか、皆さん! 体調に異常は!?』
『か、会長! 私、会長にでろっでろになるまで甘やかしてもらいながら褒めてほしいんです!』
『はい? …はい!? なんですかいきなり!?』
連邦生徒会長が部屋に踏み込んだ瞬間、血相を変えながら全身を発光させる連邦生徒会の生徒に突然妙なお願いをされてしまい連邦生徒会長は困惑する。当然と言えば当然だろう、このとんでもなく忙しいときに何かよくわからない欲望をぶつけられてしまったのだから。
連邦生徒会長が何がどうしてそうなったと困惑していると、部屋にいたもう三人の生徒たちもまた二人に近づいてくる。
『そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? リン先輩とアユム先輩のおっぱいに挟まれて窒息したいって話を会長に伝えないとって! …んんんんんん、もぉーやだぁーっ!』
『落ち着きなよ、アオイさんに蔑んだ目で見られながら踏まれたいって話だったでしょ? …ち、ちがっ…会長…! これ、そういうのじゃなくてですね…!』
『だぁーっ、二人とも! そんな話してる場合じゃないって! カヤ先輩とモモカちゃんを膝の上に乗っけてひたすら甘やかしたいって…あーっ、もうっ!』
近寄ってきた生徒たちもまた各々よくわからない己の欲望の後に悔しそうな言葉を口にする。連邦生徒会長が今のこの状況で一体何を話しているんだこの生徒たちは…と軽く引きつつも、しかしながら口にしていることに対しやたらと鬼気迫る顔をしていたため、連邦生徒会長は彼女たちに一声かけてみた。
『…あの、もしかして何か私に伝えたいことがあるんですか?』
連邦生徒会長のその言葉に四人は一瞬で瞳を輝かせると、ぶんぶんと思いっきり首を縦に振った。どうやら思うように言葉が出てこないらしい。連邦生徒会長はそこを把握すると、『皆さんの事情は把握しましたから、筆談でいきましょう』と声をかけると彼女たちはメモのアプリで状況を説明してくれた。
曰く甘い匂いがしたと思ったら体が光りはじめ、そしてそれに驚いて会話をしようと思ったら各々の性癖しか口に出せなくなっていたとのことらしい。
『状況はわかりました、ありがとうございます。…とりあえずこの騒動が落ち着くまで口を開かない方がいいですよ、あらぬ誤解を受けてしまうと思うので。私の時と同じように筆談でいきましょうね』
連邦生徒会長のそんな発言に四人はこくこくと黙って首肯する。それを確認した後に連邦生徒会長はにっこりと微笑みながら『それと。これが終わったら皆さんが溶けるまで甘やかしますからね、覚悟しておいてください』と言い残し、その場の皆を置いて踵を返し次の場所へ連邦生徒会長は向かう。
この後も連邦生徒会長は聞き取りを続け、そして被害を把握していった。その結果、
『お昼寝してたら妙な夢見ちゃってさ。え、夢の内容? アバンギャルド君とペロロジラが腕相撲してたら最終的に巨大化した先生に両方ともヘッドロック掛けられるとかいう意味不明なオチだったよ。…ちなみにだけど会長、なんで私身体が光ってんの?』
『…仮眠から目覚めたらなんだか凄いことになってるんですが、どうなってるんです、会長? …え?夢の内容ですか? …クーデターを起こしたら何故かRABBIT小隊に殴られたっていうつまらないものでしたよ。…なんですか、何か言いたいことでもあるんですか?』
こんな具合にモモカやカヤから夢に関する新たな情報を得たり。そんなこんなで連邦生徒会長が連邦生徒会内のあらゆるところを駆けずり回って情報を集めていると、先生から連絡が来たのだった。
『はい、私です』
『あ、もしもし? 無事かな?』
『えぇ、何とか…』
『それならよかったよ。…ここからが本題なんだけど、カイによると別に命に関わるようなものじゃないらしい上に効果は数時間で切れるらしいんだ』
『…とりあえずは一安心、ですか。…とはいえ、あんまり良くない願望しか口に出来なくなって精神的ダメージを受けた生徒はいるのでその子達にはケアは必要ですけど…』
先生からの連絡に連邦生徒会長はため息を吐く。一応カイもまた先生に心を開いているようではあるので、恐らく彼に対しては本当のことを言ったのだろうと考えた連邦生徒会長はその情報を鵜呑みにした。
そんな彼女の様子を察してか、先生は更に得た情報を連邦生徒会長に語りだしていく。
『…えーっと、ね。怒らないで聞いてほしいんだけど』
『…? 構いませんが…』
『……カイの今回の騒ぎの動機なんだけどね。あまりにも暇してたから私に会いたかったらしいのと、あと暇だったから一番手ごろな連邦生徒会にちょっかいをかけて暇をつぶしたかった…らしいんだ』
『…はい?』
かなり上機嫌だったらしいカイは計画を包み隠さず先生には話し、そしてそれによって事の全容を知った連邦生徒会長は怒りや呆れが混ざった様々な感情の何かを口に出そうとしたが、しかし言葉が出なかった彼女は静かに息を吐いて電話を切り、その後も後始末に奔走。
なんとか事態が沈静化し、そして事が終わった後にカイに面会しに来たのが冒頭でのことである。
「まったくもう、暇だからって他人に迷惑をかけていいわけがないでしょう!?」
「そもそもなんだがね、いくら安全性が担保されたとしても囚人からの贈り物を開封・使用するのはどうかと思うんだ。正直なところ、私もここまで事態が上手く行くとは思っていなかったんだよ?」
「正論ありがとうございます、仰る通りですね! ですがそれはことが終わった後すぐに連邦生徒会全体に改めて周知しておきましたっ!」
ともすれば「コノヤロー!」とか暴言が飛び出しそうな勢いで言葉を荒げる連邦生徒会長にカイは肩を竦める。反省している様子はまるでなく、なんなら「なんで私は怒られているんだろうねぇ?」とでも言いたげだ。
ゴーイングマイウェイな彼女に何を言っても無駄と思ったのか、あるいは彼女のペースに乗せられては碌なことにはならないと判断したのか、連邦生徒会長は言葉の温度と勢いを下げる。
「はぁ…言っておきますが、今回の件で貴方は矯正局での刑期の延長が議論されはじめましたからね?」
「おや、それは困ったな。私とてこんなところからは早くお別れしたいのだけれど」
「だったら大人しくしていてくださいよ…。それともまた脱獄でもしますか?」
連邦生徒会長が呆れながらも鋭く釘を刺したところ、カイは肩を竦めたままあっさり言い放った。
「今回はそんな事しないよ。ちゃんと反省して、胸を張ってここから出ていくつもりさ」
「…変わりましたね、貴方。今回の件の動機でも先生と話したかったと聞いていますし、もしかして先生のことが気になっているのですか?」
「先生が気になる、か…。ふふ、それはどうだろうね? どうあれ、私は私らしさを捨てるつもりはないよ」
連邦生徒会長の問に、以前の所業や静かな狂気に満ちた姿からは考えられないほど穏やかに微笑みながらカイはその答えをはぐらかした。そして、そんな彼女は穏やかな微笑みのまま連邦生徒会長に静かに問い返す。
「ところで連邦生徒会…というか君は面白い反応をしそうだからこれからも度々愉快なちょっかいをかけるつもりなのだけれど、次はどんなのがいいかな。今なら意見を聞くよ? 代わりに他の七囚人と同じような取り引きと契約を求めるけどね」
「少しは反省してください! それと協力者の名前を直ぐに吐くっ! 絶対に誰か協力者がいるでしょう!?」
こんな具合に連邦生徒会長とカイは面会時間が終わるまで言い合いを続け、そしてその一週間後から連邦生徒会やシャーレはあの手この手で色んなちょっかいをかけてくるカイに対して週一で手を焼くことになったのである。
ちなみに連邦生徒会長がたまらずキサキにヘルプを求めてみたところ、
「……話を聞く限り今のカイはこちらで引き取ったとしても今までとはまた別の意味で厄介なことになりそうじゃな。…奴を追放した手前誠に頼みづらいのじゃが、カイの相手をしてやってはくれぬじゃろうか。…玄龍門門主として、そなたに頼み申す。この通りじゃ」
と頭まで下げられて懇切丁寧かつ全力で手助けを断られてしまい、連邦生徒会長のストレスは爆増。
これを解消するために色んなことを試した結果、今のところで一番いい具合のストレス発散の方法が甘やかされたい生徒や疲れが溜まった先生たちを徹底的かつ容赦なく甘やかすという絵面がかなり酷い行為であったことが発覚し、一時期連邦生徒会長の精神も安定の兆候を見せていた。
しかしこの行為とカイの悪戯のタイミングが重なってしまった結果として連邦生徒会がシャーレ共々丸一日使い物にならなくなる事案が発生し、それによって「人をダメにする」という理由でこれが禁止行為にされ、連邦生徒会長はまたも新たな方法を探す羽目になってしまったのだった。