シリーズ「私のミスでした」   作:竜田揚げ丸

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こんにちは。もはや特に何も言うことはありませんがとりあえず投稿します。
やっぱりコメディで便利屋を書くとそっちに意識が持っていかれますね。

この作品は、
・ハーメルン様(ココ)
・Pixiv様
の二つのサイトで投稿させていただいています。



「私のミスでした…」アル「ふふん、その34よ!」

「私のミスでした…」

 

少女はふぅと溜息を吐いて、なんとなくがっかりしたような声をだす。

 

「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」

 

「この結果にたどり着いて初めて、私のこの選択が間違っていたことを知るなんて…」

 

少女──連邦生徒会長はそう言うと同時に天井を仰ぎ、此度の結末についてを改めて口に出した。

 

「……証拠収集を依頼したのにまさか調査対象を爆破して構成員を全員病院送りにするとは思いませんでしたよ」

 

連邦生徒会長の怒り一割呆れ二割悲嘆三割驚愕四割の絶妙なミックス加減のその声に、連邦生徒会長の目の前に座る少女──陸八魔アルは不敵な笑みを浮かべながらもその足元はかたかた震えていた。

なおその後ろではカヨコがげんなりした表情を浮かべ、ムツキは「くふふ〜」と楽しげに笑いながらも連邦生徒会長から見えない位置で得物を既に手にかけ、そしてハルカが「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」と爆弾を手に謝り続けているのだった。

 

ことのはじまりは数週間ほど前に遡る。

連邦生徒会長はブラックマーケットに存在するかなりあくどいことをやっていると噂の企業の調査を計画していたのだが、しかしながらこの企業がなかなかの曲者であった。

ヴァルキューレやSRTに調査させようにもどこからかそれを察知して、『何もなかった』ように見せて調査を空振りにさせて尻尾を掴ませないのである。

にも関わらずその企業の黒い噂は増していくばかりであるため、やはり真相を確かめる必要があると判断した連邦生徒会長は蛇の道は蛇ということで、本来連邦生徒会とは全く関係の無いブラックマーケットの内情を(恐らく連邦生徒会よりは)深く理解している便利屋68へと個人的に調査を依頼。

そこから数週間が経ち、連邦生徒会長がそろそろ経過を聞こうと思ったタイミングで件の企業が爆破され、そしてやらかしたのは便利屋68であるということを耳にし急いで足を運んできた次第である。

 

「……」

 

「……」

 

一番欲しかった部分を得られなかった上に問題を作りやがったとブチギレて真顔になっているように見えるクライアントこと連邦生徒会長に、大胆不敵な笑みながらも内心戦々恐々としているアル。

当然である。連邦生徒会の、それもトップが直々に便利屋に足を運んできたということはつまり『やろうと思えば連邦生徒会は治安維持を名目にいつでも便利屋を潰せる』という事実を示していることに他ならない訳で。

生殺与奪を握っている連邦生徒会に自分達の有用性を示しておかねばならないこの状況で思いっきりやらかしたために、白目を剥きたくなるのをなんとか我慢して不敵な笑みを浮かべて虚勢を張っているのであった。

 

一方、ブチギレて真顔になっているように見える連邦生徒会長の内心はというと…実のところ、茫然自失気味であった。

当然である。あくどいことをやっていた企業を抑えて似たような事をしている他の輩を牽制する目的だったのにも関わらず、抑えられる材料が全て消し飛んでしまって事実上それが不可能となってしまったのだから。

この件について、連邦生徒会長は彼女達にどうこうしようとは別に思っていないし思えない。便利屋68はブラックマーケットに精通している生徒たちのなかでも失敗こそあれど、70%レベルの成果は欲しいというところで時々200%レベルの凄まじい成果を上げてくるからだ。なので便利屋68とはこれからも仲良くしておきたいというのが連邦生徒会長の彼女たちへの評価である。

だが、それはそれとして連邦生徒会長はプランがものの見事に瓦解したのは結構本気で凹んでおり、またここからどう取り締まりを展開していくべきかを思案せざるを得なくなりまた考えることが増えるなぁ…とナーバスになって真顔と化していたのであった。

 

そして、そんな二人ともし何かあるようならば連邦生徒会長への殺傷も考えているハルカ・ムツキによって織りなされた独特な空気感の中でもっとも胃を痛めているのが実はカヨコだった。というのも、このメンバーの中で彼女だけが付き合いの長さと経験で最も俯瞰的に物事を見極められているからである。

殺傷を考えている二人のことも、どう場を収めようかと考えている連邦生徒会長のそれも(こちらはそこまで深く接したことはないので恐らくはこんな感じだろうという推測込みでだが)、そしてアルの虚勢も凡そ理解しているためにあまり大事にはならないとはわかっている。

が、どの立場を基点に話の展開を図ったところで別の立場から自分に矛先が向くのは確実。それに対してカヨコはあまり有効な手を考えられていないのが実情である。故に、いい具合の展開になるまで彼女は口を出さない…というか、出せないのだった。

 

 

こんな具合に各々が「どうするんだこれ…?」と考えて動くのに慎重になっているために便利屋68のオフィスには張り詰めた雰囲気が漂っていたわけだが。

 

「……まぁ、その…なんでしょう。…もうなんでもいい気がしてきました」

 

連邦生徒会長が微妙に凹んだ様子ながら動いた。そんな彼女のやや凹んだ様子にアルは一瞬だけぽかんと口を開けていたが、ぱっと見ではわからないがはっとした様子で彼女もまた動く。

 

「なんでもいい…というのはどういう意味かしら?」

 

もしかすると『もういいや、この便利屋潰します』のようなことになのか、『この便利屋に依頼してよかった、次も頼みます』のようなことなのか。その見極めはアルにとって重要なのである。

なにせ連邦生徒会を全面的に相手取るか否かの分かれ道なのだから。そんなアルのやや緊張した質問に対する連邦生徒会長の答えは。

 

「いえ、なんと言いますか…。こんな結末でもいいかなぁ、というような気がしてきました」

 

「そ、そう…」

 

全面戦争はなんとか避けられたかというアルの若干安心したような笑みとともに繰り出されたその言葉とともに再び流れるなんとも言えない沈黙。だが、そんな空気など知らんと言わんばかりに笑っていただけだったムツキがここで楽しそうに口を開いた。

 

「くふふ〜、じゃあ依頼は成功ってことでいい感じ?」

 

「「えっ」」

 

ムツキのそんな発言に二人揃って驚愕の声を上げるアルと連邦生徒会長。当然である。これでもいいかなぁなんて口に出した連邦生徒会長もそんな彼女に相対しているアルも内心『これはギリギリ失敗と言っていいのでは?』という認識であり、まさかこういう話の流れになるとは思っていなかったのだ。

だがしかし、連邦生徒会長が「まぁ別にこれならこれでいいかなぁ…」なんて口に出してしまったということはつまり、聞き方によっては『クライアントの依頼に成功』ともとれるわけで。

 

「…なるほど。確かにそういうとり方もできますね」

 

状況を理解した連邦生徒会長は失意に乗じてうっかり余計なことを口にしてしまったことを理解し、連邦生徒会長は若干後悔する。

だが冷静に考えれば例え契約不履行気味とはいえ曲がりなりにも働いてくれたのに「イヤ、これは流石にナシでしょ…」と報酬未支払いは鬼畜の所業な気がしてならない気もしてくる。…いやまぁ何度も言うようだが便利屋側がやらかしてるのでゴネにゴネれば報酬未払いでも乗り切れなくもない気がするが、そうすると便利屋側との関係に亀裂が入ることはほぼ間違いない。今後のブラックマーケット調査にも多少の支障が出るだろう。

なので、連邦生徒会長がとった決断は。

 

「…ふむ、そうですね。では、報酬の交渉に入りましょうか」

 

しぶしぶながらも支払う気であった。とはいえ、このまま満額支払いというのはいくら連邦生徒会長といえど納得がいかないところもある。なので、便利屋68との契約の内容を利用して少しでも支払いを少なくしようと価格交渉の構えに突入した。

だがしかしその瞬間、これまた連邦生徒会長にとって予想外のことが起きた。

 

「…いいえ。その必要はないわ」

 

「えっ?」

 

「これは私達にとっても不本意な結果だもの。この程度の成果でお金を受け取るほど私達は意識の低い会社じゃないわ」

 

社長・陸八魔アルによる、報酬支払い無用の宣言である。真っ当な会社であるならばどうあれお金はほしいものではあるが、しかし便利屋68は良くも悪くもアルの価値観がものをいう会社である。彼女がいらないと言えば、それは便利屋68にとっていらないものなのだ。

このアルの発言にムツキは楽しそうに笑い、ハルカは目を輝かせて尊敬の念を顕にし、カヨコは更にげんなりとした表情を浮かべ、そして連邦生徒会長は想定外に目を丸くした。

各々のそんな視線を受けたアルはふふ…とニヒルな笑みを浮かべるが、しかしその内心はというと。

 

(い、いいい、言っちゃったぁぁーっ!? 正直今月は家賃も厳しいのに、カッコつけて余計なことを言っちゃったぁぁーっ!? お願いだから連邦生徒会長、それでも報酬を支払うって頑固になってくれないかしらぁぁーっ!?

この際半額でもいいから、お願いぃぃーっ!)

 

ご覧の通りかなり賑やかなことになっていたのであった。連邦生徒会長はアルのそんな内心に気づいているのか気づいていないのか、しばらくアルの表情を眺めた後に。

 

「……お気遣い感謝します。ふふ、やはり皆さんは一流ですね」

 

と、少しでも支払いを安くしておきたいと思った自分を恥じながら若干苦い笑みを浮かべて便利屋68に対する賛辞を口にした。そんな連邦生徒会長の賛辞を額面通りに受けとったアルはというと、

 

「私達ともなれば仕事の出来も重視するものだもの、当然よ」

 

と表向きには調子こきながら内心『あぁぁぁ、更に墓穴を掘ってる気がするぅぅ…っ! お願いっ、連邦生徒会長…ッ!』と更に後悔を深めていた。

そんな妙にポーカーフェイスの上手いアルの内心には気づいていない様子の連邦生徒会長はというと。

 

「…そんな皆さんに報酬未払いというのはちょっと気が引けますし、やはりお支払いしたほうが…」

 

実のところ、彼女はかなり揺れていた。時々しくじることがあるとはいえ、このご時世にここまでの意識を持っているような会社もそうそうない。今までに何度かビジネスとして利用したことがあるが、ここまでの覚悟を持っているのははじめて聞いた(まぁアルが見栄を張ってあることないことを初めて言ってるので当然だが)。

故にここは契約とか成果とは関係なしに全額支払って、なんなら定期的に支援してもいいのかもしれないとすら思い始めているのだ。

そんな彼女の様子を見たアルはというと、

 

「い、いえ!? 気にしないで頂戴! でもそうね、どうしてもって言うなら受けとってあげてもいいわ!」

 

と若干本音が漏れたであろう発言を繰り出す。その内心はというと『この調子なら、もしかしたら…!』というものであり、もしかしたら収入があるかもしれないという期待に彼女は目を輝かせる。

が、しかし。アルがそう期待したその瞬間。

 

「ほ、ほんとうに…アル様は、お気持ちだけでいい、とのことですから…。今後とも…ご贔屓いただければそれでいい、とのことですっ…!」

 

「────」

 

ハルカによる悪意のない死体蹴りに等しい発言を繰り出されてアルは絶句し、ムツキはとうとう噴き出し爆笑していた。

そんなアル達の様子に『どうしたんだろう…?』と連邦生徒会長は若干首を傾げるが、しかしそれも直ぐに脇において気が収まらないのか不服そうな顔をした。

そんな彼女への対応は、げんなりしていた様子のカヨコがため息混じりに引き継いだ。

 

「…はぁ…。そうだね、じゃあ今回は特別サービスってことで。これならそっちも納得できるだろうし、こっちも社長の意向を汲めるしでちょうどいいんじゃない?」

 

「むぅ…。本当はお支払いしたいところではありますが…」

 

カヨコにそう提案されてなお若干不服気味である連邦生徒会長。そんな彼女に、カヨコは代わりの提案を即座に繰り出した。

 

「…じゃあ…連邦生徒会なら多分調査の業務くらいあるでしょ? それの内いくつかを定期的に回してくれればそれでいいから」

 

「……確かに、それでもいいかもしれませんね。先生達の負担も減りますし」

 

カヨコの提案に、連邦生徒会長はうぅむと唸る。実際問題、連邦生徒会長としてもその提案は悪くないものであった。

先生達は頼んでもいないのに勝手に問題を拾ってきた結果過労死しかけることが多いので、こういった単純な調査を彼らに任せているとその内本気で死にかねない。

なら、こういった調査はこういった場所に任せていざ問題が大きくなるようであればシャーレに任せるといった方策をとれば先生達の負担も軽くなるのではないか。

そこまで考えたが、しかし。

 

「うぅーん…ですが定期的にそちらにお仕事を任せるとなると警戒なくブラックマーケットへの調査を依頼するのが難しくなるんですよねぇ…。…下請けの下請けの下請けという扱いにすれば多少なりとも連邦生徒会との繋がりも誤魔化せるのでしょうが」

 

「なんですって?」

 

連邦生徒会長のとんでもない発言に、先ほどまで絶句していたアルも復帰し交渉に加わってきた。

当たり前である。手塩にかけて設立した思い出の会社が下請け扱いされているのだから。

とはいえ、連邦生徒会長にも言い分はある。

 

「個人的には便利屋68には何処にも属さずグレーゾーンに居てほしいんですよ。ですがその上で連邦生徒会のお仕事をバレないかつ隙を作らないようにこちらに回すとなると…やっぱりそうせざるを得ないといいますか…」

 

「会長の権限でもダメなの〜?」

 

「もし裏で連邦生徒会からのちゃんとした仕事を回してたらリンちゃ…七神主席行政官達が気付かない訳がないんですよね。そうなると私に隙ができて、いざというときにそれを突かれるかもしれませんから…」

 

連邦生徒会長の発言に一同はまたも沈黙する。

そして、連邦生徒会長はふぅとため息を吐くと。

 

「やはりこうなるとお金をお支払いしたほうがいいのでしょうね…。代わりに個人的に仲良くしてもらう、ということで…」

 

最初は全額での支払いを渋っていたくせに、今では連邦生徒会長は極めて冷静に報酬を支払おうとする。

だがしかしそれについて、便利屋68も黙っているはずもなく。

 

「いやだからそれはいいって」

「アルちゃんがそう言ってるからね〜、仕方ないよね〜」

「は、はいぃ…! アル様は必要ないと…仰っていますから…!」

 

とアル以外の全員が応戦。アルの内心を(カヨコとムツキに関してはうっすら気づいていた上で面白そうだから)スルーする方向で話を展開しようとするが、しかし連邦生徒会長側も何故か譲らず「いえ、支払いするのが当然では…?」という主張を崩さない。

こんな感じの攻防が数分続いた上、最終的には。

 

「あ、アル様はいらないと言っているんです…! い、いいから黙ってさっさと帰ってください…!」

 

とショットガンを向けて威嚇されたために、連邦生徒会長は渋々退散。連邦生徒会長側からすれば微妙な蟠りができたままその日は終わり、そして今回も便利屋68は無収入に終わった。

 

───後日。

便利屋68のオフィスには匿名名義で大量のカップ麺が送り付けられ、同時に口座にいくらかのお金が振り込まれていたことが発覚。

いらないと言ってるのに結局報酬を送り付けてきたクライアントに突撃しようとしたハルカを他の三人…というかアルが必死こいて阻止する羽目になっていたのだった。

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