今回はサオリ推しの生徒って結構濃い人が多そうですよね、というだけのお話です。
この作品は、
・ハーメルン様(ココ)
・Pixiv様
の二つのサイトで投稿させていただいています。
「私のミスでした…」
少女はそう言って、机上に置いた雑誌に目をやってはその瞳に若干の疲労の色を滲ませていた。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のあの選択が間違っていたことを知るなんて…」
ここまで言った少女──連邦生徒会長はというと、羽交い締めにする腕に力を入れながら再び溜息を吐き出した。
「…まさかアリウスの一連の事情を知っている連邦生徒会の子の中にここまで強火のファンの生徒が居たとは…」
「離してください会長…! 私はなんとしてもベアトリーチェを抹殺しにいくんです…! あのクソアマ、地獄に突き落としてやる…!」
普段は割と穏やかである彼女が絶対に使わない『抹殺』という物騒な単語が口から飛び出てきたことに驚きながらも、連邦生徒会長は未だ激昂を抑えきれずに若干目が血走ってすらいる連邦生徒会の生徒を再び宥めにかかるのだった。
この連邦生徒会の生徒がなぜこんな風に怒り狂っているのかというとであるが、それは机上に置かれている一冊の──錠前サオリが表紙を飾っているファッション雑誌が原因であった。
最近サオリはアルバイトの一環として何度か読者モデル的なことも行っていたのだが、これが案外好評でありファンも着実に増えているらしくここにいる連邦生徒会の生徒もまた『モデル・錠前サオリ』のファンの一人でもあった。曰く『悔しいけどどんな表情でも画になる』『頭おかしいくらいスタイルがいいから冗談抜きで何を着ても似合う』『『尊い』を頭ではなく魂で理解した』とのことらしい。
しかしながら、この連邦生徒会の生徒はただのファンではない。サオリがどんな環境でどんな目に遭いながら育ってきたかを情報だけとはいえある程度知っている、連邦生徒会の中でもそこそこ偉い立場にいるファンである。
故に、である。
アリウスの生徒達を虐待してやがったあの腐れド外道レッドババァ…もといベアトリーチェぜってぇ許さねぇといった激怒の感情が燃え上がり、突撃をしそうになっていたのだった。
そんな彼女を連邦生徒会長が発見、羽交い締めにしてなんとか押し留めているのが現在の状況である。
「取り敢えず落ち着きましょうね…。ゲマトリアの中でも特にベアトリーチェと地下生活者は私も許せませんけれど、プレナ先生が双方ともにきっちり痛い目には合わせてますから…」
ふーっ、ふーっと息を荒くして目が血走る連邦生徒会の生徒の様子に少しばかり引きながらも、取り敢えずベアトリーチェ(と地下生活者)は既に痛い目に遭っていると説明した連邦生徒会長。羽交い締めを行っている彼女の全身からは『これで止まってくれないかなぁ…』という疲労の色が滲み出ている。
そんな彼女をギロリと睨んでから、連邦生徒会の生徒はふぅーっ…となんとか自分を抑えるかのように溜息を吐いてクールダウンを行ってから、絞り出すように言葉を吐き出して力を抜いた。ただし、いまだにその瞳は若干血走っていた。
連邦生徒会長はそんな彼女の様子を見て、まぁいざとなればまた拘束すればいいかと一旦拘束を解除する。
「……はぁーっ…。確かに今はベアトリーチェに構っていても仕方がありませんし、私達もそんなことに時間は割いてられませんよね」
「そうですよ。それにプレナ先生の他にも一応仲間の筈のゲマトリア達にすらボコボコにされた上でどこかに監禁されたって聞きますし、まぁいいんじゃないですか?」
「…ちなみにそれは誰に聞いたんですか?」
「先生からです。なんでも使えるものは全部使ってボコボコにしたと黒服が言っていたとか」
「………そうですか」
これを聞いたときの連邦生徒会長やこのサオリ推しの連邦生徒会の生徒の心情だが、正直ちょっとだけ同情はした。何せゲマトリアはというと、ユスティナ聖徒会やらアンブロジウスやらグレゴリオやら、一体でも厄介な連中がこぞってベアトリーチェや地下生活者に襲いかかったのだから、それも致し方のないことである。…とはいえ、やらかしたことがやらかしたことなのでそんな同情もすぐに爆散したのだけれど。
「…それにしても、まさかサオリさんの強火ファンがこんなに近くに居るとは思いませんでした」
「正直なところ私も結構驚いてますし、ちょっと前の自分自身に言っても信じないと思います」
連邦生徒会の生徒はやや自嘲気味に笑みを溢し、机上に置いてある雑誌を愛おしげに指で撫でた。
連邦生徒会長はそんな彼女の様子を優しく見つめると、おもむろにスマホをポチポチと操作しはじめた。連邦生徒会の生徒はどこに連絡しているんだろうとは思ったが、しかしその疑問はすぐに氷解する。
ふふっと微笑みながら連邦生徒会長が極めてあっさりと部下に見せたのは、モモトークの画面。
送信先は──錠前サオリ。そして、そこにはこんなやりとりが書かれていた。
『ファンの方が話したいとのことですよ?』
『よくわからないが、私でいいのであれば構わないと伝えてくれ』
連邦生徒会の生徒がスマホを凝視し、そして若干顔色を悪くし口元を引きつらせながらゆっくりと連邦生徒会長に視線を移すと、彼女は新しいおもちゃを見つけたかのように心底楽しげにニコニコと笑みを浮かべていた。二人とも声は出さないが、『これマジですか?』『えぇ、大マジですよ♪』というやり取りであることは明確だった。
そして、状況を飲み込んだ彼女はと言うと。
「えっ、やだっ、えっ!? あの錠前さんとお話しろってんですか!? 無理無理、私そうなると多分まともに話せませんよ!?」
「だぁいじょうぶですってぇー♪ ほらほら、通話しちゃいますよー?」
「ちょっ、待って、ダメですって会長! 私全然準備とか…!」
「それっ、テレビ通話開始です♪」
「ちょ、ちょっと、待っ──!」
部下の生徒の制止も届かず、連邦生徒会長は容赦なくテレビ電話を開始。あわあわしながら連邦生徒会長から携帯を強奪してテレビ電話を止めようとするファンの生徒だったが、しかしながら無駄に動きがいい連邦生徒会長から携帯を強奪することはできず、そしてサオリが電話に出るのがあまりにも速かったために通話阻止は失敗。
連邦生徒会長の携帯には。
『この前最新号が発売されたらしい雑誌でモデルをやらせてもらった錠前サオリだ。こういったことには不慣れだが…不慣れなりに精一杯務めを果たさせてもらう』
「あッ…だめ…ッ! 顔が良すぎる…ッ!」
サオリの顔が連邦生徒会長の携帯の画面いっぱいに映ったところで、ファンの生徒はそんな声を上げながら真後ろにぶっ倒れてしまった。幸い気絶などはしていないようだが、しかし彼女は「こ、これは夢…? げ、現実なわけ…でも夢だったとしたら今日処理した仕事は…?」とうわごとのように呟き続けている。
連邦生徒会長はスマホ片手にそんな彼女の顔を覗き込みながら「あらら…」と言いたげに苦笑し、サオリは『む…私は何か間違えてしまったのだろうか…?』と呟きながらどこか不安げな表情を見せた。
そんな彼女の声を聞いて、ファンの生徒は「あッ…! 声も…イイ…ッ!」と若干アブナイ表情を見せながら身悶えしている。明らかに色んな意味で大丈夫そうではなかった。
「…申し訳ありません、サオリさん。この子がサオリさんと話せたために舞い上がっちゃってトリップしちゃってるのでこちらに引き戻すためにお時間を頂きますね。通話はそのままで、少々お待ちください」
『そ、そうか…。いや、こちらも急ぎはしない。ゆっくり診てやってくれ』
サオリのそんな声とともに、連邦生徒会長はファンの生徒の正気を取り戻すためにぺちぺちと頬を優しく叩いたり肩を揺すったり声をかけたりと色々した結果彼女は無事現実に帰ってきた。彼女は画面に映るサオリの姿を見てまた卒倒しかけていたが、とにかく復帰した彼女はサオリに応援の言葉をかける。
「じょっ、錠前さんッ! いつも応援してますっ、頑張ってください!」
『私のような人間にファンがついているというのは正直未だに信じがたいが…お前の好意に応えられるよう、これからも邁進していくつもりだ。だから、無理のない範囲で見守っていてくれ』
「は、はいぃ…ッ! 勿論、ですぅ…ッ!」
頬を紅潮させ、目をとろんとさせてまたも世間にお見せできなさそうな表情を見せるファンの生徒。そんな彼女の様子に連邦生徒会長は笑いを堪えていたのだが。
『そういえば連邦生徒会長。現在連邦生徒会に近い場所にいるのだが、立ち寄っても構わないだろうか。少し渡したいものがあってな』
「えっ、あっ、えっ、ちょっ、待っ、はぁっ…!? じょっ、錠前さんが連邦生徒会に来るんです!? ホントに!? マジでぇ!?」
半ば悲鳴に等しいその上擦った声に、連邦生徒会長は流石に堪えきれずに噴き出してしばらくサオリの質問に答えることが出来なかった。
とんでもない表情でおろおろするファンの生徒の様子を見てひとしきり笑った後、連邦生徒会長は半笑いでサオリにオーケーを出して現在位置を伝えた。
『そうか、ではそこで少し待っていてくれ。そう時間は取らせるつもりはない』
サオリがそう言うと、テレビ電話は至極あっさりと切れた。連邦生徒会長はスマホをポケットの中に仕舞うと、ようやく落ち着いたらしいファンの生徒は不貞腐れた様子で連邦生徒会長に抗議の視線を向けてきていた。
「もう、酷いですよ会長…。そんなに笑わなくてもいいじゃないですか…」
「ふふっ、ごめんなさい。あまりにもいい反応をするものですから、つい楽しくなってしまって。今度何かお詫びしますから、許してください」
そう言いながらしばらくサオリに対する印象やらで二人で談笑していると、件のサオリが姿を現したと連絡が入った。
が、そこでファンの生徒はとあることに気付いたらしく。
「…あれ、会長? さっきはなんやかんやでスルーしたんですけど、もしかして錠前さんこの部屋に来るようにしました?」
「そうですね。せっかくですから来てもらおうかと思いまして」
瞬間、ファンの生徒はさぁっと見事顔面蒼白した後に。
「ちょっ、なんでそういうことするんですか!? 私まだ全然心の準備とかメイクとか全くできてないのに!」
とどたばたと大騒ぎしはじめた。喜ぶだろうなと思っていた彼女のまさかの行動に連邦生徒会長は一瞬目を丸くしていたが、しかしすぐに彼女を宥めようと声をかけた。
「お、落ち着いてください! サオリさんも細かいことは気にしないですって!」
「私が気にするんですっ! あぁもう推しが来るってわかってたならもっとちゃんとしたメイクとかしたのに! 錠前さんに『こいつ思ったよりもブスだな』とか思われたらどうしよう!?」
「サオリさんはそんな生徒じゃありませんよ、大丈夫ですってば!」
「わかんないじゃないですかそんなことォ!?ってか考えてみればなんで会長は連絡先を知ってるんですか、ずるくないですか!?」
「会長ともなれば色々と付き合いがあるんですっ! というか今更それを言うんですか!?」
売り言葉に買い言葉、連邦生徒会長とサオリ推しの生徒はどたばたしながら部屋の中で言い争っていたのだが、しかしそんなことをしていると突如してがちゃりとドアが開いた。
そこに立っていたのはというと。
「何をして…もしかして取り込み中だったか? すまない、配慮に欠けていたようだ」
件の錠前サオリその人だった。彼女がここに到着したことに気付いたファンの生徒は生で始めて見る錠前サオリという存在の持つ『美』やら雰囲気やら、そして先程までどたばたしていた自分の痴態を見られたと言う事実をうけて。
「…ウワァーッ…」
どういう感情がこもっているのかよくわからないそんな断末魔とともに、とうとう意識を飛ばした。
あまりにもオタクがすぎるその反応に流石の連邦生徒会長は唖然とし、そしてあんまりオタクというものに対する知識がない上にこの部屋に来たばかりであるサオリはというと。
「……もしかして、私はまた何かやらかしてしまったのか…?」
と、凄まじく苦い表情でただその場に突っ立っていることしか出来ないのであった。