この作品は、
・ハーメルン様(ココ)
・Pixiv様
の二つのサイトで投稿させていただいています。
「私のミスでした…」
少女はぜぇぜぇと肩で息をし、そう口にしながらもあくまで前を睨み続ける。その空のように青く澄んだ瞳には諦めてなるものか、という熱が未だ籠もり続けている。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のあの選択が間違っていたことを知るなんて…」
そう言いながらも、しかし少女はあくまでも諦観をすることはしなかった。何故なら、これは眼前にて座る彼女との正々堂々とした決闘であるからだ。このようなところで退いていては、彼女の双肩にかかる称号が廃ってしまう。
「…まさかここまで『できる』とは思っていませんでしたよ、ヒマリさん…」
少女──連邦生徒会長はやや自分が劣勢であるにも関わらず、しかしそう感じさない不敵な笑みを浮かべた。
対する眼前の少女──明星ヒマリもまた、彼女のその言葉に薄く笑みを浮かべる。こちらはまだまだ余裕がありそうであるが、しかし表情からその内心は推し量ることは難しい。
「あら、その言葉そっくりそのままお返ししますよ。この超天才清楚系病弱美少女ハッカーをここまで手こずらせたのは貴方が初めてです。ふふ…楽しくなってきました」
「私もです。超人と謳われることの多い私ですが、まさかその私にここまで比肩し得る人物がこのキヴォトスに居ただなんて…。えぇ、世界はまだまだ広いですね」
うふふ、ふふふと互いに笑みを浮かべながらも交錯するその視線はバチバチと火花を散らしている。二人の熱量は更に上がり、そして周囲も固唾を飲んで二人がどう出るかを見守る──ということもなく、むしろ二人がヒートアップすればするほど、周囲のテンションは凄まじく下がっていくのだった。
というのも、である。
「緊急事態と呼び出されて急いで来てみれば、どっちが超天才有能美少女という称号を冠するに相応しいかって…。世界一しょうもない言い争いだと思わない、先生?」
「…正直、私もそれは思うよ。しかも何故か二人とも相手を貶める方向には絶対に進めないから本当にただの自慢対決になってるんだよね…。まぁケンカにならないのはいいことだけど…」
そう、連邦生徒会長とヒマリの『緊急事態』とは、どちらがより優れた能力を持ち、そしてなによりどちらがより美少女と呼ばれるに相応しいかという、当人たち以外にとっては路端に転がる石以上にどうでもいい議論のことなのである。
ここで余談なのだが、ヒマリはともかく連邦生徒会長は普段ここまで自尊心を爆発させている訳では無い。良くも悪くも普通の自尊心を持っていたのだが、しかしここ最近については話が別。
クロノススクールや万魔殿のチアキをはじめとする各種マスメディアによって容姿や活躍を持ち上げに持ち上げられた結果、自尊心が爆発──言葉を選ばずに言えば、ここ最近の彼女は調子こいているのだった。おまけに連日の激務による睡眠不足も祟ってヒマリから自慢対決の挑戦を受けて立ち、あまつさえ『まさか自分に匹敵するほどの美少女力、そして自己認識の高い生徒がいるとは思わなかった』と周りからすれば鬱陶しいことこの上ない感心を冒頭で行っているのである。
閑話休題。当人たち以外にとってはこのどうでもいい議論など巻き込まれたくはない。仮に巻き込まれたとすればさっさと切り上げさせて帰りたいだろう。故に実際に巻き込まれてしまった先生とエイミはさっさと切り上げるために『はいはい、両方とも美少女だし有能ですよ〜』とテキトーに二人を宥めてこの不毛極まりない議論を終わらせようとしたのだが、
『私達は真剣に決着をつけようとしているのです。もっと真面目に考えてください』
『えぇ。少なくとも私たちが納得できる根拠を出してもらえないようなら、それは認められません』
と何故か巻き込まれた側である二人が怒られるという理不尽な目にあったために、(もともとそんなになかったとはいえ)二人は介入する気をすっかり失って勝手にやってろ、とばかりに静観することになったのである。
「私は自分の得意分野を用いて学園間での全面戦争になりかねなかった不良グループ同士の抗争を未然に防ぎました。確かあの件は私のおかげで防げたと言っても差し支えないと、貴女はあの時そう言っていましたね? 連邦生徒会長?」
『これでどうです?』と言いたそうに得意げにほほ笑むヒマリだが、しかし連邦生徒会長はそれには表情を変えることもなく、ただ不敵に笑ってお礼を言い放つ。
「はい。あの時は本当にお世話になりました、感謝してもしきれないくらいです」
「であれば、超有能天才美少女の称号は私のものでいいのではありませんか? おまけに病弱ハッカーというオプション称号まで付いてきてよりパーフェクトな語感となると思いますが」
ヒマリは微笑を崩さずに『反論しないのであれば貴女は負けを認めた、と理解しても構いませんね?』と視線で問いかけるが、しかし一方の連邦生徒会長は目の端をきらり、と輝かせてここから巻き返しを狙い口を開いた。
「いえいえ、話はここからですよ。その間に私はキヴォトスに潜むテロリストグループを64組発見しそれらをすべて壊滅させました。そのうちにはキヴォトスのインフラを狙うものもいまして、彼女たちの目論見が成功していたら向こう4ヶ月は電気が使えず大変なことになっていたでしょうね。超有能、というのはこういうことを言うのではありませんか?」
『ふふん、これは決まりではありませんか?』と言いたげに口元を歪ませる連邦生徒会長。しかしヒマリの微笑と余裕は未だ崩れる気配はなく、その泰然自若とした態度は未だそのままである。
「あら、流石ですね。連邦生徒会がきちんと真面目に動いていてくれると、善良なキヴォトスの住人としてはこれからも安心していられます。これからも頼りにしていますね?」
「えぇ、これからも邁進していきますよ。ですが、私達だけではどうしようもなくなったときにはできればヒマリさんにも力を貸していただけると嬉しいです。
…それはそれとして、こういった実績がある以上は超有能天才美少女という称号は私のものでいいですよね? おまけに超人なんて強そうな名前もついてきますし、これはもう完璧なのではありませんか?」
そう言って『反論はありますか? 無いならばこの勝負は私の勝利ですよ?』と視線で訴えかけるが、しかし未だにヒマリはにこにこと微笑んでいる。どうやらまだまだ彼女には切れるカードはまだまだあるようだ。
そして案の定ヒマリが自分の功績を口にし、連邦生徒会長もまた負けじと言い返してを繰り返してはや数時間。エイミと先生が睡魔に負けて入眠し、そして二人が目覚めた頃ヒマリと連邦生徒会長の間にはどこか温かな空気が漂っていた。
先生とエイミはあぁ決着ついたんだと思うも、しかし二人にはここで一つ疑問が浮かんだ。
決着がついたにしては、二人ともがどこか朗らかな空気を醸し出している、というのはどういうことだろうか。
当たり前ではあるが、勝負がつくということは勝者と敗者が生まれるということである。
敗者というのは己の力不足を突き付けられた者であり、それを見せつけられた者には大なり小なり負の感情が生まれるものだ。
勿論それを隠すのが上手い者もいることは二人ともが承知の上であるが、しかしそれにしたって二人ともが勝者のような雰囲気なのはいくらなんでもおかしいと感じる。
先生はどういうことだろうと首を傾げたが、 隣にいるエイミは「まさか…」と何かに気づいた様子で呟いた。その顔色はどこか悪い。
どうしたんだろうと先生が思った瞬間、ヒマリと連邦生徒会長が二人のほうを向いて朗らかに話しかけてきた。
「決まりましたよ、二人とも」
「う、うん…。それで、どっちが超天才有能美少女の座についたの…?」
先生がそう言った瞬間、連邦生徒会長とヒマリは瞳を輝かせて勝負の結末を高らかに告げたのだった。
「私達は!」
「キヴォトスが誇る超天才有能美少女姉妹です!」
「あぁ、やっぱり互いをリスペクトする方向に舵をとってる…」
エイミは嘘であってほしかった、と言わんばかりの悲痛な声をあげて顔を覆った。
彼女からしてみれば当然である。ただでさえヒマリの高すぎる自尊心には呆れると同時に手を焼いていたにも関わらずそれがもう一人となれば、もう泣きたくもなるだろう。
「超天才清楚系病弱有能美少女ハッカーのこの私と!」
「超天才癒し系有能美少女超人のこの私が力を合わせれば!」
「「キヴォトスの問題は大体解決します!」」
…バカみたいな名乗りで過剰な自己肯定感に溢れてはいるが、この二人が組んだら本当に大体の問題は解決するであろうために先生は無言で頭を痛め、そしてもう何を言ったところでどうしようもないと悟り彼女たちに何かを言うのはやめた。
その後数週間にわたって『キヴォトス超天才有能美少女姉妹』はキヴォトスに起きた問題という問題の解決を行っていたが、久しぶりにしっかり睡眠をとった上で連邦生徒会の生徒たちや先生、他の一般生徒たちに揶揄いに揶揄われた結果、連邦生徒会長は恥ずかしくなって『超天才癒し系有能美少女超人』の称号の返上と『キヴォトス超天才有能美少女姉妹』の改名もしくは脱退を試みたが、しかしヒマリはそれを拒否。
またも連邦生徒会長と明星ヒマリの論争が起き、そして今度は連邦生徒会長が全面的に敗北したため改名あるいは脱退に失敗。
今後も『キヴォトス超天才有能美少女姉妹』として活動することを余儀なくされてキヴォトスの問題解決に奔走することとなり、それと並行してヒマリとの論争を行う日常を送ることになるのだった。