突貫工事で作った話ですが、お楽しみいただければ幸いです。
この作品は、
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「…私の…ミスでした…」
少女は眼前に鎮座するそれらを眺めながら全身を紅潮させて全身から汗を流しながら言葉を漏らす。彼女はぜぇぜぇと息を切らし、同時にその瞳は疲労感が満ち溢れていた。
「私の選択…。そして…その選択によって、招かれた…。ぜぇ、はぁ…。このすべての状況…」
「この結果にたどり着いて…。はぁ…はぁ…。初めて、私の…。この、選択が…。間違っていたことを…知る、なんて…」
そうして少女──連邦生徒会長はそこで一旦言葉を切り、眼前に並ぶそれらの内の一体を強い瞳で睨みつけてから更に言の葉を紡いだ。
「…模擬戦だなんて…。提案しなければ、よかったです…」
連邦生徒会長が息を切らしながらそう言うと、そのやや後ろに立っていたエンジニア部部長・白石ウタハは苦い表情を浮かべながら連邦生徒会長が膝に手をついてぜぇぜぇと呼吸している後ろ姿を眺めているのだった。
場所はミレニアムサイエンススクールから少し離れた郊外。連邦生徒会長の眼前には確認できたすべての武装をしっかり搭載した、ややスケールダウンしたデカグラマトンの預言者を模した無人機が並んでいた。
なぜこんなものがあるのか、事の経緯は少し前に遡る。
『…デカグラマトンの預言者のデータ、拝見しました。やはりというか、かなりの脅威になりそうですね…』
『そうだね…。ちょっと油断しただけでみんなにかなりの負担を強いることになりそうなんだ』
『先生がそこまで言うとは…ある程度の準備が必要ですね。わかりました、近いうちにヒマリさんやリオさんと話し合って少し考えてみましょう。その時には先生もぜひ同席くださいね』
そう言ってその時の会話は終わり、そしてそこからそう遠くないうちにデカグラマトンの預言者の情報を持つ者達で会談が行われた。
議論はかなり長く行われ、そして最終的な結論としては『当然本格的な襲撃が起きる前に阻止できるのが一番だが、もし本格的な侵攻をされた時の為にできることは残らず全部やっておこう』というものだった。具体的には各勢力の装備の強化などをそれとなく促したりなど実に様々である。
そして、そのうちの一つが対預言者の模擬戦であった。戦闘すると言っているのにも関わらず事前データだけでのイメージトレーニングでは不完全と考えた連邦生徒会長や先生によって提案され、そして承諾されたものである。
承認されたということは、それを行うために必要なものがある。即ち、模擬戦の相手だ。
まさか本物を引っ張ってくるわけにはいかない…というかそれができたならシミュレーションをする必要は全くない。故に、連邦生徒会長達は模擬戦用のレプリカの作成をエンジニア部に依頼したのである。
『ふむ、なるほど…。そういうことであれば、今回ばかりは余計な機能を付けるわけにはいかないな。承知した、マイスターの名に懸けて完璧に作り上げて見せるよ』
依頼を受注したウタハのそんな力強い発言からそう遠くない時間の後、完成したということもあって連邦生徒会長達はウタハに指示されたポイントに向かったのだが。
『マイスターとして恥ずかしい限りなのだけれど…。君たちの注文通りに作り上げたはいいが、本当に君たちの求めるスペックに至っているかがわからなくてね。私としては十分だと思うのだけど、皆にもテストをしてもらいたいんだ』
『えぇと…つまりそれは…』
『この子たちと戦ってみてほしい、ということさ』
ウタハのそんな発言とともにケテルのレプリカが重低音と金属音を響かせながらゆっくりと動き出し、連邦生徒会長は頬を引き攣らせながら同行していたリオやヒマリ、そして先生の方へとゆっくり振り返る。
先生は勿論ヒマリもリオも直接的な戦闘が得意な訳では無いし、デカグラマトン絡みの際の戦闘での頼みの綱であるトキとエイミは『エンジニア部へと向かうだけであってフィールドワークに行くわけでもないし先生もいるのだから大事にはならないだろう』という判断のもと同行していなかった。
つまり、現状前衛での戦闘行動ができるのが連邦生徒会長しかいないのである。そんでもって、別にその連邦生徒会長も真っ向勝負での実力はC&C程高いわけでもないわけで。
『えっ…支援があるとはいえこれらを私だけで相手をするというのはかなり無理があるのでは…? ケテルのレプリカだけならまだしも、他の預言者のレプリカの動作チェックもしなくてはダメですよね…?』
『可能ならやってもらいたいところではあるけれど…。体力の問題もあるだろうし、この場で全部というのはやめておいた方がいいんじゃないかな。まずは一つチェックを行って、あとは後日ということにするというのも手の一つだね』
あからさまな逃げ道を作ってくれたのを確認した連邦生徒会長は引き攣った笑みのままながらも瞳を少し輝かせて内心ウタハに対して拝む勢いで感謝をし、そんな雰囲気を悟ったらしいウタハは彼女に視線をやった後にふっと優しく微笑んだ。これならば自分に対する負担はある程度減ると安堵していた連邦生徒会長だったのだが、しかし。
『…いえ、各機体のデータ取りは今日中に可能な限りやってしまいしょう。いつまた皆が集まれるかわからないもの。となると…そうね、トキとエイミは勿論呼ばなければならないけれど…でも、その間の時間も無駄にしてはいられない。ならその間もデータ取りをするべきね、連邦生徒会長もヒマリも先生も戦闘準備をお願いするわ。けれど、データ取りといっても相手の理論上のスペックはほぼ本物と同じ…怪我をしないように気をつけて』
リオのそんな発言と共に、連邦生徒会長のデスマーチが流れるように確定。ヒマリとウタハ、そして先生の同情の視線と共にケテルのレプリカとの戦闘が始まり、ヒマリの支援と先生の指揮のもと連邦生徒会長はこの時点で限界ギリギリの長期戦闘行動を行い死闘の末これに何とか勝利を収めた。
この時点で既に肩で息をしていた連邦生徒会長だったが、しかし真顔のリオによって僅か10分の休憩の後にゲブラのレプリカが起動。これにはヒマリもドン引きした様子で『貴方は鬼かなにかですか?』とリオにツッコんでいたが、しかし起動してしまったものは仕方ないので連邦生徒会長は再び立ち上がり、無理に無茶を重ねてゲブラのレプリカと死闘を繰り広げかなりギリギリのところで奇策をもって何とか勝利を収め冒頭に至る。
「…ぜぇぇぇぇっ…はぁぁぁぁぁっ…。…これ以上一人でやったら…本当に…冗談抜きで、死にますって…」
「本当にお疲れ様です、連邦生徒会長。連戦とは思えないほどの動きぶりでした。流石ですね」
「二人ともお疲れ様…。私も指揮しててかなりの緊張感があったよ…」
実働を行った三人が互いに労い合う中、ウタハもまたお疲れ様と労いの言葉をかけてから三人の会話の中に入っていく。そんな彼女の隣では連邦生徒会長に対して無茶ぶりをかましたリオが、先ほどまで満足そうな笑みを浮かべていたのにも関わらず今ではこころなしか小さくなってしょんぼりとしているように見える。どうやら誰に対しても分け隔てなく接し、怒るところをあまり見ない程度には温厚なウタハにすらもしっかりと注意されたらしい。
「さて、ここまでケテル・ゲブラと連戦となった訳だけど…どうだろう、今のところ皆が要求したスペックに至っているかな」
「そうですね…。ややダウンサイズしているとはいえ機体性能はあまり遜色がありませんし、武装面もほぼ完璧です。しかもそれでいて被弾しても怪我しづらい比較的安全なものになっていながらも弾道などはほぼ本物のそれと動きが近しくなっている。…えぇ、私達の要求通りです。流石はエンジニア部、今回も会心の出来栄えですね」
ウタハの疑問に対して極めて涼やかに応答するヒマリだったが、その背後では未だに呼吸を整えつつ時々咽て咳き込む連邦生徒会長やウタハに怒られてしゅんとしているリオ、そして彼女たちのフォローに回るために駆け回る先生と実に賑やかなことになっていた。
二人は会話の途中で時々ヒマリの後方をちらりと視線を送るが、しかしその度に何事もなかったかのように会話を続けていく。どうやら彼女達に対するフォローは後回し…というか先生に丸投げする気らしい。
「少なくともケテルとゲブラについては合格と言っても差し支えないでしょう」
「よかった、私としては取り敢えずは一安心だ」
「残りの預言者のレプリカも性能テストもするべきではあるのでしょうけれど…」
そこまで言ったヒマリは連邦生徒会長に視線を向ける。彼女はまだ息こそ切らしていたがそれもすこしは落ち着いてきているようであった。彼女は視線に気づいた瞬間、若干ふらつきながらゆっくり歩いてきた。
「…戦えなくはないですけど、やっぱりかなり無理がありますって。これは本当にその内人死にが出ますよ? その場合一番最初に死ぬことになるのは私でしょうけど」
「最低でも40分は休みましょうか。本来ケテルにゲブラだなんて一人で戦う方がおかしいのですし」
「やっぱりそうですよね…? 改めて考えるとなんで私は一人で前線に出てたんですか…?」
「複製品とはいえデカグラマトン相手に一人で前線に出たのも凄いけれど、そのまま撃破できるのも十分私は凄いと思うよ」
ウタハのその発言に連邦生徒会長はぴくりと一瞬動きを止めて、そして呆然とした表情を浮かべた。
何か地雷を踏んだのかとウタハやヒマリが内心少し焦った、まさにその瞬間に連邦生徒会長はというと。
「凄いとか久しぶりに面と向かって言われました…」
「えっ」
「ここ最近私なら捌ききれると思っているのか皆当たり前のように無茶を押し付けてくるものですから…」
「そうでしたか…」
連邦生徒会長が語る、彼女を取り巻くほんのり世知辛い現実を少しばかり想像したのかヒマリもウタハも思わず目を伏せる。
だが、一方の連邦生徒会長はというとウタハからお褒めの言葉をもらって機嫌を良くしたのか先程までと違って表情を少しばかり明るくすると。
「ウタハさんからお褒めの言葉をもらったことですし、もうちょっとしたらまたひと頑張りしましょうか」
先程までと違って鼻歌すら出てきそうな程にテンションを回復した連邦生徒会長は、その後合流したエイミやトキにここまでの状況を説明したところ二人からは貴重な戦力だからと熱烈な説得を受けた。
そんな二人に対して満更でもなさそうな様子を見せた連邦生徒会長だったが、そんな彼女がこの数分の後にやや小さいとはいえデカグラマトンの預言者の中でもビッグサイズなコクマーのレプリカにぶん殴られて明後日の方向にすっ飛んでいくことになるのはまだ誰も知る由もないことであった。