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「私のミスでした…」
少女はきらきらとした瞳で笑みを浮かべ、目の前に座っている人物に向けて心底楽しそうに言葉を口に出した。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のあの選択が間違っていたことを知るなんて…」
「図々しいお願いですが、お願いします」
少女──連邦生徒会長はそこで一旦言葉を切り、目の前に座る人物に対し半ば瞳を覗き込むように視線を合わせるとその手に持った本を相手に見せつけて輝いた瞳のまま告げた。
「読んでてなかなか面白い話でしたので、続きを書いてはいただけませんか?」
そんな彼女に対し、目の前に座る人物──縄で身体をぐるぐる巻きにされて拘束されている少女…作家・朽木修羅こと箭吹シュロはそんな彼女の言葉にほんの一瞬だけ嬉しそうな笑みを浮かべたが、しかしながら自身の状況を改めて鑑みてか唾を飛ばして連邦生徒会長に叫ぶ。
「だったら手前をこの簀巻きから解放してくれませんかぁ!?」
百鬼夜行管轄のとある場所。連邦生徒会長は箭吹シュロに対して百花繚乱や先生の立会いの下、彼女に接見・尋問と言う名目で新手の精神的拷問を行っていた。なお連邦生徒会長はシュロの書いたあらゆる意味で癖のある話を結構本気で読み物としては気に入っているので、実のところ彼女自身にはそんな自覚はない。…そんななので、先生や一部の百花繚乱の生徒にシュロは若干哀れみの混じった視線を向けられていたのだった。
「あ、申し訳ありませんがそれは私の一存では決められません。貴方の処遇については百鬼夜行の管轄なので、百鬼夜行外部の人間である私はどうこう言える立場にないんです」
そんなことを平然と抜かした連邦生徒会長は振り返って「一応聞いておきますが、シュロさんの言う通り縄をほどいてみてもいいですか?」と立ち会った百花繚乱の生徒達に聞いてみたところ、全員が当然の如く猛烈に拒否。結果として連邦生徒会長は無駄に冷たい視線を浴びせられた訳だが、しかしその返答を察していた連邦生徒会長は特にダメージを受けた様子もなく肩を竦めて「ね?」とウインクしながらシュロに向き直った。
一連の茶番劇を見せられたシュロは当然機嫌を損ね、
「じゃあ
とキレた。彼女からすればめったに見ないような人物が突如としてふらっと現れて予想だにしていない、そして地味に痛いところを平然とついてくるのでそれも仕方のないことではある。
だがしかし、若干頭に血が上ったらしい彼女に対して連邦生徒会長の答えはというと、やはり。
「先ほどから申し上げている通りシュロさんの…失礼、朽木修羅先生のお話が読みたいからここまで訪れたのですが…」
とあくまでも当初の主張を崩さない。ここまでの流れを見るに連邦生徒会長は暇なのかと思われるかもしれないが、別に彼女とてシュロをおちょくりに来ている訳ではまったくない。
先述の通り連邦生徒会長はシュロの書いた話を読み物としては気に入っているのも事実ではあるが、それはそれとしてプロファイリングの材料としてもそれなりに重要視しているのでなんとかそれを提出させたい、というのが今回の連邦生徒会長の目的の一つである。というか、むしろこちらがメインである。
である、のだが。
「そうですか…拘束を解かないと朽木修羅先生は絶筆するのですか…。うぅん、残念です…」
「手前が筆を折る訳がないのをわかってて聞いてる辺り、やっぱり手前で遊んでいますよねぇ!?」
傍から見れば連邦生徒会長はそんな真面目な目的を忘れてシュロをイジって遊んでいるように見えた。
二人のやり取りを見ていた先生は苦笑し、百花繚乱の面々は「なにしてんだこいつら…」とでも言いたげな、少しばかり冷ややかな視線を向けている。
そんな数多の視線をその背に受けながら、しかし実に泰然自若といった様子で連邦生徒会長はシュロに相対し続ける。その表情に悪意というものはかけらも見えない上に瞳は限りなく澄み渡っており、傍から見れば凄まじく悪意のあるように見えたやりとりも実は素で行っていたことを意味していた。
それを理解したのか、シュロは一度ごくりと唾を飲み込むと。
「…も、もしかして…。手前は…本気で手前の噺を読みたいんです…?」
と信じられないものを見るような表情を浮かべ、連邦生徒会長に対しておずおずと問いかけた。彼女からしてみれば丹精込めて作った噺が悉く不評(百物語については実害を齎しているので別に残念でもなければ当然でしかないのだが)であったために若干自信がなくなってきているところで、高評価をしてくれる読者が居た上にそんな人物がわざわざ自分に会いに来てくれて続きを熱心にせがむ形になっているので、その心が揺れ動いてしまうのも致し方のないことである。
そんな彼女の問いに、連邦生徒会長は静かに首を縦に振る。それは明らかな肯定であった。連邦生徒会長のそんな動きを見たシュロは。
「………そうですか…。そうですかぁ…! 手前の噺を、そんなにも読みたいんですねぇ!」
瞳を輝かせ、至極ご機嫌な様子へと早変わりして「なら早速、噺の構成を考えなくてはいけませんねぇ…!」とブツブツと彼女のこれからやるべきことを早口で呟き続ける。彼女のその瞳にはナグサに見せたような悪意は全く以って感じられず、ただの物語の描き手としてプライドなどが感じられる強いものへと変わっていた。
わずか数分の内に大方の噺の構成はまとまったのか「紙と鉛筆を手前に!」と要求するほどにご機嫌となったシュロだったが、しかし。
「一応言っておくけれど、テーマとジャンルはこっちから指定するよ。確実に怪談は選ばれないから、そのつもりでね」
というキキョウの発言にシュロはぴしりと動きを止めて、ぎぎぎとゆっくりと彼女に視線を向ける。「は? コイツマジか」とでも言いたげな彼女だったが、しかしキキョウは全く以って怯まず冷ややか視線を向けたままあっさりと告げる。
「何驚いた顔してるの? あんたは言葉を扱って百鬼夜行を恐怖に陥れた。だったら怪談なんか許可するわけないでしょ。むしろ書けるだけありがたく思ってほしいんだけど」
そんな発言に対してシュロは何か言いたげではあったが、しかし言葉にできなかったのか視線だけで連邦生徒会長に「何か言ってやってください」と言いたげな視線を向ける。
それを受けた連邦生徒会長は一度静かに考えてから口を開くと。
「…あ、案外いいかもしれませんね。朽木修羅先生のコメディとか読んでみたいです」
ファンを公言した味方であるはずの連邦生徒会長のそんな発言を受けたシュロは、一度目を見開いて何かを飲み込むような態度を見せてから。
「…手前ら、今すぐ出ていってしばらく面を見せるのはやめてくださいねぇ!」
噺屋の風上にも置けないあまりにもドストレートな拒絶を見せ、今日一番の激怒の大声を彼女は発し、全員追い出されたのだった。ちなみに連邦生徒会長だけはこの結果に「他のジャンルも読んでみたかったんですけどねぇ…」と極めて残念そうな表情を浮かべていた。