シリーズ「私のミスでした」   作:竜田揚げ丸

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「私のミスでした…」ユメ「その5だよ!」

「私のミスでした…」

 

少女は沈痛な面持ちで俯く。その表情は悔しさを堪えるように、唇をきゅっと縛っている。

 

「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」

 

「この結果にたどり着いて初めて、私のこの選択が間違っていたことを知るなんて…」

 

「図々しいお願いですが、お願いします」

 

そこで一旦言葉を切ると、彼女は顔を上げた。その空のように青い瞳を潤ませ、他に選択肢は無いとばかりに電話先の『彼女』に懇願した。

 

「…アビドス高等学校の皆さんに迎えに来てはいただけないでしょうか」

 

『うへぇ、別にいいよ。別にいいんだけど…。砂漠地帯に来るんだったら準備くらいしてから来ようよ〜』

 

電話先の『彼女』──小鳥遊ホシノは心底呆れながらも相も変わらず緩い声を出して、現在位置と状況を説明するように求めた。

連邦生徒会長としては別に自分で説明してもよかったが、傍らに居る『卒業生』に説明させた方が早いと思い説明役を変わってもらう。

 

「ごめんね、ホシノちゃん。今ちょっと空き家にお邪魔して涼んでるの。場所は…砂漠化が進んでて今どの辺りか分からないんだけど。あ、でも近くに交差点があるよ!」

 

アビドス高等学校卒業生、梔子ユメ。現在シャーレ所属の先生として勤務している。

先生とはまた違った目線に立ち、誰に対しても中立的で真摯に接するその姿勢、そしてその温和で愛嬌のある性格や言動でかなりの生徒に慕われているともっぱらの評判だ。

彼女を語る上で外せないのが。

 

『…あ、もしかしてユメ先輩ですか? …あんまり当てにならないですね、その情報。せめて周りの建物の構造とか説明してくださいよ』

 

「ひぃん…」

 

小鳥遊ホシノの態度の急変、である。普段はゆるふわでおじさんを自称する彼女だが、何故かユメに対してだけ声のトーンが数段下がり、言動もかなり辛辣になる。

全く同じことをユメとそれ以外が言ったところ、言い方にもかなりの差が出てくる。

例えば、先程のあまり参考にならない情報。ユメ以外が言うとこうである。

 

『うへぇ、それじゃ全然わからないよ〜。もっと周りの特徴を教えてほしいな』

 

…お分かりいただけただろうか。態度や印象がまるきり違う。

このように、彼女は梔子ユメにだけはかなり辛辣なのである。他の人にはゆるーくテキトーなホシノは何がどうしてかユメにだけは厳しいのである。

一度アヤネやセリカがそれについて聞いてみたところ、

 

『…なんで態度が違うのか? そりゃあまぁ、可愛い後輩の前だからねぇ。緩くもなるよ〜。え、ユメ先輩に厳しい理由? んー…まぁ、あの人にはあれでいいかなぁって。 言い過ぎなければ、ね』

 

と答えた、らしい。ユメとホシノが会話している間に何故ホシノがユメにだけ辛辣な理由でも考察しておこうかと思っていたら、どうやら通話は終わっていたようだ。ユメのキラキラした瞳が連邦生徒会長を見据える。

 

「アヤネちゃんに頼んでなんとか特定してもらえるみたい! これでようやくアビドスに行けるね!」

 

「ふふ、よかったです。アヤネさんなら直ぐに見つけてくれるでしょう。いやー、意外となんとかなりますね」

 

あははは、と二人でひとしきり笑ったあと。

 

「「………暇、ですね……」」

 

意図せず感想が被ってしまったユメと連邦生徒会長。そもそも何故こんなことになってしまったのかといえば、今回は連邦生徒会の諸用で会長がアビドスへと赴かなくてはならないという事から始まった。

 

『明日は諸用でアビドスへ行くことになりました。恐らく明日は来れないので明日までに私の目を通す必要がある書類があれば、今の内ですよ』

 

と忙しい仕事の合間を縫ってシャーレに顔を出してみたところ、

 

『特に今はない…かな? そうだ、梔子さん。せっかくだからアビドスに顔を出してみたら?』

 

という提案があった。それに対して最初は、

 

『えっ。いや、でも私はまだまだミスが多いですし、お仕事だってまだ満足にできていませんから…』

 

と仕事を盾に先生の計らいを辞退しようとしつつこの時点でかなり揺れていた様子であったユメであったが、

 

『ホシノも喜ぶんじゃないかな?』

 

というダメ押しにして、ユメにとって一番効くカードを切ってきたことにより遂にユメは遂に折れた。護衛兼道案内役として張り切っていたユメであったが、アビドス自治区に入ってきたところで問題が発覚。

 

『…会長ちゃん。そのぅ…。コンパスと地図を忘れてきちゃい…ました…』

 

『えっ』

 

思わず動揺してしまった連邦生徒会長であったが、しかし余裕の笑みを作り直してユメに優しく語りかけた。

 

『いえ…ですが卒業生のユメ先生ならある程度道を覚えているでしょう? でしたら…』

 

大丈夫でしょうと続けようとした連邦生徒会長であったが、しかしユメの視線はかなり泳いでいる。…明らかに駄目そうであった。

いやいや、だがしかしまだそうと決まった訳では無いと連邦生徒会長は自分にそう言い聞かせるも、しかしその幻想は儚くもあっさりと崩れ去っていった。

 

『…私、このルートはあんまり使ったことがなくて…。それに、砂漠化が思ったよりも進んでいて私の経験が役に立つかどうか…』

 

ユメのかなり申し訳無さそうな表情にかつてないほどの絶望感を覚えつつ、取り敢えず適当に進んでみるかと5分ほど歩いてみたところ全く手応えがなかったが故にこれはもう駄目だと感じて手近な空き家に失礼し、冒頭に至る。

アビドスの面々が迎えに来てくれる以上、動くわけにもいかない。

しかしながら何もしない、というのは連邦生徒会長にとってかなりの手持ち無沙汰であった。

さてどうしようかと連邦生徒会長が考え始めた矢先、ユメは突然謝ってきた。

 

「会長ちゃん、本当にごめんね。案内役として、先生として私がしっかりしなきゃいけなかったのに…」

 

「いえいえ、謝らないでください。貴方にばかり頼って準備を怠った私にも責任があります」

 

「でも…」

 

このままこういった会話をしていても空気が重くなるだけだ。連邦生徒会長はそう判断し、強引に話題を切り替えた。

共通の話題…といえるものはあまりないが、実際にアビドスに住んでいたことがある彼女に聞いてみたいことは結構ある。

 

「話は変わりますが、ユメ先生はアビドスでなにか美味しいお料理のお店を知っていますか?」

 

「えっ!? いや、うーん…? 心当たりはあんまりない、かも…? もしかしたら砂漠化で撤退してるかもしれないし…」

 

なんと心当たりはあんまりないらしい。だがしかし、連邦生徒会長にはアビドスの美味しい料理店について情報を仕入れていた。

その店名を、連邦生徒会長は告げた。

 

「聞き方を変えましょう。柴関ラーメンを、ご存知ですか?」

 

「!! 知ってる知ってる、柴関ラーメンってまだアビドスにあったんだ!?」

 

食いついた。連邦生徒会長はきらりと目の端を輝かせて話をさらに膨らませる。ちなみにこれから話すことは大体先生がしたり顔で話していたことだ。当時あまりに美味しそうな食レポをされて段々悔しくなった連邦生徒会長が先生の財布に攻撃を仕掛けたことは記憶に新しい。

 

「ふっふっふっ…。私は行ったことがないので実は楽しみにしていたんです。喉越しのいい麺、澄んだスープ、美味しいトッピングに…そして気前のいい大将だとか」

 

「そうなの! お金に困っていたら奢ってくれたり! お湯を切る所作もまさに職人! っていう感じで、もうかっこいいんだよ!」

 

そこから好きなラーメンの味やトッピングについてや、D.U.付近の美味しいお店について、更には互いのパーソナリティについてで話がかなり盛り上がり、今まで微妙に空いていた空気感がぐっと縮まった気がする。連邦生徒会長は未だ顔すら知らない柴関ラーメン大将に心の中で礼を言うと、虚空に柴関ラーメン大将が親指を立てているような気がしていた。

そうして数分が経った後、突如として携帯が震え始めた。

 

「あっ、きっとホシノちゃんだよ!」

 

「そうでしょうね。名残惜しいですが、お話はここまででしょうか。…はい、もしもし」

 

連邦生徒会長が電話をとった瞬間、それなりに近くで爆発音が聞こえた。

何事かと思った瞬間電話口から聞こえてきたのはホシノの緩い声ではなく、アヤネの張り詰めた声であった。

 

『もしもし!? 大丈夫ですか!?』

 

「アヤネさん? 一体どうし…」

 

連邦生徒会長が言い切る前に、窓を開けて外の様子を見ていたユメが悲鳴を上げた。何か問題が起きたのかと思い外に出て彼女の視線の先を見てみれば、なんとそこには。

 

「…ビナー、ですね…」

 

デカグラマトンの預言者。あのでっかい白蛇もどきがアビドスの街で暴れていたのだ。

連邦生徒会長は思わずうわぁ、と呟いてしまう。今ここに居る二人には武装らしい武装は規定として所持している小銃くらいしか無いし、二人はホシノ程強くないので戦うという選択肢はとれない。

ユメと顔を見合わせる。互いに静かに頷いて、そして。

 

「「おぉりゃぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!」」

 

玄関を蹴破る勢いで開けて、ビナーとは逆方向に全力で走って逃げだした。爆発をバックに全力で走るその姿はさながら連邦生徒会長が直近で見た、某怪盗三世の映画で怪盗と刑事が仲良く肩を組んで逃げるシーンのようであった。

そんな二人の姿を認めたのか、連邦生徒会長達の方面にビナーは向かっていく。

 

「ひぃんこっち来たぁ!?」

 

「ダッシュ! ダッシュですユメ先生! ああもうヒールが邪魔! 誰ですか連邦生徒会の規定の靴をヒールにした生徒は!?」

 

ここに居ないながらも確実に存在するであろう生徒に八つ当たりしながら、連邦生徒会長とユメはアビドス市街を駆け抜けていく。

しかしかなり走ったところで体力の限界を迎え、二人がもうダメかと思った瞬間ききーっと自転車のブレーキをかける音が聞こえてきた。

黒いドレスの裾と銀色の長髪をたなびかせ、2と書かれて耳が飛び出ている青い覆面を被ったその女性は、ゆっくりとロードバイクから降りると静かに告げた。

 

「ん…。ここは任せて。二人はこれを使って早く逃げるといい。後でロードバイクは返してもらえたらいいから」

 

「あ、あなたは!?」

 

黒いドレスの女性はユメのその声に、少し考え込む仕草を見せてから、自分が何者かを名乗った。

 

「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行くがモットーの覆面水着団、その2号。又の名を、ブルー…!」

 

太陽と真っ向から立ち向かうように連邦生徒会長とユメに背を向けたその姿に、二人はというと。

 

「「か、かっこいい……!」」

 

覆面水着団・ブルーのあまりのかっこよさに連邦生徒会長とユメは暫く感動していたが、はっとどうするべきかを考え直してブルーのロードバイクを借り、名残惜しくも器用にロードバイクを二人乗りしてその場から離脱していった。

ビナーは二人が離脱したあと先生の指揮を受けた廃校対策委員会及びたまたま近くにいた便利屋68によって撃退された。

騒動の後、ロードバイクを返却の為に覆面水着団・ブルーについて連邦生徒会で調べてみたところまったく素性がわからず。

打ち切られた仕事のついでに対策委員会に話を聞きに行こうとしたところ、ユメとまたも遭難したのは別の話。

余談ではあるが、その時の話題はというと。

 

「もし会えたらブルーさんのサインとかもらえないでしょうかねユメ先生…!」

 

「ブルーさんと握手とかできたりしないかな会長ちゃん…!?」

 

であった。

連邦生徒会長と梔子ユメの絆が更に深まり、この一連の件は幕を閉じていったのだった。

なお、ブルーの正体は結局わからずじまいだったらしい。




読了ありがとうございました。

基本的に設定は作らない予定ですがユメについてはいろいろ考えた結果この設定で行きます。
これからも梔子ユメ先生はちょこちょこ顔を出すはずですのでよろしくお願いします。
この世界は「人死になんぞ出してたまるか」という作者によるご都合主義世界なので細かいことはあまり深くは考えずに目をつぶっていただければ幸いです。

なおこの作品は、Pixiv様にも同様のものを投稿しております。
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