……本当に申し訳ありませんでした。
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「私のミスでした…」
少女は沈痛な面持ちで俯きながらも積みあがった書類を処理していく。その表情は悔しさを堪えるように、唇をきゅっと縛っている。
「私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…」
「この結果にたどり着いて初めて、私のあの選択が間違っていたことを知るなんて…」
そうして少女はその空の様に澄んだ蒼い瞳を悲嘆に揺らしながら、元から破竹の勢いで処理していた書類を更に速度を上げて処理していく。彼女のその様子は、傍から見ればなんとなくやけくそというか八つ当たりのような感情をそのまま手にしていた書類にぶつけているように見えた。
「今年こそ皆で海に行けるように仕事を調整してたのに…!」
「あ、やっぱり今年もそれ狙ってたんだ。毎年毎年失敗してるのに、よくもまぁ画策するよねぇ」
連邦生徒会長の海に懸ける熱が籠ったそんな発言に対し、スナック菓子をぱりぱりと小気味のいい音を鳴らして食べながら尻尾をゆらりとどこか優雅に揺らしながら由良木モモカは苦笑した。
というのも連邦生徒会長が『今年こそは皆で海にでも行きましょう』と言い、そして仕事の多さに忙殺されてそれが叶わないという結果になるのは毎年のことである。
勿論毎回同じ失敗を繰り返しているという訳では別になく、失敗の度に対策はしている。しているのだが、それが上手く嵌まって『今年こそは行けるんじゃないか…?』と皆が思ったタイミングで狙いすましたかのような突発的なアクシデントが起きて海に行く計画が
「海ですよ、海。仲間、あるいは友達と一緒に行けたら絶対楽しいじゃないですか」
「面倒くさいなぁとは思わなくもないけど…。ま、確かにそうかもね」
「でしょう? なのに毎年毎年予期せぬアクシデントが起きておじゃんになるんです。…まぁ、そうは言いつつ実のところ今年もなにかあるんだろうなぁとは思ってましたけど…」
「今年は道路にスプレーで書かれた謎のでっかい絵を消す作業とかいう、デカグラマトンとかが絡んでた年に比べるとまーしょうもないことで海に行けなくなっちゃったねぇ」
モモカはスナック菓子を口に運び、一方の連邦生徒会長は溜息を吐いて件の『謎の絵』が描かれた実際の現場写真に視線を落とした。そこには何とも言えないタッチのよくわからないものが描かれている現場写真がある。
取り押さえた実行犯の生徒曰く、描いたのはシャーレの先生陣らしい。…連邦生徒会長からすればそう言われたところで『いやぁ…ちょっと違うのでは…?』と首を傾げる程度には似ていなかったが。
現場写真を若干恨みがましい瞳で見つめている連邦生徒会長の様子を見たモモカは、しかしそんなことはどうでもいいとばかりに言葉を投げかける。
「そういえばなんだけど、会長は皆で海に行ってどうしたいの? ぶっちゃけ今のところ熱いしべたべたするしで個人的にはかなり行きたくないんだけど」
「んー…実のところ私は海に行ってどうする、なんてあんまり考えてないんですよねぇ」
「え、ノープランってこと? 会長にしては珍しいこともあるもんだね」
「あぁ、そうではなくて」
そう言った連邦生徒会長はふぅっと息を吐き、微笑みながらモモカの瞳を射抜いて話を続ける。
「せっかくの海ですよ? わざわざ私があれをやれこれをやれと言うより、自分で楽しみを見つけた方がいいじゃないですか」
「へぇ? 皆で海に行けたら絶対楽しいなんて言ってたわりに、肝心なところは各々に丸投げなんだ?」
「む、丸投げとは人聞きが悪いですね。場所は提供する予定ですし、思い出は自分たちで作ったほうが絶対いいという判断をしたまでです。勿論それを作るための助力は惜しむ気はありませんよ」
連邦生徒会長のその発言にモモカは満足げに笑いながら、相も変わらずスナック菓子をぱりぱりと鳴らして上機嫌そうに勢いよく食していく。
そんな彼女を見つめながら、連邦生徒会長は書類に再び手を伸ばして。
「…そういえば、実際海に行くってなったら皆どんな水着着てくるんでしょうね? モモカちゃんはどういう水着を選びます?」
「んー、ノーコメントで。そういう会長はどうなのさ。まさか連邦生徒会指定の水着とか言わないでしょ?」
「普通に可愛い水着とか買いに行ってそれを着ていきますよ、流石に。…話は変わりますが、リンちゃんって放っておいたらそれこそ連邦生徒会指定の水着で海に行きそうですよね」
「あー、ちょっとわからなくはないかも。…でもまぁ、そうはならないでしょ。放っておいてもアオイ先輩がリン先輩とアユム先輩、あとついでにめんどくさがってる私を引きずってデパートにでも引っ張っていくだろうし」
「…確かにそうですね」
「で、一人だけ一緒に行けなかった会長が拗ねるのがいつものパターンだよね」
「こういう時、なぜかいつも一人取り残されて後々聞かされるんですよねぇ…」
連邦生徒会長の溜息交じりのそんな発言に、モモカは楽しそうに笑い声をあげた。連邦生徒会長やモモカの脳裏には以前実際に起きた連邦生徒会長のとんでもない感情の起伏がよぎる。
まずは、
『え…えぇっ!? 私以外の皆で遊びに行ったんですか!? なんで誘ってくれなかったんです!? …え、かなりの修羅場そうだったから誘うのが躊躇われた…? …あんなのすぐ終わりますよ!?』
と机から身を乗り出すほどの動揺から始まり、
『えー…。ちょっとショックですー…』
と凹み、しょんぼりしながらぶつぶつ文句を垂れながらゆっくりと椅子に座って書類を処理していき。
『不良生徒が暴れている…? …はあー、わかりました、たまには私が行きますよー…』
そう言ってとぼとぼと連邦生徒会の建物から出ていったと思えば、八つ当たり気味に大暴れしてちょっとすっきりした様子で戻ってきたり。
かと思えば不満が再燃したのか一日中拗ねてしまった連邦生徒会長を、最終的には室長総出で宥める羽目になったり。当時連邦生徒会室長の面々が苦労したのは記憶に新しく、連邦生徒会長自身も極めて迷惑をかけてしまったと反省している一件があった。
「あの件では本当にご迷惑をおかけしました…」
「あはは、別に私は気にしてないよ。いやまぁ確かに面倒くさかったは面倒くさかったけど、あれはあれで楽しかったしね」
「そう言っていただけると本当に助かります…」
書類を処理しながら連邦生徒会長は項垂れ、そしてその後に顔を上げた際にははぁーっとすこぶる重い雰囲気の溜息を吐き出した。その表情は憂鬱と軽い失意に塗れており、彼女の普段の苦労のほどが窺えるものである。
最近フラストレーション溜まってるんだなぁと珍しいものを見るモモカの視線を浴びつつ、連邦生徒会長はぼそりと小さな声で呟いた。
「…一度キヴォトス征服でもすれば私ももうちょっと自由に動けるのかなぁ…」
「それ会長が言ったら割とシャレになってないからね。まかり間違ってもリン先輩とか他の学園のお偉方とかに言ったら絶対ダメだよ、大惨事になるから。ホント、冗談抜きでさ」
「あ、聞こえてました?」
「聞こえてたってか、聞こえるように言ったでしょ」
「まぁ、そうですね。…ここだけの話、昔からこういう遊びのスケジュールを立てるといっつも不良の方々にスケジュールを崩壊させられるんですよ。だからこう…一度そういうことを考えてしまうのも仕方がないと思うんです」
「考えるだけにしときなよー? ただでさえ治安が悪いキヴォトスなのに、下手なこと言ったら冗談抜きで戦争まっしぐらなんだからね」
モモカのそんな発言に、連邦生徒会長は『おっと危ない』とばかりに口を閉じる。とはいえ、これ以上連邦生徒会長の不満を溜めると危ないと感じたのか、ふっと息を吐くと。
「ま、そのうちお忍びで遊びにいこうよ。ゲームセンターとかでもいいからさ」
「おや、なかなかの面倒くさがりのモモカちゃんからそんな提案が出るとは。…ふふ、なんだかやる気が出てきました」
「ん? じゃあついでに私の分の仕事も処理してくれると嬉しいね」
モモカのそんな軽口に機嫌を戻した連邦生徒会長は静かに微笑を見せて──彼女に書類を一束渡し、『逃がしませんよ』とばかりににっこり笑った。
モモカはため息交じりに連邦生徒会長から書類を受け取り、一度露骨に嫌そうな表情を浮かべた後ひらひらと手を振って会長室を後にし、連邦生徒会長だけが会長室に残される。
彼女は来るモモカとの約束に数秒程胸を馳せると、「さぁ、やりますか」と気合を入れて再び作業に入るのだった。
──なお、モモカと連邦生徒会長の約束の履行は、そんな会話をしてから三カ月ほど後のことになる。