シリーズ「私のミスでした」   作:竜田揚げ丸

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どうも。今回は特に解釈違いが起きそうな匂いがしそうなのですがとりあえず投稿はします。
アヤメって実装されたら百花繚乱の白い恰好で来そうですが、個人的には黒い方のビジュアルも好きなのでアヤメ(光)、アヤメ(闇)みたいな感じで両方実装されねぇかなぁと密かに思っています。

この作品は、
・ハーメルン様(ココ)
・Pixiv様
の二つのサイトで投稿させていただいています。


「私のミスでした…」アヤメ「その48。それだけだよ」

(私のミスでした…)

 

少女は緊張した面持ちで、対面に座る少女に向き合いながら内心冷や汗をだらりと流していた。傍から見れば彼女はポーカーフェイス、苦笑寄りの微笑を浮かべているが、その内心はあまりにも穏やかではない。

 

(私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…)

 

(この結果にたどり着いて初めて、私のあの選択が間違っていたことを知るなんて…)

 

少女──連邦生徒会長はそこで一旦内心での言葉を区切ると、目の前に座る少女に悟られぬようにほんのちょっぴりだけ息を吐き出してから再び内心で言葉を吐き出した。

 

(目を覚ましたのは喜ばしいことですが、まさかアヤメさんがここまで難儀な性格をしているとは…!)

 

「…聞いてる? …いやまぁ別に聞いてもらわなくてもいいんだけどね。どう取り繕おうが、これはただの愚痴でしかないから」

 

連邦生徒会長の眼前に座っているのは百鬼夜行連合学院百花繚乱紛争調停委員会前委員長、七稜アヤメであった。彼女の服装こそ百花繚乱の白と水色を基調としたセーラー服であるが、その瞳の色は相も変わらず片目が黄色く染まっており黄昏の影響が完全には抜けきっていないことを示していた。

しかしながらアヤメには連邦生徒会長に敵対する様子は全く以って無さそうな上、彼女自身が「妙なことをしたと思ったら捕縛してくれて構わない」とすら口にする始末。即ち戦闘行動は望んでいない、ということであった。

そんな彼女が連邦生徒会長の下へと訪れた理由はというと。

 

「え、えーっと…なんでしたっけ。百夜水上祭に参加できなかったのが、なんだか仲間外れになったみたいで悔しい…でしたっけ?」

 

「…違うよ。別に私はナグサのことは仲間だとか友達だとか思ったことはないし。ただなんていうか…ナグサが何度も何度も自慢みたいに百夜水上祭のことを話すのが鬱陶しく思ったって愚痴りに来ただけ」

 

「その割にはなんだか各種目の印象をねちっこく話していたような…」

 

「違うよ。私は何回も同じ話をするナグサにだね」

 

「でもなんだか表情が羨ましそうで…」

 

「断じて違うよ?」

 

「あっはい…」

 

アヤメの妙に力の籠った否定に、連邦生徒会長はこの件を追求するのを即座に諦めた。アヤメが仮に連邦生徒会長の推察通りの心情を持っていたとしても彼女は絶対にそれを認めないだろうなと判断した為である。

それだけでなく、この手の意地を張る人物に対してあれこれ詮索するのは得策ではないと連邦生徒会長は理解しているためでもある。

 

「はぁ…何度も言うけど私はお祭りが羨ましかったとかみんなで海に行きたかったとかそういう話をしているんじゃないんだ。ナグサが何回も百夜水上祭の話をしてくるのが鬱陶しいっていう話をしてるの」

 

「そうですか…。…ならそれ以上に楽しい思い出で塗り替えればいいのでは? アヤメさんも参加してですね…」

 

「そういう話をしているんじゃないんだ。あと私はあっつい季節の中眠っている私を置いて皆が遊びに行ったのを根に持ってるわけじゃないよ」

 

(その割に口を開いたら百夜水上祭の話をするんですよねぇ…)

 

とは思いつつも、指摘しようものならばアヤメから凄まじい勢いで否定や愚痴の言葉が飛び出してきそうなために連邦生徒会長は口を噤む。キヴォトスでは時にコミュニケーションの失敗により即座に銃撃戦に発展することもあるため、明らかな地雷を踏むのは避けるべきと連邦生徒会長は理解しているのだ。

そんな連邦生徒会長の内心に気づいてるのかいないのか…まぁ恐らくそこは勘づいているのだろう、視線がほんのり鋭くなったアヤメはなんだか嫌そうに言葉を紡いだ。

 

「…何度も言うけど、私はナグサと友達になった覚えなんてないから。ほんと、冗談抜きでね」

 

「…まぁ、はい。…そういえば、そんなアヤメさんはわざわざ連邦生徒会…というか私に愚痴りに来たんですか?」

 

「あぁ、それね…」

 

先ほどまで不服気な表情を浮かべていたアヤメだったが、ここで彼女は初めて笑みを浮かべた。…笑みは笑みでも、それはどこか自嘲するような笑みだったが。

 

「…昔の私と貴女はちょっと似てたかなぁって思って。風の噂だけど、貴女も先生達と同じでキヴォトスの困りごとを嫌な顔せず引き受けてるって聞いたからどんな人なのかなぁって思って顔を見に来たんだ。…まぁ私と違って貴女は折れてないみたいだから、どうも私とは違うタイプみたいだけど」

 

「あぁ、なるほど…」

 

七稜アヤメと百花繚乱を巡る騒動とその顛末については連邦生徒会長もシャーレからの報告書に目を通しているためある程度は把握している。それに記載された限りでの戦闘や被害状況以外の人物の動向や心情についてに目を通したところ、連邦生徒会長が思ったのは「思ったよりアヤメとナグサは似ているのでは?」ということだった。周りに失望されたくない為に仮面を被って抱え込んでしまったところとか、悪いところは似てしまっているような気がしていたのだ。…まぁ、今のアヤメにそれを言ってしまったら大惨事になりそうなので口が裂けても言えないが。

それはともかく、連邦生徒会長とアヤメが似ているという話だが。

 

「似てるか似てないかで言うと、まぁ似てますよね」

 

「…どこが。私と貴女は──」

 

「似てないこともない、の方が正しいのでしょうか。まぁどっちでもいいですけど、共通点はありますよ」

 

「……どこに?」

 

「色んな人に頼りにされてうんざりしてるところとか、なんでもできるとか思われているところとかですかね」

 

「え…」

 

思っていたのとは全くもって違った返答だったのか、アヤメは珍しく目を丸くした。そんな彼女に対し、連邦生徒会長は微笑を浮かべてアヤメに語り掛ける。その瞳は、しかしながら言葉とは裏腹に湖面の如く極めて穏やかであった。

 

「ふふ、意外ですか? けれど私一人だとできないものは本当にできないんですよ。実績的になのかもしれませんが、勝手に期待されるって面倒ですよねぇ。無駄にネガティブなことも頭に過ぎりますし」

 

「……そうだね。本当に、勝手に期待されるのって迷惑」

 

「ですが、人に頼られてしまうのは事実です。ならば、その対価に私達も人に頼んだり愚痴ってしまってもいいんじゃないでしょうか。向こうがこちらを頼るからには、私達にだってそういう権利はあるはずです。それに、今は困ったことがあればいつでも頼ってと公言している人達がいるではないですか」

 

「…シャーレの先生達?」

 

アヤメの問いに、連邦生徒会長は肯定するようにふっと微笑む。それはつまり、彼女は先生に対して全幅の信頼を置いているということにほかならず──。

 

「先生達は生徒の悩みや頼み事なら大体のことは聞いてくれますよ。まぁ…その代わり、仕事が溜まって過労死しかけていますけどね…。…仕事の内容はこちらでかなり調整して苦労を最小限にしている上で職員が三人居るから余裕ができるはずなのに、どうしてなんでしょうね…?」

 

「えっ、なんでこの流れでそれを言うの…? 素直に頼りづらいよ、そんな情報をもらったら…」

 

「アヤメさんの愚痴を聞いたのだから、私の愚痴も聞いてもらおうと思いまして。ギブアンドテイクというやつです。ちなみに過労死云々の件は実のところ話を盛っちゃいましたが、実際はそこまで酷くありませんので安心してくださいね。…まぁ、片足は突っ込んではいるのですけど…」

 

「…片足突っ込んでるのも十分危ないとは思うけどね。それともう一つ、何をどうして私と貴女の間で愚痴をギブしてテイクしなきゃいけないの…?」

 

連邦生徒会長の意味不明な主張と碌でもない補足に対し、アヤメは極めて困惑した様子で疑問を口にした。彼女の疑問は当然であるが、しかしながら連邦生徒会長の先生達の労働環境についての悩みというのは実のところ前からずっと彼女が抱えていた改善する兆しがまるでない悩みの一つなのである。

無論アヤメに何か対応策を求めているというわけではなく、ただ単に誰かにボヤきたかっただけであるが。

 

「とにかく、私が言いたいのはアヤメさんはもっと人に頼って愚痴ったっていいんだということです。先生でもいいですし、私でいいなら私でも構いません。きっと力になりますよ。…当然、ナグサさん達に頼ったっていいんです。所詮、人が一人でできることなんてたかが知れてるのですから」

 

連邦生徒会長の言葉を聞いたアヤメは、何かを考えるように目を伏せる。そして数秒の後に、彼女はゆっくりと目を開いた。そこにあるのは、嫌悪も困惑もないただ純粋な疑問。

 

「……一つ、聞くけど」

 

「なんでしょうか?」

 

「超人とか言われてる貴方が期待されてるけど実現できてないことは、何?」

 

その疑問に対する連邦生徒会長の答えは、極めて速やかに出てきた。連邦生徒会長も、『それ』については実に幾度も思索し思案し、そして現状では無理としか言えないただ一つのもの。

即ち、それは──。

 

「キヴォトスの治安改善です。これはもう本当に無理です。方々から文句が出てるのは百も承知ですが、しかしながらこれ以上私に何をどうしろってんですか」

 

「規模感が大きい…」

 

連邦生徒会長の回答に対して思ってたんと違うとばかりに窓に目を向け、空にどこか遠い視線を送るアヤメは参考にならないとばかりに呟く。人間関係についてを相談したのにいつの間にかキヴォトス全土の話になっているのでそれも致し方のないことである。

そんな彼女の様子を見ていまいち手ごたえを感じられなかったらしい連邦生徒会長は、じゃあこれでどうだと言わんばかりにもう一つダメ押しで告げた。

 

「あと先程も言いました先生達の過労阻止です。あの人たち休めって言ってるのに休日返上でどこからか仕事引っ張ってくるんですよ。一部生徒から先生の業務改善要望とか出されてますけど、既に連邦生徒会からの仕事についてはこれ以上やったら仕事がなくなるくらいの労働環境改善はしました。ですがそれでもどこからか仕事を引っ張ってきては過労してるんですよ。そんなワーカーホリック三人衆を相手に私になにができるっていうんですか」

 

「……色々溜まってるんだね」

 

気づけば愚痴を聞く側に回ってしまっていることに気づいたアヤメだったが、しかしながら自分も彼女に愚痴を聞いてもらった為に大人しく聞く側に回っている辺り根っこの部分の律儀な面がどうやら残っているらしい。

そんな彼女に対して一方的に捲し立ててしまったと気づいたのか、連邦生徒会長は口元で手を抑えて深呼吸。そして、落ち着いた彼女はその後に。

 

「…こほん、少し愚痴が過ぎましたね。少なくとも私は美味しいお茶でも用意していつでもお待ちしていますよ、遠慮なく愚痴りに来てください」

 

「…今のところは時々お世話になるつもりではあるけど…。なんでちょっといい話風に纏めようとしているの…?」

 

心なしかきりっとしたいい顔で告げる連邦生徒会長に対しアヤメは呆れながらもどこかすっきりしたように席を立って少しばかり軽い足取りで帰っていくのだった。

 

……そんな具合にこの日はなんだかんだでいい感じにアヤメと連邦生徒会長の愚痴交換は終わったのだが、しかしこれからそれなりの高頻度で行われるようになったこの愚痴交換がきっかけでアヤメとユカリ以外の現百花繚乱のメンバーから連邦生徒会長がしばらくの間嫉妬の眼差しで見られるようになってしまったのはまた別の話である。

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