ところでイベントのカードバトル、アレ結構面白いですね。常設してくれねぇかな、と密かに思っています。
この作品は、
・ハーメルン様(ココ)
・Pixiv様
の二つのサイトで投稿させていただいています。
(私のミスでした…)
少女は涼やかな笑みに一筋汗を垂らしながら目の前に座る人物たちを見つめている。そんな彼女の内心はというと見た目ほど涼やかではなく、もしそれを露にすれば周りがちょっと引くくらいに騒ぎたくなる程には動揺していた。
(私の選択、そしてその選択によって招かれたこのすべての状況…)
(この結果にたどり着いて初めて、私のあの選択が間違っていたことを知るなんて…)
少女──連邦生徒会長はそこまで内心で口にしたところで、隣に座る山海経の生徒会長にあたる玄龍会門主・竜華キサキは連邦生徒会長の視線に気づいたのかふっとニヒルに笑みをこぼす。
そんな彼女に愛想笑いを返しながら、連邦生徒会長は内心で思いっきり吠えた。
(なんで背丈の差がこれだけあるのに誰も気づかないんですか…!?)
キサキの格好はというと、いつもの黒を基調としたチーパオにジャケットを羽織るいつものスタイルではなくサイズこそ違えど連邦生徒会長が身にまとっているものとほぼ同じ意匠の制服である。
何故彼女がこのような格好をしているのか、そして連邦生徒会長が何故ここまで吠えているのか。それは数十分ほど前のシャーレの執務室へと遡る。
『そういえばキサキちゃんって変装が得意なんだよね?』
『ふむ、確かに妾は変装は得意分野じゃが…。…あぁ、確かに梔子先生にはまだ披露してはおらんかったかの』
ユメの不意に飛び出た疑問に対して本日の当番生徒であるキサキが告げると、それを聞いていた先生はそういえばと前置きしてからユメと同様に彼女に対して疑問をぶつけた。先生の疑問は思い出したかのように突発的ではあるものの、しかしながら以前から気になっていたらしくようやく聞けたとばかりにどこかすっきりしている。
『変装といえばなんだけど、キサキって他人への変装ってできるの?』
『そうじゃの…。実のところ今までやったことはないのじゃが…まぁなんとかなるじゃろうて。試しに誰かを対象にやってみるとするかの』
キサキが楽しそうに先生に告げた瞬間、連邦生徒会長が仕事についての相談のためにシャーレへと訪れた。おやまぁ、お揃いですねと半笑いで連邦生徒会長が口に出そうとしたその瞬間、ユメが閃いたとばかりに大声をあげた。その瞳はきらきらとしており、仮にホシノが見たならば『またなにか碌でもないことを閃きましたね?』とじとりとした瞳で毒を吐きそうなほどにわくわくしているのが見て取れる。
『じゃあじゃあ、ちょうど入ってきたことだし会長ちゃんに変装してみて!』
『…はい? 変装…? 何の話です…?』
『ほう、連邦生徒会長とな。…急な話の上に準備なしではちと難しい相手ではあるものの、ともあれやってみるとするかの。暫し待っていてくりゃれ』
そこまで言った着替えるために踵を返して執務室から出ていこうとしたが、しかしながらその途中でぴたりと足を止めて振り返った。その表情はにやりと笑みを浮かべており、どうやら悪だくみか何かを閃いたらしいことが窺えた。
『…せっかくじゃし、遊戯仕立てにでもしてみようかの』
『遊戯仕立て? …ゲームってこと?』
『うむ。変装した妾とそこな本物の連邦生徒会長が黙って並び立ち、そのどちらが妾の変装かを当てるというものじゃ』
『なるほどね…。よし、やってみようか』
先生やユメ、プレナパテスはキサキからの提案をあっさり承諾。ここまで流れるように話が進んでいき、説明されていないまま巻き込まれることになっていた連邦生徒会長はキサキに半ば引きずられるような形で退室。
そして更衣室まで来てようやく連邦生徒会長は事の経緯を聞き、どこから調達してきたかわからない連邦生徒会っぽい制服を身にまとってウィッグを付けてメイクを施した以外は全く変わらないキサキとともに執務室に戻る道中、連邦生徒会長はというと。
(まぁ…流石に背丈やら顔付きやら違いますからね。流石に皆すぐわかるでしょう)
などと思っていたのだが、しかし。
『…どうしよう、自信がない』
『すごいねぇ…多分こっちだろうなっていうのはあるんだけど、見れば見るほど自信がなくなるっていうか…』
先生達のそんな発言を受け、連邦生徒会長は冒頭において内心叫んでいたのであった。
連邦生徒会長はわかるでしょう流石にとは思いながらもゲームの進行の妨げにならないように黙っており、場にはしばらく沈黙が流れていたのだが。
「…うん、決めた。私から見て、左がキサキだね」
「私もそう思いました。なんていうか…そんな気がする、みたいな感じだけど…」
『プレナ先生も同じくだそうです。ちなみに…いえ、私から何かを言うのはやめておきます』
どうやら三人とも答えを決めたらしい。どこか覚悟を決めた表情で三人は視線を合わせると、代表して先生は「私から見て、左がキサキだよっ!」と宣言。そして数秒程の沈黙の後に先生に指示された方の生徒は、ゆっくりと口を開き──。
「…あの、先生達が指名した方が私なんですが…。というか背丈や顔つきでわかりませんか…?」
「えっ、あれっ!? キサキちゃんじゃなかったの!?」
シャーレの先生各位、まさかの不正解が発覚。先生一同の動揺が見えたと同時に連邦生徒会長が呆れたように声をかけたところで、連邦生徒会長ですら身に着けていない凄まじい変装技術によりまんまと先生達を欺ききって満足そうに笑みを浮かべていたキサキは極めて楽しそうに言葉を紡いだ。
「準備不足の上に体格差もあった故、欺ききれるか些か不安もあったが…。ふふ、どうやら心配する必要はなかったようじゃの?」
「よく騙しきりましたよね、こんなあからさまなのに…」
「堂々としておれば存外わからぬものだからの。とはいえ妾自身も二人欺ければ上々と思っていたところ、まさか三人ともを欺けるとは思わなんだが」
「三人もいて全員間違えるってすごい技術をしてますよね、本当に」
ただでさえ見抜きに失敗してしゅんとしていた先生達であったが、連邦生徒会長の若干棘のあるその言葉と視線で射抜かれて更にしょぼしょぼと小さくなっていく。どうやら生徒を間違えたという事実と自信満々に答えて思いっきり間違えたという恥ずかしさによるダブルパンチで三人そろって相当メンタルをやられているらしい。
「変装というのは姿を変えてはいおしまい、というものではないからの。それにふさわしい雰囲気を醸し出して初めて変装は完成するのじゃ」
「なるほど、参考になります」
「其方であれば今の教えを胸に留めて数をこなせばめきめきと上達するじゃろうて。無論妾とて研鑽を怠るつもりはない故、そう簡単には比肩させるつもりはないがの」
にや、と笑って挑発するキサキとそれに対して不敵な笑みを浮かべる連邦生徒会長。そんな二人からは笑顔ながらも妙な緊迫感が生まれ、シャーレの執務室はどこか一触即発というか、とにかく張り詰めた空気感が漂っていた。
そんな空気感の中、突如としてガチャリと入り口の扉が開き。
「やぁ先生、暇だったから監視を振り切って遊びにきたよ。…あぁ、連邦生徒会長もいたの…おや?」
「…久方ぶりじゃのう、カイ? 連邦生徒会の監視を振り切って先生となにをするつもりだったんじゃ?」
「……」
突如として現れて気まずい空気とキサキのやたら鋭い視線を一身に浴びるカイ。彼女はふぅと息を吐いて後ろを向いた後、ゆっくりグラサンをかけて再び室内に視線を向けた彼女は、普段の飄々とした様子からは考えられないほどに朗らかな笑みを浮かべて汗をだらだらと垂らし。
「…いえ、人違いでは? 私はさすらいの医者、リクです」
「雑な変装に雑な言い訳じゃのう。どれ、変装のいろはをみっちり仕込んでやるからこっちに来るがよい」
「お待ちください、山海経の貴きお方。私は貴方とは何にも…ちょっ、近っ…。…キサキ、待つんだ。話せばわかるよ」
「えらく馴れ馴れしい医者じゃのう。そういうところが雑だと言っておるのじゃ」
近づいてくるキサキを制止しようとリクことカイはなんとか逃走しようとあれこれ言葉を放つが、しかしキサキは止まらない。最終的にカイは連邦生徒会長や先生達に助けを求めたものの、しかしながら今の眼光が鋭いキサキに触れるのが怖い一同はだんだんと追い詰められていく彼女に対して成仏してくれとばかりに両手を合わせて拒否。
そのままキサキに引きずられて姿を消したカイの悲壮な悲鳴が驫き、そしてその数分後に執務室に戻ってきたキサキはどこか清々しい表情をしていた。
「あの、キサキちゃん…? カイちゃんに何をしたのかって聞いても…?」
「うん? 聞きたいかの?」
「…ユメ先生、やっぱり聞くのはやめておきましょう。私怖いですよ」
「そ、そうだねぇ…」
申谷カイの尊き犠牲によって、シャーレの面々と連邦生徒会長はやはりというか普段温厚な人を怒らせてはいけないと胸に刻み込むことができたのだった。
ちなみに、なにやらひどい目にあったらしいカイは酷い目に遭ったと笑いながら言いつつ翌日にはけろっとしつつも、シャーレへ訪れるときにはキサキが居ないかを念入りに確認してから入るくらいには今回の件がトラウマになったとのことだそうだ。