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「私のミスでしがぼがぼがぼ…」
少女──連邦生徒会長は、現在滝行に精を出していた。割と流れの強いタイプの滝であった為に、彼女が口を開いた瞬間それなりの量の水が入ってきてその言葉は最後まで紡がれることはなかった。
そんな彼女の様子を横目で見ていた秋頃の紅葉を彷彿とさせる真っ赤な髪色をして、小さな角を額から延ばした少女──不破レンゲは手話なのかハンドサインなのかはよくわからないものの、しかしながら身振り手振りで『喋らない方がいい』『下手すれば死ぬ』と連邦生徒会長に注意を行い、それを受けた連邦生徒会長は頷いた後にただ意識を流れる冷たい滝に向け──。
(寒い痛い冷たい死にますってこれ下手したら!)
あまりにも精神統一とはかけ離れた感情で半ば泣きそうになりながら修行を続けていくのであった。
現在、お昼時からはちょっとだけ過ぎたなんとも形容しがたい時間帯。連邦生徒会長とレンゲは修行と称してとある山奥にて滝行に励んでおり、監督役兼緊急救護役として付き添いに訪れた先生は滝の勢いに心配の感情が満ち満ちており、あとあまりの過酷さにちょっと引き気味であった。
なんだか色んな意味で賑やかな三人組であるが、そんな三人組が何故こんなことになっているかというとそれは数日ほど前に遡る。
きっかけは不破レンゲのこんな一言であった。
『あ、そうだ師匠。もし時間があったらまた今度修業に付き合ってくれない? …っと、もしよかったら連邦生徒会長もどう? いや忙しいのはわかってるんだけど、やっぱ人数が多い方が楽しいっていうかさ』
連邦生徒会長がシャーレにて書類を届けに来てちょっと話をしていた時、レンゲはいつもの明朗快活な声で先生に告げていたのである。どうもレンゲは先生と以前山奥で修業をしたということを察した連邦生徒会長は、正直その提案に対してかなり興味をそそられた。
百花繚乱紛争調停委員会の切り込み隊長、不破レンゲ。そんな彼女の修行とは一体どんなものなのだろう、と。
連邦生徒会長は書面上にてその活躍には目を通したことはあるが、しかしながら百花繚乱の実力の全貌を知っている訳では断じてない。ましてその強さの源はどこから来るかなど、想像したところで限度はある。
もし何か技術面や精神面で何か技能の向上に繋がるものがあれば連邦生徒会長自身の為にはもちろんSRTやヴァルキューレの戦闘技能向上のために取り入れたいところではあるが、とはいえドストレートに教えてくださいと言う訳にもいかないだろう。政治的に後々厄介なことになりそうな予感が無いわけでもないからだ。
そんな折に、当のレンゲから修行の声がかかったのだ。当然連邦生徒会長としては断る理由は…まぁぶっちゃけ書類がまだまだあるのでないとは言い切れないが、だがしかしこれはチャンスだ。
百花繚乱の基礎的な鍛錬ではないかもしれないが、実力者は一体どんな鍛錬を行っているか、自身の目で確かめることができる。
ついでにもしかしたらいい思い出になるんじゃないかと直感が働いた連邦生徒会長は、レンゲの提案に対してその場で快諾。来るその日を楽しみに足取りは軽く連邦生徒会本部へと戻っていった。…先生の何とも言えない視線には、気づかぬままに。
そして、来る当日。水着を着てこいと指示を受けた連邦生徒会長はなるほど水辺での鍛錬かと納得しつつ着替えの手間を減らすために服の下に水着を着て若干ウキウキしながらでレンゲ達と落ち合ったのだが。
『よし! じゃあ…まずはちょっと登ろっか!』
『えっ、あれっ。水辺じゃなかったんですか?』
レンゲの爽やかに輝く笑顔から出てきたのは、ちょっとした山を登ろうという提案てあった。これには連邦生徒会長も思わず目を丸くして聞き返してしまったのだが、そんな彼女にレンゲはニっと白く輝く歯を見せて笑いながら『ウォーミングアップついでに、だよ』とこれまた爽やかに言い放つ。
なるほど実力者、そういう感じなのかと連邦生徒会長が納得している横で何とも言えない笑顔を浮かべているのが監督役の先生であった。どうもここからくる展開を察してはいる様子だったが、口にはせずに変わらず苦い笑みを浮かべているだけだった。
そんな一幕がありつつレンゲの示す目的地まで一行が山道に苦戦しながらついていくと、そこには壮観という言葉がぴったりな滝があった。
『うわぁ…! 綺麗な滝ですね!』
『そうだね…。…うん、綺麗な滝だ』
『だろー? この前見つけたんだけど、すっごく綺麗でさ! なんだか修行にもよさそうだから師匠や他の人を誘うつもりで目をつけてたんだ』
レンゲのそんな言葉に、連邦生徒会長は向き直る…が、しかしそんな彼女の表情はというと、何かを察したかのように蒼くなっていた。どうやらここから行われることに察しがついたらしい。
『ところで、あの…。もしかしてここでやる修行って…水着を着させてきたあたり…』
『ん、あれ。まだ言ってなかったっけ? 滝行だよ、滝行。…あれ、もしかして知らない?』
レンゲにそう言われた瞬間、連邦生徒会長はびしりと固まった…が、しかしこれも百花繚乱式の鍛錬なのかもしれないと気を引き締めた…瞬間に先生はこっそり連邦生徒会長に耳打ちしてきた。どうやら先生には今回連邦生徒会長がウキウキでついてきた理由にある程度の察しはついていたらしい。
『…一応言っておくんだけど。これ、別に百花繚乱の正式鍛錬じゃないしレンゲも日常的にやってるわけじゃないんだ』
『────ぇ』
悪気は一切ない先生の言葉に、連邦生徒会長の視界はぐにゃりと曲がって昼間だというにも拘わらず夕闇が辺りを包んだかのように暗くなった。しかしながら今更そこまで逃げるつもりはなかったとはいえ、山をそれなりに登ってしまった今となっては引き下がろうにも下がれなくなったうえに先生の次の言葉に連邦生徒会長は完全に退路を断たれてしまう。
『レンゲ、いつもよりも更に楽しそうだからさ。よかったら付き合ってあげてほしいんだけど…』
『…………んんんんんっ、もうっ…! そういう言い方はずるいですよ先生…!』
連邦生徒会長が唸って半ばやけくそ気味にそう叫び、レンゲとともにずんずんと白波を立てる滝に勇ましく向かっていき────。
冒頭にて連邦生徒会長は死にかけているのであった。ヤケクソ気味に突撃していってこなせるほど滝行というものは甘くないのである。まして初心者なら猶更だ。
すっかり全身の色から血の気が引いて蒼くなってしまった連邦生徒会長だったが、そんな彼女の様子を二度見どころか三度見したレンゲは彼女の手を引いて上陸。
「ごめんっ! やっぱ初心者には勢いが強すぎたかも…!」
「………いやぁ…。…だ、大丈夫です…。……そ、それよりも…もう一回やりましょうか……。…何か見えそうな気がしたんです…」
「いや、流石にこの状態じゃな…」
「…なんだか…そう…。…一瞬下流に綺麗な花畑が見えた、気が…」
「いや絶対見えたらダメなやつだからな!? 師匠、師匠ー! はやく来てくれーっ!」
その後、連邦生徒会長は先生の手によって介抱されてレンゲと共に下山。ウキウキで出て行ってぐったりした様子で帰ってきた連邦生徒会長の姿にリンはとんでもなく驚いていたが、しかし経緯を聞いて彼女は呆れたように深くため息を吐く…が、なんだかんだで忙しい業務の合間を縫って連邦生徒会長の介抱をしてくれることになった。彼女のその様子は普段頭が全く上がらない連邦生徒会長を以てして「女神だった」と言わしめ、後日「七神リンは体調不良の人に対しては女神になる」という噂が連邦生徒会中に広まることとなったのだった。
噂の出所と思しき連邦生徒会長は完全復活後リンにアームロックを掛けられたという。